えいっえいっ。起きた?
起きてないよ♡
えいっえいっ。起きた?
起きてないよ♡
あかん、幻聴が聞こえてきた。
柱にのめり込んで寝ている金剛さんを蹴るや殴るなどの攻撃を仕掛けてから約数秒、腕にヒビが少し入ったところで止めて、金剛さんの硬さに舌打ちをしたくなりながら、最後の悪あがきだとばかりに大声あげて椅子を殴りつけ、椅子が盛大に砕け散ってから一秒後……先程の幻聴が聞こえてきたわけだ。
砕け散った椅子の破片が眼球に飛んできたのはビビったが、別に急所ではないため焦る必要もなく、どちらかと言うと木の破片の方が何処かに飛んでいった。
いや別に焦る必要ないんだけどね。旧型であれ新型であれ、やられるまで矢を射ってくるのは変わりないし。合金の腕を持つフォス先輩にその攻撃は通用しない。あの人強いからなぁー……油断しやすいけど。
ただ、遅すぎると攻撃を仕掛ける可能性がある。報告しなきゃとは理解しているけど、こうした想定外の事態には臨機応変に対応できる能力があるため一人で何かしようとしそうだ。まぁ彼が冷静なままの場合ではあるが……慌てるところあまり見たことないし。
「…………あぁ!もう!」
心配だ!
金剛さんは放置して、俺は剣を置いてある場所へと走り出す。なるべく速く脚を動かし、走る。途中、脚に足を引っ掛け倒れそうになるが何とか耐える。
一番外側に出て、スコップを直す場所へと直進した。
雪掻きをする時、今日は晴れなさそうだという言葉からそこに剣を置いてきたのだ。金剛さんの天気予報によれば完全に晴れるのは明日、今日はパラパラと雪が降る程度であるとの事。雲が出ていたら晴れてないの部類に入るのだが、今みたいに雲がなくなり太陽が丸見えだと晴れている事になる。
金剛さんの天気予報外れたなと思いながら、脚を動かし、目当ての物を見つける。脚を止めずに急カーブしながら、剣を二本掴み足裏に力を入れる。
「うおっ!ぶっ!!」
力を入れすぎたのか、ずべりと足を滑らし顔面から地面に激突する。痛くないけど、気持ちが痛い。
ただ、寝ている場合ではない、勢いよく起き上がり口の中の土やら雪やらを吐き出して、走り出した。
一分もしないうちに矢を射ってくる月人と、合金を伸ばして月人に乗り込もうとしているフォス先輩を見つける。
やばい。月人はでかいので近くに見えるが、まだ何百メートルも先だ。このままではフォス先輩が月人の頭をぶった切ってしまう。旧式だと良いけど!
「フォス先輩!!フォスせんぱーい!!ストップ!ストーーップ!!!」
目一杯叫び、フォス先輩に呼びかけるが結局此方を向いたのは月人の頭の上半分がずり落ちた後だった。遅かったかと、だんだんと走るのをやめて最終的に止まる。
剣二振りを地面に突き刺し、フォス先輩を見上げた。彼は苦笑いを浮かべて、両手で手を合わせた。ごめんという意味なのだろう。別に良いよと手を振っておく。
フォス先輩は振り返り、月人の顔の中を覗く。俺に言わせれば蓮根の切れ目のようなそれには、何もなかったらしく徐ろに落胆していた。
気を取り直し、身体ごと此方を向いたフォス先輩はスコップを俺に投げ渡してきた。スコップが宙を舞い、迫ってくる。
「あっぶね!?」
近くに勢い良く突き刺さったスコップから距離を取って尻餅をつく。足がもつれてしまったのだ。こういうドジはいつか直したい。
自分に当たらなかったのを安堵しながらフォス先輩を見上げると、彼の後ろの月人が散っていないことに気づく。
月人は親玉である中央の一際大きい月人を倒せば、その他も消滅する。それはもう形を持った水が小さな粒状になるように、霧になるのだ。しかし親玉を切ったのにも関わらず、散っておらず周りの月人達も呆けたように動かないが、消えてはいない。
嫌な予感がする、そう思った瞬間だった。親玉月人が爆発した。
「え」
予想だにしてなかった衝撃に耐えられず、風圧で少し吹っ飛ぶ。雪のお陰で割れるなんてことはなかったが、いきなりの事で混乱していた。
衝撃が収まった後、頭を抑えて顔を上げる。隣から落ちる音が聞こえたと思いきや、薄荷色の髪の毛が見えた。フォス先輩も同様に飛んできたらしい。
滑って転んでいた俺の様に顔面を雪の中に突っ込んでしまったフォス先輩は、顔を上げる。顔面には雪が付着していた。
「フォス先輩!大丈夫ですか?」
「その声、ホワイト?」
「はい」
どうやら無事なようだ。三半のフォス先輩が顔面から突っ込むとなると首あたりが割れそうなものなのに……雪のおかげか?
俺の返事が聞こえたのか軽く頭を振ったフォス先輩は、雪が取れたのを確認すると此方を流し目で見てから月人がいた方向へと見やる。
俺も倣って月人を見るが、そこにはもう形を持った月人はおらず、彼らが散った後にできる霧の様なものが辺りに待っていた。うん、嫌な予感がする。何処ぞの忍ばない忍者の技に似てる様な。
「金剛先生はどうしたのさ」
「柱に顔を突っ込んで寝てました」
「また?というより、ホワイトが行くと高確率で寝てるよね……」
俺の場合、タイミングが悪いのだろう。フォス先輩は金剛さんが寝ているところに会ったことはあまりないらしい。俺の様に短時間で何回もあるのは稀で……まぁそれだけ金剛さんがフォス先輩の前では気丈に振る舞っているのかもしれない。
俺の前では寝てばっかなのに。
近くにあった一緒に飛んできたのであろう得物を手繰り寄せ、フォス先輩に一つ渡す。というより、このよくわからない形の剣はフォス先輩用だ。あれ一振りしかないし、俺のノコギリ型を使わない。
深い理由があるのは知っているが、少々リーチがある其方の剣の方が狡いと思うんだよな。仕方ないけども。
「ありがとう」
「どういたしまして。で、どうします?あれ」
剣をフォス先輩が受け取ったのを確認すると、目の前を向く。相変わらず月人の霧は晴れないが、徐々に何かに形を変えていた。
ほんの一部分。目の前にある人一人分だけの霧が集まっていき、何かを形作る。それが二つ。
「……どうしようも何も、戦うしかないでしょ」
「ですよねー」
落胆する様に肩を落とす。目を閉じ、再び目を開けるとそこには俺達と同じ姿をしたものがいた。
色はついておらず、全体的に白い。月人を表すかのように羽衣を纏っていた。瞳孔は見えず、まるで生きてない様な感じがする。いやまぁ月人自体、生物として意味不明何だけども。
でもこれは……。
「…………予想外」
「俺もです。えー、これ自分と同じ力だったとかだったから苦戦必至じゃないですか、やだー」
「そう言うのやめて。本当にそれっぽそうなんだけど」
二人して剣を構える。
律儀にそれぞれの前に、自分の姿をした月人がいる。横髪だけ長く、後ろは跳ねている髪型、フォス先輩より背が低いその容姿はどう見ても俺だ。
フォス先輩の前にフォス先輩の姿をした月人、俺の前に俺の姿をした月人。と言うことは一対一の戦いは必至。
警戒を強め、いつでも飛び出せる様に構えた後、月人の形が完璧に質量を持った事を起点に、強く地面を蹴り出した。
これからはフォス先輩に気を配れない。まぁあの人は強いので俺が気を配っても足手まといなだけだ。目の前の敵に集中する事にする。
初めての戦闘で緊張しているかと思えばそんな事はなく、寧ろ初めてなのか疑問に思うほど身体はすらすらと動く。
ノコギリなので引く力で切るものだが、月人はそこまで気にしなくて良いらしいとはフォス先輩談。肉体を持った生物や、植物の方が切りにくいの事。つまりは月人は耐久性があまりない。
相手から繰り出される斬撃を避け、此方も斬りつけるが避けられる。
上段からの斬り、失敗。下段からの斬り上げ、失敗。薙ぎ、失敗。上からの叩き付け、掠った!
「うぉりゃ!」
いまいち迫力の出ない掛け声と共に、剣が掠った事で隙が生じた月人に右脚の蹴りを放つ。鳩尾に入ったのか、身体の中央に穴が開く。
やったか?と思いきや、月人は散る事もなく超速再生をした。足が巻き込まれ、揚げ足を取られたようになる。
一瞬驚くが、必死に抜くように左足に力を入れるが一向に抜ける気配はない。地面の雪のせいであまり力が入らないのも原因か。右手も動員して、ノコギリ剣を振るう。だが焦っているのか当たらないし、どう見ても避けられていた。
十回ぐらい振るうと、イラついたのか生気の無い目が此方を向いた。瞳孔が無い瞳なのにしっかりと此方を見ているとわかった。ちょっと怖い。
恐怖に手が止まると、その瞬間を狙って俺の足を掴んできた。あ、ヤバイ気がする。
「うお!?」
俺の足を胴体から抜いた月人は、俺を振り上げ地面に打ち付ける。
「ぶふっ!!」
が、顔面から激突した……。
立ち上がろうと両手を付くが、また宙に舞う。混乱する俺を余所に月人はまた地面に打ち付ける。雪があるから良いが、土相手だととっくに砕けてそうだ。
「ちょ!ぶふ!」
「まっ!ぶへ!」
「まてっ!ぶっ!」
俺の言葉を無視して、何度も俺を打ち付ける月人。痛くは無いが、顔面から雪に当たるのでちょっと勘弁して欲しい。雪も無限じゃ無い、段々と凹んで硬くなっていっている。
徐々に速度を上げてきているのは嫌がらせなのか。言葉が通じなさそうな見た目なのでいくら叫んでも意味がない気もするが、それでも上げなくては気が済まない。
ぶつけられながらもフォス先輩の方を見ると、彼は彼で奮闘している。これは助けを求めるのは無理そうだ。
仕方なく対策を考える。このままでは顔面が割れるのは必至。鉱石だって硬くなった氷に負ける事だってあるのだから。
「ふぶっ!」
実に何十回目の雪とのキス。これ以上は奪われたくないと、近くに放っておいたノコギリ剣を掴み取る。また振り上げられた瞬間、勢いをつけてグルリと回った。
「!?」
声はないが月人が驚いているのがわかる。いい気味だとニヤリと笑い、掴まれている方の脚に体重をかけ立ち上がった。
「くらえっ!」
脳天に直接ノコギリ剣を勢い良く刺し込む。少しの抵抗があったあと、真っ二つに月人は割れた。やはり耐久性は紙らしい。
目の前で自分が真っ二つに割れるなんてグロ判定も良いところなのだが、こいつらには肉がないのでセーフである。宝石もセーフ。アウトなのはナメクジぐらいだ。
月人の力が抜けたので、尻餅をついて地面に降りる。気が抜けたのかもしれない。ちょっと立てないや。また放り出してしまったノコギリ剣を掴もうともできない。
しかし、また面妖な月人だった。まさか爆散して、相手の姿になって第二ラウンドを申し込んでくるとは。こうしてみるとますます良く分からない生物だなとは思う。
チラリとフォス先輩の方を見る。彼らはまだ戦っているようで、伸ばした合金で取っ組み合っていた。おい、剣はどうした。
というか、今回に限っては剣を扱えていた。普段は毎回何かと剣を落とす事が多く、まともに扱えるなんてなかったんだけど。本番に強いのか、火事場の馬鹿力なのか。
「まぁとにかく、勝ててよかった」
安堵しながら、完全に形を失った月人を見ると、ゴトリと月人は何かを落とした。
気になった俺は、力が入らない身体に鞭打って立ち上がり確認しに行く。護身用にノコギリ剣は拾っておいて、構えながら。
罠だといけないので慎重に近づくと、陽の光に反射して何かが光る。フォス先輩がいる辺りとは違って、倒したからかここらは霧がなくなっていたので、陽の光が入る事には疑問を抱かないが……これはまさか。
透明なそれを拾ってみて確認する。歪な鉱石。だけれど、どこか懐かしいような感覚。持った瞬間からわかる、中にいる生物達の鼓動のようなもの。
漠然とわかった。理解したと言って良い。だってこれは。
……これは---。
「俺だ」
太陽光で輝くそれは、俺が生まれたあの日、月人の攻撃によって失くした俺の一部だった。
流行には乗る。
ホワイトサファイア
硬度:9
靭性:上級(推定)
別名コランダム。本作主人公。
明るい性格で、俺口調。フォスフォフィライトより身長が低く、顔付きは幼い。顔ははどことなく冬になる前のフォスに似ているが、欠けた分を補ったフォスの一部を取り込んだせいだと思われる。元々この顔だったのかは誰も分からない。
取り込んだものの情報を抜き取り似る特異体質を待つ。取り込むほど本人から離れていくので要注意だが、それは失くした分だけを補った場合のみ起こりうる。
事情から絡みづらいであろうフォスと、元々どこか絡みにくい金剛に突撃していく図太い神経を待っていたり、飽きやすい性格だが、ある程度頑張れる性格。その硬度と靭性から戦闘では強いはずだが、剣の扱いには慣れていない。
フォス先輩大好き宝石。今ではフォスと代わって賑やかし役。フォスは宥め役。先生は傍観役である。
人物紹介終!!早かったね……。