ソードアート・オンライン〜彼こそが王〜   作:rocar

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 やっと第一層突破です。

 ですが…………。





第5話 死別

 「スイッチ!」

 「オーケー」

 

 大型のコボルトの片手斧を盾で弾き飛ばし、シヴァはジャズと入れ替わる。

 ジャズは瞬く間にコボルトの懐に入ると、短剣のソードスキルを容赦なく放つ。

 激しい断末魔と共に、大型のコボルトは砕け散った。

 

 シヴァとジャズが暫定的にパーティーを組んでから一日。

 今頃ディアベルを筆頭とした攻略組が第一層ボスへと立ち向かっているはずだ。

 彼らの成功を祈ると共に、シヴァはジャズとレベル上げを行っていた。

 

 「いや、パーティーっていうのもいいね。今まで相手できなかったモンスターとも戦える」

 「………そうだな」

 

 認めるのも癪だったが、ジャズの言葉は真実であった。

 シヴァは攻略組と遜色ない実力を持ち、ジャズは無茶無謀(本人は画期的だと言っている)なレベル上げでステータスが高い。

 二人で獲得経験値が分かれるが、挑めるようになった敵と消耗を抑えられる利点に比べれば安いものだった。

 

 「……さて、昨日は街に戻ってぐっすり眠ったし、今日は徹夜―――」

 「阿呆か!」

 

 シヴァがジャズをチョップで黙らせる。

 この世界の規律たるカーディナルは、彼をオレンジプレイヤーにはしなかった。

 

 「なにするんだ……。おかしいことは何も……」

 「何のためにお前とパーティーを組むことになったと思ってる!?」

 

 シヴァは深くため息をつく。

 ―――どうもこの女と一緒にいれば、調子が狂う。

 額に手を置き、「それに」と言った。

 

 「今日は攻略組が第一層のボスの討伐を行っている。そろそろ、勝敗がつくころだろう」

 「………そうなの?」

 「数日フィールドに出っぱなしだから知らんのだ」

 

 ジャズ意外にも深刻そうな表情をして、「さすがに流れに乗り遅れるのは……」などぶつぶつ呟いている。

 レベルアップしか考えないからそうなるのだ。シヴァは心の中で言ってやった。

 

 「でも……万が一負けるということはないのかい? ほら、最初のボスだし」

 「彼らが負けるわけないだろう」

 

 興味本位で問うジャズに、シヴァは何の確信があるのかはっきりと言う。

 

 「彼らは、『騎士』に率いられた猛者達だぞ」

 

 ◇◇◇

 

 速報! 第一層が攻略される!

 

 その知らせは、街中でビラをばら撒くフードのプレイヤーにより広まった。

 ビラを手に取り、文字を見たプレイヤーたちは歓喜の声を上げる。

 それまで重苦しい雰囲気が漂っていた始まりの街に、希望が宿った瞬間であった。

 

 「ディアベル、やったのか……!」

 「へぇ、君の言う通りだったね。攻略組の被害も軽微、って書いてある」

 

 表情に歓喜の色を宿すのは、シヴァも例に漏れない。

 彼はビラ仕舞うと、一目散に転移門へと駆け出した。

 敏捷性がシヴァよりも高いジャズが、ひょいと追いついてくる。

 

 「おいおい、待ってくれよ」

 「すまないが、俺は第二層……いや、攻略組に用があるんだ。お前も来るか?」

 「いや、まだ遠慮しておくよ。私は美味しいレストランでも探しておこうかな」

 

 走りながら会話し、あっという間に転移門、そして第二層へ。

 

 「………!」

 「ここが、第二層………」

 

 始まりの街とは街並みの違う主街区に、本当に第二層へと上がってきたのだという感覚が押し寄せる。

 自分たちが転移門から最初に転移してきた訳ではないようで、周りには既に何人ものプレイヤーがあたりを散策していた。

 

 「じゃあ、とりあえずここで」

 「ああ」

 

 ジャズと一旦別れ、自らは攻略組のもとへと走り出す。

 

 「すまない、そこの君。攻略組がどこにいるか知らないか?」

 「え、あ、私ですかっ!? あ、えーと、そういえば強そうな人たちは向こうにいたような………」

 「ありがとう」

 

 小柄な茶髪の少女へと話を聞き、少女が指さした方向は、西。

 シヴァは礼を言って再び走り出した。

 しばらく走って目的地についたのだろう、ちらほらと第一層基準で高いスペックの武具を身につけるプレイヤーが見えてきた。

 

 「ディアベルはどこだ……?」

 

 周りを見渡し、青髪の男を探すが、姿はどこにも見当たらない。

 それに………。

 ―――どういうことだ……。皆、表情が優れていない。

 シヴァの目に映る攻略組のプレイヤーは、誰も彼も、重苦しい雰囲気を漂わせていた。

 ゲームクリアの第一歩を踏み出したというのに、どういうことだろう。

 

 「……仕方ない、聞くか」

 

 ふいと視線を漂わせて、目に止まったプレイヤーへと近づく。

 サボテンのようなトゲトゲとした茶髪が印象的の男だった。

 

 「すまない」

 「……お? なんや、ワイか? 見ぃひん顔やな」

 「俺はシヴァだ」

 「ほう。ワイはキバオウ。よろしゅう頼むわ」

 「ああ、よろしく」

 「……で、なんや。なんか用件あるんやろ? ジブン」

 「そうだ。『ディアベル』というプレイヤーはどこにいる? 攻略組のリーダーをしていた筈だ。知っているだろう」

 「…………!」

 

 キバオウが驚愕の表情をとる。どうしたと言うのだろうか?

 彼は一旦瞼を閉じると、努めて感情を押し殺すような顔で言った。

 

 「なんや……アンタ、ディアベルはんの知り合いかいな」

 「ああ。武器の作成で助けてもらった」

 「……そうかい。でも、残念やったな。ディアベルはんは………」

 

 キバオウが、静かに呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……死んでしまいはったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………………馬鹿な」

 

 出てきた言葉は、それだけだった。

 シヴァの言葉を否定するように、キバオウが頭を左右に振る。

 

 「う、嘘、だろう………?」

 「………ホンマや。残念ながらな。黒鉄宮に確認しにいってもええ……」

 「……何故……。彼のレベルが、足りなかったのか? 装備が甘かったのか? それとも、誰かの囮に……?」

 「……どれもちゃう。ディアベルはんは強かった。指揮も完璧と言ってええくらいやった」

 「なら、どうして……」

 

 キバオウは歯を食いしばり、拳を握りしめて言う。

 

 「一層のボスは四本のHPゲージが最後の一本になると、武器を曲刀の『タルワール』に持ち替える、そういう情報やった。ベータテスターからの情報や、実際ベータテストの時はそうやったんやろうな」

 

 「やが」キバオウはそこで一度切る。

 

 「実際に持ち替えたのはタルワールやなく……カタナの『野太刀』やった」

 「………っ」

 「ソードスキルは武器種によって大幅に異なるのはあんさんも知っとるやろ? 曲刀のソードスキルが来ると思っていたディアベルはんが、よもや見たこともないカタナのソードスキルになんていきなり対処できるはずがない。そんで、不意を突かれて、………お終いや」

 

 シヴァは攻略組のプレイヤーたちの面持ちの理由を思い知った。

 損害は軽微、ビラにはそう書かれていた。

 確かに、第一層ボスの攻略が一人だけの犠牲で済んだことは、客観的に見れば軽微と言えなくもないだろう。

 

 何が軽微なものか……!

 

 失った代償はあまりにも大きい。

 第一層を通して全プレイヤーは希望を示され、攻略組はリーダーを失った。

 どうしてこれが、『軽微』と言えよう。

 

 「俺は……彼に攻略へ参加しないかと誘われていた。臆病な俺は、恐怖心が勝り……断ってしまった。……もし、俺が攻略へ参加していたのなら、彼は死なずに済んだのか……?」

 

 もし、は何の意味もなさない。どう議論したとて、死人が生き返ることはない。

 そんなことは、わかっていた。

 だが、どうしても聞かずにいられなかったのだ。

 

 「………いや、変わらんかったやろうな。あんはんがいても、他の誰がいても……。誰も、反応できんかった」

 

 変えられたとすれば、とキバオウは噛み締めるように呟く。

 

 「ベータテスター、いや………『ビーター』だけや」

 「ビー……ター……?」

 「せや。ベータテスターのチーターやから、ビーター。奴はベータテスト時、誰も上ったことのない階層まで上ったと、自分から言うとる。ワイは、奴がボスが取り出した野太刀を見ていち早く反応してたのを見た。奴は上の階層でカタナスキルを持つモンスターと散々戦ってきたから、そして『ボスがカタナへと持ち替える可能性』を考えてたから、唯一反応できたんや」

 

 「やからまぁ、その可能性を言っとれば話は違ったかもな」キバオウが悲しげに呟いた。

 

 「そのビーターはその後、どうしたんだ……?」

 「それが滅茶苦茶強くてな。奴を中心として攻略組は戦い直した。プレイヤーの中心にいた奴はボスに止めを刺し、LAを獲得して先にこの階層をアクティベートしたんや」

 

 二人の間に、しばらく会話はなかった。

 何分か経って、シヴァが口を開く。

 

 「………そのビーターというプレイヤーは、どんな奴なんだ?」

 「名前は確か………『キリト』やったか。黒っぽい装備をした、片手剣使い(ソードマン)や」

 「………すまなかった、ありがとう」

 

 シヴァはキバオウにそれだけ告げると、その場を後にした。

 

 頭の中で何度も、『キリト』という名前を反復して。

 

 

 

 

 

 

 




 これから重苦しい流れがしばらく続きます。

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