真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第十話:表舞台へと

燈と喜雨(陳登)の救援を終えて後、俺たちは一度陳留へと戻り補給と休息を取る事にした。途中で吸収した義勇兵や賊の降兵の事もあるし、州牧としての業務の事も考えれば戻る必要性もあるとの判断だった。

 

それにだ。

 

今は『下準備』をすべきだ、と言うのが俺、華琳、桂花、立夏の共通の見解だった。洛陽方面でのキナ臭い噂も燈から伝えられている。黄巾討伐の軍とそれに備える軍を分けるべきだ、となったのだ。

 

「なら華琳が陳留に残り備えを、俺が黄巾討伐に、それで良いんだな?」

「えぇ、本来ならば私がこの乱の終止符を打ちたいのだけれども。『鄧艾』と言う才を大陸中に知らしめるには絶好の舞台だもの」

 

舞台袖じゃなくて舞台に上がれ、ってことね。

 

「一刀、由空、立夏、犹はこっちに欲しいんだがな」

「あら?迅はいいの?」

「・・・・今しばらくは秋蘭の下で学ばせる、その方が良いんだよ。迅にとっても、秋蘭にとっても」

 

どういう事だ、と華琳の目は問いかけてきていた。だが俺は首を横に振り、今は説明出来ない、と意思を示す。だってあくまで俺の感覚なんだもんよ。

 

「そう・・・・なら華侖、柳琳、凪、真桜、緋那もそれに付け加えるわ。兵数は一万、他の官軍も直に現状を嗅ぎ付けてくるわ」

「分かってる、『このために作り出した状況』だ」

 

陳留に戻って直ぐ、俺の進言で華琳は州牧として兗州全域の関所にとある命令を出した。

 

『兗州に入る者は自由に入らせろ、ただし出ようとする者は厳しく精査すべし』

 

入るのは簡単、出るには難解。それにより、他州で敗走した黄巾が分散しながらも兗州領内に集まっている。今はまだ二万、三万程度だ。だがそれが次第に膨れ上がってくれば?黄巾が集まるであろう地点付近には兵力を集め、劉岱、張邈、鮑信ら兗州東部の諸侯にも協力を仰ぎ徹底的に警戒態勢を敷いて貰っている。このまま膨れ上がり続け、糧食の補給もままならなくなってくれば、自然と士気は落ち、立て直しが効かなくなってくる。

 

「それよりもだ、あの件はどうする?」

「今はどうしようも無いわね、救いは孫策がこの事を袁術に報告していないらしい、と言う点だけれども」

 

官軍の援護に赴いていた春蘭が急に後退した賊を負う最中に淮南へと侵入、淮南太守である袁術配下の客将孫策と協力し賊を一掃。これが袁術側、もしくは孫策からの申し出によるモノならば良かった。だが春蘭が『釣られた』のだ、それぐらいの事をやってのける指揮官が黄巾にはいる・・・・と言うのは割とどうでも良い、春蘭が釣られるのはよくある事だ。だがその結果、孫策に助けられたと言うのが問題だ。

 

「向こうも今すぐにどうこうしろ、ってつもりは無いらしいな」

 

ちなみにその春蘭だが、お仕置きとして今は『私は馬鹿で猪な筆頭武官(笑)です』と言う札を首から提げさせて太守府の廊下に立たせている。

 

「まぁ、当人もマズイ事をしたと言う自覚はあるようだしな。あとは戦働きで失態を取り戻すようにさせとこう」

「そうね」

 

『江東の虎』と呼ばれた孫堅、その娘の孫策。田舎者だった俺だって知るような英傑の娘だ、今は諸事情により袁術に従属してはいるがそのままの境遇に甘んじる程大人しい気性では無いだろう。

 

「それで?黄巾を膨れさせ、統制を自壊させ、最後の一手は?」

「見てみなけりゃなんともな、まぁ『火』だろうがな」

 

少数で多数を叩くには古典的だが最も効果的だ。一刀たちに火計の効果と怖さというのを教えるのにも良い機会だろう。

 

「ともかく、補給は一日かけて入念に。その分だけ連れて行く連中を休ませるつもりだからよ」

「ええ、分かっているわ」

 

―――――――――

 

その日の夕方、俺は出陣予定の将全員に招集をかけていた。場所は俺の屋敷、そこに設けた会議室。一刀の『会議だったらこれだろ!』と言うワケの分からんノリで設置された円卓には俺を基準に左回りで一刀、立夏、犹、緋那、由空、真桜、凪、柳琳、華侖の順番で席に着いている。

 

「まぁ察しはついているだろうが、黄巾本隊との戦いにはこの面子で行く事になった。兵数は一万、俺が総大将で副将として一刀、華侖、柳琳の三人だ」

 

一刀の表情に緊張が走る。これは予め、一刀には予告していた事だ。先日の沛城救援において一刀は第一功となり、正式に将として直属部隊をあずけられる事になった。現在は、立夏と凪を補佐として部隊の運営を行っており、春蘭、秋蘭、華侖、柳琳に続く直属部隊持ちとして武官で上から五指に入る存在となったワケだ。

 

「出陣は明後日、再編と補給が終わり次第だ」

 

質問はあるか?と問いかければ、緋那がシュタッと手を上げる。

 

「編成はどうなるんですか?」

「臨機応変、ただし接敵する必要がある場合は・・・・」

 

「右翼を一刀、立夏、凪で北郷隊を中心とした二千」

「宜しくな、立夏、凪」

「えぇ、お任せくださいな」

「はっ!」

 

北郷隊は新設されたばかりの部隊で兵数五百、練度は低いが元々は凪、真桜、沙和が率いていた義勇軍が中心となっており、兵卒間の親和性はかなり高い。指揮するのも最近軍才を発揮しはじめた一刀に、武力では軍内で五指に入る凪、そして視野の広さと抜け目のなさがウリな立夏。安定感はかなり高いだろう。

 

「左翼を柳琳、由空、緋那で虎豹騎を中心とした二千」

「お二人とも、よろしくお願いしますね」

「はっ!柳琳様のために!」

「由空さんってもしかして・・・・」

 

曹操軍最強、との定評がある虎豹騎。それを指揮するのは万能な柳琳と、元虎豹騎兵長のであり武勇、智謀両方に定評がある由空に堅実な手腕を持つ緋那。一番心配が要らないのはここだと思う。

 

「前衛は華侖と犹で曹仁隊を中心とした二千」

「犹っちと組むのは久しぶりっす!」

「・・・・・・・・そうですね」

 

曹操軍で最も自由奔放な将である華侖と数ヶ月前まではその補佐をしていた犹、華侖が突拍子もない事をやりそうではあるが、犹がしっかりその穴埋めはしてくれるだろう。犹が心なしか死んだ目をしているがそこは耐えて欲しい、他に華侖に対して満足な補佐が出来る人材がいないんだから。

 

「本隊、兼後詰として俺と真桜で鄧艾隊を中心とした四千となる」

「ウチかいな!?」

 

そして鄧艾隊を中心とした四千は他隊への予備兵を内包し、いざとなれば真桜や武官候補たちに兵を率いて迅速に走ってもらわなければならない。場合によっては俺が出なければならない、その時に人員と予備兵の割り振りを的確に、冷静に、やってくれるのは真桜だろう。

 

正直言ってここ最近の新人の中で一刀の次に俺は真桜を評価している。単純な手腕だけなら俺の直下では緋那や由空の方が上だ、だが先日まで庶人だったと言うのが信じられないくらいに真桜の精神は完成している。必要な事を必要だからと割り切り、公平な目で優先順位を定め動く事が出来る。熟練の将でもそこまで完成した思考を持っている者は少ない。もしかすれば一刀とは違う方面で、将として大成する事が出来るかもしれん。

 

「この陣容は確定事項だ、異論、反論は認めるが俺を論破しなければ要望は通らないものと思え」

 

俺の宣告に、口を噤んだのは犹と真桜だった。真桜は予想していた、やろうと決めればちゃんとやるが普段は割とだらけてるところがあるからだ。だが犹だけは予想外だった、確かに華侖の隊の気風が合わなくて異動を願い出た、と当人は言っていたがそこまで嫌か。まぁ今更変える気はさらさら無いが。

 

「今回は何よりも速さが求められる、()く黄巾の討伐を完遂し『次』に備えなければならない」

 

黄巾による乱など始まりでしかない、俺や華琳はその先に更なる乱が待ち受けていると予想している。その乱に備えるためにも、今ここでつまづくわけにはいかない。そして先を見据えたからこそ、春蘭、秋蘭の二枚看板を待機に回したのだ。俺に華侖、柳琳を除けば将になって、あるいは曹操軍に入って日が浅い者ばかりを連れて行くのだ。今でなければ、将としての経験を積ませるような運用はできないのだ。

 

「俺はお前らの中にある『可能性』を信じて采配を振るう、感じるがままに駆けろ、思い描くがままに兵を操れ、本能のままに武を奮え」

 

「俺たちの目指す場所は遥か先にある、立ち止まってる暇はねーぞ!!」

 

―――――――――

 

曹操の四天王、後にその筆頭とされる『鄧艾』。

 

その名前が中華全土に、確かな形で知れ渡る日は近い。




第十話でした。

今までの吼狼はどちらかといえば裏方でした、気づく人は気づく縁の下の力持ち的な。それが表舞台へと名を挙げるのが次回となります。そして黄巾党編も後一話か二話、その後閑話を挟んで反董卓連合編へと突入したいと思います。

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