先生と先輩と冬   作:青火

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フォスフォフィライト

 

 

「先生、お呼びですか?これからホワイトを連れて流氷割りに行こうと思っていたのですが」

「あぁ、すまない。話しておこうかと思ったのだ、ホワイトについて」

 

ホワイト。ホワイトサファイア、またはコランダムと名乗ったつい一ヶ月前に生まれた宝石だ。

僕にできた初めての後輩。正直、アンタークの事の後じゃなければ、手放しに喜んでいたのだけれど、今はそこまで喜べない。

それにあまり関わりたくないと思う。別に人付き合いが嫌いなわけじゃない。けれど、あの雰囲気が前の僕を思い出して嫌悪感を抱くのだ。彼に対してじゃない、僕に対して。

アンタークを救えなかった。その事実が僕の心に突き刺さる。深く、深く。毎回夢に出てくる程に。それほど彼の存在は心に刻み付けられた。

だから、救えなかったあの時の僕の面影があるホワイトの顔を見るのは少し戸惑うのだ。けれど、彼の教育係に僕は任命された。

それにホワイトは僕と同じように冬だというのに眠たくならないようだ。生まれたばかりとはいえ、宝石ならば僕とアンタークを除いて眠たくなるというのに。

いやそれよりも目の前のこと。先生はホワイトが僕に似ている事について話してくれるらしいけど、正直に言って理由は何となく理解している。十中八九、僕の身体の一部を取り込んだ事によるのだと思う。

その事を先生に伝えると、彼は頷いた。

 

「その通りだ。ホワイトサファイア、いやコランダムはルビーやサファイアを生み出す宝石だ」

 

へぇ。という事は今は月にいるルビーとサファイアの兄さんという事になるのだろうか。年齢的にはホワイトの方が弟なのだけれど。

 

「コランダムは外にある物質を取り込み、自身を変化させる性質を持つ。その性質が彼をお前に似せたのだろう」

 

成る程。僕の一部を取り込む事により、その一部の情報を読み取った、という事なのだろうか。うーん、よくわからない。

彼の足には月人の攻撃によって欠けた分だけ、僕の髪の一部が埋まっている。合わない可能性もあったけれど、他の宝石の場所を知らないし、手元にあるのは自分のだけだったから整えて埋めた。今は白粉によって隠れているけれど、それが捲れば透明な脚の中に薄緑色が輝いている。

でも、身体の一部を失くすのが最初でよかった。僕のように何か記憶が無くならなくて済む。まぁ僕の場合、何を忘れたのかさえわからないのだけど。

 

「フォス、彼を見守りなさい。彼の性質上、どんな物でも合う事ができるが、その分だけ彼ではなくなる可能性がある」

「はい先生…………僕の様にはさせませんよ……」

「よろしく頼む」

 

ポンポンと頭を撫でられる。

悪い気はしない。寧ろ良い気だ。何しろ大好きな先生に撫でられているのだから、これで喜ばない宝石はいないだろう。

顔には出さないけれど。

 

「それでは、流氷割りに行ってきます」

「あぁ」

 

一礼してから踵を翻す。向かう先はホワイトサファイアに充てがわれた部屋だ。

まだ早朝。日が少し登った時であるので、まだホワイトは起きていないはずだ。彼は何故か朝に弱い。彼が言うには夜更かしをしているからだというのだが、一度深夜に部屋に見に行った時はスヤスヤと寝ていたので彼の言い分は怪しい。寧ろ冬眠中の宝石達より寝ているのではないかというぐらいだ。

階段を上ったり下がったり。少し迷ったけれど、何とかホワイトの部屋へとたどり着いた。周囲に他の部屋はない。元物置部屋であった部屋だ。勿論片付けたのは僕と先生である。褒めてほしいものだよ。

こんこんこん。ノックをする。

 

「ホワイト?起きてる?流氷割りに行きたいんだけど」

 

言葉を止めて返事を待つ。十秒ほど経ったところで、あと十分という返事が返ってきた。どこか既知感のある返事だ。僕が寝ていた時、いつの日か誰かにそう返した気がする。

 

「やる事は山程あるんだ。起きてくれなきゃ困るんだけど」

 

…………今度は返事なし。駄目だこりゃ、強行突破しかなさそうだな。

 

「入るよ」

 

扉を開けて、部屋を見渡す。綺麗にしたばかりなので埃とかはない。うん、しんどかったなあれは。

それよりも彼だ。ツカツカと寝ている側により、毛布を引っ張り返す。強く引っ張ったおかげかホワイトの身体は地面に落ちた。僕と違って硬度が九もあるのだ、そう簡単に割れないだろう。衝撃にも強いって聞いたし……僕にもそれくらい力があればアンタークを救えていたのだろうか……?

 

「……やめやめ、それよりもホワイトだ」

 

地面に落ちてもまだ寝ている彼を座らせ、部屋着を脱がせ、服を着せる。全くどっちが先輩なのだろうか。少なくとも僕が年上なのだから、こんな風にこき使うのは僕の方だというのに。

少しだけサイズが大きい服を着せ、靴を履かせる。よし、完成だ。あとは起こすだけ。

このまま殴ったり蹴ると僕の方が負けて割れる可能性がある。脚と腕は元々の身体ではないが、胴体と首は元々の硬度のまま。根元からやられる可能性があるので、腕の合金を変形させて頭ぐらいのサイズはある握り拳をつくる。

そしてそれを、ホワイトの頭の上へ持ち上げ重力に従って振り落とした。

 

---ゴーーーーーン……。

 

鐘の音のような音がなる。

何故こんなにも響くのかは謎だが、何日も前からこういう風に起こしているため、まぁ何も問題はないと思う。

どれぐらい経ったのだろうか。少なくとも一分は経過してないと思う。ホワイトは腕を動かし頭を抱え出す。あ、起きた。

 

「いっっっっっってぇえええええ!!」

 

おっと。

ごろごろと転がりだしたホワイトを避ける。すごい速さだ。こんな所で俊敏さを出さなくて良いのに。というより、普段はこんなに速く動けないのに、どうしてこういう時だけ早いのかしら。

暫く転がったのち、ホワイトはすくっと起き上がり眉を寄せた顔でこちらに歩み寄ってきた。

 

「何するんですか!?何もこういう起こし方はしなくて良いって言いませんでしたっけ!?」

 

おー、怒ってる、怒ってる。

 

「いや、この起こし方が一番手っ取り早いし、そこまで怒ることでも無いと思うけど……まぁ、あまり痛く無いはずなのに良いリアクションを取るから、ついついやっちゃうんだけど」

「そりゃ取りたくなりますよ!頭の中で鐘の音が盛大に響くんだから!!」

「はいはい」

 

ひらひらと手を振り、適当にあしらう。

それより流氷を割りに行かなくては、先程流氷達の悲鳴が聞こえた。先生に呼び出されたのと、これで時間が押しているのだから早くしなくてはならない。前よりは時間が取れないだろうなぁ。

 

「流氷割りに行くよ。剣持った?」

「えぇ先輩。先輩が着替え済ませてくれたんで、準備めっちゃ楽です」

「いい加減自分でして欲しいんだけど……」

「楽だから嫌です」

「一回割れろ」

 

真顔で言うホワイトに呆れながら、僕は部屋のドアを閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

---ズドーーーン!!

 

流氷が割れ、海に沈む。

赤ん坊の泣き声のような、悲鳴のような声が聞こえる度にそちらへ出向き、巨大な氷を破る。それの繰り返しだ。

 

「フォスせんぱーい!」

 

僕を呼ぶ声がした。どうせ何時もの事だろうと無視を決め込み、新たな流氷を割る。轟音が響いた。

 

「無視しないでくださいよ!!」

「無視してない。どうせ何時もの事だと思ったから、別に良いかなって」

「それを無視って言うんですけど!?」

 

言い訳にもならないような理由を述べてから振り返る。ホワイトは手を振っていて、笑顔であった。何か良いことでもあったのだろうか?

見ててくださいよー!と意気込むホワイトを見ていると、彼は未だ悲鳴をあげる流氷の下へ行き、飛んだ。そして流氷の頂点に着地、降るように走っていくと、最後の最後で振り返った。

 

「まさか……」

 

腰にあるノコギリ型の剣を素早く取り出し、勢い良く流氷の表面へと突き刺した。

一瞬の静寂の後、流氷はホワイトが走った所を起点に轟音を立てながら割れだした。水に沈む音が響く。

 

「…………天才?」

 

アンタークに教わった技を彼に教えたのは前回の流氷割りの時。その時はずっと苦戦していたはずなのに、もうマスターしている。言葉の事といい、これは聡明という言葉で済ませる問題では無いと思う。どう見ても彼は天才だ。

成功させた嬉しさもあるけれど、悔しさもある。以前のような俊敏性を持ち合わせていない今の僕にはできない行動であるし、言葉で教えただけで理解し、できてしまう彼に嫉妬してしまう。ダイヤはこんな気持ちだったのだろうか。

 

「先輩!先輩!見てました?」

 

笑顔で来る相手に苦笑いで返しておきながら、僕はまた流氷割りに勤しむ。流氷が誘う声を無視しながら。

 

「(まぁ、仕事を早く済ませられるのは良い事なんだけども……)」

 

取られたようで良い気はしない。教えた僕にも責任はあるが、まさかあんな早く習得するとは思ってはいなかった。

先生によると彼の硬度は九。ダイヤモンド属に続く高さだ。それだけ力が強く、攻撃力も強い。三半の僕とは元から地の力が違った。

というより、生まれたばかりの時何をしていたっけ。何せ三〇〇年前のこと。今まで一年を無駄にして過ごしてきた僕にとって、最初の一年は何をしていたかなんて覚えていない。

あーでも、失くした腕と脚の所為でもありそうだけど。

 

 

---ズドーーーン!!

 

また流氷が沈む音がした。

振り返るとホワイトが他の流氷を割っていた。楽しいのだろう。その顔には笑顔が浮かんでいる。

できたなら楽しいのだろうなぁ。僕にはもう勢い良く跳ぶことなんてできないから、こうして腕の合金を伸ばして割るしかない。

 

「(強い腕は手に入れられたけれど、脚が駄目になってしまったよ……アンターク)」

 

ずっと思っていた。もしあの時、流氷の誘いに応じようとしなかったら。もしあの時、足を滑らせなかったら、こうはならなかったのだろうか。

あれだけ焦がれていた強さを手に入れても、虚しいだけ。ホワイトの様に元から強いのであれば、心境は少し違ったのだろうか。

 

「あーー、駄目だなぁ。考え込むとすぐこれだ」

 

マイナス方面に考えてしまう。いつから僕はこうセンチメンタルな気分をするようになったのだろうか。僕っぽくない気もする。仕方がない事だけれど。

 

「せんぱーい!!」

 

また振り返ると手を振る我が後輩。

こうして見ると益々前の僕にそっくりで、もしかしたら彼にポジティブな所を取られたのかも知れない。

……髪の一部に僕の前向き思考全部入っていたなんて事は思いたくはないけれど。

 

「先輩!こっちの流氷割り終わりました」

「早いね。あとは休憩していて良いよ。もしくは、小さい流氷を割るとか……剣の練習とか」

「あっちの流氷は割らなくて良いんです?」

「僕がやるから」

「流石先輩、仕事取られたくないんですね」

「割るわよ?」

 

シッシと手を振り、歩き出す。

僕とは違い、彼は流氷の声は聞こえない。だから腕も足も取られる心配はない。それに賢いし。

僕の初めての後輩は天才で、僕より強い。生まれたばかりの宝石にまける悔しさはあるけれど、ああしてやり取りをするのは少し楽しく思える。

きっと、先生と二人で過ごすよりは良い事だから。いや、先生の事は好きだけどね。

アンタークにも見せたかった。彼と同じ様な髪色の持ち主であるから、とても輝いて見える。

 

「どぅわっ!?」

 

何だなんだと振り返る。

そこには足下に刺さった剣に驚いているホワイトの姿が。

攻撃力が高くとも、剣の扱いだけは難しいらしい。先程はうまく扱えていたというのに。

妙な所で鈍臭さを見せる彼に、僕は苦笑いをしながらも残りの流氷割りへと向かった。

 

でもまぁ、あぁして後輩の成長を見るのも良いのかもしれない。

 

……もしかしてみんなこんな感じで年下と接していたのだろうか。というか僕と。

みんなが起きたなら、ダイヤ辺りに聞いてみるとしよう。

 

 




ホワイトサファイア(コランダム)

特異体質:凡ゆる物質に対応する身体を持つ。どんな宝石でも物でも取り込み自分のものとし、その物特有の特性を得ることができるが、それをするたびに本来の人格から離れていく欠点を持つ。
但し、身体が欠けた部分の代用として他のを使った場合に限る。


という体質でした。体質って言って良いのかわからないけど。
しかしながらフォスと金剛先生の口調難しい……。
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