真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

16 / 24
第十五話:出征前

『逆臣董卓、暴政の限りを尽くしたる非道、相国を名乗る不遜、帝や漢王朝を蔑ろにするその振る舞いはあまりにも目に余る。漢王朝に忠誠を誓う諸侯よ、帝を董卓の手より救い出し、天下に泰平を齎す為、この袁紹の名の下に集え』

 

まぁ、ぶっちゃけ実物はもっと稚拙で見るに堪えない内容だったワケだが・・・・袁紹が天下に向かって広めた檄文の内容を要約するとこんな感じだ。

 

まぁ、もっと要約すると「董卓に権勢を握られて悔しいから袋叩きにして取り返すぞ」って事なんだが・・・・俺たちはこの檄に乗る事にした。今回間違いなく一番の被害者である董卓には申し訳ないとも思うが・・・・間が悪かった、と思ってもらうしか無い。

 

「我ら曹操軍は此度の『反董卓連合』へ参加する事を決定した、ついては今から遠征軍と留守居の編成を発表する。二度は言わないので聞き逃す事の無いように」

 

太守府の謁見の間で、群臣たちを集め俺と華琳、桂花、立夏、稟、風で徹夜で考えた編成を俺が読み上げていく。

 

「先ずは遠征軍!総大将は言わずもがな華琳が務め、副将に俺と春蘭」

 

この戦いで、中原に曹操ありと知らしめなければならない。だから長である華琳と、朝廷での爵位も持つ俺と春蘭は当然参加する事になる。

 

「春蘭率いる本隊は兵数二万、将として秋蘭、華侖、柳琳、栄華、一刀、凪、沙和、季衣、香風。軍師として桂花、立夏、稟。遊軍として俺率いる飛雷騎の五千。将として犹、由空、景、真桜、星、流琉」

 

先日、正式に仕官した星と共に流琉も飛雷騎に配属された。歩兵を率いて前線で戦う将も欲しい、と華琳に言ってみたら「育てろ」と言われたのだ。犹と星は騎馬、真桜は工兵、由空と景は兵は率いるがどちらも後方にいる事が殆どだ。兵を鼓舞し、共に戦う将が必要だった、ってワケだ。

 

「留守居の主将は迅、副将として緋那、軍師として風。内政と全体の調停役として燈、兵数は八千」

 

主将が迅、と言う宣言に響めきが起きる。迅が定陶での失敗を機に降格させられたのは皆が知るところだ。総合的な功績で言うなら緋那が、地位や経験と言うなら燈が本来は主将を務めるべきなのだろう。だが迅にもここら辺で成果を見せてもらわなけりゃならない、俺はアイツには一軍の将としての活躍を期待したいのだ。

 

「既にこの編成は決定稿だ、相応の事態が起こらない限りは変更は無い。各自の活躍に期待する」

 

―――――――――

 

陳留では出兵準備で大忙し、なのだが・・・・俺は定陶で華琳と共に来客を迎えていた。

 

「お初にお目にかかります。立夏の姉、司馬朗です」

 

河内司馬家の現当主、立夏の姉、司馬朗だ。反董卓連合への参加を決めた当日に書状が届き、一度会って話がしたいと言う事だった。なので元々常時出撃準備を済ませていた俺たち飛雷騎が出迎えと護衛を兼任し、今回の準備を秋蘭と栄華、桂花に押し付けてきた華琳と単純に暇をしていた俺が応対をすることになったのだ。立夏?割と暇だったはずだが「いやー、私超忙しいんですよ?」とか言いながら逃げられた。

 

「先ずはこちらを・・・・」

 

差し出された竹簡を広げれば、司馬家に頼んでいた今回の遠征で必要となる資材、馬、武具、兵糧などの目録だ。

 

「おい司馬朗、商人が桁を間違えるなよ。相場の半値近くじゃねぇか」

 

新人にでもやらせたのか、額面が相場の半値近くになっている。普通はこんな事はありえない。

 

「間違っておりません」

 

俺と華琳が、同時に視線を向ける。

 

「司馬家は本拠を陳留へと移し、曹操様へとお仕え致します。此度の物資は臣従の証として、実費だけを計上させて頂いております」

 

商人とは利で動くもの、それが一つの勢力に臣従する事を宣言した。

 

「どう言うつもり?利で動く商人が利を捨てた、とでも?」

「まさか・・・・曹操様に付き従った方が後々利が大きい、と見当を付けたまで。相国に登り詰めた呂不韋のようになるつもりはありません、ですが誰でもない司馬家の未来のために。私は、司馬家は曹操様に付く事を決めました。似たような事は陳珪様も仰られたはずですが?」

 

ああ、立夏が姉の話になるとよく怯えていた。その理由が分かった気がする。司馬朗は確か歳は立夏より一つだけ上、と聞いている。それ程の若さなのに、燈に通じる雰囲気を持っている。そして立夏の姉、と言う情報。

 

間違いない、こいつは立夏以上の腹黒だ。

 

「分かった」

 

一瞬、華琳と眼を合わせてから俺は司馬朗へと向き直る。

 

「司馬朗、貴女の臣従を受け入れましょう。今後は我が臣として、その手腕を振るいなさい」

「御意に」

 

―――――――――

 

「では真冬(司馬朗)も連れて行くのね?」

「あぁ、洛陽は司馬家の地盤だった河内から近い。真冬がいる事で取れる行動の選択肢も少なからず増える」

 

真冬の仕官が決まった。

 

『立夏?どうして姉さんが来ているのに逃げたのかしら?』

『いやいやお姉ちゃん、私は忙しくてですね?別に会いたくなかったワケじゃなくて・・・・』

『立夏、貴女は嘘をつく時左上を観るクセがあるのよ?』

『え!?マジ!?』

『嘘よ』

『騙された!!?』

『騙されるほうが悪いの・・・・よっ!!』

『ニギャァアアアアアアッ!!?』

 

歳頃の少女が上げるにはどうか?と思うような断末魔も聞こえてきたような気もするが気にしない事にしよう。

 

「『飛雷騎』の仕上がり具合はどう?」

「一先ず及第点、と言ったところだ」

 

部隊同士の連携には未だ多少の難がある。一定水準の事はこなすが、犹、由空の率いる古参部隊と真桜、景、星、流琉の率いる新兵中心の部隊で温度差があるのだ。古参の連中には俺がヒラ武官だった頃から俺を支えてきたと言う自負があり、また犹、由空の堅実な手腕を認めて付き従ってくれてる。だが工兵を率いる真桜、中衛で万能な働きをする景、流麗な騎馬運用をする星、力強く隊を引っ張る流琉、それぞれの『華』に魅せられ付き従う者が多い。双方ともが、自分たちの将こそが『飛雷騎』の要なのだと水面下で主張し、それが僅かに連携の差異を生む。

 

だがまぁ、何かの切欠があれば、割と簡単になんとかなるとは思っているんだが・・・・

 

「まぁ・・・・貴方の及第点ならば十二分な働きを期待出来るでしょう」

「善処するさ」

 

俺が笑みを浮かべれば、華琳も笑みを浮かべ、二人の視線は一枚の地図へと向けられる。主戦場だろうと、予測される『虎牢関』『汜水関』を中心とした地形図だ。真冬によって提供されたモノであり、実際の開戦までに董卓軍によって様々な工作は成されるだろうが大まかな指針を決めるのには使える。

 

「改めて見てるだけでも嫌になるぐらい攻め難いな」

「そうね。特に『虎牢関』はかつての秦の国門、『函谷関』と比肩する護りを有するでしょうね」

「なる程ねぇ・・・・」

 

関高く一般的な攻城兵器は使いづらく、両側を峻厳な山々に護られていて迂回するのにも一苦労。その上董卓軍の主力は五胡、羌族、匈奴の異民族を相手に長年戦い続けてきた歴戦の雄ばかり。更に率いるは黄巾三万を単騎で打ち払ったと言う呂布、騎馬民族をも圧倒した驍将張遼、率いる軍の突破力が大陸五指に入る華雄。何れも一筋縄ではいかない相手だ。

 

「各諸侯が乱の後、どれだけ力を付けて来たか・・・・にかかってくるな」

 

正直なところ、功の奪い合いになるだろうから連携を期待するつもりは無い。だが一定水準以上の地力が各勢力に備わっているならば、分担しているのだと思って動くだけで済む。だがそうでないのならば・・・・想定よりも数段、厳しい戦になってしまうだろう。

 

平原の劉備、袁術配下の孫策・・・・この辺りは確実に力をつけているはずだ。乱の最中でも一際目立った活躍をしていた諸侯でもある。未知数なのが劉表、当人は出て来ずに息子の劉埼が軍を率いて来るようだ。際立った強さは無いはず、だが今現在荊州領内が安定しているのは劉埼の軍事的手腕によるところが大きいらしい。のだが・・・・俺の勘じゃあ、劉埼だけの力じゃ無い気もするんだがねぇ。

 

「何にせよ、各諸侯がある程度手の内を晒して来る。晒してない手までは読み切れんが晒して来た分はキッチリ読みきらにゃならん」

「そうね、この後のためにもね」

 

曹孟徳の覇道、その二歩目。

 

見事に飾って見せなければ。




第十五話でした。

ネット環境の都合上、投稿が遅れまして申し訳ありませんでした。なんとか月一投稿をキープできたかな?と思う反面、内容が雑になっていないかと心配に思う事も。

次話より反董卓連合編になります。主人公の活躍を乞うご期待!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。