ソードアート・オンライン〜彼こそが王〜   作:rocar

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第6話 鼠のアルゴ

 強引な体勢から構えを取り、無理やりソードスキルを発動させる。

 細剣は光を帯び、牛のモンスターの角を砕いて脳天を貫き抉る。

 ポリゴン片へと変わって砕け散るモンスター。

 回復系統のアイテムは残り少ない。HPは既にイエローゾーンに入った。

 空は暗黒。夜である。

 現実世界とは違い夜間であってもそれなりの視界は保てているが、それでも昼の明瞭さには劣る。

 本来は圏内まで退くか、フィールドの安全地帯を探しそこで夜を明かすべきだった。

 

 ―――知ったことか。

 

 強くならなければならない。それがこの世界の条件だ。

 あれだけ強く、賢明であった騎士でさえ、この世界の脅威を前に力尽きたのである。

 彼を突き動かしていたのは、どす黒い何かであった。

 恐怖とも言えよう。絶望とも言えよう。悲憤とも言えよう。

 そして、復讐心とも言えるだろう。

 誰に対してか。何に対してか。

 彼は―――………

 

 「おい、シヴァ!」

 

 かけられた声に、ぼんやりとしていた意識が覚醒する。

 肩を引かれるままに振り向けば、赤い瞳と目が合った。

 

 「………ジャズか」

 「探したよ、こんな時間まで何してる」

 「レベル上げだ。お前ならわかるだろう」

 

 平然と言うシヴァにジャズは驚愕した。

 ついこの前まで自分の無茶無謀を叱っていた彼と同じとは思えない。

 それにシヴァの瞳。淀んでいる、というのが正直な感想だった。

 

 「私でもこんな夜中まで戦うことはしない。戦うなら早朝だ」

 「そうか。なら今日は街へ帰ろう」

 

 そう言うと、シヴァはジャズの手を振り払って街へ戻ろうとする。

 そこで初めて彼は気づいた。街からここに至るまでの記憶がないのだ。

 

 「………街ならこっちだよ」

 「そうか、すまないな」

 

 シヴァがふらりとジャズの背を追う。

 ジャズが歩く速さを落としたのか、いつしか彼と彼女はならんだ。

 視線は前方から変えないままに、ぽつりとシヴァが言った。

 

 「……俺はもう君の邪魔はしない。好きにレベル上げをするといい。パーティーも組むなら他のプレイヤーと組め」

 「……………」

 

 ジャズは訝しげな視線をシヴァに送る。シヴァは相変わらず、ぼぅっと前を見つめたままだった。

 

 「パーティーを組めと言ったのは君だ。自分の言葉くらい責任を持ったらどうだい?」

 「責任……。俺はそれを果たすべきか?」

 「多分ね」

 「なら君の言う通り、パーティーは組んだままにしよう」

 

 あまりの主体性のなさに、ジャズは奇妙な感覚を覚える。

 彼は自分にパーティーを組めと言った。それは間違いなく、自分の命を案じてくれていたからだ。

 それが今はどうだろう。彼は自分の命すら投げ出そうとしている。自暴自棄だ。

 視線を困惑のものに変えて、シヴァを瞳に映す。

 

 「一体………なにがあった?」

 

 ジャズの言葉はシヴァに届いたのか、初めてシヴァはジャズを向いた。

 そしてあまりにも小さな声で、言ったのだ。

 

 「『なるべき自分』を、失った」

 

 ◇◇◇

 

 シヴァは強引に連れられるようにして、ジャズがとった宿に泊まることになった。

 部屋はベッドが一つ、丸テーブルが一つ、椅子が二つ。

 豪華とは言えなかったが、過ごしやすい落ち着いた部屋だった。

 

 「いいのか? 同じ部屋に泊まらせて」

 「ハラスメント防止コードがある。それに今の君の様子を見ていたら、心配はないよ」

 「そうか。嫌になったら言ってくれ、別の部屋をとる」

 「どこももう埋まってるよ」

 「………そうか」

 

 そう言うと、シヴァは立ち上がりドアノブへと手をかけた。

 

 「どこへ行く気だい?」

 「外の空気を吸いに」

 「さっきまでさんざん吸ってただろ?」

 「………大丈夫だ。街からは出ない」

 

 言ったっきり、ジャズの制止も聞かず部屋を出ていってしまった。

 ジャズは追いかけようとして、思い留まる。

 何も追いかける理由はないはずだ。そもそも、ここまで世話を焼く理由も。

 ジャズは不機嫌にベッドへと飛び込んだ。

 

 ◇◇◇

 

 街の大通りとは外れた、薄暗い路地裏。そこをシヴァは歩いていた。

 目的は場所ではない。人物であった。

 

 「……お前が、『鼠』か?」

 「おや、こんな時間に珍しいナ。客カ?」

 

 シヴァの前方を歩いていたローブのプレイヤーが振り返る。

 フードを目深に被っていて顔はよくわからないが、声から女であることはわかった。

 

 「ああ、客だ。正確な情報を提供する情報屋を営むプレイヤーがいると聞いた。『鼠のアルゴ』という名前で」

 「当たりダ。だが、オレッチの情報は高いゼ?」

 「構わない。俺の有り金分なら、払える」

 「ソウ生真面目に返されると調子狂うナ……。デ? 何の情報が欲しイ?」

 

 シヴァはアルゴをしっかりと見据え、はっきりと言った。

 

 「ビーター、キリトというプレイヤーの情報だ」

 「……………」

 

 アルゴの表情が変わった気がした。気がした、というのはフードの下の表情が読み取れないからだ。

 

 「……どうした? お前ほどの情報屋なら既に知っているだろう。ビーターのことを」

 「………アア」

 「幾らだ?」

 「……悪いガ、ソイツは教えらんないし売れないナ。アンタに教えちゃ、何をしでかすかわからなイ」

 「………………」

 「相当ヤバイ目をしてるヨ、アンタ」

 

 彼の行動は速かった。

 高いステータスに任せ一瞬で距離を詰め、アルゴのローブを掴んで壁際へと追い込む。

 目を合わせ、もう一度言い聞かせるように言った。

 

 「ビーターの情報を売れ」

 「……オイオイ、せっかくゲームクリアの一歩目を踏み出したっていうのにオレンジプレイヤーになる気カ? それに、こんなことをしたってオレッチの意思は変わらなイ。諦めるんだナ」

 「………………」

 

 どうしようもない、と判断したのかシヴァがぱっとアルゴのローブを離した。

 アルゴが乱れたローブを直す。

 シヴァは至って真面目な雰囲気で、コインを数枚アルゴへと投げた。

 

 「手荒な真似してすまなかった。それは迷惑料だ」

 「謝るくらいなら初めから止んなヨ……」

 

 さしもの鼠のアルゴも、シヴァのちぐはぐな態度に困惑を覚える。

 シヴァはもう用はないと言うように、アルゴの横通り過ぎた。

 数歩歩いて、思い出したようにアルゴを振り返る。

 

 「お前の鼠のアルゴという名は、『なるべき自分』か? それとも『なりたい自分』か?」

 「うーん……。ソイツは100Colだナ。どうすル?」

 

 アルゴはしてやったりと笑った。

 

 「………やめておこう」

 

 シヴァは諦めて、大通りへと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「フゥ……。キリ坊、何したんダ……?」

 

 アルゴはヤレヤレと首を振った。 

 あんまり一人の客に入れ込むのはよくないが、明日にでも忠告してやろう。

 さて、アルゴが自らも裏路地から姿を消そうとした、その時である。

 

 「hey,そこの鼠のお嬢さん」

 

 背後から声が聞こえた。

 低く、よく通って、心を落ち着かせるような声だった。

 振り返れば、闇に溶けるような色合いのポンチョを着たプレイヤー。

 自分と同じくフード被り、顔はよく見えない。

 ―――ヤレヤレ、今日はイヤな客が多いナ。

 しかしせっかくの客を無下にするわけにもいかず、仕方なく応対する。

 

 「なんダ?」

 

 ポンチョの男は、唯一伺える口元をにやりと歪めて言った。

 

 「今のplayerのことを教えてくれ」

 

 

 

 

 




 シヴァさん、闇堕ちか。
 そしてポンチョの男の正体は……?

 それでは次回もお楽しみに!
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