真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第一話:鄧艾

俺の両親は貧しい、どこにでもいる農民だった。

 

毎日田畑を耕し、家畜を育て、代わり映えの無い毎日だった。

 

そんなある日出会ったのは、一人のオッサンだった。

 

『み・・・・み、水をぉ・・・・』

 

そうやって、水どころか俺の昼飯まで平らげやがったオッサンは「太公望」と名乗っていた。

 

『お前さん、見所ありそうだな。うむ、飯の礼だ、オジさんの全てをお前さんに叩き込んでやろう』

 

その日から、俺の日課に自称太公望のオッサンとの授業が組み込まれた。

 

軍事的なものから政治、農耕、治水に築城と多岐に渡るオッサンの授業は俺を飽きさせる事は無い。

 

しかも武術の鍛錬までさせられた、オッサンメッチャ強かったけど。

 

そして二年が経ったある日、オッサンと突然の別れとなった。

 

『いやー、居心地良いからついつい居着いちまったが俺は風来坊だからよ』

 

なんて、ワケの分からない事を言いながら再び旅立っていった。

 

 

 

 

その翌年、両親が流行病で揃って亡くなり天涯孤独になった。

 

・・・・まぁ、孤独とは言い切れなかったな。

 

村には俺を何故か「アニキ」とか「親分」と呼んで付き従ってくれていた連中がいた。

 

んで近隣の村の若衆をぶっ飛ばしている間に気がついたらそこら一帯をシメる結果になったわけだが。

 

 

 

さらに翌年、近年まれに見る大飢饉。

 

しかし朝廷からは増税の布告、食うに困った民が暴動を起こすのも時間の問題だった。

 

『やってられるかオラァ!!』

 

というより、俺が先頭に立って暴動を引き起こした。

 

いやぁ、まぁホラ?周りから祭り上げられて、勢いで「やったるぜ!」って二つ返事しちゃって。

 

んでもって世の中、計画的犯行よりも勢い任せの方が上手く行くと言う不思議な事象がある。

 

結論から言おう、まさかの官軍を撃破しちまったんだなコレが。

 

数年前にオッサンから習ってた兵法とかそう言うのがモロに嵌った。

 

『良いか?極論、相手が嫌がる事をしろ。戦ってのはそんなもんだ。一に嫌がらせ、二に嫌がらせ、三四が無くて五に嫌がらせだ』

 

何ともゲスい発想だが、至言だとも思う。

 

それからと言うものの、どうやら俺が撃破した太守が恥も外聞も無く近隣の諸侯に援軍を頼んだらしく。

 

片っ端からそれを撃破し続けた、俺もきっとあまりの絶好調さに有頂天になっていたんだろう。

 

その絶好調が、ある日突然終わるなんて思わなかったんだ。

 

 

 

 

太守はとうとう、郡をまたいでの援軍を要請した。

 

陳留太守、曹操。

 

隣の郡でも評価の抜きん出ている新参の太守。いつもと同じ調子でそれとぶつかったのが間違いだった。

 

先鋒の軍に罠と言う罠を真っ向から喰い破られて。当然ながら真っ向勝負は通用せず、搦手も後詰の軍に見破られ。俺の方も村のゴロツキ時代からの付き合いの連中は最後の最後まで踏ん張ってくれたが。それ以外の、途中で吸収した連中や勝ち馬に乗ろうと合流した野郎共が逃げ始め。俺が捕まった時、五百人もいた手勢が俺の周りには三十人ぐらいしか残って無かった。

 

「貴方が賊の首魁?」

 

捕らえられた俺の前に現れた少女は、一言で表すなら焔。敵対する全てを焼き尽くし、付き従う者の道を明るく照らし出す焔。一目見たその瞬間に、俺はその焔に魅入られていた。

 

「ここまで貴方が追い払った官軍の中には決して無能では無い者もいた。この私でさえも、貴方の兵がもう少しまともだったなら危うかった事を認めざるを得ないわ。それだけの手腕を持ちながら、何故賊になど身を堕としたのかしら?」

 

俺は全てを語った。身の上、ここまで至った経緯、そして師匠の事。

 

「面白いわ、『太公望』を名乗る者の弟子とはね。でも私は手の届かぬ『太公望』よりも貴方を欲するわ。兵数、質、共に差があるこの状況で二刻もの間耐えて見せた、その手腕を私は買うわ」

 

次の瞬間に、俺の口からは一つの疑問が投げかけられていた。

 

「アンタは、何をしようってんだ?例え才があったとしても、俺みたいな賊まで手中に収めて」

 

少女は、笑みを浮かべながら返答をする。

 

「天下統一、私はこの国を一つに統べる事で泰平の世を創る。そのためならば身分など些事でしか無いわ、それに・・・・貴方は私欲で立ち上がった俗物では無い、それだけで我が旗下に加えるに十分よ」

 

少女がその手に持つ大鎌で、俺の手を縛っていた縄を断ち切り言葉を続ける。

 

「貴方が私を主足りえんと思うならば今直ぐにここを去りなさい、今ならば見逃しましょう。でも、もし私と共に来る気があるならば・・・・私は歓迎するわ」

 

戒めの解かれた手をじっと見つめてから、俺は再び顔をあげる。

 

「既に、この身は無かった筈の命」

 

片膝を付き、拱手しつつ俺は口上を述べる。

 

「我が名は鄧艾!我が真なる名は吼狼!この身、この魂、これより曹操様の刃であり盾であり続けましょう!」

「宜しい。我が真名、華琳の名を信頼の証として貴方に預けましょう。吼狼、貴方の知勇に期待するわ」

「はっ!!!」

 

俺の新たな道は、ここより始まるのだと。俺ははっきりと実感していた。

 

SIDE 太公望

 

弟子が歩むと決めた新しき道の始まりを、遠くから眺めていた。

 

「珍しい事もあるものだな、貴様が一人の・・・・しかも介入者ですら無い人間に入れ込むとは」

「オジさんだって生きてる、気まぐれの一つや二つはあるさぁ」

 

いつの間にやら傍らに並んで座っている青年、左慈を横目に見ながら俺は更に続ける。

 

「世界の変え方は一つじゃあない、外からの力だけじゃなくて中からも変えなけりゃ流れは変えられない」

「・・・・本当に意外だな」

「天の御使いの少年、その一人の肩に重荷を背負わせちゃあかわいそうでしょうよ。意識的にしろ無意識にしろ、荷を背負う手数は多い方が良い。直接介入して世界そのものを消そうとした誰かさんや、当たり前みたいに紛れ込んでるバケモノ二人よりはマシだと思うがね?」

 

俺の言葉に、左慈がしかめっ面になる。付き合いの長さは俺も忘れたが、ずっと昔から『こう』だ。感情的で、それが顔に出やすい。

 

「誰かを愛し護るために奔走し、皆から愛された者がただ一人。その行く末を見る事なく消えていく、そんなのは俺の趣味じゃない。折角この『外史』は俺に任されたんだ、俺なりのやり方を貫かせてもらおう」

 

弟子にも重荷を背負わせる事になった。

 

鄧艾、本来の歴史ならその名は何十年も後。三国も末期に至ってより煌く将星の名。だが、何の因果かかの者は三国の始まりへと現れた。なれば彼も、あの少年とは違えど『特異点』とも言うべき存在なのだろう。『鄧艾』と言う輝星がこの外史にどれだけの波を巻き起こすかは私も予見出来ない、だが彼ならば何かを成してくれる気がするのだ。

 

「世界の有り様を変えるのは何時だって人の力だ、人の持つ無限の可能性、人と人との絆の力。俺はその可能性の限界を見てみたいのだ」

 

さぁ、下らぬ世界(管理者)の思惑を乗り越えて見せろ・・・・弟子よ。




第一話でした。

かなり短めで終わってしまいましたがいかがだったでしょうか?

多分ですが太公望に出番は以後、殆どありません。主人公に様々な知識と技能を授けるためだけの登場だったので。左慈も同様、ここだけの登場です。

次回から原作キャラばんばん出ます・・・・・・・・・・・・多分。

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