「状況はどうだ」
「牛金様、趙雲様、共に損耗少なく打ち合わせ通りに動いています」
「なら俺らもこのまま突っ込んで、もう一当てしたら西側に抜ける。抜けきったら合図を出せ」
「はっ!!」
かなり大乱戦の様相を呈し始めていた。劉備軍の腹癒せの策により、後方へといなされて袁紹軍とかち合いながら公孫賛、劉備の連合軍による攻勢に晒されている華雄。孫策軍と曹操軍に挟まれる形で削られている高順、張遼。劉埼軍の数的優位を武勇一つで均衡へと持ち込む呂布。そこに横槍を入れようとしていた鮑信、劉岱、孔融ら諸侯が繰り出した少数部隊がこれらの戦闘に巻き込まれて磨り潰されている。
「ったく!これが匈奴と長年やり合ってきた董卓軍か・・・・」
強い。
俺らの兵も相応に鍛えて、そんじょそこらの精兵に負けないと言う自信がある。だが相手は長年匈奴を中心とした五胡に与する山岳民族や騎馬民族とやり合ってきた精兵中の精兵。軍の持つ『圧力』、それを指揮する各部隊長の『質』、悔しいが俺たちの方が劣っている。
「だからって白旗は上げらんねぇからよ・・・・オラァ!!合図出せぇ!!」
「はっ!!」
大きく振り回される『飛』の旗。この合図の意味は『集合』。
「訓練通りにやりゃあ上手く行くさ、全力で、総てを絞り尽くして行くぞ!!」
「「「「「応っ!!!」」」」」
SIDE 高順
「えぇい!!あのように虚仮にされて黙っていられるかっ!!!」
周囲の静止を振り切って華雄とその直属部隊が門を開き、威勢良く出陣する。
「・・・・・・・あー、どうする?」
篭城を主体とし、別働隊による兵糧部隊や兵糧庫への攻撃を重ね、兵糧不足による撤退へと追い込む。賈駆と李儒、陳宮の三軍師が出した結論がそれであり、直前の軍議でもその大方針に従うことが決定していた。していたハズなのに、敵将からの挨拶代わりの挑発を間に受けて出陣してしまった華雄。
「どうするもこうするもあるかぃ!!助けなアカンやろ!?」
「・・・・そうなるよな」
怒り心頭な様子で配下に出撃を急がせる張遼。その向こうで既に呂布も動き出している。
「準備は出来ているか?」
「既に」
ウチの隊の連中も優秀なことだ、張遼はもはや華雄の首根っこを掴まえて連れ戻す事しか頭にないし呂布もその間の時間稼ぎに徹するつもりだろう。
「俺の隊が門を潜ったなら直ぐに閉めろ」
「分かっているのです、いるのですが・・・・」
後事を託そうとした少女、陳宮は納得がいかない、とアリアリと表情に出している。
「アイツの武力と直属兵五千の戦闘力、見捨てるわけにはいかん。と言うのは分かりきってることだろう?」
「ですが!」
「どのみちあっちの二人には見捨てる、と言う選択肢は無いらしいしな」
門が開くと同時に全力で馬を走らせている二人へと視線をやる。
「三人とも生かして連れ戻す、
「・・・・・・・・きっとですぞ」
「おぅ・・・・お前ら行くぞォ!!」
「「「応!!」」」
俺たちが門をくぐり、開けた門前へと出ると同時に門が閉められる。
「左だ!!」
「はっ!」
呂布なら倍以上の敵相手でも何とかするだろうし、華雄は敵陣の奥深くまで誘い込まれているため直ぐには助けられない。今優先すべきは『孫』と『曹』、李儒が危険視していた両雄と噛み合っている張遼だ。騎馬と徒歩、その差で距離は開いているが、遠目で見ても分かる。あの二軍は『別格』だ。兵も、それを動かす将も、その頂点に立つ『主君』も。ウチの『主』が劣るとは思わない、だがそれでも『曹操』と『孫策』は『別格』だ。
「隊を二つに分ける!徐栄は左!俺が右を行く!」
「御意にっ!!」
俺の合図に応じ、副官の徐栄が気勢をあげて張遼軍の左を攻める孫策軍との間に割って入る。それを見てから俺も右側、曹操軍との間に割って入る。両側を締め上げていた敵を抑えさえすれば、張遼ならば立て直し、本来の調子を戻し動けるだろう。
「厄介な敵だ」
一人斬り、二人斬り。普通なら雑作もなく行えるであろう作業として処理するのに、この敵はそうはいかない。二人に一人は、俺の剣撃を受け止めてくる。
「高順様っ!!」
部下の金切り声に、反射的に視線を向けたのは背後。俺、徐栄、張遼の隊に後方から切り込んでくる三つの騎馬隊。『飛』の黒旗と共に『鄧』『牛』『趙』の三つの旗を掲げているうちの俺の背後を攻める『鄧』と徐栄の背後を攻める『牛』、この二隊はヤバい。護る、と言う一点において俺の隊は董卓軍内で最強だと言う自負がある。その俺の兵が見る影も無く削られていく。
「曹操様が一の家臣、夏侯元譲!そこの敵将に一騎打ちを申し込む!!」
「曹兗州牧が臣、『雷公』鄧子載!そこにいるは董卓軍が将、『陥陣営』高順と見た!尋常なる勝負を求む!!」
最悪だ。夏侯惇に鄧艾、兗州方面から聞こえてくる武名を二分する二将に囲まれた。どちらかと戦い、勝ち、活路を見出す他に選択肢は無い。そしてどちらと戦うかと言えば・・・・
「鄧子載の申し出を受けよう!この高順がお相手致すっ!!」
背後に曹操軍本隊を控えさせている夏侯惇よりも、最終的な突破に兵数の差が少ない鄧艾だ。
「お前らは耐えて突破の機を伺え、決着がつくまでは決して無理をするな」
鈎剣を構え、俺が駆け出すと同時に鄧艾も漆黒と紫銀に彩られた矛を構え馬を走らせる。不利も不利、そもそもの間合いの差がある上に俺は徒歩、相手は馬上。格段の差が存在するならばまだしも、互角かそれ以上の相手が間合いでも有利を取るとなれば・・・・
「っ!このぉっ!?」
「ぁぁああああぃっ!!」
圧される、なんて結果は目に見えている。眼に見えるような、強さをアリアリと見せつけるような派手さは無い。だが突き一つ、払い一つ、薙ぎ一つ、その全てが俺を確実に殺りに来ている。最短で、最速で、無駄の一切無い挙動は職人の作り出す逸品を想起させる程。そして驚嘆すべきはその『膂力』、俺の受けがその都度弾き飛ばされている。
「噂と見た目からは想像出来ないな、この眼に見えぬ苛烈さ・・・・はっ!」
「ったりめーだ。眼に見える札は然程怖かねぇ、眼に見えない札の方が気味が悪くて手に負えねぇってもんよ!」
そして『深い』。派手さ、聞こえる武名、勇名、威名。それらを鑑みても、普通なら呂布か張遼、華雄を潰すもんだ。だが間違い無い、曹操と孫策は流れで俺を潰しに来たが、鄧艾は迷いなく『篭城戦』の要である俺と俺の隊を潰しに来ている。
騎兵中心の呂布と張遼、歩兵中心の俺と華雄。今後の城攻めを考えれば潰しておきたいのは後者、その中でも守勢に長けるであろう俺の方を迷わずに。
この武は、その判断力は、どこからやってくるんだろう?
「なぁ・・・・アンタはなんでそんなに強いんだ?」
打ち合いの間に生まれた刹那、俺は思わずそんな問いかけをしていた。時間稼ぎのつもりだったのか、本心からの問いかけだったのか、俺も良くわかってない。
「後悔してねぇからさ」
「は?」
当たり前のように返って来た答えに、俺は思わずそんな反応をしていた。
「俺の道に、俺の生き方に、俺の選んだ主君に、何一つ俺は後悔してねぇ。戦う事に、生まれた結果に、全てに後悔をしねぇ。それが俺を選んでくれた主に、俺を信じ従うバカ共に、報いる唯一の方法だと俺が思っているからだ」
俺は・・・・
「お前はどうだ?高順。何一つ、後悔しねぇ生き方を出来てるか?」
どうして、今になってこの人と出会ってしまったのだろう。
「・・・・さ、おしゃべりはここまでだぜ?息も戻っただろ?」
「ああ」
もっと早くにこの人と出会えてたなら俺は・・・・
―――――――――
倒れ伏す高順、俺の眼に焼き付いているのは俺に斬られ、倒れる直前の姿だ。
『張遼ぉっ!』
真っ直ぐに指差した先は、虎牢関ではなく、その先の・・・・
『火を絶やすなァっ!!』
俺に斬られると同時に発したその一言で、拮抗していたハズの張遼は一気に包囲を振り切り、呂布、華雄と共に虎牢関へと引き上げていった。
「・・・・軍医を呼べ、コイツを死なすな」
高順の助命を条件に降伏を申し出たのが三百、張遼に付き従い離脱したのが四百、
「吼狼様」
「吼狼殿」
犹と星が、馬を寄せてくる。
「敵将兵の殆どを孫策に持って行かれました、が最低限の助攻としての役目は果たして来ました」
「それなりの損害は与えましたが張遼には逃げられてしまいました、申し訳なく」
二人の報告を聞きながら、俺は前線へと目を向ける。上手く動かされたのか、袁紹軍が虎牢関前へと進み城攻めを開始している。
「兵の損耗は?」
「死者は無し」
「こちらも、負傷者は幾人おりましたが」
「なら構わん」
まだ初戦だ、そこで功を焦って要らぬ犠牲を出すよりも、将軍首を取り逃してでも被害を最小限に抑える方が肝要だ。
「戦利品、と言ったところかしら?」
「そうなってくれれば良いがな」
兵力の損耗が最も激しい城攻めを袁紹軍が担ってくれているし、釣られて袁術も本隊を動かす気配がある。全諸侯の中で最大の兵力を誇る二軍が前に出るなら無理をする必要は無い。公孫賛、劉備、劉埼、孫策らもそれぞれ後方へと下がり始めている。
「もし、コイツが・・・・」
「良いわよ、貴方の戦利品ですもの。それをどうするかは、貴方に委ねるわ」
「感謝」
高順の隊は役目を果たした、張遼を離脱させるという役目を、だ。その役目に殉じたのが二千三百、果たした上で生きて次の戦場に向かう事を選んだのが四百、将と運命を共にする事を選んだのが三百。何れも共通点は役目を果たしたと言う結果。そして何れの道を選んだにせよ、これだけの兵を鍛え上げる手腕、乾坤一擲で突破の可能性がある俺へと挑んでくる胆力、自らの生還が難しいと分かるやいなや迷わず自分を見捨てさせるという判断力、ここで死なせるには惜しい。
もしかすれば、敗北と言う恥辱に塗れたままに生きる事を拒否し死を選ぶかも知れない。だが、俺にはコイツが生きる事を選ぶと言う確信に近い予感がある。
コイツは『俺』だ。
師匠に出会わず、華琳にも、仲間にも出会う事の無かった俺だ。
「マジで死なせるなよ!」
駆けつけた軍医に、重ね重ね言い募ってから俺は虎牢関へと視線を再び向ける。
高順が生きて立ち上がる事を信じ、俺の脳は再び董卓軍攻略へと向けられていた。
第十八話でした。
実は高順はKOEI三国志でも割と気に入って積極的に登用している武将の一人でして、最初は第一犠牲者になってもらおうかな、とも思いましたが理性に本能が勝って生存ルートを進ませる事と相成りました。
そして、とうとうお気に入り登録数が二千を突破しました!
連載始めた当時はここまで増えるとは思ってなかったんですけどねー。
というわけで、これからも皆様のご期待を裏切らない程度に、コツコツ執筆を続けて行こうと思っています。