真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第二十話:終戦

「頭痛ぇ・・・・・・・・」

 

あの後、諸葛瑾と飲んでいるとどこから嗅ぎつけたのか先ずは孫策、黄蓋が乱入して来た。

 

『とーう艾!二人だけで良いお酒を飲もうなんて・・・・ズルいわよ!』

『うむうむ、酒宴とは大人数で、酒の味を分かち合うことに醍醐味があるわけであってな・・・・』

 

来客対応をしていた景に後々話を聞いたところ、拒否すれば斬られかねない覇気を放っていたと言う。

 

『吼狼様、華琳様のためならば全身全霊を尽くした働きを捧げ、この身を文字通りに盾とし守護する覚悟が御座います。ですが・・・・欲に眼が眩んだ虎二匹を相手に命を落としたくはありませんでした』

 

珍しく、未だかつて見せたことのない程に申し訳なさそうな顔をしてそう弁明した景を、俺は咎める事が出来なかった。

 

次に現れたのは春蘭、秋蘭、桂花、華侖、栄華、柳琳を伴った華琳だった。

 

『孫策が来ているのでしょう?江東の虎の娘と語り合う機会、逃したくはないわ』

 

更に。

 

『申し訳ありません!!姉様が失礼な事を・・・・』

『アレに悪気は・・・・恐らく無いとは思うのだが・・・・』

 

孫権、周瑜が程普、蒋欽、甘寧、周泰を伴って謝罪に現れた。もうこの時点でヤケになっていたので、俺は兵に席を用意させ、謝罪を受け入れる代わりに共に盃を重ねる事を勧めた。

 

『はわわ!?』

『あわわ!?』

『・・・・これは何?』

『宴会ですか!?』

 

諸葛亮、鳳統、徐庶、文聘が保護者役の簡雍、李厳の二名を伴い現れた。俺と話がしたかった、との事であり俺は更に席を用意させると共に劉備・公孫賛軍、孫策軍、劉埼軍に留守で残っているであろう陳到、韓当、王威ら宛に酒を運ばせると同時に残る劉備と公孫賛、劉埼の三名にも招待する使者を送っていた。もう、このあたりで自棄酒でかなり酔っていたんだと思う。

 

結局、劉備と公孫賛、劉埼が関羽、張飛を引き連れて合流。四勢力による大宴会へと発展し、明け方まで飲めや歌えやの大騒ぎとなった。

 

「オラァ、二日酔いだからって腑抜けた行軍した部隊は『司馬飯』食わせんぞぉ!」

 

洛陽の復興に関しては、袁紹、袁術を煽ってやらせているようで、孫策と周瑜、劉埼、徐庶が上手く手を回して最後までやらせるようにするそうだ。なので、それぞれ降将を引き入れたり、色々と後暗いところがある俺らと劉備軍は真っ先に撤収する事が決定。

 

で荷造りは終わり、後は陳留まで撤退するだけ。なのだが、今朝方まで続いた大宴会の影響か将兵の大半が二日酔い等の症状に悩まされているのが現状。だが撤収時にこそ、気を張って他勢力に堂々たる姿を見せなければならない。故に発破をかけるための、俺の一言だった。

 

「「「「「!!!!!?」」」」」

 

だが、俺のその一言で場の空気に緊張感が走る。

 

『司馬飯』

 

その単語は、曹操軍に所属する者にとって『死』を意味する。

 

「鄧元帥は正気か!?」

「死にたくない!死にたくなぁあああぃ!!」

「死力を尽くせ!!呂布と戦う気概にて望むのだ!!」

「司馬姉妹の手料理とあらば俺は死んでも一向に構わん!!」

 

悲喜交々、様々な台詞が飛び交うが・・・・有り体に言えば立夏、真冬の作る飯は『不味い』。どれぐらいかと言えば、体だけは丈夫な春蘭が五日間寝込み、一刀は一週間もの間意識を失っていた。最大の問題は司馬姉妹はそれを自覚しておらず、事あるごとに華琳を筆頭に秋蘭、流琉ら特級料理人たちが矯正を試みてはいるが未だ改善の兆しは見えていないらしい。

 

「さぁ、死にたくなけりゃあ死ぬ気で駆けろぉ!!」

「「「「「うぉおおおおおおおおおぉっ!!!」」」」」

 

おかしいな、虎牢関攻めとかよりも士気が高い気がする。

 

―――――――――

 

「『飛雷騎』の人員枠数の固定?」

「ええ」

 

陳留への帰途、華琳と馬を並べ今後の方針やらなんやらについて話し合う中で突如言われたのが『飛雷騎』の将、軍師、他役付の枠数上限や総兵数を固定すると言うモノだった。

 

「私が貴方と『飛雷騎』に求めるのは『切り札』としての運用。将も軍師も兵ものべつまくなしに増えられたらその価値観は薄れるでしょう?」

「言ってる事は分かるが・・・・」

「既に今いる人材では無く、将来台頭して来るであろう人材たちに『飛雷騎』の人員に名を連ねる事が『名誉』。そう思われるようになって欲しいのよ」

 

つまりは今後の俺の手腕にもかかってくるワケだ。名実共に曹操軍最強の部隊で在り続けなければならない、敵対する全ての勢力から『飛』の旗を見ただけで畏怖されるような存在にならなければならない。まぁ、元々の結成意義が『それ』だったんだ。何を今更、と言うところだろう。

 

「将は五名、軍師一名、それに俺で合わせて七部隊、総兵数四万・・・・でどうだ?」

「貴方が一万、他各将の直属兵が五千ずつ、まぁ妥当な数じゃないかしら?」

「当然、選定条件は今までよりも厳しくする。今、飛雷騎に名を連ねている将、士官が外れる可能性も出てくるだろうよ」

 

正直、現状を鑑みれば妥協も必要かと思っていたが華琳の言い様を聞いている限りではそれは許されないらしい。ならば、やるなら徹底的にだ。

 

「それでこそよ、構わないわ。一分の妥協も許さず、貴方の思い描く『最強』を創り上げなさい」

「御意」

 

と言っても、現段階で『残せる』とすれば犹と星だけになるだろうな。由空も、景も、流琉も、真桜も優秀ではあるが俺が『本気』で創り上げようとする『飛雷騎』とは方向性が異なる。逆に、現在は員外だが候補に上がってくる者もいる。

 

「どちらにせよ人選は貴方に任せるわ、可能な限り便宜も図りましょう」

「ありがたいこって・・・・」

 

既に将の候補は一人、見繕ってある。後は将二人と軍師、か・・・・

 

「そう言えば・・・・この戦いに対して朝廷から恩賞が下されたわ」

「『朝廷』の名を『騙る』アホウ共からの恩賞に意味がありますかね?」

 

少帝も陳留王、張譲も洛陽から姿を消したと言う話だ、大将軍何進と何太后も『行方不明』。となれば、洛陽に残った財を動かす口実として十常侍の残党やら何やらが形ばかりの恩賞をばらまいているのだろう。

 

「騙りとは言え『国璽』の押印された『書面』だもの、既成事実と言う事もあるわ」

「中身が空でも使い様、って事か」

 

頷いてから、華琳が書状を一通俺へと差し出す。

 

「そこに今回の全てが書いてあるわ」

 

無言で開き、先頭に書かれていたのは『大将軍 袁紹』の文字。もしかすれば、袁紹が裏で糸を引いていた可能性もあり・・・・と。

 

「『威東将軍』曹操、『牙門将軍』鄧艾・・・・ま、他も見る限り『私への協力ありがとう、他の皆さんにもお情けで官位を差し上げます』って感じだな」

「それが袁紹なのよ」

 

単純な戦功なら俺らや劉備、孫策、劉埼の四軍と馬超、公孫賛あたりの方がよっぽど上だ。だが劉備、公孫賛、馬超、劉埼に関しては少々の金品が贈られた程度、功績の殆どを袁術に奪われた孫策には何もなかった。そう考えれば、俺たちは幾分かマシと見るべきなのか。

 

「名が力を持つと言う事もある、って言ったのはお前だぜ?『名門袁家』と『大将軍』の相乗効果は思っている以上に面倒だぞ?」

「わかっているわ、河北に放つ間諜を増員。州境にも兵の増員を・・・・」

「兵の増員は暫く待とうや」

 

俺がそう言えば、華琳が続きを促すようにこちらを見ている。

 

「袁紹の侵攻に対する備えなら現状でも十分、対応が可能だ。順当に動くなら幽州、併州を抑えるのが先。ならそっちの制圧と地固めに袁紹が時間を取られている合間にこっちも足元を固めつつ準備を整える」

「公孫賛を捨て駒にする、と?」

「いんや?」

 

その返答に、首を傾げる華琳。

 

「見捨てるつもりはねぇさ、ただし俺たちが袁紹を崩すまで耐え切れれば、だがな」

 

公孫賛は烏丸族の領地と接している幽州を任せられるだけあって、優秀な騎馬戦術を持っている。その旗の下で戦い続けた精兵『白馬義従』と公孫賛自身の経験は得がたい戦力であり、可能ならば組み入れたいとも思う。だが無理に俺たちが攻めに出ても、二方面作戦を敢行し、尚且つ押し切れるだけの『物量』を袁紹は揃える事が出来る。ならば、最低限『物量』と拮抗するだけの『質』が必要となる。袁紹が洛陽から戻って、河北四州の制圧に乗り出せるまで、俺の見積もりでは約半年。その間に準備を整え、『公孫賛』と言う餌に食らいついている間に後方から電撃作戦で突き崩す。

 

「帰還後の休養が終わったら再編と練兵だ、少なくとも『飛雷騎』を完成形の五割にまで持っていく。将は俺の要望さえ通るなら『四人』揃う、最後の一人と軍師、そして兵全体の練度・・・・そこをどうするかだな」

 

自己流の『戦』の形を持っていて、瞬時に優先順位を定める観察眼を持ち、己の為すべき事に殉じる覚悟を持つ将。

 

俺や華琳に近しい視界の広さと俺とは違う視点、俺と同等かそれ以上の事務処理能力を持つ軍師。

 

高望み過ぎる事はわかっている。

 

そんな人材は大陸を見渡してもそれぞれ五人いるかどうか、それを求める事の難しさも理解している。

 

だが。

 

やらねばならぬ、俺が望む『未来』のために。

 

『覇王』曹操が中華を統べ、泰平の世を創り上げ、漢王朝四百年を遥か上回る永き治世の祖となるその日を。




第二十話でした。

リアルが忙しく、まさかの十八連勤。なかなか投稿出来ず、読者様には申し訳ないと思っています。

次回から、多分しばらくは日常回になると思います。

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