限定的読心術   作:拙作製造機

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三話でのラスト付近からのIF。一夏が読心術を失わなかった場合の有り得たかもしれない未来です。思いの外、皆様からご好評頂きまして嬉しくなって書いてしまいました。これで本当に終わりにしたいと……思いましたが後はアフターを一話ぐらい書いてみようかなと思っています。なので完結と処理しましたら「ああ、書く気なくなったんだわ、こいつ」と思ってください。


もし、あそこで転ばなければ……

「それでは、これよりモンドクロッソ決勝戦を行います」

 

 聞こえてくる歓声を背に、俺は静かに目を閉じる。相手の目を見ないためだ。それに、今の俺はそちらの方が色々とやりやすいしな。

 

「織斑一夏、か。心眼と名高いIS使いだそうだが、私の動きを見切れるかな?」

「……御託はいいから始めよう。そっちが強いなら俺が負けるだけだ」

「っ……男の癖に」

 

 小さく告げられた呟きを俺の耳はたしかに拾った。こういう奴は許せない。男女差別はしていけない事だろうに。怒りに身を任せないよう心だけは落ち着かせる。

 

「試合開始っ!」

 

 その声と共に何かの気配が迫る。それを避け、続いて迫る何かも避ける。その場に留まりながら避けるが、そろそろ嫌な予感がするので急降下。観客席から悲鳴が上がる。おそらく俺が目を閉じているからだろう。でも、地面すれすれで俺は横移動へ切り替える。その進路上の上空。そこに何かの気配がある。間違いなく相手のものだ。

 

「そこだぁ!」

 

 声と共に何かの熱を感じる。射撃系。そう読んで俺は迷う事無く急上昇。その本来ならば有り得ない挙動に観客のみならず相手からも動揺が感じられた。それでも放たれる攻撃へ、俺は迷う事無く雪羅を使う。その対消滅による激しい閃光が会場全体を襲う。

 

「くっ……奴は一体……」

「ここだ」

「なっ!?」

 

 相手が振り向く前に零落白夜で仕留める。聞こえてくる試合終了の声でようやく目を開ける。そこには栗色の髪をした緑の目の女性がいた。

 

「本当に目を閉じていたのか。では、さっきのあれは」

(サムライ……なのか。これがあの織斑千冬の弟)

「いくつかの勝ちパターンの中の一つだ。それと、一つだけ」

「何だ?」

(敗者へかけるナサケというやつか?)

「相手を見下す意識で言うから差別なんだ。自分が言われたくない事ぐらい、他人へ言うなよ」

 

 それだけ告げ、俺は視線を外してその場を離れた。背中に相手の視線を感じるが、きっと恨みや怒りだろう。それぐらい熱視線だ。このモンドクロッソに出てから、大抵対戦相手にこういう視線をぶつけられるんだよなぁ。また、後で箒達に謝っておかないと。

 

「……それでいきなり謝ってきたのか」

「本当にごめん。またつっかかってきただろ?」

 

 表彰式も終わり、俺は開口一番サポートしてくれていた箒へ頭を下げた。そこにはセシリア達の姿もある。学園を卒業し、既に二年。俺と箒はどこの国家にも属してなかったので、逆に全世界へ技術協力する形での扱いとなった。そうすれば俺と箒はどこかに縛られる事もないし、また狙われる事もない。更にセシリア達との繋がりで彼らの故郷や所属先には優先的に協力している。

 

「いや、まぁたしかに来たには来た」

「やっぱりか」

「……本当にお前は変わらないと実感したよ。私達以外にはな」

(対戦相手になった者達がこぞってお前の事を詳しく知りたがるのだ。意味は分かるだろ?)

 

 箒の呆れる声の輪唱に苦笑いを返す。そう、何故か戦った相手戦った相手、みんな俺を倒そうと情報収集に躍起となるのだ。そうだと、俺は思いたい。

 

「でも、一夏の努力もここまでくると呆れるね」

「本当よ。心眼なんて誰が言い出したのやら。ま、それっぽいけど」

「対戦相手の本音を聞いて勝つのは卑怯。そう考えて学園時代から何度も地に這いつくばり、砂に塗れ、それでも諦めなかった集大成だからな」

 

 ラウラの言葉の通り、俺は結局読心術を無くせなかった。千冬姉も俺の力を信じてはくれたんだけど、だからと言って特例など認めんとサングラスやカラコンは却下となったのだ。で、せめてIS戦だけでもと、視覚を封じて戦うようにしていったらこうなったとさ。

 

「ですが、そのせいか目を開けていると勝率が……」

「仕方ないわ。一夏君、目を合わせないようにしちゃうんですもの」

「やっぱりバイザーでもつける?」

(昔やった時、凄くカッコ良かったし……私は好きだなぁ)

「簪の気持ちは嬉しいけど、今の戦い方が出来る限りは続けるよ。ダメになったら諦めるけど」

 

 響いてくる声に顔が若干熱くなる。そう、未だに俺は答えを出せずにいた。学園を卒業するまではと、そう思ってたんだけど。どうしてもみんなの本音が俺の結論を鈍らせる。今の俺は別の意味で鈍感な一夏君かもしれない。でも、もう俺も二十歳。楯無さんだって我慢の限界だろう。そろそろ学生時代の恋は終わりにさせないと。

 

「……なぁ、俺も成人したしあの頃の言葉、誓いを果たす時が来た気がするんだ」

 

 その言葉でみんなが静かになった。そしてその目が俺を見つめてくる。

 

(ああ、本当に凛々しくなった。一夏、私はお前の決断ならどんなものでも受け入れよう。心配するな。私達の友情は断ち切れやしない。だが、その……選んでくれるならお前の望む事を何でもするが)

 

 箒、本当に優しくて綺麗で家庭的な女性。俺が気持ちに気付いた後は照れ隠しの暴力もすっかり何を潜め、むしろ恥らうのみでとても奥ゆかしい振る舞いを見せるようになった。……後、その言葉はズルイ。

 

(一夏さん、どうか遠慮なさらず。私達はあの頃から約束しております。誰が選ばれても絆は永遠だと。同じ人を想い、支え合い、苦楽を共にしたのですから。……こほん。それで私の体型、その目で確かめてみません事?)

 

 セシリア、優雅で気品があって、でもどこか抜けている女性。俺と箒が卒業する際の面倒事を、貴族の家系らしく色々と橋渡しや手助けもしてくれた。でも、本人は大切な友人のためなら当然だと一切の謝礼を断った。強く誇り高い英国女性だ。……流し目やめてくれ。かなり色っぽいから。

 

(やっぱりカッコよくなった。学園時代の最初と今じゃ迫力が違うもの。だからこそ一夏、最後までカッコよくしてね。あたし達が好きになった頃よりも、もっと強く優しくなったんだから。……う~っ、大好きっ! 選んでくれたらエッチな事させてあげるわっ!)

 

 鈴、勝気でお転婆で素直になれない女性。だけど本当は誰よりも情に厚くて、そして脆い事をみんな知ってる。卒業式で一番泣いていたのは他でもない鈴だった。離れたくないと俺達全員へ叫んだ彼女の姿は、今でも思い出せる。……うん、悩むよな。今のは色々くるぞ。

 

(遂に来たんだね、この時が。一夏、しっかり。ここで迷ったり先延ばしは絶対ダメだからね。勝負を決める時は一瞬で、だよ? ……ところでさ、最近ブラをフロントホックに変えたんだ)

 

 シャル、男を立てる気配り上手のしたたかな女性。俺がみんなと向き合うと決めた時から、アプローチの仕方がより強烈になった事を覚えている。おかげで色々大変だったな。……さり気無く胸を寄せてるのは見ない見ない。

 

(嫁よ、後悔だけはするな。お前の望む道が一番幸せになれる道になる。……だ、だが私を選んでくれると嬉しいぞ?)

 

 ラウラ、厳しく世間知らずの可愛い女性。俺が今のようになれたのはラウラのおかげといっても過言じゃない。みんながつい手心を加えたくなる中、軍人らしく一人最後まで厳しく訓練に付き合ってくれた。……アピールが下手なのが余計可愛いんだよなぁ。

 

(さてさて、一夏君は一体誰を選ぶのかしら? お姉さんとしては簪ちゃんとセットでもいいわよ? ……一人だけならもっと歓迎するわ)

 

 楯無さん、飄々としているけど芯は乙女な年上女性。シャルと同じく過激なアプローチを仕掛けてくるかと思いきや、俺が気持ちを分かった後は気恥ずかしくなったらしく普通のアプローチになった人。……姉妹丼とか今の俺に勧めないでください。それと、その扇子から少し顔出すの可愛いです。

 

(一夏君、大丈夫だよ。みんな泣くかもしれないけど、絶対最後は笑顔に戻れるから。だから、自分の気持ちに素直になって。……え、エッチな事は苦手だけど、一夏君が望むなら頑張るね)

 

 簪、気弱で大人しいけど本当は強い女性。実は誰よりも白式の事を知っている存在。束さんには勝てないかもしれないけど、学園時代からずっと白式は簪の世話になっている。……今のは効いたなぁ。というか、みんな俺の選択を応援してる割に迷わせようとしてるんだけど? うん、一言だけ言わせてもらおう。

 

「……みんな、俺を最後まで悩ませないでくれ。今の最後の一言、確実に俺の決断を鈍らせてるから」

 

 そう告げると、みんなは少し驚いて顔を見合わせる。そして、一度だけ頷いてこちらへ顔を向けた。

 

―――なら、全員選んで世間と戦ってみる?

 

 ……本当、この女性達は俺の心を惑わせる。

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