真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第十七話:諸葛瑾

「と言う訳で、まぁ宜しく頼まぁ大将。あ、俺あんまり前に出るのは得意じゃないんでそこんとこヨロシク」

「かの『雷公』と轡を並べられるとは光栄の極み、その手腕。傍らにて拝見させて頂こう」

「よ、よよよよよ宜しくお願いします!!」

 

今朝方執り行われた軍議で、『飛雷騎』が独立した遊軍として動くという事を宣言すると劉備軍の諸葛亮、孫策軍の周瑜、劉埼軍の王威より「それだけの重要な役割を鄧艾殿だけに押し付ける訳にはいかない、各勢力からも幾ばくかの人員と兵を出すから上手く使ってくれ」と。

 

手柄は独り占めさせん、なのか。噂の『雷公』を見極めんがためなのか。他に真意があるのか、わ良くわからない。だが援護を受けられるなら願ったりだ。

 

「んじゃあ改めて。劉備軍の簡雍ってんだ、手勢は五百」

 

劉備軍の簡雍。将、とは言うが軍事的手腕は一切聞こえてこなかった。むしろ平原で起きた農民反乱を交渉だけで解決した、と言う噂も聞こえてきている。単純に弁舌に優れているのか、それともそれ以外の何かがあるのか。ニコニコと浮かべている笑顔からは垣間見る事が出来ない。

 

「孫策軍の諸葛瑾、手勢は三百」

 

孫策軍の諸葛瑾。噂は聞いてる、孫堅が亡くなって間も無く孫家に仕官。孫家が袁術の下に付き、軍師に将にと袁術に良いように使われてしまい手足が足りない中で孫家領内の賊の討伐、豪族の調停、各所への根回しをこなし続けたと言う。その諸葛瑾を俺の方に送って寄越す、と言うあたり孫策、周瑜共に油断ならない。

 

「りゅ、劉埼様配下の文聘です!!兵は三千です!!」

 

劉埼軍の文聘。若い、立夏よりも少し上ぐらいだが・・・・あれだ、精神的に若い。立夏や景あたりが熟成し過ぎているだけかも知れないが。今回は自ら志願して来たらしく、しかも俺に憧れてるだのなんだのと・・・・すっげぇむず痒い。

 

 

だがまぁ併せ三千八百の援軍だ。飛雷騎の八千と足して約一万二千、これなら色々と打てる『手』が増える。

 

「俺たちの役目は遊軍だ、とは言え攻城戦じゃあ何も出来ねぇから特に今のところやるべき事は無ぇ」

 

なにぶん大部分を占める『飛雷騎』が騎馬主体、敵が関門からうって出る、なんて珍事がなけりゃあ俺たちの出番は無いんだよな。

 

―――――――――

 

「そう思っていた時期が俺にもありました・・・・だ」

 

攻勢が始まって間も無く、孫策と関羽、二人の行った挑発。戦前の挑発なんてのは開戦の儀式みたいなもんだ、お互い売り言葉買い言葉で自軍の士気を上げ、その上で戦に突入する。間に受けるようなバカはそうそういない、そう思っていたんだが・・・・

 

「華雄に続けて呂布、張遼、高順も出てきましたな」

「違うな、出てこざるを得なくなったのさ」

 

間に受けた華雄が手勢五千を引き連れ門を開け放ち出陣、勝手をするバカは見捨てるのが普通だが・・・・兵力に劣る董卓軍にとって五千の喪失は痛手であり、また華雄軍の破壊力は中華屈指のもの。見捨てると言う選択肢を『選ぶことが出来ない』、故に取るべき最適解は『精鋭部隊の投入』による『華雄軍の救援』と言う悪手になってしまう。

 

「強過ぎる忠誠、ってのも考えもんだよな。要らねぇ暴走を生み出し、意図せずとも味方に不要な被害を出しちまう」

 

味方にその暴走を抑えるだけの存在や、その暴走による失点を回復するような支援を行えるだけの態勢があれば問題では無い。同じく忠誠心からの暴走がある春蘭が曹操軍の『穴』に成り得ないのは華琳や秋蘭や柳琳と言う「そうなるであろう事を踏まえたうえで動く」と言う壊れ性能な面々が複数いるからだ。

 

「さて、想定外過ぎるが出番がありそうだ。状況に合わせて対処するために隊を分ける」

 

待っていました、と言わんばかりに犹、星、由空、真桜、景、流琉と簡雍、諸葛瑾、文聘が集まってきている。

 

「由空と簡雍は公孫賛、劉備連合、真桜、景、諸葛瑾は孫策軍、流琉と文聘は劉埼軍の、それぞれ援護に回ってくれ。犹と星は俺と来い、華雄と高順を狙い撃つ」

「一つ、宜しいか?」

 

手を挙げたのが諸葛瑾だ。俺は頷いて、続けるように促す。

 

「武名が大陸に広まっているのは呂布と張遼の二将だ、その二将に劣る華雄、高順から狙い撃つ・・・・その真意を後学のためにお聞かせ願いたい」

 

成る程ね。俺がどう答えるか、そこから俺を・・・・『鄧艾』と言う将来の仮想敵を推し量ろうとしている。

 

「呂布と張遼はそれぞれ騎馬隊が中心でありその威名はお前のいう通り、遍く天下の万民が知る事実だ。だがそれらは山岳民族や騎馬民族との戦いに強いと言うだけであり、篭城戦などの『踏み止まる戦い』に強いと言う事では無い。華雄の暴走に対し主力の殆どを注ぎ込んできたのがその証拠だ」

 

篭城戦において、梯子などの手段を用いて城壁上まで攻め込まれると言う事がある。そうなった時、機動力を活かせない騎馬隊では活躍の場は少なく、馬を降りて戦ったとしてもなれぬ地上戦に苦しめられる事が多い。となると、そうなった場合に活躍出来るのが歩兵である。ことに華雄軍や高順軍のような重装歩兵ともなれば、攻め込む側にとっては相当な驚異となる。

 

「後の優位を取るために、俺はここで華雄と高順の軍の力を削ぐ事を選んだ。それだけだ」

「では、援兵として来た我らを差し置き自らの手勢だけを動かす理由は?」

「それも簡単、呂布と張遼に邪魔されないためだ」

 

そして重装歩兵を排除している最中に、呂布、張遼らの騎馬隊から横槍を入れられた時、対処を間違えた時は壊滅は必至。故に、いざという時に退くための『脚』が必要。その『脚』があるのは俺、犹、星の三隊だけ。

 

「以上が俺たちが動く理由だ。他に質問はあるか?」

「・・・・いえ、概ね疑問は解決しました。時は金なり、とも言います。直ぐに動きましょう」

 

SIDE 諸葛瑾

 

妹が仕える劉備もまた我が主孫策にとって大きな障害となる事は間違い無い、しかしそれ以上に危険過ぎるのがこの鄧艾と言う男だ。流れてくる噂に一切の誇張無し、かつての黄巾本隊との戦い、領内での賊に対する討伐の手腕、内政的手腕。その全てが曹操との互換性を持ち、『どちらかがいなくともどちらかがいれば何とかなる』状況を作り出している。

 

本来ならば長の不在は襲撃の好機となり得る。

 

だがこの陣営だけはそうならない。『鄧艾』がいるからだ。董卓軍の呂布は、単騎で三万の賊を討った事もある化物だと言う。だが私からすれば鄧艾はそれをも超える化物だと思える。

 

間違いなく、この戦いで中華は認識せざるをえない。鄧艾と言う傑物を、その傑物を従える曹操と言う英傑を。

 

だが、我が王の道を切り拓くと決めた以上。その英傑と傑物を乗り越えなければならない、だからこそ私は彼の戦いから目をそらそうとは思わない。そんな暇は与えられていない。自らの為すべきを成し、尚且つ総てをこの眼に、脳裏に刻み込む。

 

「鄧艾殿」

 

今まさに、漆黒の馬に跨り行かんとする鄧艾を私は呼び止める。

 

「この戦いが終わったならば、一杯如何か?揚州の新酒を持って来ているのですが」

 

私の申し出に、鄧艾はキョトン、とした表情をして直ぐに笑い出す。

 

「ソイツぁ良い!俺も青州で創られた上物の酒を持って来てんだ、大陸の南と東の飲み比べと行こうや」

「ええ、ご武運を」

「ああ」

 

駆け出す鄧艾の背を眺めつつも、私は脚と口を動かしていた。

 

「では参りましょう、大外を廻り込むように移動します。我らが殿は大人しくする、と言う言葉が辞書から抜けているお方ですので。側面からの援護に徹します」

「心得た」

「任しとき!!」

 

私は、私の戦いをするとしましょう。




第十七話でした。

更新が大変遅れて申し訳ありませんでした。間を空けすぎて正直、キャラの口調やら何やらがうろ覚えな部分もありましたが徐々にアクセル上げて執筆していこうと思いますので、また宜しくお願いします。

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