ざっく、ぽいっ。ざっくざっく、ぽいっ。
そんな単純作業を繰り返す度に、一面真っ白な地面が削れていく。そう、今俺たちは雪掻きをしている。
学校の周りに積もった邪魔な雪をスコップで掬っては横に捨て、掬っては捨て。日がな一日、この作業の繰り返し。変わる事と言えば溜まった雪を近くの池に落とすくらいか。そんな事をすれば池が溢れ出しそうだが、そんな事もなく。フォス先輩によれば、何百年も前から続く作業だから心配はないそうだ。成る程、海に繋がっているのかもしれない。というより、池の水は塩分があるのでほぼ塩水、海だ。何で知ってるかって?金剛さんに聞いた。
「フォスせんせー、疲れましたー」
「はい早い。まだ半分も終わってませんよ」
こんな時でも冗談に付き合ってくれる先輩のノリの良さ、好きだよ。
「そもそもこの量を二人でしろってのが無理な話だと思います」
「僕も思う」
思ってんのかーい。
フォス先輩曰く、冬を担当したのは今年が始めてだそうで。俺が加わる前に適任が一人いたらしいが、月に連れていかれたと言う。十中八九、俺が生まれた時にいた白い人だろう。確かに冬担当だと言われても、納得しそうな見た目だった。真っ白しろすけ。
でもその人が連れていかれ、俺が目覚める前までの一ヶ月間はフォス先輩一人でこの作業をしていたのだから、凄いと思う。まぁ雪の降る量は疎らなので、雪掻きは三日に一度程度あるかないかぐらいらしい。そう考えると、北海道よりマシではないかと思う。北海道行った事ないけど。
「にしても本当にホワイトは要領が良いな。僕と大違いだ」
掬ってほってを繰り返した俺の手元を見たフォス先輩は感嘆しながら雪をほっていた。
…………今更ながらに思ったんだが。
「どうしてそう、自分を過小評価するんです?」
「え?」
まるで日本人の様な性格だ。
フォス先輩は俺から見ても凄い人だと思う。この雪掻きも、流氷割りも、寝てる宝石達の世話も、戦闘も全部一ヶ月間一人でしていたのだから。フォス先輩は話さないが、俺が生まれた日に冬担当の方が連れていかれたのは見ていた。まだ引きずっている様だけど、それは後悔で、それを糧に時々振り返りながらも真面目に前を向いている。俺ならば責任で部屋でずっと閉じこもる自信がある。申し訳ないと思って、彼の為だと言いながら、やらなければならない事を嫌だと言わずにするのはやっぱり凄い事だと思うんだ。
行動力がある。それは良い事だ。
多分それは、今も昔も変わらない事だと俺は思う。
「いや……別にそんなつもりは---」
「あるでしょうよ。僕とは大違いだ、なんて言葉、自分を卑下してなきゃ出てきませんってば」
「……そ、れは…………」
何か思うところがあったのか、目を逸らしてしまうフォス先輩。それでも作業は止めないのは流石だ。俺も止めてないけど。
「もっと自信持ってくださいよ、俺の先輩なんですから。貴方は良くやってる」
「……そうでもないよ。前だって役立たずだって言われていたし……今だって役には立っているかもしれないけど、でも迷惑はかけている」
「役に立ってるってのは思ってんですね」
自信持ってるじゃん。やっぱ強いなこの人。
そう言うとフォス先輩は微妙そうな顔をして、雪を掬った。
「いやだって、仕事してる時点で役に立ってるでしょ」
何言ってんのと言うばかりの表情だ。
「そう思えるのは良いことだと思いますよ。働き過ぎはダメですけどね……労働基準法に違反します」
「ろ……?何言ってんのか分からないけど、まぁそうだね」
そうですよー。寧ろこれだけ働いて給料ないってのも反すると思うんだよな。報酬?安全な生活ですが何か?月人が来る時点でちっとも安全じゃないけど。
ダメだなここ、ブラック過ぎる。
ただこの身体になってから疲れや、身の周りの温度を感じなくなった為にこうして雪掻きをしていても疲れることはない。いや、精神的疲れはあるんだが。
冬生まれの俺は別にこの作業を苦としていないが、フォス先輩はそうでもないようで、ずっと光が足りないと言っている。
雲の隙間から漏れ出る太陽光は幻想的だが、光を主食とする俺たち宝石としては少ない量のようだ。最初からこの量である俺にはよくわからないものだが。
会話はそこで途切れ、俺もフォス先輩も作業に戻る。
ざっくざっく、ぽいっ。ざっく、ぽいっぽいっ。
相も変わらない作業がずっと続く。さっきの会話以来何も喋っていないし、そろそろ精神的に疲れてきた。単純な作業は楽しいものだが、ずっと続くとなると飽きてくるというもの。
「(前の雪掻きの時に金剛さんに見つかって怒られたけど……背に腹はかえられぬ!)」
飽きた!!気分転換をしようではないか。
俺は持っていたスコップを突き刺し、近くにある真っ白な雪を手にとってきゅっきゅっと団子を作る。元からふわっふわに柔らかい雪なので、それなりに力を入れてもあまり固くならない。それは前に検証済みだ。
硬度が三半であるフォス先輩に当たっても雪玉の方が砕ける柔らか雪玉が完成すると、俺はおおきく振りかぶって……じゃなくて小さく腕を上げ、フォス先輩を呼ぶ。
「フォス先輩!」
「ん?何?まだ何かあ---ぶっ!?」
顔面クリーンヒット!
流石ホワイト選手。ストライクワンアウト。まだ誰も一塁に行かせてはいない!
そりゃそうだ、始まったばかりだからな。
「やーい、引っかかったー!」
刺して立たせておいたスコップに体重をかけ、そう笑う。
フォス先輩は強いが油断した時の反射神経は弱い。確かに腕の合金で何もかも防げるかもしれないが、それを操っているのはフォス先輩自身だ。彼自身が油断していたら防ぐにしろ、避けるにしろ当たってしまう。
まぁ彼が警戒するのなんて、月人と相見える時だけ。それ以外は油断しまくりな彼は、注意をしていてもどこか抜けている。これだって前の雪掻きの時もこうしたのに、今回だって引っかかった。
しばらく顔面に張り付いていた雪はフォス先輩が少し動いた事によってずり落ちる。キラリと髪ではない輝きが見えた。
「……あれ?」
手加減をして柔らかい雪玉を投げたのに、それでもフォス先輩の顔面は耐えられなかったらしい。パラリと細かい結晶が見えて、顔の中心にはヒビが入っていた。
どうやら俺は力加減を間違えたようだ。
「(やっべー……)」
ちょっと今フォス先輩と顔を合わせられない。思いっきり腕が取れるってぐらいに欠けるのなら、まだ修復は楽だ。だが欠けたのは顔面、それもほんの少し。
修復は細かい程面倒なのだ。しかも顔は自分で直すのは難しい。
そんな事をぼんやり思いながら、細かいフォス先輩の一部が雪の上に舞い降りるのを見ていた。
「ホワイト?」
不意にそう呼ばれて、意識が覚醒する。呼ばれたのは嫌な予感しかしない。けれど不意打ちだったため、思わず顔を上げてしまった。そこに来るのは当然---。
「ぶふっ!?」
雪玉な訳で。
雪玉を顔面キャッチした俺は体を仰け反らせたが、倒れそうになるところをなんとか耐えて両足で立つ。危ない、倒れるところだった。
だが、顔を真正面に向けてフォス先輩が見えたところでまた雪玉が顔面にクリーンヒット。更にはフォス先輩の合金が顔を包んできた。
「むー!むーっ!!」
剥がす事もできずにもがく。幸いにも息をする身体ではないので苦しくはない。
けど突然の事態なので混乱している俺である。
「流石に二度目は怒るよ。前にも先生に怒られたでしょ」
ねぇ?ホ、ワ、イ、ト?
「(ひぇ……っ)」
怒気を発する顔の見えないフォス先輩に体が反射的に止まる。
弱肉強食の世界を知った若いライオンの子供のような気分だった。
……このままどっかに落とされたりしないよな?
今日決めていた分だけの雪掻きが終わった後、俺たちはスコップを直しに歩いていた。
前にはフォス先輩。その先輩が作った道を俺は歩く。
「怒った先生が怖いの知ってるでしょ。もう止めてよね」
溜息を吐くフォス先輩に貴方の方が怖かったなんて言えず、はーいと返事をして足をまた一歩と進める。
足を雪に取られないように気をつけて歩いていると、ゴンと鈍い音がして雪に沈んでいた足がさらに沈む。あ、頭に衝撃が……痛くないけど気持ち的に痛い。水分なんてないので涙は出ないが、思わず眉を下げる。
犯人は分かっていた、フォス先輩だ。
「何するんですか……」
「いや、反省してないなーと」
前を進むフォス先輩から伸びた合金がしゅるしゅると短くなって行き、人の腕の形を取る。便利だな、あれ。本人は重くて敵わないと言ってるが、汎用性高いのは良いことだ。
「次からしませんよ」
そう言うとフォス先輩は振り返った。怪訝そうな表情をしている。
「本当に?」
「ほんとうです」
「本当?」
「ほんとうですってば」
俺の解答に満足したのかしなかったのか。それはわからないが、フォス先輩は前を向いた。
フォス先輩がここまで念押しするのは分かっている。先程言っていたように、金剛さんが怖いのだ。
元々表情筋がないように見える金剛さん。いや俺たちも筋肉自体はないが、言いたいのは笑ったり怒ったりしても表情の変化があまりないと言うところ。
目が剣呑になったり見開いたりするが、口はそうでもない。まぁ感情を人に悟らせないような人である。
そんな彼が怒るとなれば、少しドスが効いたような声音になったり、元からある目力が更に強くなったり、机が割れたり……終いにはよくわからない突風のようなものを出す。
秒速何メートルだよそれ、みたいな台風の風を一瞬浴びるようなそれは、硬度九の俺ならばいざ知らず、三半のフォス先輩が浴びればたちまち割れるのだ。
「(どう言う原理なのか、今だにわからないんだよな)」
一回浴びた時は驚いて眼を見開いたが、金剛さんの謎の戦闘力を考えれば別に普通かと思ってしまう。強者には弱者がわからない謎が付き物である。
そんなわけで、なるべく金剛さんを怒らせたくないフォス先輩が今回怒ったと言うわけだ。俺にとっては相手が見えない分、フォス先輩の方が怖かったが。
まぁフォス先輩の場合、金剛さんを心配してるところもあるのだろう。あの人寝てないし。宝石は不老不死だと言えど、ストレスや精神的疲れは溜まる。眠気も溜まる。
寝てないところに悩みの種が舞い降りてきたならば、その種が開花した瞬間怒るのも無理はない。迷惑はかけられないだろうし。
教えられてる側ではあるので、一応相手は敬うべき先に生まれた先生な訳だし。何歳か知らないけども。
気になるなー、金剛先生の歳。なんて考えていたら、先に進んでいたフォス先輩が止まっていたのに気付かず、顔をぶつけそうになる。危ない、下手したら割れるのは其方だと言うのに、何だというのか。
「先輩?」
フォス先輩は振り返らずに、腕の合金をドーム状に広げた。
……まさか。
「ホワイト、先生に報告を」
途端に降ってくる矢の雨。フォス先輩の合金が傘の代わりになっているので、当たることはない。
敵意を相手にぶつけているフォス先輩に隠れては見えないが、どう考えても月人がやってきたのだろう。弓を使うのは彼らしかいないし。
雲に覆われて陰っていた雪が光によってキラキラと反射する。俺が生まれて以来、急に晴れるという事はなかったと聞いたのに、何故か今日は違ったらしい。
「……先輩は?」
どうするかなんて分かっている。フォス先輩が食い止めている間に報告してこいという事なのだろう。早く行かなければならないのに、何故か俺はそう聞いてしまった。
フォス先輩はチッと小さく舌打ちをする。どうやら、得物がないことに気がついたらしい。スコップで戦うようだ。
「僕は足止めをしておく」
思っていた通りの事を言われたので慌てることもなく、こくりと頷き了承する。
フォス先輩はドーム状にしていたのを解除して、目の前に来る矢にだけに集中するように形状を変えた。
それと同時に俺はスコップを放り出し、走り出す。まだ戦闘は慣れていないし許可もされていないため、戦うわけには行かない。
金剛さんに報告をするために、学校の中を走る、走る、走る。
「やっと着い---っ!?」
慣れていない校内を少し迷ったが、想定よりも早く着いた事に喜びながら、金剛さんに近づくとすぅという音のような声が聞こえた。
え、嘘だろ?と、柱にめり込んでいる金剛さんを見た俺は絶望する。
「寝てるーーーーっ!?!?」
何と彼はこの緊急事態に寝ていた。
「(フォス先輩に合わせて寝ないっていう根性はどうしたんだよ!!タイミング悪すぎ!!!)」
絶体絶命のピンチである。
冷や汗が止めどなく流れている気がした。
舌打ちしてるフォスを想像して、めっちゃグレてるやん……ってなった。
金剛
硬度:?
靭性:?
みんな大好き金剛先生。
名前からして金剛石だが、何故かボルツより強い謎に包まれている。宝石みたいなのを飛ばす攻撃は身を削っていないか心配になる。
元々お茶目な先生だが、今作では何かと寝てる人に。ホワイトにはいつも寝てる人にしか思われていない。しかし先生曰く、これでも前よりは寝ていないらしい。
服はボロボロ。ホワイトは直さないのか気になっている。
先生と呼ばれないと返事しないのは面倒、とはホワイト談。今作でしか見られない先生である。
二話続けての寝落ち(意味が違う)
というかなんかすごい伸びてる……何故……?