先生と先輩と冬   作:青火

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四月一日

 

 

四月一日、と言えばなんの日だろう。

周りに聞けば、そもそも四月一日って何?とか言われそうな予感がするものの、元人間だった俺としてはこの日はエイプリルフールとして名高い。

エイプリルフールは一年に一度嘘をついて良い日である。確か午前中に吐いて、午後にネタバラシするという感じだったはずだ。

詳しくは覚えていないけれど、一年中嘘を吐くのにこの日で盛り上がれるのが日本人故だろうなぁとは思っていたりした。

 

 

 

そんなわけで。

 

 

「フォスせーんぱい!お花見しませんかっ!」

「あっぶない!ホワイト!急に抱きつくなって言ってるだろ!?……ってお花見?」

 

 

こんな日もあっても良いと思うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四月一日とは、エイプリルフールの他にお花見の日としても名高い。まぁ毎年の気温の変化によって桜の咲く時期はズレるけれど、大体は四月だろうとは思う。

だからこそ、こうしてお花見をしようと持ちかけた。

 

「こっちですって!遅いですよ、先輩!」

「ホワイトが速いんだよ!硬度差考えろ!?ただでさえ合金で普通より重いんだぞ!僕!」

「あはははー」

「仲良いね」

「だから、どこがです!?」

 

冬の仕事には、見張りの仕事も入る。と言っても晴れの日に歩き回るだけなんだが、何故格好の的である学校を狙わないのかは謎だけども、正直都合が良かった。

仕事にも慣れ、見張りだけならと許されたその日は見張りという名前の散歩をしていた。確かに月人が必ず来るが、その他の時間は自由なのだ、散歩しないでどうするという気兼ねで歩いていた。

その時だ、桜の木を見つけたのは。珍しいと思った。一本だけ佇むそれは巨木に近く、何百年も生きているように見えた。桜の寿命など知らないけれど、何となくこの木が満開になった時お花見がしたいなんて思ったのだ。

思い立ったが吉日。その日の内に満開になったらお花見をするとメモをして、お花見のための諸々を準備したのだ。

まぁ俺たち宝石は食事をしないので、乾杯!とかできないんだけども。

片手にはレジャーシート、もう片方には俺がずっと使ってるノコギリ型の武器。そして肩には画板を背負っている。鉛筆と紙付きだ。食事ができないなら、この光景を書き留めておこうと思ったのだ。来年もまた見れるとか思ってはいけない。この世界では月人という脅威がいる。連れ去られたら二度と帰れないかもしれないのだから、俺がいたというのは残しておきたいのだ。

さくり。さく。少し残っている雪を踏みながら、歩いているとそれを見つけた。ハート形の花びらだ。どう見ても桜の花、じゃぁもう近いな、と顔を上げる。

 

「うっわぁ……!」

 

風が吹き抜けた。花びらが舞う。けれど欠けていった花びら達がいてもまだ平気だと言うように、その木は満開の桜を咲かせていた。

 

「こんな木あったんだ……」

「見事なものだな……」

 

後ろから驚いたような声が聞こえた。ふふふっドッキリ成功だな!特に何も考えてなかったけど!

そんな二人に頬を緩ませながら、巨木の下にある良い位置を探しだし、そこにある全ての石をどこかに捨てる。話によれば岩にも負けるフォス先輩だ。割れてしまっては元も子もないので、慎重に探し出した。

何もないことを確認してから、でかいレジャーシートを広げる。バサリと音を立てて広がったそれはうまい具合に決めてた位置に舞い降りた。その四隅に石を置いて、準備万端だ。

 

「ささっ!座ってくださいな、フォス先輩、金剛先生」

「どこからこんなもの……まぁ良いか」

「む、すまないな」

「靴は脱いでくださいねー」

 

俺がそう言うと律儀に靴を脱いでレジャーシートの上に上がる二人。フォス先輩は裸足、金剛さんは足袋だ。俺はもちろん裸足である。

木に向かって横に並んで座る。俺、フォス先輩、金剛さんの順番だ。フォス先輩ってばモッテモテーなんて言ったら殴られる気がするので言わないが、彼を真ん中にするあたり、俺も後輩板が付いてきた気がする。

彼らはあまり話さないというわけでもないが、物静かなタイプなのでゆっくりとした時間が流れる。最近フォス先輩は生き急いでいるような気がするから、こうして誘ったのだ。アニメの原作と同じならば、彼はこれから大変そうだし(他人事)

 

「そういえば、紙と鉛筆なんて持ってきてどうするの?」

 

舞い落ちる花びらを合金でキャッチしていたフォス先輩が急にこちらに振り返り、そう質問してきた。

細く伸ばした合金が集まり一つの手の形になったと思うと中には大量の花びらが。伸ばしている右腕とは反対の腕を器の形にして、その中に入れた。まるで蓋をするように球体ができる。

それを横目で見届けながら鉛筆を動かしていた俺は、もう一度完全に桜を見る。

 

「絵を描くんですよ。この光景を残すために」

 

写真とかあったら便利だけど、機械を作れる宝石がいないために仕方がない。俺もそんな頭良くないしな。理系より文系である。

俺の言葉にはてなマークを頭上に浮かべたフォス先輩に苦笑いしながら、俺は立ち上がって巨木に近寄る。

靴は履かなくて良い。レジャーシートは木の根元付近まで伸びているために、そのままいけた。右腕を桜の幹に沿わせる。パラリと木の皮膚が舞った。

 

「この様子だとあと何年花を咲かせてくれるかわかりませんからねぇ。幹が少し朽ちてるから」

 

詳しくはわからないけど、この木が老いているのはわかる。

優しく愛おしく撫でる。先程とは違い、何も舞うことがなく、ただ花びらが目の前を通過した。歓迎されているようで嬉しく思う。

 

「好きなのだな、この木が」

 

頭にシルクの手袋の感触がする。シルクかどうかはわからないが、俺の中ではそんな感触なのでそうと名義している。

イケメンボイスが上から落ちてきたので、俺は顔を上げる。そこには薄く微笑んだ金剛さんがいて、はいと俺は肯定する。

だって嘗ての故郷を思い出させてくれる木だ。好きじゃないわけがない。

 

「博物誌には、フォスよりお前の方が向いているかも知れないな」

「博物誌?」

 

こてりと首を傾げる。博物誌とは何だろうか。多分だがアニメにも出てた単語だとは思うけれど、何も思いつかない。殊更、重要な単語でもなかったのかもしれない。

 

「博物誌とは、全ての事柄を調べ記す仕事のことだ」

 

なるほど、言葉通りだな。

博物誌の事を記憶していると急にぐいっと肩を引かれる。左横を見れば、フォス先輩が俺の肩を引っ張っていた。

 

「先生、僕はお役御免って事ですか?」

「そうは言っていないだろう」

「確かにホワイトは賢いですし、一度学んだ事に真摯に取り組めますけど!僕から仕事奪う気で?」

「最初、駄々をこねてたのは何処の誰だったかな?それに渡した紙、失くしただろう。モルガナイトから聞いた」

「…………あのピンク頭め」

 

忌々しそうな顔をしているフォス先輩。

なるほど、博物誌とはフォス先輩の仕事だったのか。似合いそうなものではあるが、金剛さんの言葉から察するにフォス先輩にとってはあまりしたくない仕事らしい。

というかモルガナイトとは誰だろうか。ピンク色の髪の毛をした宝石だとはわかったけど。

 

「それに最近では、その事すら頭から抜け落ちていたのではないか?冬の事を任せていたので仕方はないが……」

「うぐっ……みんな起きたらしますよ!」

 

なんだかんだで金剛さんには弱いのか、結局は博物誌の仕事はフォス先輩の担当になった。ただまぁ納得はいかないのか、できるのか不安そうだったので少しは手伝ってあげようとは思う。フォス先輩、あぁ見えて絵が下手くそだし。博物誌と言うからには絵は必須項目だろう。

苦笑してするりと彼らの間から抜け出す。最初の定位置に戻って、紙と鉛筆を持った。胡座をかいて良い位置に画板を置けば、設置完了。

隣に戻ってくる彼らを横目に、鉛筆を薄く引いて線を描いていく。今日はアタリとペン入れ。つまりは着色一歩手前まで持っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

サラサラ、サラサラサラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

何分経っただろうか、とても集中していた。汗なんて出ないのに、額を拭う動作をして顔を上げる。

ふとよく晴れた日なのに、月人が来ていない事に気づく。こんな日はここぞとばかりに襲ってくるのに可笑しいな、なんて漠然と考えた。

だからだろう。隣にいたフォス先輩と金剛さんがいない事に気付かず、少し陰っているのに気づくのが遅くなったのは。

 

「なんか、暗い……」

「あぁ、ごめん。少しの辛抱だから」

 

声がした。この冬慣れ親しんだ先輩の声だ。

やや後方頭上付近から降られた音の元を辿って振り返ると、フォス先輩が合金を広げて何かから防いでいた。うーん、デジャヴ。

 

「先生!速攻で終わらせてくださいよ!」

「あぁ」

 

キラリと何かが光る。それが金剛さんの攻撃なのに驚くのと、月人が来ていて気がつかなかった己の集中力に悪態を吐きたくなる。

周りを遮断できるほどの集中力は時として致命傷になる。今この時のように誰かがいてくれればそうでもないけれど、そんな事はあまりないので自身の判断に任せるしかない。

次から、屋外でのスケッチは誰かに同行してもらう事にしよう。

合金の奥で何かが爆散した後、陰を落としていた天幕は降ろされた。広げていたフォス先輩が振り返る。

 

「うん、あの木にも被害はなし、か」

 

良かったと息を吐く先輩。こういうものに興味持つなんて珍しいな、なんて思いながらも守ってくれたので立ち上がって礼を言う。

 

「ありがとうございます。気づかなくて、すみません……」

「それには驚いたけど、知らせようとしなかったのは先生と話し合った結果だし、別に良いよ」

「その通りだ。気に病む必要はない」

 

いつのまにか来ていた金剛さんに撫でられ、フォス先輩にも頭に手を置かれる。重い。

この人達は、どうやら俺が集中していたのを邪魔しないようにしていてくれていたらしい。向けられた気遣いに嬉しくないわけがなく、ゆるりと頬が綻ぶ。

手伝えなかった罪悪感はあるけれど、もう終わった事。次に活かせば良い。

 

 

今はただ、この手に甘えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その後に絵を褒められたのはすっげぇ嬉しかったなぁ……」

 

ギシリと音がなる。俺がその上に座ったからだけど、この音で起きないかななんていつも思った。

かけられている布を取る。棺桶に入れられる前みたいだと不謹慎な事を思いつつ、捲られた布の下から覗く見慣れない顔に知らず識らず眉を顰めた。

その青い髪を撫でる。泣きそうなのに泣けない。

 

あぁ、貴方のために泣けない俺を許してくれ。

 

あぁ、貴方を止められなかった俺を、俺は許さない。

 

これから遠くへ行くのだろう。貴方は主人公だから、どうしても手の届かない何処かへ。

俺はついていけるのだろうか、どうなのだろうか。わからない。

 

「でも、でもだ……貴方は俺の先輩だから、俺は貴方の後輩だから」

 

たまには、弱みを見せてくれても良いんだよ。

 

そう呟くも、届かない。

 

「相変わらず、劇的ビ◯ォーア◯ターだな……」

 

イメチェンのし過ぎだ。

 

 

 

 

 

なぁ、フォス先輩。

 

 

 

 

 

 

もはやフォス要素が胴体だけになった彼を見ながら、薄く微笑んだ。

 

 




ということで番外編、エイプリルフールネタでした。もう二日だけどな!細かいところは気にしない!ネタが降って来たんだ、仕方がない。

モルガナイト
ピンク色の長髪、俺口調のやんちゃ坊主。キャラが濃かったのに、さらりといなくなってて作者が驚いた宝石。

多分、上手くいけば次の話が最終回。
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