ソードアート・オンライン〜彼こそが王〜   作:rocar

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 やっとこさ、ヒロインの登場です。


第4話 眠れる森の美女?

 「ガアァァァァ!!」

 「おおおおお!」

 

 コボルトの斧とシヴァの細剣が激突し、斧を跳ね除けて細剣がコボルトを貫いた。

 コボルトのHPは全損し、光の粒子となってこの世界から消え失せる。

 

 ディアベルと別れてから三日目。

 今頃ディアベルは、第一層攻略会議を行っているのだろう。

 第2層で待つと、ディアベルは言ってくれた。

 シヴァにとって『なるべき自分』は、そんな彼を支えるプレイヤーだ。

 ならば、シヴァは実力を上げなければならない。

 

 夜通し戦った結果、現在のレベルは12。

 攻略組に匹敵するものであったが、シヴァはその程度で満足しない。いざとなればディアベルを体を貼って守ることができるほど、強くならなければ。

 これが仮に、『忠誠心』というものであれば、思いの外悪い気分ではなかった。

 ディアベルの助力を得て作成した武器、『フイユサーブル』も手に馴染んできたころだ。

 強化も一度行い、さらにその攻撃力を増している。

 着実にシヴァは、強くなっていた。

 

 「と、そろそろ休憩か」

 

 疲労が溜まりにくい世界とはいえ、疲労がないわけではない。

 限界を予測できない点で言えば、この世界の方が遥かに難儀である。こまめな休憩は必須であった。

 

 比較的モンスターが出現しなさそうな場所を選び、腰を下ろす。

 索敵スキルは重点的に上げている。うたた寝でもしなければ、モンスターの接近に気づけないということはまずない。

 

 指をくいと動かし、メニューを開いて手の内に固焼きパンを出現させる。

 はぐり。

 豪快に噛みつき、喰いちぎる。

 

 「これほど固くしなくていいだろう、茅場晶彦……」

 

 いつもながらに固いパンに不平を漏らす。

 どこかで聞いたことがあるが、なにやらNPCのクエストでクリームを手に入れられるものがあるらしい。

 もっぱらパンにそれを塗って食べるのだそうな。

 詳しく聞いておけばよかった、と今更ながらにシヴァは後悔した。

 

 「さて、と」

 

 残りのパンを食べ終え、彼は腰を上げた。土埃などつくはずもないのに、つい癖でズボンを叩く。

 レベル上げを再開しようと、再びシヴァは木々の生い茂る森の中へと入っていった。

 

 ◇◇◇

 

 「ギャッ!?」

 「ギィ!」

 「グゥッ!?」

 

 斬る。殴る。貫く。

 そのようにして、コボルトの群れは制圧された。

 シヴァは細剣を鞘に戻し、また歩き始める。

 度々現れるモンスターをすべてポリゴン片に変えながら、さらに森の奥へ。

 枝を手で払いながら進んでいくと、開けた場所に出た。

 

 「…………」

 

 そこは、幻想的な場所であった。

 木が少ないからか光が集まったようにあたりを照らし、地面には色とりどりの花が咲き乱れている。

 景色を色付ける蝶は気ままに舞い、中央より少しずれた場所に一本だけ木が立っていた。

 

 「…………!」

 

 その木を見て、驚く。

 木を背もたれに座っている人影があったからだ。

 NPCだろうか? いや、カーソル表示からしてプレイヤーだ。

 花畑の中に入り、シヴァはプレイヤーへと近づく。

 そのプレイヤーは、女だった。

 

 茶髪の毛先の別れたボブヘアーに、白い肌。

 睫毛が長い切れ長の目。

 鼻筋はすっきりと通って、顎は小さく尖り、中性的に整っている。

 背は女性にしては高く、不思議な大人びた雰囲気があった。

 

 その女プレイヤーは、あろうことか木に寄りかかり瞼を閉じて、頭をガクリと下ろし、つまりは眠っていた。

 一応は警戒しているつもりなのか、右手には短剣が握られている。

 装備も短剣使いの特徴である敏捷性を重視した軽装。

 

 「……馬鹿なのか?」

 

 シヴァが呟くのも無理はない。

 軽装ならなおさら、こんなところで眠っていてはいけないのだ。モンスターに襲われれば、ひとたまりもない。

 ―――というかここがどこかわかっているのか。圏外だぞ。正気の沙汰じゃない。

 そう思いながら、シヴァは静かに寝息を立てる彼女へと手を伸ばす。

 

 「おい、起きろ。ここは―――」

 

 ヒュン、と。

 シヴァの頬のすぐ右を、白刃が通り抜けた。

 目の前には、女プレイヤーの赤に近い色の瞳。

 大の男に恐れすら抱かせる猛獣のような眼差しをしていた彼女は、目の前にいるのがプレイヤーだとわかるとすぐに表情を緩めた。

 

 「………プレイヤーだったか。すまないね、モンスターが襲ってきたのかと思ったよ」

 「…………」

 

 女プレイヤーが立ち上がり、片手でくるりと短剣を回して小振りの鞘に叩き込む。

 対してシヴァは、右頬を恐る恐る指でなぞった。

 久しぶりに感じる、死の横切る感覚であった。

 

 「カーソルは……グリーンか。私に何もしていないようだね」

 「……当たり前だ。圏外で寝ている奴がいれば、誰だって起こしに来る」

 「そうかい、ありがとう。君の善意、ありがたく受け取るよ」

 

 まるで物語の登場人物のような、奇妙な喋り方をする女だった。

 普通ならば首を傾げている頃だろうが、彼女のどこかミステリアスな雰囲気と似合っていて、妙に様になっている。

 「とにかく」とシヴァはため息とともに言った。

 

 「起きたならそれでいい」

 

 そう言って、彼はまた木々の中へと戻っていく。

 正直、もう関わりたくはなかった。

 いくら容姿が整っているからと言って、まったく初対面の人間に勘違いで短剣を刺しにくる女など、だれが関わりたいと思うだろうか。

 

 ざくざく。てくてく。

 ざくざく。てくてく。

 足音が、二つ。

 

 「なぜついてくる!?」

 

 勢いよく振り返ったシヴァの目に映ったのは、短剣をくるくる回しながら歩く女だった。

 女は自らを示すように、左手を自身の豊かな胸元に置いた。

 

 「私はこう見えても、恩を大切にするんだ」

 「恩になっていないだろうが! 自分で起きたんだから!」

 「じゃあ、お詫びかな。いきなり短剣を向けてしまったお詫び」

 

 シヴァはつとめて冷静になるよう、深呼吸をする。

 一度目を閉じ、また彼女に目を向けた。

 

 「じゃあそのお詫びに、ひとつだけ、質問に答えろ」

 「ん、なんでも答えよう」

 「なぜあんな場所で寝ていた」

 「安全地帯だったからね」

 「安全性は保証されていない。寝るなら寝るで、街まで戻ればいいじゃないか」

 「レベル上げの効率が悪くなるだろ?」

 「…………」

 

 当然のことのように言い放つ女に、シヴァは言葉を失う。

 頭痛を抑えるようにこめかみに指を当て、「いつからこの森にいるんだ?」と聞いた。

 女は形のいい顎に細い指を当てて、考える素振りを見せる。

 

 「三……四日くらいかな?」

 「おい」

 

 衝撃的な答えにシヴァが思わずつっこむ。

 何かな? とでも言いたげな表情をする女に、シヴァが諦めたように背を向けた。

 

 「君は死に急いでいる。こんな状況だ、正常な思考から外れることもあるかも知れないが、死ぬのは駄目だ。誰かとパーティーを組むといい。死に急ぐことはなくなる」

 

 それだけ言って、彼は立ち去ろうとする。

 助言はした。この後どういう行動をとるのかは、彼女次第だ。

 だが―――

 

 ピコン、とメニューに知らせが届く。

 見れば、それは『パーティー申請』。

 反射的に背後を振り返った。

 そこには短剣をくるくる回しながら、にやりと笑っている女。

 

 「君が言ったんじゃないか。パーティーを組めって」

 「……俺と組めという訳じゃない」

 「私はソロだ。君もソロだ。『ぼっち』同士にはぴったりだろ?」

 「………」

 

 シヴァが一度女から視線を切り、メニューを見る。

 確かにパーティーを組めと言ったのは自分だ。

 ソロではいずれ限界が来るのもわかっている。

 彼は小さく呻き、ついに承諾のボタンを押した。

 パーティー結成の証に、自身の視界の端に映るHPバーが、もう一本追加される。

 バーの横に記されたプレイヤー名は、『ジャズ』。

 

 「………言っておくが、俺はぼっちじゃない」

 「へぇ、誰かと組んだことが?」

 「パーティーじゃないが、一緒に戦ったプレイヤーがいる」

 「でも今は一人……フラれたのか」

 「違う」

 

 慰めるような表情をとる女に、シヴァは何度かぶりの苛立ちを覚える。

 そんな彼を見てくすくす笑う女。

 

 「冗談冗談。じゃあよろしく、シヴァ」

 「………………ああ」

 

 苦々しく、しかしシヴァは確かに頷いた。

 

 

 

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