ソードアート・オンライン〜彼こそが王〜   作:rocar

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第3話 離別

 「あれが素材を落とすモンスターか?」

 「ああ。名前はラージペネント」

 

 シヴァとディアベルの二人は、ホルンカの森内部にて息を潜めていた。

 視線の先にいるのは、奇形の植物のようなモンスター。

 頭部には毒々しい花が咲き、太い幹から左右に生える蔦はあたかも腕のよう。根の部分はどうやら足の機能を持っているらしく、それでモンスターは歩いていた。

 なにより目を引くのは、幹の部分にあるとってつけたような口である。

 花のバケモノ。夜道で遭遇すれば真っ先に逃げ出すであろう醜いモンスター。

 それが、今回の獲物であるラージペネントだった。

 

 「なんというか………グロテスク?」

 「同感だ。俺も慣れるまでおっかなびっくり戦っていたよ」

 

 あの口が迫ってくるとそれはもう、と冗談めかして怖がらせるようにディアベルはつけ加える。

 シヴァはその光景を鮮明に想像し、思わず眉をひそめた。

 

 「あ、あいつらはだいたいが花を頭につけてるが、ごく稀に『実』をつけていることがあるんだ」

 「実?」

 「そう、赤い実。それを誤って割ってしまうと、花付きのラージペネントがわんさか集まってくる。だから実付きには極力手を出さないでくれ」

 「ああ、わかった」

 

 心得たという意思表示にシヴァが頷く。

 それからシヴァは、隠れていた木陰から身を乗り出した。

 盾を構えながら、ゆっくりと身近なラージペネントへと歩いていく。

 後ろではディアベルが無言でこちらを見守っていた。お手並み拝見、ということか。

 本来、これは自分一人で行うべきことだ。文句があろうはずもない。

 

 ぴくり、とラージペネントが反応した。

 シヴァの方へと振り返り、醜い大口を開けて威嚇する。

 

 「シュウウウウウウ!!」

 

 不快な声をあげてラージペネントは敵意を露にした。

 バレた。その事実を受け止め、だが最初の頃のように焦りはしない。

 シヴァは索敵スキルを重点的に上げていた。隠密スキルの熟練度が足らず接近が見つかったとて、想定内。

 大事なのは観察と、次の一手の選択だ。

 逃走を惜しまない覚悟で、闘争する。

 

 「シュアアアアアア!」

 「………!」

 

 ラージペネントが攻撃を仕掛けてくる。

 どうやらこの種のモンスターは移動速度が遅いのに比べて、攻撃速度は速いようだ。

 腕代わりの蔦を、シヴァへと振るう。

 風切り音を伴って迫ったそれは、しかし盾を斬り裂くことはできずに弾かれた。

 もう一本の蔦も続いて振るうが、これもやはり盾によって防がれる。

 両方の蔦を振るったラージペネントに訪れる一瞬の硬直。それをシヴァが見逃すはずもない。

 盾の防御の内側でソードスキルの構えを取り、剣に光を纏わせる。

 

 「シッ!」

 

 短い声と共に、シヴァはソードスキル・リニアーをラージペネントへと突き込んだ。

 

 「キシャアアアアアア!!?」

 「……ふん」

 

 手応えあり。

 放ったソードスキルは確実にその仕事をこなし、花の怪物のHPを赤く彩らせた。

 悶えるラージペネントをよそに、彼は続いて連撃を加える。

 ただの通常攻撃だが、止めを刺すには充分だ。

 ラージペネントはまたもや悲鳴をあげ、そして硬直してから無数のポリゴン片へと姿を変えた。

 すぐさま自らに振り込まれる経験値と、少ないcol()。それを視界の端で確認しながら、シヴァはディアベルの方を向いた。

 

 「や、見事だ。君は盾の扱い方が上手いね」

 「攻略組リーダー志望にそう評価されるとは驚きだ」

 「ハハ、嘘じゃないよ。……よし、俺も負けてらんないな」

 

 ディアベルがそう言うと、一足に別のラージペネントへと距離を詰める。

 ラージペネントは突然の外敵の襲来にシステムが追いついていないのか、ほんの一瞬だけ動きを止める。

 その間ディアベルは片手剣に青い光を纏わせ、ソードスキルを叩き込んだ。

 

 「シャアアアアアア……」

 

 一撃であった。

 シヴァが分析と防御で隙を伺う後の先(カウンター)のスタイルであれば、ディアベルのそれは高い攻撃力からの先手必勝だ。

 砕け散る光の粒子を背景に、ディアベルが挑発するようにニヤリと笑った。

 ―――いいだろう。

 

 「シッッ!」

 

 柄にもなく、シヴァはラージペネントへと奇襲を仕掛ける。

 ソードスキルと連撃を組み合わせ、瞬く間に消滅させた。

 

 「おおっ!」

 

 ディアベルがまた別のラージペネントを一撃で倒す。

 シヴァとディアベル目が合った。

 

 シヴァが倒す。

 ディアベルが倒す。

 シヴァが倒す。

 ディアベルが倒す。

 シヴァが―――

 

 二人はあたかも競い合うように、ラージペネントを狩り続けた。

 気がつけば―――……

 

 「いなくなった、なぁ」

 「そうだな。……あ、いつの間にかレベルアップしてる」

 

 森にひしめいていたラージペネントはその姿を消し、シヴァはレベルアップまで果たしていた。

 

 

 「そういえば、そのドロップする素材の名前は?」

 「あ、そうだそうだ。言い忘れてたか。『食人花の蔦』というアイテムでね。五、六体に一体ドロップするちょっとしたレアアイテムなんだが……」

 

 そう言いながらディアベルがメニューを開いて戦果を確認する。

 シヴァもそれに習ってメニューのアイテム欄を確認した。

 

 「……あったぞ。27個ある」

 「俺はちょうど30だ。確か生産のための数は60必要だから……」

 

 残り三つか、シヴァの呟きに二人は苦笑した。

 これでは新たにラージペネントを探すか、ポップするのを待つしかない。

 

 ゲームでは、よくあることだった。

 

 ◇◇◇

 

 それからひとしきりラージペネントを狩り終わり、二人は街へと戻った。

 一目散に鍛冶屋へと駆け込み、必要分のColと素材をNPCに渡して細剣の作成を依頼する。

 

 「ほら、完成したぜ」

 

 NPCのNPCらしからぬ流暢な言葉と共に、新たな細剣がシヴァへと渡された。

 

 「おお……」

 

 感嘆の声を上げてシヴァは細剣を見る。

 細剣特有の鋭い刀身は薄く鮮やかに緑がかり、柄の部分にはまるで巻き付くように植物の蔦のレリーフが精緻に施されていた。

 スモールレイピアとは違う確かな手応えと重さは、武器のランクと要求度を顕著に物語っている。

 武器の銘は『フイユサーブル』。

 彼はそれをしっかりと鞘に納めた。

 

 「おめでとう、シヴァ」

 「ありがとう。お前のおかげだ」

 

 シヴァはディアベルへと深く礼をする。

 ディアベルはなんでもないと言うように「頭を上げてくれ」と言った。

 

 「少し……広場に行かないか、シヴァ」

 「……? ああ、いいが……」

 

 二人は鍛冶屋を出て、広場に向かい歩き出す。

 空はすっかり夕暮れ模様だ。

 

 広場に着くと、ディアベルはシヴァへと向き直る。

 その表情に笑顔はなく、真剣な面持ちだった。

 

 「俺は攻略組のリーダーになりたいと言ったけど、実は実現までもうすぐなんだ」

 「……! そう、なのか」

 「ああ。こうやって実力者のプレイヤーを助けて周り、基盤はしっかりと作ってある」

 

 そして、とディアベルは続けた。

 

 「三日後、俺はトールバーナで第1層攻略会議を主催する」

 「……第1層、攻略……!?」

 「ああ。俺たちのパーティーは迷宮区を探索し、次の層へと繋がるボスの間まで発見した。あと一歩で、俺たちはアインクラッド最下層を脱出できるんだ」

 

 それは本来来るべき未来のはずだった。だがシヴァには、どこか現実感なく感じられた。

 

 「第1層をクリアできれば、攻略組以外のプレイヤーも積極的にゲームクリアを目指すだろう。『ゲームクリアは不可能じゃない』、希望が現れる訳だからな」

 

 だからこそ敗ける訳にはいかない。ディアベルはそう語った。

 シヴァは納得する。

 この男の『なりたい自分』とは『ディアベル』の名に込められた何かで、

 『なるべき自分』とは攻略組のリーダーという、全プレイヤーの希望なのだ。

 

 「俺の見立てでは……約50人集まるはずだ。そこでどうだろう、君もそれの一人にならないか?」

 「俺、が……?」

 「そうだ。君のレベルと技術は、決して攻略組に劣るものではない。きっと、共に戦い皆に希望をもたらすことができる存在になれるはずだ」

 

 ディアベルの視線がシヴァを射抜いた。

 シヴァは己の腰にある細剣を見る。

 

 「強制はしない。恩も感じなくていい。命が掛かっているんだ、当たり前だ。俺は君の意思を尊重する」

 「俺、は………」

 

 シヴァは一度視線を切り、もう一度ディアベルを見た。

 歯を食いしばり、固く拳を握りしめる。

 

 「すま、ない。ディアベル……、俺は、どうしようもない臆病な奴なんだ……。俺は、第1層攻略には、参加できない……」

 「…………そうか」

 

 息をもらすように、ディアベルは呟いた。

 その表情は、残念そうに笑っている。

 自分の臆病さをシヴァは心の底から呪った。

 ディアベルは一度瞼を閉じると、一転、なんでもないことのように笑う。

 

 「そんな顔をするなシヴァ! 君が攻略に参加しないからと言って、今日のことが消える訳じゃない。俺と君はもう友達だ!」

 「友達……?」

 「ん? 違うのかい?」

 

 朗らかな笑顔。シヴァに熱いものが込み上げてきた。

 この騎士は、自分を友達と言ってくれたのだ。

 ならば。

 シヴァはしっかりとディアベルを見据え、言った。

 

 「今は、無理でも。絶対にいつか、お前を支えるプレイヤーになってみせる」

 「…………ふっ」

 

 ディアベルが微笑み、拳を前に出す。

 シヴァはその意を汲み、ディアベルの拳に自分の拳を合わせた。

 

 「勝利(クリア)を、信じている。あなたなら、できるはずだ」

 「……ああ。第2層で待ってる」

 

 拳を離し、二人は別々の方角歩き出す。

 太陽なき夕日は、平等に二人を照らしていた。

 

 シヴァは、決意を新たにする。

 『なりたい自分』は、ディアベルのような希望である。

 『なるべき自分』は、希望である彼を支える剣士であった。

 

 

 

 

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