先生と先輩と冬   作:青火

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宝石達

 

 

月人襲来から数日。今日も今日とて深々と雪が降っていた。

今日の仕事は屋内で行う。主なのは冬眠中の皆の世話。寝相が良い奴や悪い奴もいるので、どこかに飛んだシーツとか、はだけた服とかを直したりする。またそれら含めて宝石達がちゃんと眠っているかを確認する。

フォス先輩によるとみんな個性が強く、特にボルツって人には苦戦するらしい。誰だよと思ったけど、寝たまま歩き出すやばい奴だと知ったのは今だ。

 

「この黒い髪の長い奴がボルツね。こいつ寝たまま歩き出すし、戦いだしたりするから面倒なんだ」

 

なんて事ないように言ってるけど、この美人さんはどうやら金剛さんを抜いて宝石で一番の実力者だそうで。攻撃力を表す硬度は最高の十、靭性は特級らしい。そして彼は戦闘オタクらしく、戦いは誰よりも強い。

そんな宝石が、寝ながら戦っていたりした時は、絶望していいと思う。いや、怖くて近づけないと思うぜ。特に髪。俺とは一つ違いだからそれ程傷が付く事はないが、それでも怖いものは怖い。振り回される髪は怖い。

 

「ただ、こうっしって!っと!」

 

バサリと持っていた巨大なシーツをボルツさんに被せる。すると何故か彼は歩き回っていたのにも関わらず止まり、パタリと倒れ込んだ。どうしたのかと近づくと穏やかな寝息が聞こえてくる。思わず頬が引きつった。

 

「シーツを被せると大人しくなる」

「……何故に」

「知らない」

 

フォス先輩も知らないらしい。

個性が強すぎるなぁと思いながら、こんな自我の強い人覚えてないなんてヤバイなぁとも思う。絶対アニメにも出てきたはずだ、こんな強烈な印象の人。なのに、全然覚えてない。大丈夫か、これ。

 

「(ここにいる面子を見ても、誰一人名前わからないし)」

 

まぁ一度見ただけだからそこまで覚えてないのも無理はないと思うけれど、でも大まかなストーリーは覚えてるから不思議だ。

しかしそれが苦とは思ってはいない。原作知識があったってなかったって、俺はここにいるし、こうして楽しく過ごしてる。

それに大した知識でもないし……アニメが春になったところまでで終わったからな。原作を買って読んでいなかった俺にとって原作知識とはその程度である。

つまり、あってもなくても結局一緒だったのではなんて思ったり。

 

「(まぁ、知らないよりマシだったかな)」

 

服が乱れてる宝石を見つける。穏やかに眠る彼らを起こさないようにそっと近寄り、正してやった。

この世界にとって俺の前世である人間という言葉は重要なものだ。安易に前の記憶がある事を言うべきではないとわかっていたが、気が緩んでいたのか俺の欠片を埋め込んだフォス先輩にはバレた。

砕かれ、殺されるのではないかと思ったけれど彼はどうもしないと言ってくれた。可愛い後輩なんだからと。

嬉しくないと言えば嘘になるけれど、本当に何もしないのか数日間不安だったのもある。信じてるけれど、心の奥底で怖がってた。その度に大丈夫だよとむず痒いような温かいような視線をくれるものだから、逆に気まずくなってしまって不安がるのを諦めた。

それにどうやら金剛さんには言っていないようだし……彼の言葉は本当だったらしい。

でもさー、その視線を諦めた時点でやめてくれたならば良かったんだけど、時々向けてくるからちょっとなー。なんだかな、孫を見守る祖父母みたいな感じがある。

暗い中、唯一の光源である宝石たちの頭を頼りに全員の世話を終える。これが結構骨が折れる。骨なんてないけど、全身が凝った様な感覚になるからそう表現しても良いだろう。

二人揃って足音を立てない様に布の隙間から外に出る。薄暗い中から明るい場所に出た事で、一瞬光が眩しく見えて目を細める。転けないように暫く歩いたところで、ふぅと息を吐いた。

 

「お疲れ様、ホワイト」

「フォス先輩こそ、お疲れ様です」

 

二人して背伸びをした後、お互いを労いながら笑い合う。

次の仕事は雑務だ。色々な事をまとめる報告書や、書類の整理。金剛さんに言われた事をする秘書的な役割をするのだ。

宝石たちの世話を終えた事を報告するために金剛さんの部屋へ歩き出す。相変わらず、フォス先輩の斜め後ろを歩く。くるりといきなり振り返った彼に驚きながらも笑いかける。

 

「どうしたんです?」

「いや、ね。今日初めてだったでしょ、みんなの世話」

「えぇ、まぁはい」

 

そう今日が初めて。何かと何週間もここで仕事をしておきながら、宝石たちの世話をしたのは初めてだ。それまでどうしていたかと言うと、役割分担をしていた。

フォス先輩がみんなの世話をしている間に、俺は別の事をする。遠出なる流氷割りや、戦闘が伴う見回りは一人ではさせてもらえないので、基本的に雪掻きや、雑務をしている。

そんなこんなで今まで回ってこなかった仕事なんだが、一応一緒に冬を担当しているのだからとフォス先輩は教えてくれた。そもそも今まで忘れてたらしいけど。

 

「感想は?」

「感想、ですか?」

「何でも良いんだよ」

 

感想。

顎に手をやり、ふむと考える。フォス先輩がどうしてそんなことを言ってくるのかはわからないけど、新人研修の初日最後みたいな質問だなと漠然と思う。

 

「色んな方がいたなと思いましたね。名前は知らないですけど、すっげー個性的で」

 

特にボルツさんとか。

宝石によって特徴とかも変わってくるんだろうか?と思ったけど、誰も彼も女性的だったなと思う。きっと違う世界にいったならば美少年、美少女と扱われる者達ばかりだ。これは、金剛さんの腕が良いと言えばいいのか否か。

大人の宝石だっていたっていいと思うのは俺が元々大人だったからだろうか。それを言うなら金剛さんもだけど、彼はちょっと違う気がする。何かこう、別枠的な。

 

「君に言われたくないと思うけど……」

「そうですかね?俺って平々凡々だと思いますけど。ほら、フォス先輩とかと比べると」

 

フォス先輩程個性的な人はいないと思う。だって合金の腕に、不思議な模様のアゲートの脚、大きい目なのに小さく見える三白眼、憂鬱そうな顔。ほら、個性的だ。

それに比べて、俺は普通。鏡を見たが、可愛らしい男の子(自画自賛)なだけで普通だった。一つ言えば髪型だが、それは他の宝石を見ると見劣りしてしまう。

きょとんとした顔を浮かべてから、フォス先輩は考え込んだ。暫くすると結論が出たのか、溜息を吐いて頭を振った。

 

「…………否定できない」

 

どうやら同意見のようだ。くすくすと笑ってやると、彼はジト目で此方を見てきた。

 

「でも、僕程じゃなくても君は充分個性的だよ。破天荒だもの、みんなが見たら驚くわ」

 

そうかなぁ。新しい仲間ということで驚くならまだしも、個性的だからって驚くだろうか。普遍の中で、抜きん出ていたらそうなるだろうけど、彼らは全員何かしら個性がある。金剛さんの教育のたわものだろうか。あぁいや、日本の教育論がダメなんだな。全てを普通にしようとするから、個性が隠れる。

 

「そんな破天荒じゃないですよ。寧ろ大人しい部類では?」

「寝ている先生を椅子でぶん殴ったの、後にも先にも君だけだと思うけど」

「え、みんなやらないんです?緊急事態に悠長に寝てるのが悪いのでは?いくら、恩師だからって容赦なくやっちゃって良いでしょうに」

「まぁその前に、僕らは物を大事にする傾向があるからなぁ。椅子を壊したってなると、スフェンに怒られるし」

 

スフェン?誰だろうか。いや、あの寝ている中にいたのだろうけど、名前だけ聞いても容姿はわからない。宝石の名前だから、宝石に詳しければ色で何となくわかるんだろうけど……お生憎様、俺は興味なかった。彼女もいなかったしな、婚約指輪選びに宝石と睨めっこする事はなかった。まぁあったとしても、ダイヤモンド一択だったろうけど。

有名どころ以外は知らないため、スフェンという名前を聞いても、スフィンクス?となるだけである。

 

「スフェン、ですか?」

「うん、工芸意匠担当の宝石。オレンジ色の髪でおさげの子いなかった?」

「……いたよーな?いなかったよーな?」

 

多分、三つぐらいの三つ編みを羽織りだしていた緑が入ったオレンジ色の髪の宝石。あの子だろう、と思い浮かべる。変な髪型だなー、と思いつつシーツと服を直していた。

 

「僕らは特技によって担当が決まるから。スフェンは物を作るのは得意なんだよ」

 

机も椅子も、ペンも桶もその他諸々。工芸品は全てスフェンさん作だそうだ。全て一人でやっているのだから凄いと思う。

フォス先輩によると、見回りでスフェンさんと組んでいるペリドットという宝石は紙製作担当だそうで、自分達が使っている全ての紙はペリドット製。みんなが使っている武器はオブシディアンという名前の黒い髪の子が作っていて、着ている服を作っているのはレッドベリルなんて子は赤い髪を持つお洒落さんらしい。

皆が皆、副職として見回りも担当している。忙しくないんだろうかと思うと同時に、この宝石たちがいなくなったら何もできねぇなぁなんて思う。

 

「あ、あと医療担当のやぶ……め、名医のルチルがいる」

「何故に藪医者から言い直した……」

「いや、寒気がした」

 

あのやぶ、寝ていても察するとか怖すぎ。なんて呟くフォス先輩に呆れた視線をプレゼントしながら、医者かぁとふと考える。

俺のこの体質については金剛さんから聞いた。取り込んだものの情報を読み取り自分のものとするんだそうだ。俺の中のインクルージョン達の好き嫌いがないせいのもあるけど、コランダムという他の物質を取り込んで違う宝石になるという性質からなのもある。

フォス先輩みたいに欠損しても、何でも補えるが、その代わり記憶が性格が変わるかもしれないらしい。よくわからん話だ。フォス先輩を取り込んだ俺だけしか知らないし。

 

「次会った時が怖い…………あぁでも、ホワイトも会わない方が良いかも」

「ん?何でですか?」

 

医者なのに会わないという選択肢はないんじゃないだろうか。欠損でもしたら、白粉が落ちたらという事があれば世話になりに行くのだし。フォス先輩は何回も世話になっているらしいし。

それを伝えると彼は眉を顰めて、納得していなさそうな顔をした。ピーマン食べなさいと言われた子供みたいな表情だ。

 

「君の場合欠損で世話になる事は早々ないと思うけど、下手したらジェードの上行くかもだし」

 

また知らない宝石の名前だ。

 

「そうじゃなくて、君のその体質と構成してる宝石が事だからね。彼の解剖癖が疼かなきゃ良いけど……パパラチアの事もあるし……な、あ……」

 

ん?

急に立ち止まり、思い出したかのような表情を浮かべた先輩に俺は首を傾げた。

 

「どうしたんです?」

「あ、いや……ちょっと」

 

じわじわと嬉しそうな顔をする彼にますます疑問が生じる。先ほど述べた言葉からしてパパラチアさん関連だと思うが、そのパパラチアさんの事を知らない俺には予想しかできないが、思い出したような表情という事は忘れていなかった事が嬉しかったのだろうか。

彼は体の大半を失っている。彼本来のインクルージョン達は頭と胴体しかないのだから、記憶もそれぐらいなくなっている。だからだろうけど。

 

「パパラチアの事、忘れてなかったんだなぁ……」

 

ポツリと小さな声で呟いたフォス先輩は、行こうかと俺の手を取って歩き出す。コツンと石がぶつかる音がした。

記憶を失くすというのは、覚えていたということも忘れるということで、フォス先輩には何を忘れたのかさえわからない。ただ、今思い出せた事実が嬉しくて、鼻歌でも歌い出しそうである。

小さな幸せを噛み締めているフォス先輩を邪魔するのは野暮というもので、俺は大人しく手を引かれながら廊下を歩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリカリ。カリカリカリ。カリカリカリカリ。

 

ただただ、静かな空間に響くペンを走らす音。引っかかるような音なのは、使っているペンがつけペン、つまりはインクを使ったものだからである。いくら椅子や武器を作れる宝石だとしても、ボールペンは作れなかったようだ。ただ、このペンだって相当な技術が必要なので、宝石って凄いなと時々思う。

まぁその音の発生源は俺じゃなくて、フォス先輩なんだけども。

 

「(相変わらず下手だなぁ……)」

 

チラリと目を向けた先には、ペンに四苦八苦しているフォス先輩が。多分だけど、自分でも音立てておいて良い加減にうざくなったのだろう。ずっと続くカリカリ音なんて、耳障りでしかない。

三百年も生きていても治らない癖とかあるらしい。その一つがこのペンでの書き方だが。

宝石たちは不変だ。変わることのない容姿。日々日常は変わるけども、彼らは変わることもなくそこにあり続ける。まぁ、性格とか精神に関するものなら変わるけども。それはそれとして、多分そういうのが癖が治らないのに影響しているのではないかと俺は思う。

 

「(まぁ俺も慣れてないから音鳴ってるんだけどね!!)」

 

決してこの音を鳴らしているのが、フォス先輩だけじゃないという事を頭の隅に置いておいて欲しい。

 

「(……って、誰にお願いしてるんだか)」

 

苦笑して続きを書き始める。

書いている書類はここ一ヶ月の大まかな出来事。一日ごとの報告書はあるが、それだけでは見直す時に面倒なので重要なもの以外は省き、重要なものはこうして一つの見出しとして新しい紙に項目を書いていく。

そうして作った見出しを先頭に置いた紙束が、一ヶ月分ことに保管されている。

保管することに意味があるのかは、月人マニアという名前の研究家がいるらしく、ほぼその宝石のためだという。まぁ重要なものってほぼ月人だからなぁ。

しかし保管状況が良いのか何千年も前のものでさえ、読めたりするから驚きだ。この前読みに行ったら埃がすごかったけども、ちゃんと文字として機能していた。まだ文字は勉強途中なので、全ては読めなかったが。

じゃぁ何故今文字書けてるのかって?そりゃ、報告書の見出しを写すだけの作業なのだから文字読めなくてもできますって。

よし終わった。右下に月人のデフォルメでも書いておこう。

 

「(私たちの書類!吹き出し閉じる……っと)」

 

デフォルメされているからか、可愛らしい笑顔を浮かべた月人は自分達のことを暴露されているというのに爽やかだ。あの人っぽくない笑みではない。

 

「何、してるのかな?」

 

えっと顔を上げるとフォス先輩がにこりと笑ってこちらを見ていた。怖い。

 

「えっ……と、書類の見出し作りですけど?」

「明らかに手の動きが文字を書く動きじゃなかったんだけど?」

 

ば、バレテーラ。

あれー?フォス先輩ってそこまで観察眼あったっけ?冷静で賢そうに見えてちょっと抜けてるイメージがあったんだけど。

というかさっきまでこちらを見ていなかったと思ったんだけど、いつのまに。

俺は書いていた書類をフォス先輩に見えるように持ち上げる。

 

「月人描いてたんです」

「月人……」

「可愛いでしょ?」

「可愛い……?」

 

デフォルメされた月人を指差すと、首を傾げる。なんだよ可愛いだろ。自画自賛だが、あの不気味な月人を俺にしては可愛く描けたと思う。

 

「月人を可愛いなんて言う奴、初めて見たんだけど」

「月人本人は可愛くないと思うけど、これに対してだけです」

 

そう言えば、フォス先輩は絵を見ながら何かを考えるような表情を浮かべる。多分月人を思い浮かべてるんだろう。

等身大月人が好きだなんて変わり者以外何者でない。だって敵だし。あちらに何か理由があったとしても、俺たちを狙うんだから等しく敵だ。第三者視点からなら敵役も好きになれるが、俺は第三者ではないために無理だ。

 

「いやまぁ、確かに?」

「でしょでしょ?」

 

自分が描いた絵を褒められて嬉しくないやつなんていない。緩む頬を自覚しながら持ち上げていた書類を手元に戻し、針で穴を開けて紐を通す。うん、上手くできた。

キュッと結んだ後はパラパラと紙をめくり、結び目が弱くないか確認する。そうしてから机の横に置き、初めて完成と言える。

今日はこの作業をあと二回程しなくちゃならない。

唸れ!俺の根気!なんて心の中で叫びながら、次の紙へとペンを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幾分かの静寂の後、俺はふと外を見る。朝には降っていたはずの雪が晴れ、曇ってはいるが隙間から太陽光を漏らす天を見上げた。

 

段々、雪の降る量が減ってきている。それに乗じて地面に積もっていた雪も溶け出していた。だいぶ前に作った雪だるまはもうない。

 

 

 

春が来る。

 

 

 

そう、漠然と思った。

 

 




春が来る(ネタが尽きた)

元々十話前後で終わらすつもりだったので、丁度いいかと思ってる自分がいる。
書類に関しては完全に捏造。工芸組はハイスペックだと思うよ、うん。


ボルツ
夢遊病患者。たまに攻撃仕掛けて来るやばい奴。

スフェン
すやすや。ポロリもあるよ。

ペリドット
紙は大切にね。

オブシディアン
見た目お淑やかで図書室で秘書してそうな変態。

レッドベリル
一着追加&サイズ変更なので春から大変。

ルチル
やぶ「ハッ!誰かを解剖しなくちゃならない気がします」……名医

ジェード
硬さランキング2位の人。2位の座が危うい。

パパラチア
ずっとすやすや。寝返り打てないぜ。

月人マニア
月人マニア。

ところでホワイトデーですね!お返しはしましたか?
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