Fate/Circe   作:アイリス

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第三話

 

 開示されたその情報は、僕を動揺させるに足る情報だった。

 

 弄月家がなぜ? それに、監督役は何をやっている?

 

「監督役は、どうやら弄月家と組んでいるらしいぜ」

 

 嘆かわしいことだ。公正であるべき教会がな。

 アルタミラーノはそう言う。

 

「教会側である君たちが弄月家に協力しなかった理由は?」

 

 キャスターが問う。

 

「ああ、それなんだがな。弄月家の当主。ありゃあ『人喰い』だ」

 

 それもまた、僕を動揺させた。

 あまり親しくはないが、弄月家の当主とは何度かあったことがある。温厚そうな老人だったが、彼が人喰い?

 

「間違いない。信頼できる筋からの情報だ。あいつは死徒もどき。人を喰っては生きながらえる妖怪だよ」

 

 教会側には根元への到達が目的だと言っているようだが、それも怪しいもんだ。

 アルタミラーノは言う。

 

「君、知らなかったのかい?」

 

 キャスターが聞いてくる。

 僕は全く知らなかった。いや、教えられていなかったのだろう。

 

 僕は魔術師ではなかったから。

 魔術師にはなれなかったから。

 

 ——殺せ。

 

 祖父の声が脳内に響く。

 

 目の前には、僕の大切な■。

 

 手に握った鋭いナイフと、床に描かれた魔法陣。

 

 ——ためらうな。殺せ。

 

 そして、僕は——

 

「——ター? マスター? 大丈夫かい?」

 

 ふと気がつけば、僕の顔をキャスターが覗き込んでいた。

 僕は首を振って、「大丈夫」と答える。

 

「顔が青くなっていたけど、本当に大丈夫かい?」

「心配かけてごめん。大丈夫だから」

 

 そう、僕は大丈夫なのだ。

 

 なんの問題もない。

 

「……ともかく、あのじじいは信用できん。だから他に組める相手を探してたんだよ」

 

 アルタミラーノは言った。

 

「次はライダー陣営についてだ。ライダーのマスターはルバリオン・バンダーバック。フリーランスの魔術師だが、一応、魔術協会側のマスターだ。そして肝心のライダーは……宇宙飛行士のサーヴァントだ」

「宇宙飛行士?」

 

 となると、相当近代のサーヴァントだ。

 

「そいつは本人の言ってることが正しければ、ニール・アームストロング。人類史上初めて月に立った男だ」

 

 ニール・アームストロング。人類史上初めて月に立った男。アポロ11号の船長だ。

 

 ……というか、彼は。

 

「まだ存命じゃないか!?」

「未来の英霊ってことなんだろ」

 

 そんなことがあり得るのだろうか?

 疑問に思う僕に、キャスターが語りかける。

 

「ありえないことはないだろう。英霊の座は、時間軸とは完全に切り離されている。存命の人物や、未来に生まれる人間が英霊として登録されていてもおかしくない」

 

 なるほど……。キャスターが言うのならばそうなのだろう。

 

「そのライダー陣営だが、協力を取り付けられそうだ」

「ふむ、それは、どう言う条件でだい?」

「あいつらも、聖杯を望んでいるわけではないようでな。なんでも、ライダー自身に願いはなく、ルバリオンの願いは『英霊と会ってみること』だそうだ。もう叶ったから、聖杯はいらねえんだと。後は生きて帰るだけ、なんて言ってたぜ」

 

 それが本当だとすれば、随分な変わり者だ。

 英霊に会うために聖杯戦争に参加するなんて。

 たしかに英霊と会いまみえることなんて滅多にないし、その目的なら聖杯戦争に参加するのが手っ取り早いのだろうが……。

 

「ライダー陣営とは明日会うことになっている。その時は同行して欲しい」

「わかった」

「構わないよ」

 

 僕たちはそう答え、情報のすり合わせを終えた。

 

「この後はどうする? できれば、拠点は分けたくねえ。どっちかの拠点に纏まっときてえんだが……」

「なら私たちの拠点がいいだろうね。ここを工房にすることもできるけど、それだと目立つ」

「OKだ」

 

 僕たち四人は、山の拠点に戻ることに決めた。

 

***

 

 時刻は夕方。赤い日差しと、それ以上に赤い炎。

 ごうごうと燃え盛るログハウスと、その周囲の木々。

 この距離でも熱を感じるほどの灼熱が、僕たちの拠点を燃やしていた。

 

「燃えてるーーーー!! 私の工房が! せっかく作ったのにーー!!」

 

 車で移動している途中に、キャスターが拠点に襲撃を受けたと言い出した。

 僕たちはその場で相談し、襲っているサーヴァントがバーサーカーであることがわかると、仕留めるために全速力で向かって来た。

 

 全速力で向かっては来たが、所詮それは人の尺度。

 サーヴァントが工房を破壊し尽くすには十分な時間だった。

 

「うわーー!! 私の工房をなんだと思ってるんだ!!」

「落ち着け! 工房なんざまた作りゃいいじゃねえか!」

「君、満足いく工房を作るのにどれだけ手間がかかると思って……!」

「いいから戦闘だ! アーチャー!」

「キャスターも落ち着いて! バーサーカーが来る!」

 

 キャスターを後ろに下がらせ、支援できる体制を作らせながら、僕はオデュッセウスの弓を取り出した。

 

 燃え盛るログハウスから、小柄な鬼が現れる。

 その後ろには、白い髭を生やした長駆の老人が立っていた。

 

「きゃっははははは!! 貴様ら、かつて吾から逃げおおせた妖術師どもか! 今度は逃げぬのか?」

「逃げる先を壊したのは君だろうがーー!!」

「バーサーカー、おしゃべりはそこまでにしておけ。相手は敵だ」

 

 長駆の老人——バーサーカーのマスター、弄月宴が言う。

 

 僕はその老人を睨みつけ、口を開いた。

 

「……なぜ僕の家を襲った?」

「ふん、貴様は生き残ったか……。なぜも何も、邪魔だったからだ。聖杯さえあれば、我が二百年の悲願が叶う……! その障害は排除する。当然だろう? 貴様の家とて、戦いとなれば我が弄月家を滅ぼすつもりだったのだろう。お互い様というやつだ」

 

 しかし——

 

「貴様が伝承保菌者(ゴッズホルダー)だったとはな。この戦いが終われば貴様の死体と宝具も有効に使ってやろう」

「おうおう、弄月さんよ。自分でサーヴァントには敵と喋るな、なんつっといて自分は随分とおしゃべりじゃねえか。そっちはサーヴァント一人、こっちは二人だ。そんなに余裕ぶってていいもんかね?」

「余裕にもなろうというものだ。私の勝ちは確定しているのだから。——バーサーカー、全力でやれ!」

「了解した。お前は小虫なれど、我らの端くれ。ならば鬼の棟梁として力を貸してやらんこともない!」

 

 声を張り上げ、バーサーカーが迫る。

 炎を撒き散らし、顔を喜悦に歪め、おそろしき鬼がやって来る。

 

 まさに怪異。まさに怪物。荒ぶる悪性。

 

 しかし、怪物を倒すのはいつだって英雄だと決まっている——!

 

「おおっと!」

 

 骨の刀による一撃を杖によって華麗にさばくダビデ。

 神の加護厚きその肉体は、神代の獅子と組み合う事すら可能とする。そんな身体能力に裏打ちされた杖術によってダビデとバーサーカーの戦闘は拮抗していた。

 

「なかなかやるではないか人よ!」

「お嬢さんもね。君もなかなかにアビシャグだから、できれば戦いたくないんだけどな〜」

 

 戦闘中でも一切調子を崩さないダビデ。

 

 そこへ、キャスターの支援が飛ぶ。

 紫電が渦を巻いてダビデとバーサーカーを飲み込んだ。地上に顕現した大破壊は、周囲一帯の地形を変えながら二人を襲う。

 キャスターの大規模魔術は対魔力Aを持つダビデに被害を及ぼす事なく、バーサーカーだけを確実に焼いた。

 

「ぬうううう! これは雷か! 嫌なものを思い出させてくれる!」

 

 その雷を受けてなお、バーサーカーは倒れない。

 

「ええい! 『大江山大炎起』!!」

 

 バーサーカーの宝具が発動し、灼熱が放たれる。

 炎がほとばしり、ダビデを焼こうとする。

 

 ダビデはそれを避けていくものの、避けきれず多少焼かれてしまう。

 

「あちち! 全く、乱暴だな」

 

 余裕を崩さずそういうダビデ。

 事実余裕なのだろう。キャスターの支援によって、傷はすぐ治っていく。

 

 そして僕は機を見て密かに矢をつがえる。

 

 全員がバーサーカーたちとの戦いに集中しているこの隙に、弄月宴を狙う。

 

「『十二穿つ——(オデュッセウス——)』」

「おっと、そうはいかないのだなァ!!!」

 

 背後から声。

 次いで、衝撃。

 

「ガァッ!」

「——ッ! マスター!」

 

 密かに一団から外れ、後方に下がっていた僕へ向けて、キャスターが振り向く。

 

「お前は、アサシン!」

「そう、私こそはアサシン!! スプリングヒィィイイイルドッ!! バネ足ジャァック! 元マスターが囚われの身ゆえにテンション控えめで再登場!」

 

 前回より多少感嘆符少なめに自己紹介をするバネ足ジャック。

 察するに、元々のマスターを弄月家に捕らえられ、鞍替えさせられたと言ったところか。

 

 だが僕はそれを気にする余裕もなかった。

 大ぶりのナイフが僕の背中から腹にかけてを貫通しており、尋常ならざる痛みが体を襲っていた。

 バネ足ジャックは僕を拘束しつつ、もう一本ナイフを取り出して僕の首元に当てる。

 

 その上、単純にナイフで刺された痛み以上に、異様な寒気を感じる。

 

「あっ、そのナイフ、魔術的な毒が塗ってあるぞ。今のマスターが言っていたのだ」

 

 聞かれてもいないのにバネ足ジャックがペラペラと喋ってくれる。

 

 実を言うならば、その毒をなんとかする方法はあった。魔術的なものならば、特に。

 しかし、それはある意味で切り札であり、この場面で切るべきかどうかはわからない。

 拘束から逃れられれば、キャスターの魔術で解毒可能だろう。

 

 そう悩む間にも毒が体を蝕み、寒気が増していく。

 

「さて、アサシンよ。そのまま小僧を捉えておけ」

「了解したぞマスタァァァ!」

 

 バネ足ジャックは声を張り上げる。

 

 その直後、僕の耳元に小さな声が聞こえた。

 僕は一瞬目を見開き、そしてましていく寒気に耐えるために歯を食いしばった。

 

「そこの小僧の命が惜しいだろう? 私に令呪を渡せ。そうすれば、小僧の命は助けてやる」

「さっき死体を有効活用だのなんだの言って奴の言葉は説得力が違うな」

「なんとでも言うがいい。貴様らは従うしかないのだから」

 

 クッソ!

 アウレリオは悪態を吐く。自己(セルフ)強制(ギアス)証明(スクロール)の文面が仇となった。

 お互いの命を最優先にすると言う契約が、彼の行動を縛っているのだ。

 

「バーサーカー。神父を拘束しろ」

 

 つまらなさそうな顔になったバーサーカーがアウレリオを拘束した。

 

「さあ、令呪を——」

「——令呪をもって命ずる!」

「なっ!」

 

 僕は声を張り上げる。

 

「アサシン、小僧を殺せ!」

 

 当然弄月宴がバネ足ジャックに指示を出すが——

 

「『断る』!!!!!」

 

 アサシンが叫び、僕の首を刺し貫こうとしたナイフを寸前で止める。

 これはのちに知ったことだが、バネ足ジャックの最初のマスターは弄月は令呪を奪われ、そしてバネ足ジャックはその令呪のうち二画によって弄月への服従を要求されていたらしい。

 

 しかし、令呪の効果は曖昧で長期間にわたるほど効果を落とす。

 低級の都市伝説であるバネ足ジャックにとって、令呪による強制力は強く働く。が、それでも瞬間的な命令に比べればその強制力は弱く、さらに精神汚染によって正気を失っている彼は、命令に逆らいやすかったらしい。

 だが、元のマスターを囚われている状況で逆らうのは得策でないため、元のマスターを気に入っていた彼は機を待ち続けていたという。

 そしてその機会がきた今、僕に密かに『命令に逆らう。令呪を使え』と囁いたのだ。

 

「——僕たちを助けろ!」

 

 僕はバネ足ジャックを信じ、令呪を使った。

 僕の直感が、命の危機はないと判断したからだ。

 直感なんてものを信じるなんて、いよいよ僕もどうかしはじめたなと思いつつ、令呪の効果が発動し、キャスターの転移魔術が一瞬にして発動。

 バネ足ジャックとバーサーカーの手の内から、マスター二人がキャスターのそばに転移した。

 

「キャスター!」

「わかった!」

 

 名前を呼ぶだけで意図を伝えることに成功し、キャスターはこちらに迫ろうとしたアサシンに捕縛魔術をかけ、その場に止める。

 

「アーチャー! 宝具だ!」

「君には改心する権利がある——」

 

 ダビデが宝具を使用し、スリングを回転させ始める。

 

「へー、ダレット、ギメル、ベート」

 

 寛容と警告を示す四発の投石が外れ、その間にもバーサーカーが迫ってくる。

 

「アレフ」

 

 そして最後の一つ。五発目の石が放たれる。

 寛容を示す先の四発とは違い、敵を倒すための必中の一撃。

 音速を超えて放たれたその石は、過たずバーサーカーの急所、頭に直撃した。

 

 改心の権利を示し、それを行使しなかった敵をまつろわす一撃は、バーサーカーの意識を一時的に奪う——!

 

「お前は死ね。『十二穿つ一射(オデュッセウス・スナイプ)』!!」

 

 サーヴァントたちがそれぞれ動きを止め、その隙に僕は矢を放つ。

 

 前方に一つ目の斧を設置し、残り十一の斧を弄月宴の周囲に展開する。

 一つ目の斧の飾り穴を通った矢は、空間歪曲により十一に分裂。その全てが弄月宴の体に突き刺さり、弄月はその場に倒れこんだ。

 

「終わったか……」

 

 僕は気を抜き、場にも一瞬弛緩した空気が流れる。

 

「いや、まだだ!」

 

 油断しかけた僕たちを引き締めるために、キャスターが叫んだ。

 見れば、バーサーカーはまだ消滅していない。

 単独行動を持っている可能性もあるが、それ以上にマスターが生きている可能性の方が高い。

 

「そういやこいつは人食いのバケモンだったな! アーチャー!」

「オーケー!」

 

 ダビデが宝具を発動させるべく魔力をたぎらせるが、それよりも先に宴が動いた。

 

「令呪をもって命じる! バーサーカー! 暴れろ!」

 

 その声に反応して、バーサーカーが意識を取り戻し、爆炎を撒き散らした。

 瞬間的に視界が遮られ、その隙に宴が手足を異様に伸ばし、体を蜘蛛のようにして這い、逃げようとする。

 

「キャスター、頼む!」

「任せてくれ!」

 

 キャスターが魔術を使用し、バーサーカーを強制的に押さえつける。雷の縛鎖に囚われたバーサーカーは、なおも戒めから逃れようと暴れ、事実抜け出しそうになっているが、完全に抜け出すよりも早く動くものがいる。

 

 炎を気にする必要のなくなったダビデが、宝具を発動させる。

 

 幻の香炉が現れ、紫色の煙が立ち込める。

 それが異形となって逃げようとした弄月宴を取り囲んだかと思えば、シナイの山を思わせる雷雲が立ち込める。

 

「神の意にて焼き尽くされるといい。——『燔祭の火焔(サクリファイス)』」

 

 それは神の怒りを示す灼熱。神の意にそぐわぬものを焼き滅ぼす火焔。敵対者への唯一の贈り物。

 

 祭壇が形成され、火が灯る——その瞬間。

 

「『機械仕掛けのバネの脚(スプリングヒィィィィィィィィイイイイイイイイイルド)』ッッッッッ!!!!!!!」

 

 バネ足ジャックが宝具を発動させ、弄月宴のすぐそばまで転移する。

 そして令呪のある右手を切り落とし、再度宝具を使用する。

 

「ありがとう諸君! ではまた会おう!」

 

 そんなことを叫びながら、この場を引っ掻き回したバネ足ジャックは消えていった。

 

 あいつ、僕たちをいいように使いやがって……。

 

 それに遅れて、神の怒りが燃え上がり、弄月宴を灰に変える。

 血の一滴すら残さず弄月宴はこの世から消え去り、そしてそれに遅れて、バーサーカーも消え始めた。

 

「鬼は倒されるが定め……か……」

 

 呟きとともにバーサーカは完全に消滅し、ここにバーサーカー陣営は敗北した。

 

***

 

「さて、この先どうする?」

 

 山から引き返す車の中で、ダビデが切り出す。

 

 戦いにより地形が少し変わり、撒き散らされた炎によって山火事になりかけた山を、鎮火だけして放置し、僕たちは街へと逃げ帰っていた。

 

 理由としては、あれだけ派手な戦いをしてしまった故に、敵を呼び寄せる可能性が高いこと。工房がめちゃくちゃにされてしまい、作り直すより新しく別の拠点を作ったほうがいいことが挙げられる。

 

「私の工房……」

 

 工房が修復不可能になり、すっかり落ち込んでしまったキャスターが俯く。

 

「バーサーカーを倒せただけ良かったと思おう」

 

 そう言って、僕はキャスターの頭を撫でる。

 

「うん……。……じゃなくて! 頭を撫でるのをやめろ! 私は大魔女だぞ!」

 

 一瞬普通に慰められかけたキャスターは、慌てたような怒り出す。

 その様子は小動物が威嚇しているような微笑ましさを感じさせた。

 

「いちゃつくのは後にしとけ」

「い、いちゃ……」

「おう、顔真っ赤にしてんじゃねえよ。こっちが恥ずかしくなるわ」

「赤くなんかなってない!」

 

 キャスターが張り上げた声に、アウレリオはわざとらしく耳を塞ぎ、「はいはい」と受け流す。

 

「……拠点をどうするか、だな。教会に戻るのもありだが……」

 

 監督役が手を回してきている可能性もある。

 そう言って、アウレリオは顎を掻く。

 

「監督役の協力者をぶっ殺しちまったわけだからな。何かされるかも知れん」

「それに、あそこは霊脈でもなんでもない。できれば潤沢に魔力が欲しいから、霊脈か霊地か、それに近い場所がいいんだけど……」

「うーん、僕の家は燃えてなくなってるしなあ……」

 

 僕たちが頭をひねる中、ダビデが口を開く。

 

「弄月家を襲撃しちゃって、拠点を奪っちゃうってのはどうなんだい?」

 

 ダビデがとんでもない案を出してきた。

 

「お前それは……いや、いけるか?」

 

 反射的にアウレリオが否定しようとして、そして思い直す。

 

 そう、これはなかなかに悪くない案なのだ。

 

 あの怪人バネ足ジャックは弄月家を裏切っているし、あそこにサーヴァントはいない。

 サーヴァント二人と僕がいるこのメンバーで攻め込めば、勝てるだろう。

 

 あそこはこの街の中心、■■山、僕の家に次いで四番目にいい霊地であるし、キャスターの御眼鏡にも適うだろう。

 

「いいんじゃないか? 現代の魔術師が私に敵うはずもなし。アーチャーは対魔力A。万が一の時はマスターもいるしね」

 

 キャスターからの賛同もあり、僕たちは町外れにある弄月家の屋敷に向かうことにした。

 

***

 

 弄月家屋敷の制圧は一瞬だった。

 弄月家に残っていたのはわずかな戦闘員だけであり、一族の人間は別の場所に避難していたようだ。

 

 僕たちはその戦闘員を叩きのめし、工房を乗っ取ってキャスターが大改造を施した。

 

 山の拠点に勝るとも劣らない立派な工房が出来上がると、キャスターは満足げに頷いた。

 

「よしよし。なかなかにいい工房ができた!」

「これで拠点問題は解決したね」

 

 僕は言って、近くの椅子に座る。

 時刻は夜。僕たちは全員屋敷のリビングに集まっており、大きな卓を囲んでいた。

 

「さて、またまた相談だ」

 

 アウレリオが切り出す。

 

「まず、教会からのアプローチが来た。どうやら、大事にするつもりはないようで、夜にならないうちに大規模に戦ったことに対する警告だけが来ていた」

 

 教会側については、あまり心配する必要はないかも知れない。

 

「そしてランサーについてだが、消去法でマスターがわかったわけだ」

「ライヒハート、だね」

 

 キャスターが言う。

 アサシンのマスターはおそらく不明枠。

 キャスターのマスターが僕で、アーチャーのマスターがアウレリオ。

 セイバーはアインツベルンだが敗退しており、バーサーカーは弄月宴で同じく敗退。

 ライダーはルバリオンだから、残るマスターはライヒハートのみとなる。

 

「ちょび髭伍長を裏切ったとこがなんで裏切った相手を呼び出してんのかは知らんが、今のところは動きなし……なんだよな?」

 

 目線をキャスターに向けるアウレリオ。

 

「そうだね。使い魔に遠くから観察させてるけど、ライヒハートの屋敷では動きなしだ」

 

 キャスターは答える。工房の作成と並行して、使い魔も飛ばしてもらっていたのだ。

 

「確か小聖杯もあそこが握ってるんだよね?」

 

 ダビデが聞く。僕は頷き、思う。

 

 どうにも、あそこは不気味だ。

 

 裏切った相手をわざわざ召喚し、そして特に不仲というわけでもない。聖杯への願いも不明であるし、いまいち目的がつかめない。

 

「まあ、あそこへの対処はライダーとの協力がどうにかなってからだな」

 

 ランサー陣営の話は終わり、次の話題に移る。

 

「アサシンは、どうする?」

 

 問題のアサシンである。

 放置するには問題で、積極的に討伐に行くには面倒。

 

 絶妙に鬱陶しいのがアサシンである。

 

「放置でいいんじゃないかい?」

 

 ダビデが言う。

 そう言いたくなる気持ちはわかるが、放置した結果が今日の戦いなのだ。

 

「次遭遇したら、確実に殺そう」

 

 キャスターの言葉に全員が頷き、相談は終わった。

 

 そして、翌日。

 

「一日ぶりだなァ!!! 早速だが、私を仲間に入れて欲しい!!!」

「あ、あたしもお願いするっす!」

「帰れ」

 

 僕たちの拠点に、アサシン陣営(馬鹿ども)がやって来た。

 

***

 

「そう邪険にするな。昨日あのヒゲオヤジを倒せたのは私の頑張りがあってこそみたいなところがあったりなかったりするだろう?」

「それ以上にお前に追い詰められたんだが」

「そう褒めるな。照れるだろう」

「褒めてねぇよ」

 

 アウレリオがため息をつく。

 僕たちも頭がいたい。

 

 昨日の敵は今日の友を文字通りに実行しようとするとは。

 

「それで、そっちのチビは?」

「あ、俺、大円寺清子っす! アサシンのマスターやってるっす! 二十歳(はたち)! フリーターっす!」

 

 中学生といっても通用するだろう彼女は、意外なことに僕よりも年上らしい。

 

 そしてこの女性こそが、この戦争最後の参加者のようだ。

 

「あたし皆さんにお礼が言いたくて……」

「礼?」

「そうっす! 皆さんがあのヒゲオヤジを倒してくれなかったら、あたしもアサシンも死んでたと思うっす!」

 

 本当にありがとうございました!

 そう言って、大円寺は頭を下げる。

 

「それでその……あたしたちだけだと確実に生き残れないし……できれば同盟を組んで欲しいな〜……みたいな……」

 

 ダメっすかね?

 大円寺が上目遣いでこちらを見てくる。

 

「あー、まあ、場合によっちゃダメじゃねえけどよ。お前ら、聖杯への願いは?」

「ないっす! いや、本当は一生遊んで暮らせる金とか欲しいっすけど! でも正直生き残ることの方が大事っす!」

 

 あたし死にたくないんで!

 正直にそう言う大円寺。

 

 弄月家に捕まったと言う話だ。何か恐ろしい目にあったのだろう。

 

「……聖杯はいらないのか?」

「めちゃくちゃ欲しいっすけど、命失うくらいならいらないっす!」

「私も特にいらないのだ」

 

 大円寺に追従して、アサシンが言う。

 

「……どうする?」

 

 アウレリオがこちらに聞いて来た。

 

 ……戦力は大いに越したことはない。

 理論で言うなら彼らを迎え入れるべきだろう。

 

 しかしなんというか、心情的に受け入れずらいところがある。

 

 それでも——

 

「まあ、いいんじゃないか?」

 

 やはり、彼らという戦力は大きい。ノータイムで発動し、キャスターの結界すら飛び越える転移宝具は魅力的だ。

 

「キャスターはどう?」

「……マスターが言うなら、いいよ」

「一応聞くが、アーチャーは?」

「僕はいいと思うよ」

 

 サーヴァント二人も賛同し、アウレリオは再び大円寺の方を向く。

 

「よし。じゃあ同盟の話、受けるぜ」

「本当っすか!?」

 

 大円寺が目を輝かせる。

 

「やったー! これで死ななくて済むっす!」

「言っとくけど、ランサーに勝てなかったら全員死ぬと思えよ」

「まじっすか……。アサシン、頑張ってランサー倒してくれっす!」

「任されよ!」

 

 胸を張るアサシン。どうやら、主従関係はかなり良好らしい。

 

「よし、それじゃあ二人増えたが、ライダー陣営と話しに行くぞ」

 

 人数が増えたのでサーヴァントに霊体化してもらい、僕たちは車に乗り込んで出発した。

 

***

 

「五百万よこせ」

 

 ルバリオンの第一声はそれだった。

 

「ランサーと戦うのは正直嫌だ。でもお前たちと戦うのも嫌だ。だから五百万で妥協してやる」

 

 おそらく三十代くらいだろうか。銀髪をオールバックにしたその男は、自らの要求をストレートに告げる。

 

「あーそれは円でか……?」

「何を言っている。ドルに決まっているだろう」

「ジンバブエドルか?」

「アメリカ合衆国ドルだ」

 

 五百万ドル。日本円にして五億六千万円だ。

 

 法外な値段、とも一概には言えない。

 彼は自分の命の危険に、五億六千万円の値段をつけたのだ。

 それを高いと見るか安いと見るか……。

 

「そこの小僧はわかっているようだがな。これは命の値段なのだ。俺の目的は英霊と会うことだが、会ったからと言って死んでもいいわけではない。あのランサーと戦うのは危険だ」

「それにしたってもうちょっと金額を負けられないか?」

「鐚一文負けるつもりはない。俺は今すぐにライダーを自害させて教会に逃げ込むことだってできるんだぞ」

「えっ」

 

 自害させられると聞いてライダーが思わず声を出す。

 

「それで俺たちがお前を殺そうとしたらどうするつもりなんだ?」

「お前の目的は聖杯戦争の犠牲者を減らすことだろう。サーヴァントを失ったマスターを殺すことはお前の主義に反さないのか?」

 

 アウレリオはがしがしと頭を掻いて、ため息をつく。

 

「……分割払いは可能か?」

「分割払いも受け付けよう。ただし手数料は取るぞ」

 

 五百万ドルか……。

 遠い目をし始めたアウレリオ。僕はそれを気の毒だなと思いつつ、話を進める。

 

「それで、同盟は受けてもらえるのか?」

「ああ。聖杯の使用権は放棄する。貴様らにも危害は加えない。自己(セルフ)強制(ギアス)証明(スクロール)も書いてやろう」

 

 それでいいな?

 そう言うルバリオンに、僕たちは頷く。

 

「話はまとまったようだな。これから共に戦う仲間として、よろしく頼む。私はライダー、ニール・オールデン・アームストロング。ルバリオン・バンダーバックのサーヴァントだ」

「ああ、よろしく頼むぜ」

 

 そう言って、アウレリオに右手を差し出すアームストロング。

 五百万ドルショックから復帰したアウレリオは握手に応じた。

 

「さて、メンバーは揃った。相手方が何をしているかわからん以上、早めに叩いたほうがいい。明日、仕掛けるぞ」

 

 アウレリオの言葉に、全員が頷く。

 

 決戦は、明日。

 

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