ソードアート・オンライン〜彼こそが王〜   作:rocar

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ソードアート・オンラインの二次創作です。
不定期更新ですが、よろしくお願いします。


プロローグ

 景色豊かな平原を、四匹のモンスターが歩いていた。

 シルエットは小さな人形であるが、犬のような耳を生やし、鋭利な牙を揃え、片手には物々しい小振りの剣を持っている。

 コボルト、そう言い表すのが正しいだろう。

 四匹のコボルトは行くあてがあるのかないのか、ふらふらと平原を闊歩している。

 

 そのうち最後尾の個体の胸から、ぞぶり、と細く尖った剣が生えた。

 いや、生えたのではない。後ろから突き刺さっているのである。

 コボルトがまるで苦痛を表すかのように唸ると同時、剣はコボルトから引き抜かれた。

 次いでコボルトが後ろを振り返る。その彼の目に映ったのは、自らを押し倒す円盾(ラウンドシールド)であった。

 土煙をあげてコボルトは倒れ込む。起き上がらせまいと、その矮軀を上から押さえつける円盾。

 円盾の主は深みのある金の髪の男であった。

 男は無言のままに盾とは逆の手で持った細剣を掲げる。

 鋒をコボルトの額を向けると、残忍とも言えるほどに彼は滅多刺した。

 

 「ギッ、ギャァ、ガアッ……」

 

 断末魔を最後に、コボルトは光の粒子となって砕け散る。

 この世界では、設定でない以上(・・・・・・・)死体というものは残らない。

 それがモンスターであれ、この世界の住人であれ、自分であれ。

 男が一息つき前を見ると、残りの三匹のコボルトがこちらを睨んでいた。

 仲間を殺された憎悪からか? いや、そうプログラミングされているだけだ。

 すべてがデータである。

 空も、木々も、モンスターも、剣も、盾も、鎧も、そして自分でさえも。

 ひとつだけ、データでないものがあるとすれば。

 それは、自らに宿る意志だけであろう。

 

 「……来い」

 

 低く、彼は呟いた。

 

 ◇◇◇

 

 ―――これはゲームであっても、遊びではない。

 

 そう言ったのは、この美しき世界を作り出し、そして外界からの一切の干渉を閉ざした茅場晶彦である。

 世界の名は『浮遊城アインクラッド』。

 一見して物語にでも出てくるような現実離れした幻想的な光景で溢れる世界だが、異世界でも夢の世界でもなく、むしろ現代の技術を駆使して作り出された仮想空間である。

 この世界が、多くの剣士たちが命賭して戦う舞台なのだ。

 

 もっとも、その剣士らにしても当初命を賭ける予定はなかったであろうが。

 

 浮遊城アインクラッドを作り出し、そしてそれをVRMMORPGというゲームの形で世に広めた茅場晶彦は、間違いなく天才であろう。

 しかし恐ろしいことに、彼はその才の裏で狂気を飼っていた。

 ソードアート・オンライン。彼は開発したゲームをそう名付けた。

 そして彼は、あろうことかソードアート・オンラインの世界を現実の世界から切り離したのである。

 ソードアート・オンラインに参加したプレイヤーを巻き込み、プレイヤーたちに明確な死の条件を与えるという手段で。

 

 本来あってしかるべき脱出方法(ログアウト)はない。

 さらにあらゆる蘇生手段を奪い、アバターの死は自らの死を意味する。

 つまりゲーム内でHP(ヒットポイント)が0になれば、本当に死んでしまうということだ。

 現実世界で他者が強引にプレイヤーを仮想空間へと繋ぐナーヴギアを取り外そうとすれば、プレイヤーの脳は灼かれやはり死亡する。

 

 以上のことを、茅場晶彦は全プレイヤーに通達した。

 そして、次に完全なる絶望に覆われた訳でもないことを説明しだす。

 アインクラッドは全100層からなる浮遊城だ。

 無論プレイヤーらが当時いる場所は第1層。スタート地点である。

 そこからモンスター蔓延る迷宮を突破すると、次の階層へと至ることができる。

 それを繰り返し第100層を突破すれば、即ちゲームをクリアすれば生き残ったプレイヤーは全員無事に現実世界へと戻ることができるのだ。

 

 それを一方的に告げ、幸か不幸かプレイヤーたちを現実世界での姿に戻して茅場晶彦は姿を消した。

 次に訪れたのは、プレイヤーたちの阿鼻叫喚である。

 罵声、絶叫、怒声、悲嘆。

 日本人にしては目立つ金髪を持った男も、沈黙こそすれ内心はその例に漏れなかった。

 

 「……会社になんて言えばいいんだ……?」

 

 呟いた言葉は、状況にそぐわぬ呑気とも言える言葉だった。

 人が予想だにしなかった絶望に呑まれたとき、咄嗟にすがるのはもはや遠い存在となってしまった日常なのか。

 

 彼、(たちばな) 義仲(よしなか)はこの時、ただの会社員であった。

 そう、今は。

 彼は知らない。

 『シヴァ』の名で多くの仲間を引き連れ、そしていつしか『王』と呼ばれるようになるなどと。

 


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