限定的読心術   作:拙作製造機

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本編後のアフターというか何というか。ま、よくある作りの話と思ってくださいな。皆様に楽しんで頂けましたら幸いです。


戻って来た日常、だったのに……

「あー、やっぱりみんなと目を合わせてもいいって落ち着くな」

 

 あの読心術を無くした日から既に一週間。俺はやっと以前の学園生活を取り戻していた。ただ、当然以前とまったく同じとは行かないもので。

 

「そうだな。私も一夏と目を見て話せて嬉しいぞ?」

「私もです。一夏さん、あれから一段と凛々しくなられましたし」

 

 箒とセシリアが少し頬を赤く染めて俺を見る。前だったら風邪でも引いたのかと、そう思ったり言ったりしていただろう。でも、今はもう分かる。二人が照れている事を。

 

「ホントよ。……おかげで目を見るのが少し辛いわ」

「分かる。今の一夏って、本当に僕らの気持ち分かってるからね」

「あの嫁が私達に照れる日が来ようとはな」

 

 鈴とシャルの言葉を受けてのラウラの感想に俺は反論する事が出来ない。実際、ああなる前は平気だったのが不思議なぐらい、みんなのアプローチは分かり易いのだ。……俺がそれ程鈍かったと言う事なんだろうけど。

 

「でも、おかげで私達は妙な関係になっちゃったわね。前は一夏君の鈍さを肴に会話してたのが、最近は一夏君の変化を肴にそれぞれの自慢大会だもの」

「い、一夏君が私達をちゃんと好きな女の子として扱ってくれてるからね。でも、前と違って喧嘩にはならないからいいと思う」

 

 楯無さんと簪の姉妹はあれ以来本当に仲が良い。というか、仲が良すぎて時々困る。何せ姉妹で俺へ迫るのだ。以前であれば私を選んでみたいだったのが、最近は二人を選んでという感じに。多分だけど、姉妹なら妥協というか共有というかが可能なのだ。箒達五人を出しぬいて姉妹で俺の隣を占拠したいのだろう。

 

「……いっそ一夫多妻制とか許可されないかな」

 

 その俺の呟きに誰も文句も不満も言わなかった。きっと言いたい事はあるんだと思う。だけど、俺がどういう気持ちでそう呟いているのか分かるから、みんな何も言わないでくれるのだ。選ばないといけない。でも、選ぶ事で失いたくない。そんな矛盾を、ワガママを抱えているのが今の俺だから。

 

「一夏君、もしそうなったら大変よ? 私達をお嫁さんにする事じゃなくて、織斑先生が黙ってないわ。色々な意味でね」

「千冬姉か……」

 

 楯無さんの挙げた名前に俺は天井を仰いだ。正直もし仮に一夫多妻制が許される世の中になったとしても、千冬姉はそれを良しとしない気がする。それはその制度が気に入らないとかではなく、俺の優柔不断を許さないとかだ。

 

「僕は織斑先生よりも山田先生かなぁ」

「シャルロットさんの心配は私も同意です。山田先生は要注意ですわ」

「あの人は時折千冬さんの義妹になりたがっている節が見えるしな」

 

 同じクラスの三人が口を揃えて山田先生を警戒するように告げてくる。そうかなぁとは思うのだが、例えそうだろうとそうじゃなかろうと、今の俺はこう答えるしかない。

 

「関係ないさ。千冬姉や山田先生が何を言ってこようと、俺が悩むのはこの七人で終わり。これ以上は申し訳ないけど定員オーバーだ」

 

 きっぱりと言い切る。と、みんなが一斉に顔を赤くした。どうやら結構決まったらしい。なので俺も少し照れくさくなる。本当にこのぬるま湯のような状態を続けていけたらいいんだけど。でも、それは俺の願望だ。みんなが心の底で望んでいるのは自分を選んでくれる事。だからこのままではいけない。いけないんだけど……。

 

「そうか。私が何を言っても関係ないか」

 

 突如背後から聞こえる冷たい声。俺の方を見ていたみんなの顔が軽く強張っている。そういう事だよな。だが、今の俺は負ける訳にはいかない。意を決して振り返る。

 

「一夏、お前達が最近以前にも増して仲を深めているとは思っていたが、まさか男女の仲になろうとしているとはな」

「そうだよ。やっと俺も男として前を向いたんだ。まさか学園内は恋愛禁止とか言わないよな、千冬姉」

「織斑先生だ。……さすがにそこまでは言わん。学生らしい節度を保つのならば、だが。まさか、以前の際はそういう事をしていたのではないだろうな?」

「そういう事ってどういう事だよ」

 

 すかさず言い返すと珍しく千冬姉が言葉に詰まった。後、微かに照れてる気もする。あれ、こんな千冬姉見た事ないぞ。そう思って千冬姉の言葉を待っていると、その顔がゆっくり赤くなっていく。そこで箒達が軽くどよめいた。気持ちは分かる。俺も驚きだ。千冬姉って、もしかしてかなり初心なのか?

 

「…………そういう事とは不純な」

「だからさ、具体的に教えてくれよ。じゃないとこっちも否定や肯定が出来ないから」

 

 そう間髪入れずに返すと千冬姉が再度黙った。俺は内心でからかいたくなる衝動を抑えつつ、困った表情のままその返答を待つ。でも、このままだと千冬姉が逃げを打ちそうなので先んじておこう。

 

「こっちに何をしたかを聞くのはなしにしてください先生。そもそも先生が禁止事項を抽象的に言ったからこうなっているんです」

「一夏君も言うわねぇ。でも、たしかにこの件についてはその通りです織斑先生。規則や決まりは明記するから効力を発揮するのであり、抽象的なものではいいように解釈されてしまいますから」

 

 楯無さんの援護もあり、千冬姉は本気で進退窮まったらしく、初めて見るぐらい焦った顔をしていた。ここまでくると、箒達も無言ではあるが俺の応援側に回り、事態の行く末を見守っている。

 

「……せ、性行為だ」

「き、キスとかですか?」

「そ、それぐらいならば許容範囲だ」

「ハグはどうです教官」

「構わん。それと先生と呼べ」

「手を繋ぐとか?」

「好きにしろ!」

「指を絡めるのはいかがでしょう?」

「問題ないっ!」

「舌を絡めるのは」

「それはダメだ!」

「体を触り合うのも?」

「当たり前だっ!」

「なら、俺達は問題ないよ千冬姉。キスどころかハグも手も繋いでなかったから」

 

 面白がって次々と例を出す簪達へ返答する千冬姉は、何というか可愛かった。顔を段々赤くしながら言い方も冷静さがなくなっていったからな。ラウラでさえどこか楽しんでいたぐらいだ。楯無さんも扇子で顔を隠しているので笑っているのだろう。

 

「……一夏、いつからお前はそんな風になった」

「この一週間前に色々あったんだ。で、俺もこのままじゃいけないって思ってさ。だからみんなと距離を詰め始めた。もっとみんなの気持ちに向き合いたいって」

「気持ちに、か。そうか。それでこのところお前達は言い争いが減ったのか」

「ああ。やっと分かったんだ。俺が今までどんな酷い事をしてたか。どれだけみんなが俺を思ってくれてたか」

 

 千冬姉の目をしっかり見据えて告げる。すると、千冬姉が優しい笑みを浮かべてくれた。

 

「ふっ、お前がそんな顔をする日が来るとはな。いいだろう。もう私は何も言わん。ただ、学生である事を忘れるな。それと、多くは国家代表候補である事も」

 

 そう言って千冬姉はその場から静かに立ち去った。その背中を見つめ、俺は小さく息を吐く。すると俺へみんながくっついてきた。

 

「一夏君、すごいよ。織斑先生を下がらせるなんて」

「そうね。お姉さんもびっくり」

「見事な戦い方だったぞ、嫁。教官の苦手を見つけ一点突破するとはな」

「意外だったよねぇ。織斑先生がそういう方面苦手なんて」

「本当よ。こんな事なら、あたしの漫画とか貸してみれば良かったかな」

「思いがけない弱点でしたわね。まさか色恋や男女関係とは……」

「だが、方法はどうあれ千冬さんからある程度の許可を得たのは事実だ」

 

 みんなして喜んでくれるのは嬉しいけど、色々と当たったりいい匂いしたりで俺は堪ったもんじゃない。だけど、それでも離れてくれと言えないのが今の俺。と、そこで気付いた事がある。千冬姉、一度も拳を振るわなかったな。その理由が以前の事だと察して少しだけ胸が詰まる。千冬姉なりにあの時の事を気遣ってくれているんだと。

 

「……やっぱり、千冬姉も俺と同じで不器用なんだな」

 

 異性の好意を察する事が鈍かった俺。おそらく千冬姉は、自分の気持ちを伝える事が苦手なんだ。そう思うとさっきの千冬姉がより可愛く思える。今度謝っておこう。

 

「そうだな。お前と千冬さんは不器用だ」

「よく言うわよ。あんただってそうでしょ?」

「それ、鈴が言う?」

「きっとこれに関しては皆さんそれぞれに言える事ではないでしょうか」

 

 セシリアのまとめに誰も返す言葉はない。そっか。みんなそれぞれに不器用か。ま、その中でも俺はぶっちぎりでダメだったけど。

 

「そういう部分があるから支え合えるんじゃないかな? 私も、不器用だったから一夏君と関れたし」

「そうだな。欠点が異なるからこそ補い合える。チームワークとはそういうものだ」

「あらあら、そうなると私達七人が一夏君と一緒にいないと補完し合えないんじゃないかしら?」

「……かもしれませんね」

 

 楯無さんが何か言いたげな眼差しで問いかけるので俺は本音で返す。とにかく、今はこれまでの事の埋め合わせをしていかないとな。そう思って一旦みんなへ呼びかけた。

 

「悪いけど、そろそろ離れてくれないか? これじゃ動きようがない」

 

 そう言うとみんなが名残惜しそうに離れて行く。それもまた辛い。

 

「それで、俺としては今までの分も合わせてみんなに埋め合わせをしたいんだ。ほら、いつだったかなんてデートみたいな誘い方したら、結局いつものメンバーだった事もあったしさ。だから今度はそれぞれと二人でちゃんと俺が色々考えたデートをしたい。ダメか?」

「な、何? 一夏が全て考えて……」

「わ、私達それぞれとデート……」

「あの一夏が……」

「ど、どうしようか? 分かってはいたけど、こう言われるとドキドキするよぉ」

「何も困る事などない。嫁が男らしくなったのだ。喜ぶべき事だろう」

「ならボーデヴィッヒちゃん、その顔の赤みは何かしら?」

「お、お姉ちゃん。そういうお姉ちゃんも扇子を畳もう?」

 

 ざわつくみんなだが、その反応はどう見ても悪くない。正直七人分のデートコースを考えるのは骨が折れそうだが、今までの詫びなら当然なので受け入れる。とりあえずみんなが落ち着くまで椅子にでも座って待つとするか。そう思って近くにあった椅子を引き寄せ、みんなの様子を見ながら座ろうとした時だ。腰掛ける位置が浅すぎたのか、そのまま尻から滑るように床へ尻もちをつき、ひっくり返ったところで植木鉢に後頭部をぶつけた。

 

「いっつ……」

 

 頭をさする。たんこぶが出来てるな、これ。しかもみっともないとこを見られたなぁ。そう思いながら立ち上がって椅子へちゃんと座った。幸か不幸かみんなは話に夢中で俺の醜態には気付いてなかったらしい。良かった良かった。それにしても、こうやって見てると俺って幸せだよな。だって、あの七人の美少女に思われてるんだ。と、何故か突然みんながこちらへ顔を向ける。どうしたんだろうと思って眺めていると、全員して首を傾げた。可愛いけど、何だって言うんだってまたこちらを向いた。しかも一斉に。顔も少し赤くて照れてるみたいだけど、どうしたんだ?

 

「えっと……一夏君」

「何だ簪?」

「さっき、私達の事可愛いって思った?」

「……ああ」

 

 当たり前な事を聞くな、簪は。大体みんなが可愛くない時なんてないのに。

 

「い、一夏っ! あんた今度はどこぶつけたのよ!」

「え……?」

 

 どうして見てなかったはずの鈴がその事に気付けるんだ? 後頭部のたんこぶだって触らないと分からないはずなのに。

 

「い、一夏。すまないが、私達の事をどう思っているかを頭の中で考えてくれるか?」

「どうしたんだよ箒」

「いいから頼む」

 

 有無を言わせない感じの箒に疑問を抱きながら、言われた通りに箒達の事を考える。まず、箒だな。美人で家事が得意で嫁さんにするならこいつってぐらいの器量よし。最近は俺が気持ちを分かったから暴力を振る事もなくなって、本当に大和撫子になってきた。

 

「……これはやはり……」

 

 ぼそっと箒が何か呟いた。気にせず次だ。セシリアは綺麗で優雅な気品漂うお嬢様。そのせいで家事なんかは苦手だろうけど、その分作法や礼儀なんかは貴族の出だけあって完璧。多分だけど厳しく優しい母親になれそうだ。

 

「あ、あう……」

 

 何故か急にセシリアが真っ赤になったけどいいか。で、鈴か。家事能力は高いし庶民的。俺と中学でつるんでた事もあってか、男に対しても結構理解がある。勝気だけど可愛いし、スタイルを気にしてるとこもまたいい。中華が得意な奥さんとか、ちょっと自慢出来るだろうな。

 

「なっ……なっ……」

 

 鈴の奴が赤面して俺を指さしている。それ、あまりよくないから止めた方がいいと思うんだが。まぁいいか。シャルに関してはそれこそ嫁に良し、母に良しって感じだしなぁ。おそらくだけど、総合力は七人の中でも一位二位を争うんじゃないだろうか。一人称が僕っていうとこが俺としてはいい。外国人だけど、古き日本女性みたいな男を立てる感じなのも嬉しい。

 

「そっか。一夏もやっぱりそういうとこが……」

 

 シャルは何で俯いてるんだ? さて、ラウラだな。ぶっきらぼうなとこもあるけど、内面はきっと誰よりも女の子。世間知らずなとこがあるものの、だからこそこっちが色々教えてあげたくなる可愛い子だ。最近はやっと性知識も覚えてくれたらしく、以前みたいな全裸でベッドに入り込むとかは出来なくなったようだ。……残念と思わなくもないけど、そういうのはやっぱり段階を踏まないとな。

 

「……嫁が望むなら私は構わんぞ?」

 

 ラウラが何か呟いて真っ赤になった。さっきから一体何が起きてるんだ?

 

「い、一夏君? どうかした?」

「あ、いや」

「一夏君、悪いんだけど話は後よ。まだ私と簪ちゃんの事考えてないでしょ」

 

 楯無さんに言われるまま、今度はその本人の事を考える。年上で飄々としているけど、実は乙女の可愛い人。大胆なアプローチをしてきた事もあった。でも、おそらく今は出来ないと思う。俺が襲うって分かってるから。ま、撥ね退けられるだろうなぁ。

 

「……どうしよ? もしそうなら流れに身を委ねても……」

「お姉ちゃん?」

 

 赤い顔で両頬を押さえる楯無さん。簪はそんな様子に疑問を浮かべていた。俺も同じ気持ちだけど、とりあえず最後までいこう。簪については……俺のせいで色々迷惑かけた感じが否めない相手だ。でも、今はそれを気にしないでいいとさえ言ってくれる優しい女の子。芯は強く、今じゃ誰にでも自分の意見を言い出せるようになった。でも、アニメが好きなのは驚いたなぁ。でも、そこもまた可愛さだ。隠さなくてもいいけど、俺以外に知られて欲しくないって気持ちもある。俺しか知らない簪だもんな。

 

「……一夏君、間違いないよ。今の一夏君、私達の事考えてると、それが全部私達には聞こえてる」

「…………は?」

 

 恥ずかしそうな顔の簪から告げられた驚きの内容に返す言葉が浮かばない。それって、つまりあれか? この前までのみんなと同じになったって事だよな。しかも、目を逸らすとかで対策出来ない。マジかよ! どうすればいいんだ!?

 

「勘弁してくれぇぇぇぇぇっ!!」

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