元ロード・エルメロイII世の事件簿「case.砂中の聖なる杯」   作:赤雑魚っ!
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長らく留守にしてしまい申し訳ありません。時間ができれば執筆時間が取れると同時に人付き合いの時間が増えると言う落とし穴にはまってしまいました。
展開的に二手に別れてしまったせいか一話にまとめようとするとどうにも時間がかかり過ぎてどうしようもないので一話あたりの文字数を減らして投稿頻度を改善しようかと思います。それでも書き方は変えないので小説全体の総合文字数には全く影響はないと思います。


聖なる言の葉

 ────青い炎がゆらりと揺れる。

 

 

 炎と共に暗殺者は消え、直後にグレイの背後で青い炎が再び燃え盛った。薄暗い廟の暗闇から現れた暗殺者が少女の首を刈り落さんと大剣を天へ掲げているの士郎は目視した。それは一秒足らずの出来事。思考より先に士郎の体が動き、投影した干将・莫耶を以って大剣とグレイの首の間に割って入る。その拍子にグレイと衝突し、彼女の体が力無く倒れる。

 この異界と見紛う空間に来て初めての剣戟。あまりに重い。だが、屈辱的にもそれは暗殺者にとって全力とは程遠い小手調べなのだろう。きっと今の斬撃は反応出来たのではない。()()()()()()()()()

 

「うむ、初太刀は上々…」

 

 がちゃり、と暗殺者らしからぬ鎧が音を立てた。先ほどの不意打ちの時にはまるで聴こえなかった音だ。一挙動だけで次元の違いを感じさせられる。額から滲み出た汗が頬を伝い、顎から床へ落ちる。雫が足下で弾けた刹那、士郎は踏み込んだ。一歩二歩、三歩と同時に夫婦剣を振りかぶる。

 

「───っ!」

 

 知らぬ間に暗殺者の剣が振るわれていた。振りかぶっていた剣の重さがなくなったことに気がつき、踏み出そうとしていた三歩目が反射的に後ろへと退く。

 

「…人外にもほどがあるぞ、あんた」

 

 人生を一変させた英霊の影法師たちとの戦いでも、これほど異様な存在はいなかっただろう。敵わないことには変わりはないが、それ以上に底知れない。深淵がカタチを成したような不気味な存在。一層緊張を高め、砕けぬ強固な双剣を投影(イメージ)し、さらに鶴の翼のように肥大化させる。

 

「グレイ、立てるか?」

 

 暗殺者から目をそらすことなく、士郎はグレイに尋ねた。

 

「─────────」

 

 無言。呼吸すらも聴こえない。

 

「無駄だ、異常者。『勘』の良い人間でこの廟で正気を保てる者はそう居まい」

 

「なに?」

 

「汝にはわかるまい。此処には『死』が漂っている。この名も無き暗殺者が刈り取って来た命の痕跡は蓄積し、只人を侵す呪いの如き瘴気と化す。故に此処は悪霊好みの環境と言えよう。奴らの侵入など許すはずもないが……」

 

「普通に動ける俺は悪霊に向いてるってか?これはまたひどい言われようだな」

 

「何を言う。一度は死ぬ筈だった命なのだろう?地上を彷徨う霊魂とそう違いはなかろう」

 

 道中の会話でも聞いていたのだろうか?あまりの皮肉に士郎の口角が微妙に引き攣った。

 

「増して此の身を前にしてそこの墓守が動ける道理など有りはしない。どうせ動けぬならば先に殺された方が楽だろう。嘆かわしい。そこな墓守に信仰の精神があればまだ動けていただろう」

 

「ふざけるな。グレイは連れて帰るし、あんたには協力してもらう」

 

「ならば()()()力を示せ。晩鐘が鳴り響く前に───」

 

 暗殺者が動き始め、がちゃり、と鎧が音を鳴らすこと四度。その姿が消え、瞬く間も無く眼前に現れた。

 一斬───否、そう見えた二斬。またも干将・莫耶が破壊される!

 

「案ずるな。手心は加えてやろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼下が赤く染まり続けている。元エルメロイII世は期待以上の神父の働きに驚愕しつつ、一種の恐れを抱き始めた。もともとは洗礼詠唱を含め、黒鍵や聖水など祓魔用の武装を所持していることが決め手となり、アレクセイをこちらに連れて来たが、ここに来て目を惹くのは彼の常軌を逸した魔術行使だ。戦えば戦う程に強くなっている、と言うよりは魔術を持続的に使い続けていることで手が付けられないほど猛威を振るっていた。

 

(あの魔術は……いや、それでは法則が成り立たなくなる)

 

 観察を続けているうちに悪魔付きの半数は既に地に伏していた。これだけ長時間魔術行使を見ておきながら暴けないのが悔やまれる。

 

(いや、本当はこんな悠長に観察している予定ではなかったのだが……)

 

 この段階では恐らくアレクセイの援護に回る予定だったが、中途半端な援護こそが邪魔になりそうだ。

 

「どうする我が兄よ。私たちだけでも礼拝堂に急ぐか?」

 

「いいや、我々だけではあの悪魔をどうにかできない。ここは───」

 

 言いかけた途端、話しかけて来たライネスの視線が走った。共に来ていたハサンの後方──そこには火元のない煙が立ち込めていた。

 

「やれやれ、できればあちらに行って欲しかったのだが敵もそう思い通りには動いてくれないね」

 

 カタチを帯びて行く煙を眺めながらライネスは笑っている。逆境にこそ笑うのが彼女の気質だ。尤も、元エルメロイII世からして見れば笑える展開などではないのだが…。

 黒い布に包まれた暗殺者の姿が浮かび上がった。元エルメロイⅡ世はその悪魔を見据えて口を開いた。

 

「てっきりアレクセイの方に現れると考えていたが、彼には敵わないとでも思ったか?」

 

 あくまで強気にしかし、その足は震えている。下手な英霊を凌駕しているであろう相手。本来ならば勝てる見込みなどゼロに等しいのだ。

 

「アレはどうにも()()()でな、まずは横槍を折りに来た。まさか無策で乗り込んで来たわけではないのだろう?」

 

「当たり前だ。ここに来たのは貴様を殺し得る人間たちだ」

 

「ほう────」

 

 空気が凍りつく。確かに悪魔は髑髏面の下で嗤った。

 

「威勢がいいではないか!」

 

 シャイターンの左腕が紅蓮に輝いた。圧倒的な熱量を持つ炎を纏わせこちらを見据える。

 

「ならば喰らうがいい、我が業火を────!」

 

 左腕が振るわれる。その瞬間に三人は散開した。とは言え両端は斜面、まとも足場といえば背後だけだ。元エルメロイⅡ世とトリムマウはアレクセイが戦っている方へと滑り降りていった。ライネスとハサンは反対方向へ。

 背中に炎が掠め、熱を感じるが回避には成功した。

 

「何をしている!?策を郎せよ、ウェイバー・ベルベット!!!」

 

 斜面の途中で追い付かれる。シャイターンは既に振り上げていた左腕を振り落とす。

 

月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)!」

 

 左腕が直撃する瞬間、元エルメロイII世が声を上げた。呼びかけられたトリムマウは身代わりになるように元エルメロイⅡ世を突き飛ばし、シャイターンの一撃をその身に受ける!

 

「───!?」

 

 水銀で構成された体が液状になり可憐な乙女の原型が崩れていく。シャイターンの攻撃は文字通り受け流され、地面を砕くだけにとどまった。水銀の魔術礼装は体の一部をシャイターンの足に絡ませ一間ほど距離をとって再度、少女の体を作り上げる。その右腕に水銀が集中し大きな槌を形成し、勢いよくシャイターンめがけて伸びていく。

 

「────小癪ッ!」

 

 悪魔は暗殺者の右腕を動かした。右られた刃物による一閃。水銀の槌を両断する。

 

「泥より上等な物質でありながらそのカタチに押し込められているとは憐れな…」

 

 シャイターンの左腕が再び燃え始める。

 

「その忌々しい姿から解放してやろう」

 

「それはあなたに対する皮肉でしょうか?このトリムマウ同様、たいへん人間に酷似しているように見えます」

 

 無機質な唇から紡がれた言葉。明らかな挑発──に見えるが、見たままを口にしただけだろう。

 

「操り人形の分際でよく喋る…」

 

 紅蓮に燃え盛る炎は足に纏わりつく水銀を蒸発させる。自由になった足で踏み込んだ。一間ほどの距離がなくなり次の攻撃で水銀メイドの体が蒸発させられるだろう。真正面からの攻防はわずか一回。実力差を考えれば当然の結果だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 想定外のことではあった。兄上の予定ではあの神父とシャイターンが戦っているまさにその時、横槍を入れるつもりだったのだ。

 まぁ、何にしても慌てずに大見得を切り、シャイターンを上手いこと自分の方へ誘導したのはさすが聖杯戦争を生き残っただけあって肝が座っていると言うべきか……近しい人間からしてみれば腑抜けであるのは否めないが。

 

「ライネス殿、前倒しにはなりますが…」

 

「あぁ、そうだね。始めてしまおうか。噛まずに詠みたまえ。私が補助するし、必ず()()()()

 

 ハサンは頷き、目を瞑る。そして深く息を吸った。

 

()()で状況がどれほど傾くのやら……)

 

 兄上の予想では効果はかなり期待できると言うが……。

 ここで深く息を吐く。魔術回路を回し、自分が使う魔力に反応し魔眼が熱を帯びていく。

 

「…どうでもいいか。効果があろうがなかろうが、君は負けるわけにはいくまい」

 

 兄上が何かを守りたいのかとか、そう言う話ではない。きっとこれは思想の問題だろう。

 

 

 かたやヒトの可能性を信じ導く者。

 かたやヒトの限界を見定め嗤う者。

 

 

 こんな者たちが会すれば相容れぬのは必然だ。お互いを分かっておらずとも、否定せずには──潰し合わずにはいられない。

 まぁ、悲しいことに我が兄が自分の限界だけは自分で見限っているのは皮肉以外のなんでもない気がするけどね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水銀メイドにとどめの一撃が加わらんとしたその時、男の声が響いた。

 悪魔の動きが止まる。同時に振るわれた左腕の炎が消えた。刹那、銀色の光沢を持った刺突が漆黒の悪魔の体を貫いた!

 

『主は如何なる者にも越えられぬ試練を与えず。得るも失うもこれ全て己によるものなり』

 

 それは荘重かつ壮厳な言の葉だった。

 

「これは…」

 

 体を貫かれたシャイターンにトリムマウの槌が薙がれた。先ほどまで躱すどころか刃物一つで砕破した攻撃をまともに受け、暗殺者を模した体が岩肌に衝突する。

 

「覚えているか?渓流で私が貴様にしたことを」

 

 元エルメロイⅡ世が口を開く。立ち上がってもなお動きが鈍いシャイターンは怒気を放ち、踏み込んだ。

 

「おうとも!貴様は神の名を口にした!!」

 

 刃物が動いた。かつての暗殺者の技術故か、鮮やかな太刀筋が元エルメロイⅡ世の頸部を捉えようとする。だが、その斬撃を高密度の水銀の壁が阻む。

 ジンを除ける(すべ)の一つに、神の名を唱えると言うものがある。これもまた『力の器』の一つと呼べるだろう。グレイがシャイターンに殺されそうになった時、元エルメロイⅡ世はそれを用いた。結果としてシャイターンの動きを一瞬だけ封じることに成功したのだ。

 

『主よ、我らの忘却を、過ちをどうか御咎めなりませぬよう。

 主よ、先人に背負わせなさった重荷を我らにお負わせになりませぬよう』

 

 曰く、聖書には魔を祓う力があると言う。例えば聖書の(ページ)の切れ端の魔力で剣を編む黒鍵、聖堂教会が唯一認める神秘──洗礼詠唱。いずれも聖書無くしては存在し得ない退魔の(すべ)。特に洗礼詠唱は信仰が広く伝わっているが故に大抵の魔術基盤の中で用いても絶大な威力を誇る。

 今ハサンが唱えるモノは彼らの聖典の一節。聖書と並び、これもまた魔の者に対して有効である。この地の魔術基盤に沿った洗礼詠唱といっても差し支えないだろう。前例を踏まえれば、この詠唱はシャイターンに十分すぎる効果を示すだろうと、元エルメロイⅡ世は考えた。だからこそ、今回ハサンの帰還は僥倖だった。

 腕を構成する水銀を自由自在に変形させ、トリムマウはシャイターンの刃物をいなし続ける。だが、それまで。先ほどのように不意の一撃でなければ攻撃は通らずじまいだ。攻勢は依然としてシャイターンにある。仮にもし月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)のままそれを十分に使いこなせる魔術師がいたところで結果は大して変わらないだろう。

 

退()け!!」

 

 シャイターン左腕が横に払われ、とうとうトリムマウが吹き飛ばされる。シャイターンは直進し、元エルメロイⅡ世に肉薄する。そして刃物が放たれる。後ろへ倒れこむ形でなんとか躱しきった。が、追撃までは躱せない。刃が走る。元エルメロイⅡ世の喉元を掻き斬るためのそれは、弧を描いていた。

 

『主よ─────』

 

 しかしそこにシャイターンのものとはまた別の刃が弾丸の如く飛んで来た。それを防ぐためにシャイターンの刃物は軌道を曲げる。

 

『我らの力量では敵わぬことを我らの背にお乗せになりませぬよう。

 我らを宥し給え、

 我らを赦し給え────』

 

 火花が散る。同時に甲高い金属音が耳を劈いた。さらに一撃。それを防ぐと鍔迫り合いで二つの影が向かい合う。

 闖入して来た鮮血にまみれた金髪の神父。その背後には無数の死体。立っている者は誰一人いなかった。

 

『────汝こそは我らの守り神。罪深い者共に打ち勝つことができますよう、何卒我らを助け給え』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もっと文字数欲しいと思われる方がいましたらお伝えください。最大限改善できるよう努めます。ちなみにこれで平均文字数の半分よりちょっと少なめと言った感じです。
コーランの一節はそのまま引用はまずいと思ったので多少日本語を変えております。






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