もう1人のボーカル   作:海賊列車

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お久しぶりです。結構更新遅めになると思います。




2.ベース担当といきなり喧嘩してみた

事務所の会議室では、葵が入って来たことによって会議が中断されてしまったが、しばらくして再開していた。

 

 

「えーっと、それでなんなんですか『アイドルバンド』っ?」

 

遅刻者の割に全く反省の色が伺えない葵だった。日菜も同様の表情をしていたのは説明するまでもないが。

 

 

「名前の通り楽器を演奏するアイドルです。お披露目は2週間後のステージを予定しています。楽器の演奏に関してはバックにプロの演奏を流すので皆さんはそれに合わせて弾いてるフリをしていただければ大丈夫ですよ」

 

簡単に言えば黙って踊っていろ、ということだ。

 

 

「弾いてる、フリ……」

 

彩は意図したのか、それとも口から自然に溢れたのかはわからないが小さくそう言った。しかしその声は誰にも聴こえてなかっただろう。仮に聴こえていたとしてもすぐに忘れるはずだ。

なぜなら声を上げて激怒した者がいたから。

 

 

「ちょっと!弾いてるフリってどーゆーことですかっ!ボクはこれでもプロとしてのプライドがあるんですけど!」

 

その声は葵のものだった。彼女がキレるのも当然だ。なぜなら彼女はプロのアニソン歌手で、人気も高い。そんな彼女が今更事務所のヤラセで口パクなどするはずがない。

 

 

「それでは、お客さんに嘘をうくことになってしまいませんか?それは、ブシドーに反します!」

 

イヴも動機は違えど、葵と同じ意見のようだ。

 

 

「私は楽器の経験はありませんけど……私も葵ちゃんとイヴちゃんの意見には賛成です。ちゃんと練習して、本当の演奏をお客さんに聴いてもらったほうが……」

 

彩も自分の夢見てたアイドルはそんな歪んだものではないと言わんばかりに必死だった。

しかし、

 

 

「でもアイドルとしての魅力はバンドとして上手に演奏できるってことじゃないですよね。楽器の練習をするよりも、もっと自分自身を魅力的に見せることに時間を割いた方がいい……。って、私は思います。なので、私はこの方針に賛成です」

 

千聖は事務所のやり方を肯定した。彼女にはプライドがないようにも見えた。もしくはプライドを捨ててでも……というような顔付きだ。

 

 

「そんな……」

 

彩は再び小さく声を漏らす。

 

 

「いや〜、流石千聖さんはわかってますね。話が早くて助かります。バンドの方針についてはこの方向でいかせてもらいます」

 

スタッフがそう言いはなった。まるで異論反論は受け付けないと言う様に。

彩は何か言いたそうだが、それを言い出す勇気が持てないようだった。

 

 

「ちょっと待ってくださいよ!」

 

そんな中、再び葵は声を上げた。

今度もスタッフに何か言うのかと思いきや、先程とは違い、千聖の方を見た。

 

 

「ねえ、君はなんでそんな風に言えるの?ボク達にお客さんを騙せって言われてるんだよ?なんで君はそんな考えを肯定できるの?それとも自分には楽器なんて無理だ、って諦めてるの?」

 

葵の言い分は言い方に問題があったが、内容は正しかった。

千聖は葵の言葉は自分を馬鹿にするものだと解釈していた。

 

 

「あなた、少し歌手として有名だからって調子に乗らないでもらえる?私、これでもこの業界には幼い頃からいたのよ」

 

 

「それはあくまで女優として、でしょ。君が今まで生き抜いて来た世界とボクがいる世界は全くの別物なんだよ。それなのに知ったような口をきかれるのはなんだかなぁ」

 

 

「気に触るような事を言ってしまったのなら謝るわ。でも私は芸能界で生き方はわかっているつもりよ。あなたにそれを否定される筋合いはないわ」

 

葵と千聖の口論はだんだん過激になっていく。

 

 

「だから〜、君が今までいた業界と歌の世界は違うって言ったよね?なんで同じこと2回言わなきゃわかんないなぁ」

 

あからさまに場の空気が悪くなった。誰も仲裁に入ろうとしなかった。それに千聖もこのまま話していてもラチがあかないと思ったようで、口をつくんだ。表情は不機嫌だが。

 

ナチュラルに言い合いは終わったので、スタッフがさも何事もなかったかの様にヌルッと会議の続きをする。

 

その結果、方針としては取り敢えずお披露目ライブは口パクでやる事に決定した。それぞれが何の楽器をやるかも伝えられて資料も配られる。資料の中身をざっと説明されてこの会議は終わった。

 

 

 

それぞれのタイミングで会議室を出て行くメンバー達。

彩とイヴは日菜になにか言われて納得していたようだった。しかし、唯一葵は納得できていなかった。そもそも彼女はアイドルのことはあまりわかっていなかった。

なので、会議室から出ようとする彩を引き止める。

 

 

「ねえ彩。ちょっと時間いいかな?」

 

 

「えっ?いいよ、葵ちゃん」

 

どうやら彩は葵の方から話しかけられるなんて思ってなかったようだ。

 

 

「彩はさ、子供の頃からアイドルに憧れて、ようやくここまで来たって言ってたじゃん?」

 

 

「う、うん」

 

 

「それならさ、口パクなんて絶対イヤなんでしょ?」

 

 

「……うん!」

 

彩は少し間があったが、返事は力強かった。

 

 

「じゃあさ、歌おうよ!」

 

 

「………………………………え?」

 

 

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