元ロード・エルメロイII世の事件簿「case.砂中の聖なる杯」 作:赤雑魚っ!
衛宮さん家のご飯とエクストラがアニメで始まったようですね。ご飯は漫画を持っていますがエクストラは未プレイですので今後に期待(今の所ワケワカメ状態)。どうでもいいですが衛宮さん家のご飯みたいに型月のキャラがほのぼのしてるのっていいですよね、ひむてんとかカニファンとか。
初代ハサン・サッバーハ。
曰く、ずっと在り続ける者。
曰く、
曰く、神より
彼の居場所と存在を知るのは白い髑髏面を受け継いだ者たちだけ。そして、彼が殺すのは決まってその代のハサンが衰えた時、私欲に身を任せて殺しを行った時だけだったそうだ。ハサンの口はぶりから察するにザバーニーヤを失った今は違うのだろう。
冠位を所持する以上、彼が何者かに肩入れして動けるのは人類史が危機に瀕する場合のみ。もしも例外があるとすれば、それは手を貸すに相応しい相手──試練を超えた者がいた場合。
ハサンから聞けた情報はこれくらいだった。どこからどこまでを信じるかは、あの青い炎から発された言葉を聞いた自分には、全てを信じるとしか言えない。あれもまた、人の手には負えない何かだった。
「試練を受けるのは自由だそうです。……申し訳ない。二日もかけて、私ではここまでしかあのお方の譲歩を引き出すことが叶いませんでした」
受けるか否か。誰が行くのか。時間的に即決しなくてはならない。
「試練の内容は?」
師匠がハサンに問う。
「────あのお方に一撃を加えることです」
一同に沈黙が走る。力に枷がついたシャイターンを相手にギリギリだったと言うのに、あんなバケモノに一撃を加えるなど、誰が考えても不可能だと言わざるを得ない。
「時間的にも、人数的にも厳しそうね。さっき立てた作戦でなんとかシャイターンを倒せるなら問題ないけれど……」
「問題は失敗した場合、ですね。ですが試練を受けるにしても、全員で敵の礼拝堂に行くにしても、勝てる見込みは薄いでしょう。もしも試練に割ける人員がいるとすれば────」
「私か士郎、グレイの中から一人か二人選ぶことになるわね」
アレクセイと凛が言う。自分はずっと外にいたので作戦の概要を聞いていないが、どうやら替えが利く人員らしい。
「なら、俺が行こう」
ならば同行者は凛だろう。凛を含めて全員がそう思っていた時、
「グレイ、すまないがついて来てくれないか?」
名指しされたのは、自分だった。
「へー、ライネスの言ってた通り衛宮くんって浮気性なのねぇ。いや、別に私は引く手数多だから構わないけど」
「いや、あれにはワケが…」
「冗談よ、冗談。なんとなくだけど、士郎があの子を選ぶんじゃないかって気がしていたし、理由もはっきりわかってるもの」
士郎も凛も割り当てられた半球状の部屋で、出発前の準備に取り掛かっている。グレイ含め、他の人間も各々準備中だ。
「あの子はセイバーに似てる……というよりはセイバーと全く同じね。色違いだし、雰囲気も性格もまるで違うけど」
「あぁ、そうだな。セイバーほど堂々としているわけでもないし、人として強いわけじゃない。本当に見た目が同じなだけの別人だ」
「で、時計塔の頃はなんであの子に話しかけなかったの?」
その質問に士郎は少しだけ固まり、数秒後に口を開く。
「いや、遠坂だってグレイに関しては何も言わなかっただろ?」
「だって、あなたがあからさまに避けてるって感じだったもの」
「……そう見えたか?」
凛は「少しだけね」と言い頷く。
「そういうつもりはなかったんだけどな。ただ話しかけられなかったってだけで……」
何かを思い出すかのように、士郎は部屋の中央の虚空を見つめる。
「たぶんだけど…いや、実際そうだったが俺はグレイとセイバーを重ねてしまって、目の前にいるあの子を見ないまま話してしまう。それは凄く失礼なことだろ?」
「そうね。士郎は不器用だから仕方ないわ」
「む、言い返したいが反論の余地がないのが困る」
「そりゃそうよ。事実を言ってるんだもの」
凛に笑われ頰が紅潮する士郎は軽く頭を掻く。
「なぁ、遠坂。俺にはセイバーとあの子が無関係のようには思えない」
「えぇ、そうね」
「きっと俺はセイバーに『俺がどこまで至ったか』を見て欲しいだけなんだと思う。ただそれの代理に、自分の身勝手にあの子を巻き込んでしまっている」
彼女が消えた時、士郎はその場にいなかった。
最後の戦いに挑む前に、彼女がいた確かな証を残そうとしたが何も残せなかった。彼女との何気ない時間だけを心に刻み込むだけが精一杯。当時はそれこそ正しいことだと感じていたのに、士郎の中には心残りが生じている。それはきっとグレイが原因であることくらい士郎自身、自覚済みだ。
(いや、それは責任転嫁だ。問題は心残りを作っちまった俺の心の『弱さ』なわけで…)
『弱さ』を乗り越えるために見届けて欲しい。私情まみれでグレイにはまるで関係のないことだ。
「…らしくないわね」
「そうか?」
「えぇ、とても。だって、ただ一度の例外を除いてあなたはいつも他人のために戦ってきたのに、今口にした理由は自分のためだもの。それだけでも、士郎とグレイが出会ったことに意味はあるわね」
「なんでさ。勝てばみんなを救えるかもしれないだろ?」
「まぁ、結果としてはそうね。一理あるから士郎がそう思うなら、そういうことにしといてあげる」
凛は一瞬だけ間をおく。
「でもね、やっぱりあなたたちの…いいえ、人の出会いっていうのは偶然見えて実は必然だと思うの。士郎がセイバーに出会えたのだって、私とこうしているのだって全部必然よ。だから、グレイとだって『縁』がある。あなたたちはきっとあのバケモノめいた暗殺者の試練を乗り越えられる何かを持ってる」
「遠坂のお墨付きがもらえれば安心だな」
頰を緩めた士郎に、凛が縋り付くように密着して彼の胸板に顔を埋める。
「…無茶しないでね」
「遠坂は心配性だな。俺は昔ほどヤワじゃないぞ?」
頭を撫でると、凛は顔を上げた。頰が赤らみリンゴのようだ。
「なぅ…!心配なんてこれっぽっちもしてないだから!てゆーか自惚れんじゃないわよ!私の魔力供給あっての投影魔術と固有結界でしょうが!そ、そうよ、あんたがあんまり無茶するとこっちにしわ寄せがくるって言いたいだけなんだからね!宝石魔術が専門だからって魔力を使わないわけじゃないんだから!」
照れ隠しのつもりで全く出来ていない凛の頭を撫で続けると、途端に大人しくなる。
「無茶しないで勝てる相手じゃないだろうから、先に謝っとく。だけど、必ずグレイと二人で帰ってくる」
「…約束だからね」
「何だよ、その顔は。さっき自分で俺たちは勝つって言ってたろ?」
(そうだ。勝って全てを救うんだ)
そのために剣製し、剣戟を打ち交わす。
単純ながらに歪な行動原理。
衛宮士郎にとってそれだけで十分な理由だった。それ加えて今回は戦う理由も、勝ったねばならない理由も増えている。それらはあまりに自分の双肩には荷が勝ちすぎると士郎は思うが────
(────こういうのも悪くはないな)
ただ背負うものの多さを考えながら、士郎は胸中で呟いた。
────青い炎を通過した。
特にこれといった助言もなく師匠達に見送られ、ついた先は暗殺教団がかつて本拠にしていたアラムートの麓。そこにはハサンが運転したであろう車が乗り捨てられている。
ここは観光地としても有名らしく舗装された道がある。緑をつけた木々に枯れかかった草が目に入り、なんだか懐かしい気分にさせられるが足場は依然として硬い質の土だ。
「あれを辿って来いってことなのか?」
隣にいる士郎が、自分が向いている方向とは違う場所を見上げて呟いた。彼が見ている先には全く人の手が入っていない山肌に、自分たちが通ったような青い炎が燃え盛っている。それが上の方にもいくつか並んでいて、道しるべとなっているようだった。夜間のせいか、気味悪いもの見ている気分だ。
舗装道路があるのにハサンの車がここに捨てられているのはそもそも車が通れるような道では行ける場所ではないからだろう。
「たしか君の師匠が言っていたな、ハサン・サッバーハは魔術を勉強していたって。
青い炎によって道を示された自分たちだからか、はたまたハサンにより初代の存在を知らされたからか、
「行こう。時間もあるってワケじゃないからな」
歩き出した士郎を追う。とても常人では登りきれないような岩場を時には手を使って登っていく。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
自分の少し先を行く士郎に声をかける。士郎は立ち止まって、自分を見下ろす。
「衛宮さんが拙を同行者に選んだのは、聖杯戦争と関係があるんですか?」
少しだけ士郎の目がいつもより大きく開く。
「…遠坂から何か聞いたのか?」
「いえ、アレクセイさんから衛宮さんも参加者だったって……」
そしてあの日、自分と士郎が話した時の彼の言葉や懐かしむような表情から察しの悪い自分でも答えが導き出せる。士郎は「そうか、あいつ神父だったな…」と納得したように呟く。
「つまり君は、俺の召喚したサーヴァントがアーサー王なんじゃないかって聞きたいんだな?」
その言葉に、自分は首を縦に振った。
「そうか、やっぱり……。よし、わかった。歩きながら話そう。だからグレイも聞かせてくれ。
青い炎を通過する二人を見送ると、残された元エルメロイII世一行は行動を開始した。山の麓まで降りた後は隠された車を出しに行ったハサンを待つ。
「フリュー、今更ながら君の仕事はもう終わっていると言える。我々についていかずに逃げたって誰も責めはしない」
「馬鹿言うなよ。まだ報酬貰ってねぇのに雇用主に死なれちゃ困るんだ。あ、もちろん今回ついていくのは追加料金な」
「
ライネスの応急処置に消費した遠坂凛の宝石代の倍額にフリューガーの追加料金、さらに聖杯はもう願望機としての機能が限定的で目的が果たせない。リターンに見合う金額か、と聞かれれば元エルメロイII世は全力でかぶりを振るだろう。
「行きましょう」
車を運転してきたハサンから声がかかった。全員で荷台に乗り込む。
「さて、即興が多いが勝てるかな?」
乗り込むより前にトリムマウに軽量魔術を施行したライネスが言う。彼女の肌にはすでに呪いの跡は残されていない。解呪は成功したらしい。
「五分五分…いや、勝てる確率が低いな。ほぼ賭けに近い」
負ければ世界中で虐殺が起こる。だが、この場にいる者の大半は別に世界を救おうなどと大層な動機で動いているわけではない。
元エルメロイII世やライネスは虐殺が起これば不利益を被るのが自分やその周囲であるから、ハサンは弟の愚行を止めんがため。各々が小さな理由を胸に抱いている。
「だが運良く人員が揃っている。全員が役割を果たせば勝てない相手ではない。特にミスタ・ハサンの生還は僥倖だった」
むしろあの二人が試練に向かったことは彼らにとって好都合だったかもしれない。なぜなら────
「それでもダメな場合は、シャイターンを足止めして少女を殺しにかかるしかないだろう」
男は悪魔に問われた。何故、召喚したのかを。
『今代のハサンに私はなる。そのためならば犠牲も厭わぬ。そんなことは貴様には視えているだろう』
悪魔は嗤う。男の言う通り、悪魔の眼には視えている。ヒトの欲を──即ち其の者の本質を知り、弱みと見つけて誑かす。狭義的には外れてしまうかもしれないが、広義的に見れば魔眼の一種と言ってもいい。
『己の欲に正直なものこそ手を貸す価値がある。汝の強欲は実に良い。欲しい才能が神より与えられず、秘奥をその手に出来んとは』
悪魔は嗤う。何度も何度も何度も、男の無様さを無力さを嘲笑う。
『願望を言うがいい。代償次第では汝の願いは叶わんこともない』
その
サームは目覚めとともに今見ていたのはシャイターンの記憶、その中でも呪われた右腕を持つ山の翁が彼を召喚した時の記憶だろうと思考する。
シャイターンとサームも聖杯に魔力のラインを繋いでいる。冬木の聖杯戦争においてもサーヴァントの記憶がマスターに流れ込む例がある以上、このことは何ら不思議なことではない。
「他人の記憶を覗くとは悪趣味な男もいたものだ」
煙がカタチを帯びていく。瓦礫だらけの地下を一部だけ片付けた場所で睡眠をとっていたサームは、瓦礫の上に座り込むシャイターンを見上げる。
「……貴様を召喚してから気になっていたが、なぜ翁に右腕を差し出した?わざわざ憎む人間の姿になってまで」
「おお、勘違いしているようだな」
「なに?」
「我は貴様らを見下しているが憎んでいるのは神と、神に見初められた
シャイターンは煙と化して、瓦礫の上から地面へ移動してカタチを得る。
「天使は皆知っていた。貴様らの不全さを。故に神の代行に相応しくないと異を唱えたが受理されず、あろうことか神の奸計に騙された」
「だからお前はヒトの愚かさを神に知らしめたのか。アダムのつがいを誑かして」
「フハハハハッ!!あれは傑作だったわ!!!」
当時のことを反芻し、シャイターンは体を仰け反り盛大に嗤う。
「あれこそ人間が初めて見せた醜悪の具現よ。一言二言誑かすだけで禁断の果実を口にするとは滑稽であったわ」
シャイターンはサームへと歩み寄る。
「良いか協力者よ。見下すと言うことは愛でることだ。貴様らとてそうであろう?幼童を大人が愛でるも、獣を飼いならし
「愛でるが故に翁に右腕を?」
「否、そうではない」
さらに一歩。足音までもが異音めいていて不気味だった。
「汝も知っておろう。元来悪魔とはヒトに憑き、その
サームの創り出したイフリートの偽物はそれらの工程を無視している。短期決戦に向けた量産品であり、日持ちは良いとは言えない。長くて二週間。失敗作ならば一瞬で体が拒否反応を示すこともある。
「なるほど。貴様は翁の体を使い受肉しようとしていたのか」
そのために右腕を交換し、二つの体の間にパスを作った。右腕から流し込まれたシャイターンの因子と自己改造
「左様。我に見合う器が無いのならば造れば良いだけのこと。奴の死の間際にその体を貰い受け、魂を腐らせるつもりだった」
「今の状態を見るに失敗したようだな」
「おうとも。奴の
シャイターンは座ったままのサームを見下すように立ち止まる。
「……貴様も我も人類を滅ぼすつもりは毛頭ない。万が一にも
「……
「知らぬならば良い。貴様は予定通りことを為せ」
座っていたサームは立ち上がる。二人の目線がちょうど同じくらいの高さになり、さながら至近距離で睨み合うようだ。
「貴様こそわかっていような。渓流の時のような失態は許さぬぞ。衛宮士郎への警戒を怠るな。奥の手は極力避けたい」
「…あの若造か。確かに面白いが警戒すべきは寧ろ……」
「なんだ?」
「否、どちらも所詮は泥から出来た下等種。脅威になりはしないだろう」
黒い布が霧散する。直後にブレて重なるような声が反響する。
「そこな
邪悪な気配が消え、サームの視線が動く。
そこには自我を喪失した赤い瞳の少女が壁を背もたれに座っている。集落の血統はほぼ近親であり、その瞳は黒いものだったが聖杯の術式に力の器を組み込む過程で赤く変色していたが、とうとう精神や魂に至るまで影響し始めている。
「次の金曜日で全てが揃います」
両膝をつき、
「どうかそれまでご辛抱を……!」
深夜、木曜日になるかならないかというところで車が止まった。
こんな乾燥地帯ではあり得ないだろうが大雨が降り続ければ火山湖のようになりそうな不自然な岩山を登り、その頂上で一同は眼下の景色を見下ろした。
前と変わらずドーム状の建造物が中央にあり、門番の代わりに大勢の人間がこちらを見上げていた。夜営のためか、彼らの傍には炎がある。
「…武装無しか」
元エルメロイII世がそう口にする。
「地下工房を破壊したんだからイフリートの創造はもう出来ないってことよね?」
あそこに縛られていたであろう多くの人間たちも生き埋めにされ、素材がない。凛の読みは当たっている。
そう、
『────!?』
こちらを見上げていた人々が、一斉に試験管の赤い液体を飲み干した。途端に地面が光り出し、暗闇に儀式陣が浮かび上がる。
彼らの傍にあった炎から火の玉がいくつも飛び出て彼らの胸の中に入っていく。
擬似精霊イフリートを己の中に創造することでいわゆる悪魔憑きになったのだ。
「狂信もここまで来ると見上げたものだな」
ライネスが嘲笑気味で呟く。
「笑い事でない。魔術礼装を飲んだ以上、ただの悪魔憑きとは勝手が違う」
元エルメロイII世の言葉通り、彼らは明確なる意思を持って両手に炎を顕現させる。その炎が収束され火球に変わる。
「来るぞ────!」
火球が投げ飛ばされる。
見下ろしていた元エルメロイII世たちの頭上へ昇り、放物線を描くように降り注ぐ。
「────
火球が降り注ごうとする刹那、穏やかな詠唱が木霊する。それを唱えた神父は近くに落ちていた石ころを投擲し、一つの火球を射抜いた。
射抜かれた火球に圧縮されていた炎が暴発し、他の火球が連鎖的に爆発を引き起こす。夜空を彩った火炎の閃光がその場にいた人間の視覚を奪った瞬間、悪魔憑きたちの群れの中心に黒衣の男が侵入する。
アレクセイは両手に一本ずつ黒鍵を出し、二つの刀身で幾何学模様を描き出す。飛び散る鮮血に、無惨に斬り裂かれる身体が地面を赤く塗りたくる中、彼は細身の容器から透明な液体をばら撒いた。
それに被弾した悪魔憑きたちが呻き声を上げ始める。
「今回は使う機会もないかと思ったんですけど…」
微笑みながら、怯んだ彼らにさらなる斬撃を浴びせかける。
「貴方方が新宗教を語り、我々を殺そうというのであらば
それは
故に慈悲を持って彼らを狩る。彼にはその権利がある。
一瞬だけ岩山の上に目配せすれば作戦通り凛とフリューガーも動き始めている。それだけ確認し、アレクセイは視線を戻した。
「真に信仰ある者は命を懸けなさい。そうしなければ異端の牙は我らが主に届きはしない」
目に見える青い炎はこれで最後。もう少しでアズライールの聖廟に辿り着くはずだ。
士郎から聖杯戦争の話を聞いたところで、別段親しくなったということない。ただ、少しだけ自分の故郷がどれほど高潔な王へと自分を仕立てあげようとしていたのかがわかっただけ。
自分の話だって大したことは話せなかった。士郎からしてみれば彼の特別だった人と自分が無関係でなかったと知れたくらいだろう。
「じゃあグレイは故郷を追われる形で出て行ったのか?」
「そうですね…師匠に連れられて。あとはなんとなく魔術を習う毎日です」
「やりたいこととかないのか?」
「…昔はありました。でももうどうやっても叶わないことなので」
第五次聖杯戦争に師匠を参加させて征服王イスカンダルと再会させたい。彼らの闘いを自分の力でサポートできればいいと思っていた時期があった。
「正直、目的もない自分が意味なく師匠のそばにいていいのか不安ではあります」
「グレイは……なんというか面倒くさい奴だな」
「…………」
「あ…いや、悪い。ただ俺は家族や仲のいい人とか、好きな人と一緒にいる意味を問いただすなんて疲れるだけだと思って」
「つまりは無駄なことです?」
士郎はぎこちなく頷く。
「そこに自分の居場所ってのがあるんだったらそこに居ていいんだよ。自分を豊かにしてくれるヒトと過ごす時間が無駄なわけないんだから」
その言葉は、自分が気にしていることが馬鹿馬鹿しくさせるくらいに単純で的を射ているモノだった。同時に自分がどれほど面倒な人間かを思い知らされ、顔が熱くなる。
そんな士郎の言葉とともに山を登り終えると、その先にあったのは古めかしい石造りの寺院だった。
大きな扉の前に女の像が二つ。彼女らの両手には髑髏。いや、この廟の至る所に髑髏があった。それが本物なのか、それとも廟と同じく石でできているのかは判別がつかない。
「さ、早く入ろうか」
士郎がそう言って、廟へ繋がる階段を上がり始める。自分も後に続く。すると、登り終える一歩手前で士郎が振り向いた。
「そう言えば一つ確認したいことがあったんだ。グレイはセイバーが怖かったのか?それとも自分が別のモノに変わってしまうかもしれないのが怖かったのか?」
「…どちらかと言われれば、後者でしょうか」
士郎の話を聞いて、アーサー王が怖い人だとは思わなかったのは事実だ。ともあれ自分がアーサー王になることなど恐らくもうあり得ない話なのだが。
「うん、ならよかった」
そう言い、士郎は一歩を踏み出した。遅れて自分も階段を上り終えた。
途端、鼓動が早く、そして大きく高鳴り始めた。
自分だけでなく士郎もまた同じ感覚に見舞われているのか、多少の動揺が見られる。まるで存在そのものを否定されているような、ここにいるだけで死んでしまいそうな感覚だ。
「………」
無言のまま士郎は歩き始めた。自分も後を追い、大きな石の扉の前へ歩を進める。すると、扉が耳障りな摩擦音を上げて開き始めた。
二人で並んで入ると青い炎が光源となり、屋内を照らし始めた。淡い光を反射する髑髏が床に散在していて、その中で最も禍々しい髑髏は奥に祀られるように鎮座していた。周囲には見覚えのある髑髏面を被った十八の首が台座に飾られてある。
「────よく来た」
その声を直に聞いただけで、その姿を目視しただけで後悔した。少なくとも自分はここに来るべきではなかったと。
シャイターンが誑かすための怪異なら、初代ハサン・サッバーハは────
「我が廟に踏み入った者全て死なねばならぬ。これ即ち貴様らは死者であることを示す」
────殺すための異形だ。
「汝らは死者として生を摑み取れ。さすればこの剣はあの異教徒の首を狩に参ろう」
刹那、自分の心が凍り付き首筋に悪寒が走った。
タイプムーンウィキを参照して、グランドクラスは人類滅亡を阻止する存在って解釈したんですが、じゃあ英霊エミヤとかの位置付けはどうなるんだろうと疑問が湧きました。
それに初代様がティアマト龍に死の概念を付与するために冠位を手放したのは主人公に肩入れしたからだと書いてあったのですが、ならば六章でガウェイン相手に斬り結んだ時点で冠位を破棄したことになるんじゃないかなって思ったりしてしまう。こういうところで自分がどれほどのにわかなのかがわかってしまいますね。
あと数話で終了ですので今後ともよろしくお願いします。
とりあえずグランドクラスに関しては自己解釈で進めようかと思います。