先生と先輩と冬   作:青火

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報連相

 

 

しばらくの間、自身の一部を見つめて何故月人を倒した後にこれが落ちてきたのかを考えてたが、フォス先輩の事を思い出してハッとする。

振り返ると戦いは終わったのか、霧が晴れていてフォス先輩は真ん中の辺りでぼーっと何かを見つめている。

もしかして俺と同じく、フォス先輩の一部でもあったのだろうか。彼は両脚と両腕を失くしている。知らない間に月人に回収されていても可笑しくはない。

力が入るようになった脚を動かし、近寄る。フォス先輩は所謂女の子座りという奴をしていて、俯いているからか彼の表情は窺えない。

 

「フォス先輩……?」

 

声をかける。反応がない。

 

「フォス先輩、どうしたんですか?」

 

肩を持ち、割れないように優しく揺さぶる。服を介しているが、硬度が五半も離れているので気を使わなければならない。腕と脚はともかく、胴体と頭は彼のまんまだ。靭性も離れてるしな。

ゆらゆら。肩を揺らして覗き込む。何か変だ。いつも鬱を患わせてる様な様子ではない、本当に何かが変だ。

 

「フォス先輩」

 

三度目の問いかけ。そこで漸く、ぴくりと反応した。

ゆるゆると上げられる顔。表情はいつも通りの無表情、けれどその目尻からは金色の液体が流れ出ていた。

 

「っ!」

 

それが、涙だと思ったのは前世の記憶があるからだろう。泣いている彼を見て、動揺しないわけがなかった。

合金が流れ出て、ポタポタと地面に落ちていく。ただそのまま雪の染みになるわけもなく、近くにあるフォス先輩の腕に回収されていく。抜かりのない事だ。

 

「ほ、わいと……」

 

舌足らずな口調。ますます可笑しい。誰だこいつはとは思うけれど、確かにフォス先輩なのでどうしようもない。

意味があるのかわからないが、隣にしゃがみ込み背中を摩る。いーち、にーいとゆっくりとあるはずもない心臓の鼓動に合わせて、撫でる様に言い聞かせる様に背中を摩った。

しばらくすれば落ち着いたのか、フォス先輩はごめんと謝ってきた。彼自身動揺していたのだろう。相変わらずの無表情に近い表情だったが、申し訳なさそうに眉を下げている。

 

「別に良いんですよ。それで、何があったんです?」

「……いきなり聞いてくるとは、君も容赦ないなぁ」

「何言ってんですか。今更ですって」

「そうだっけ?」

 

そうそう。俺が容赦ないのは今更である。まぁ気分にもよるけれど、あまり人に合わせようとしない節があるからな。直さないといけない性格だ。

 

「別に……勘違いを起こしてただけ」

「??」

 

意味がわからず首を傾げる。

そんな俺の様子を見たフォス先輩は苦笑いして、これと俺と反対側にある右腕をあげて何かを見せてきた。

透明で雪の反射で白く見えるそれは、俺だった。

 

「それ……」

「月人を倒したら出てきてね。最初アンタークかと思ってしまって……でもよく見たら違ったのよ。これは君のだろ?ホワイト」

 

ゆっくりと頷いた。

確かにそれは先程拾ったのと同じものだ。代用品としてフォス先輩の一部を使ってしまい、居場所がなくなったそれは、確かに俺のだけれど、もう俺のではない。

フォス先輩の言うアンタークとは、アンタークチサイトという冬担当の宝石。俺の中で何回も話題に出る宝石だが、詳しくは知らなかった。名前もさえ知らない俺がわかったのは偏に、金剛さんに教えてもらったからだ。

彼は南極石と呼ばれる、冬の間だけ固まってできる特殊な宝石だ。冬以外は液体だったらしい。ということは氷みたいなもので、彼の髪は無色透明であり白く見えていた。ならば、俺と似ていて勘違いしても仕方がない。

 

「早とちりしちゃった。駄目だな……怒られる」

 

誰にとは言わない。ただ、何となくわかる。金剛さんじゃない、今は月にいるアンタークにだと思う。

元から持っていたあまり大きくない俺の一部をポケットに仕舞い、フォス先輩からも受け取って反対側へと仕舞う。そして、彼の手を取って上に引っ張る。びよーんと合金が伸びた。

 

「………………」

「何してんの?」

 

フォス先輩の視線が痛い。

ちょっと目を逸らした俺は、数秒考えたのち覚悟した様に目を瞑ってから、彼に視線を向けた。ぱちりと目が合う。

 

「立ってください!金剛さんに報告行きますよ!」

「え、えぇー……」

「えーじゃない!生徒の義務です、義務。フォス先輩が一緒なら流石に金剛さんも起きてるでしょうし」

 

ふん!と鼻を鳴らしそう言うと、フォス先輩はしばらく呆けた後、クスクスと笑いだした。

 

「君の前じゃ寝てばっかだもんなー」

「別に良いんですけど、重要な時には起きていて欲しいですね」

「確かに」

 

笑うフォス先輩は立ち上がり、剣を持って歩き出す。もう手は話して良いだろうと思い、手を開けた。

彼は何も言わずに、先を歩く。俺はフォス先輩の後輩だ。並んで歩くのはフォス先輩の先輩方や同僚だけ。俺はこうして、彼の後ろを歩くのが好きだ。

置きっぱなしだったノコギリ型の剣を拾って小走りに、彼の足跡を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故、何も言わなかった」

 

怒りが嵐となって舞う。建物の中なのに風が吹き抜ける。感情が怖いと告げている。

 

「月人が現れたならば、まず私に報告をと言ったはずだ」

 

ひぇえ、怖い。笑ってからの剣呑な目がとても怖い。

先の一連の出来事を話そうと、月人が現れたと言った途端これだ。心配してくれているのはわかるが、もう少し信頼してくれたって良いだろうに。まぁ俺の場合、少し危なかったんだけども。

 

「先生、最後まで話を聞いてください。叱るのはそれからでも」

 

二人並んでお叱りを受けそうになっていたが、フォス先輩が一歩前に出て提案をする。話を最後まで聞いてくれなきゃ事後報告とは言え、報告にならない。金剛さんも全て知れてWIN-WINなはずだ。

フォス先輩の言い分に渋い顔をしていた金剛さんは、考え込んだ後頷いた。話せということだ。

 

「月人が現れたのは雪掻きが終わった後でした。僕が足止めを、ホワイトが先生に報告しに行きましたが、先生は寝ていたとの事です」

「何故起こさなかった」

「椅子で殴りましたけど、起きませんでしたよ?」

「…………」

 

俺が理由を言うと、俺を一瞥してから金剛さんは続きを催促してきた。グゥの根も出ないのはこの事だ。俺は悪くないぞぅ。

フォス先輩は俺にそんな事したのか、と言うような視線を向けてから続きを話し出した。

 

「ホワイトが遅かったので月人は僕が倒しました。しかしホワイトが来た後、倒したと思われる月人がいきなり爆発しました」

「……爆発」

「えぇ、爆発です」

 

比喩でもなく、本当に爆発したのだ。爆風で吹っ飛ばされたし、爆弾を見たことは無いがあぁいうのなんだろうなぁと思うぐらいの威力でもあった。

フォス先輩と俺は爆風による損傷はなかったので良かったと言える。

 

「ただ爆発した後、僕たちを囲むようにして霧が発生しました。恐らく月人によるもので……その霧の一部は段々と集まって月人になりましたし」

 

今までにないケースだからか、金剛さんが狼狽えてる気がした。目を閉じて、ジッと考え込むような仕草をしている。

 

「月人になったと言っても、その姿は僕たちそのものでした。一人に一人ずつ、対処して倒したのですが……倒した後が問題です」

 

フォス先輩が俺の名前を呼び、その理由を理解した俺は金剛さんの前にある机に二個の欠片を置く。キラリと光るそれは宝石だとわかる。無論、俺である。

 

「これは……」

「ホワイトの欠片です。月人を倒した後、これが落ちていました。新型はこれまでに絶対という程、宝石を乗せていましたが、これは明らかに異常です」

 

新型は去年から出るようになった月人達の事だ。

通常、来る月人達の親玉月人を倒せば霧散するのだが、この月人達はそれをせず新たな攻撃手段を用いて来る。

まるで痺れを切らした様に急に出てきたそうだ。戦法を増やしたと言えば良いのだろうが、その方法が非常にカンに触る様な事をして来る。連れ去った宝石を使っての武器作りである。その形は様々であるが、武器に宝石を用いるなど月人の考えは可笑しい。

そもそもだ。装飾にしようとしてきたのに、何故武器などに用いるのか。どう考えても嫌がらせだ。

 

「武器にするわけでもない。自ら霧散して、宝石を軸に新たな身体を作り出す。可笑しいとは思いません?同じ生物とは思えない」

 

確かに。霧型生物兵器と言われても仕方がない。その時は兵器とは言え生物になるが。

フォス先輩の言葉を聞いた金剛さんは、そっと目を閉じている。思うところがあるのだろうか。その顔はいつもより険しく見えた。

 

「状況は理解した。しかし、それとこれとは別だ。これからは無断での戦闘を禁止する」

 

金剛さんの口から告げられたのは、無断戦闘禁止処分。フォス先輩は仕方がないかという表情をしてるが、俺は不満ありだ。確かに金剛さんをもっと粘り強く起こそうとせず、報連相を怠った俺も悪いが、熟睡してた彼も悪いっちゃ悪い。責任転嫁と言われても、俺は言おう。

 

「じゃこれからは夜はちゃんと寝て、昼は起きていてくださいよ。瞑想するなら報告を」

「…………」

 

黙った金剛さん。

都合が悪くなると黙る癖はやめた方が良いと思う。それは俺の言葉に肯定しているのと、図星だという事を指してるんだし。

金剛さんの態度を見て、俺は溜息を吐きたくなる。直すのは大変そうだ。変に気を使ってフォス先輩に合わせるから、自身の健康管理もできず睡魔が襲ってくる。それじゃダメだ。腐っても先生なのだし。

 

「(腐る部位ないけど……)では、この俺、貰っていきますね」

 

本格的に怒られる前に、話を切るようにして話題を変える。自身が机の上に置いた俺の欠片を回収するために一歩踏み出す。

 

「元はお前のだ。好きにすると良い」

 

落としたとはいえ、所有権は俺にある。その事をわかっていてくれている金剛さん、好きだよ。怒ったら怖いけど。

そそくさとポケットに入れて、下がる。この欠片は保存しておいて、一部はフォス先輩の顔の修復に使う。俺が欠けさせてしまったのでせめてもの償いだ。硬度が段違いだけれど、俺の脚にフォス先輩から貰った欠片があるんだから、別に逆でも大丈夫だろう。

金剛さんも言ってたしな、俺の体質はありとあらゆる物質に対応することができる、と。ま、対応と言うより馴染むと言うが良いと思うけど。

ということで早速。

 

「それでは先生、フォス先輩が少し欠けたので、その修復に行ってきます」

「うむ」

 

金剛さんにそう告げ、フォス先輩の手を取る。びよーんと伸びる事を気にせずに歩き出せば、急な展開でついていけてないフォス先輩も理解したのか大人しく歩き出した。

よしよし。そのまま何も気づかずに去らせて貰えれば良いんだが。

金剛さんの癖なのか、話が終わったと認識して机がある方向とは真逆に向いた。つまりは窓の方を向いて、黄昏始めたのだ。

 

「(気づいてない、気づいてない)」

 

順調過ぎるが、普段の行いが良いからと思っておこう。俺は賢いし、良い子だからな。問題を起こしたのは今日が初めてなのだし。

 

「ホワイト?」

 

怪訝そうに俺を呼ぶフォス先輩を余所に、俺は脚の速さを上げて金剛さんがいる部屋から出る。

その途端、大声が聞こえた。

 

「話が終わっていないっ!!!!」

 

怒声の様なそれは後ろから吹き抜ける風となって、俺たちを追い越す。追いかけてくる気配はないけれど、俺たちを呼ぶ声が焦らせる。

 

「めっちゃ怒ってるじゃん」

「激おこプンプン丸ですね。戻りたくはないなー」

「ネタが古い」

 

苦い顔をするフォス先輩に苦笑する俺。金剛さんに怒られない為に走って逃げる。

目指すは医務室だ!

 

 

 

 

 

 

 

ま、あの様子だとそこまで怒ってるわけじゃなさそうだから、急がなくて良いのだけど。

 

 




結論、二人とも悪い。

新型月人(ホワイトサファイアタイプ)

硬度:なし
靭性:なし

ホワイトサファイアを積んだ新型月人。
通常タイプの月人が倒された後、爆発して攻撃。その後散らばらせた霧から、中にいる宝石の姿を真似る。
喋れやしないが、模した相手の能力を得る。しかしどこか本物よりやや劣っている。機転を効かせることができないのが欠点。
ホワイトサファイアの凡ゆるものの特性を得るという特異体質からできた異色の月人。苦戦は必至である。
出会うのは後にも先にも一度きりだと思いたい、厄介な相手だ。

自分自身と戦うという展開は、浪漫である。
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