真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第十四話:階

「・・・・キナ臭い話だなオイ」

 

洛陽近辺に潜ませていた密偵、そして燈から流されてきた情報。十常侍が涼州の董卓を、対抗するように何進が冀州の袁紹を、それぞれ仲間に引き入れ裏で色々と画策していると言うモノだ。董卓の思惑は分からん、袁紹は確実に周囲にノせられた結果だろうが・・・・今のところそれ以外の諸侯に動きは無い。働きかけ自体はあったのだろうが、様々適当に理由を付けて状況を静観、と。それが本来は正しい対応なんだろうがなぁ・・・・

 

「華琳様はどう対応なされるのでしょうか?」

 

稟が報告書を覗き込みながら、問いかけてくる。

 

「静観、だと思われます。我らは洛陽から近い、十常侍であろうと何進であろうと、どちらかが軍を動かせば否応無しに巻き込まれる位置にあります。ギリギリまで状況を見極めなければ最悪の事態も考えられます」

 

景の言も最も。周囲を他の諸侯に囲まれている状況だ、選択肢を間違えて袋叩き、なんてなったら目も当てられない。

 

「吼狼殿は・・・・どうなると思いますかな?」

 

星の一言に、一斉に視線が俺へと向けられる。今定陶に駐屯している武将、軍師たち。犹、景、由空、真桜の飛雷騎の将、星、稟、風の新参組、一刀、凪、立夏、沙和の北郷隊の面々が、息を飲むのが分かる。

 

「間違いなく一波乱起きるな」

 

董卓は知らんが、華琳から聞いていた袁紹の人となり、十常侍と何進の現状を鑑みれば一目瞭然。そしてそれは俺と華琳の共通見解だ。

 

「よもや、とは思いますが・・・・『飛雷騎』は初めから『こうなる事を見越して』作られたのですかな?」

「・・・・俺たちが見越したのは『これ』じゃねぇよ」

 

その発想に至って発言した星、あたりを付けていたであろう犹、稟、風、立夏らも流石だ。だが俺や華琳からすれば『まだまだ』だ。

 

「『飛雷騎』を作ったのはこの『後の後』のため、まぁ・・・・相応の働きはするがよ」

 

この後に確実に来るだろう一波乱で『飛雷騎』としての活躍をするつもりは無い。個々人での活躍が出来るように差配はする、だが『飛雷騎』は『曹操』にとっての『切り札の一つ』として作られた。未だにその完成を見せていない以上、まだ切れる札では無いのだ。

 

「とにもかくにも、先ずは目の前の事を片付けていこうや」

 

―――――――――

 

槍と槍がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。初めは互いに探り合うように、そしてそれは徐々に速度を上げ、音を置き去りにするかの如く打ち合いとなる。

 

「オラァっ!」

「ぬ!?」

 

互いの槍が弾けた刹那に、俺はつま先で土を対峙する星の眼を目掛けて蹴り上げる。無論、それを避けれない星では無い。だがその身動ぎ一つが俺たちの戦いでは致命的な隙となる。

 

「俺の勝ち、だろ?」

「むぅ・・・・」

 

俺の槍が、星の喉元へと突きつけられている。星は俺を、頬を膨れさせながら納得がいかない、と言う眼で睨んでくる。

 

「綺麗に戦おうとするな、それが許されるのは突出したひと握りのバケモノ連中だけだ」

 

天賦の才や圧倒的な実力、それがあって初めて正々堂々に勝負、ってのが許されるんだと俺は思う。そうでないなら、今ある手札を十全に使い、小技、小細工、不意打ちとやれる事を全てやってでも戦うべきだと俺は思う。『誇り』を重んじるのは構わない、だが俺たち将は部下を、兵士を生かして還す責務もあると言う事を忘れてはならない。

 

「ただの流浪の武人でいたいならその『誇りを重視する武』のままでいれば良い、だが・・・・仕官し、将としての生き方を望むなら『武人としての誇り』なんてものは投げ捨てろ。将であるという事は、将が背負うべき責務は、そんなものよりも遥かに重いんだからよ」

「・・・・」

 

 

SIDE 星

 

『見定める、か・・・・ならそれに相応しい働きをして見せなけりゃあなぁ』

 

曹操軍へと仮仕官してからそれなりの期間が経とうとしていた。春蘭や秋蘭をはじめとした幕下の殆どは大よそ掴めた、と言って良い。だが未だにその人となりを、実態を、掴みかねている者がいた。

 

吼狼殿。華琳殿が血族を除けば最も信頼する家臣であると言う、その出自を聞けば元は農民、しかも一時期は農民反乱を指揮していた立場だと。当人に聞いてみてもそうだ、と否定は無く。だが実力は確かだ。私が過去に相手にした者の中で最も手強い、単純な武力もそうだが勝つために手段を選ばない。それが顕著に現れるのは軍を指揮する時。例え相手が一山いくらの賊だろうとも、手を一切抜かない、ありとあらゆる策と戦術を駆使し須らく討つ。

 

『俺たちには兵を生かして帰す責務がある、どれだけ勝ちを拾おうとも犠牲だらけじゃあ次が無くなるからだ』

 

そんな事を言う人を初めて見た。部下も、末端の兵士に至っても吼狼殿を悪く言う者はおらず、それどころか周辺諸侯にその配下の才ある者たちがこぞって警戒と共に評価しているだけの逸材。

 

「ただの流浪の武人でいたいならその『誇りを重視する武』のままでいれば良い、だが・・・・仕官し、将としての生き方を望むなら『武人としての誇り』なんてものは投げ捨てろ。将であるという事は、将が背負うべき責務は、そんなものよりも遥かに重いんだからよ」

「・・・・」

 

その強さの芯にあるのは、『誇り』では無かった。『上に立つ者としての責任』、それが吼狼殿と言う一個人の芯であり、鄧艾と言う将を作り上げた『信念』。ハッキリと今理解出来た、『分からない』のではなくて、『分かる事を拒んでいた』のだ。負けず嫌いな性根が、理解する事を拒否していたのだ。

 

「・・・・・・・・今宵、華琳『様』と吼狼『様』は時間がおありですかな?」

「・・・・職務や閨程度の用事しか無いのならば華琳にも時間を空けさせよう」

 

今、『趙雲と言う将』と『星と言う武人』は揃って生まれ変わった。

 

かつての『愉悦』と『居心地』だけを求めていた己ではない。吼狼を『支え』『観る』事に今は全てを注ぎたい。一人の将として、この人の采配で戦い、一人の女として、この人と傍らで支えたい。

 

―――――――――

 

「どう言う手練手管を弄せば星を誑かせるのかしら?」

「俺に聞くな」

 

『趙雲子龍、真名を星。これより正式に華琳様の旗の下、この槍を振るいとうございます』

 

夜半、夜回りの兵ぐらいしかいないだろう太守府の謁見の間で星からそんな宣言をされたのがつい先程の話。

 

『願い叶うならば、吼狼様の矛として戦わせて頂きたく』

 

華琳が所属に関して希望はあるか?と問えば帰ってきたのはそんな答え。そこでさきの華琳のセリフが出た、と言うわけだ。正直、俺も華琳も星が出て行く確率の方が高いと予想していた。それはそれでいい、元々そういう約束で手を貸して貰っているのだから、せめて舐められないように、敵対する事がある場合は畏怖を覚えるようにと色々見せつける程度で済ませるつもりだった。

 

「だがあれは原石だ、それが留まる事を決意したならば重畳だろうよ」

 

それが何の因果か残ると言うなら結構、将として鍛え上げたならば相当な逸材だ。資質と言う点では真桜と同等、総合的に見ればかなりの有望株。得こそあれど損は無し、何より香風、稟、風が両手を挙げて喜ぶだろう。知人、友人と敵対する、何ていうのが当たり前の時代ではあるが、そうならずに済むならそれに越したことは無い。身体の傷は時間をかければ快癒する事が多いが、心の傷は往々にして癒えない。心腹、竹馬とも言えるような友を斬ったともなれば芯の弱い者は壊れ、強くても幾ばくかの不具合が出るのは間違いない。

 

「当人の要望通り、星は『飛雷騎』へ配属するわ。他に要望はあるかしら?」

「軍師を一人、今すぐでなくとも良い」

「分かったわ」

 

これから『飛雷騎』は徐々に規模が大きくなってくる。そうなってきた時、『図面を描く』のが俺だけじゃあ必ず限界が来る。だから俺以外に、俺とは違う角度からモノを見れるヤツが欲しい。

 

「予定が早まりそうね」

「真桜の発明品とはワケが違う、未完成品をぶつけるつもりはねぇぞ」

「いいえ、ぶつけてもらうわ。『切り札』を隠し持つ事も大事だけれども・・・・『見せ札』も必要でしょう?」

 

『鬼札』となる『前』を見せつける事により錯誤させる、って事か。俺はできれば温存したかったが、それも面白いかも知れないな。見せつけた後は周囲の予想を上回れれば俺の勝ち、下回るかドンピシャなら俺の負けってわけだ。

 

「わぁったよ、事が起こるまでには仕上げておく」

「えぇ」

 

束の間訪れる静寂、先に口を開いたのは俺だった。

 

「いよいよ・・・・だな」

「そうね、ようやくよ」

 

俺が華琳の傘下に入って以来、幾度となく話し合った。俺と華琳で画く『天下統一』と言う『夢』を、その先の『天下泰平』と言う『未来』を、ようやくその始まりが訪れたのだ。

 

「覇道の完遂するその日まで、俺は矛となり盾となりて手向かう全てを打ち払おう。我が王よ、何があろうともその歩みを止めるな」

「私は私の覇道を完遂するまで止まらない、だから死ぬ気で私の障害を打ち払いなさい。そして必ず生き延びなさい、貴方の舞台はその先にも続いているのだから」

 

妙に芝居がかったやり取りに、二人揃って笑みを浮かべる。

 

『覇王』曹操とその右腕、『雷公』鄧艾。その名が誰もが知るものになる・・・・その時は近い。




第十四話でした。

星が曹操軍に入りました。いやー・・・・勢いに任せてやったものの、どうやって呉蜀とのバランスを取ろうかと迷ってます。

更新がかなり遅れてます。と言うのもまぁ、職場で昇格しちゃったもので仕事が増えると言う・・・・。出来る限り、最長一ヶ月更新で行きたいと思いますのでどうか、飽きたり呆れたりせずに読んで貰えればなと思います。
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