真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第三話:御遣い

太平要術の書を盗んだ賊を追いかけて豫州との州境、任城へと俺たちは来ていた。華琳様と由空が兵を引き連れて追跡へと向かい、俺は街に残って知り合いに会う事にしていた。

 

「いやぁ、しかしアニキが本当に官吏に。しかも軍師とは、世の中分からないもんですねぇ」

「抜かせ、テメーも良くもまぁ素性を隠して俺の下にいたもんだ」

「あ、やっぱ調べちゃいました?」

 

ペロッ、と舌を出してテヘッ、とかやってる。俺の周りにいた連中は騙されてたが、俺は騙されん。コイツがこれをやる時はたいして悪いと思っていない時だ。本当に悪いと思ってる時のコイツは極端に無口になる。

 

「当たり前だろうが、えぇ?河内司馬家の司馬懿さんよ」

「やだなぁ、今も昔も変わらない立夏ちゃんですよぉ」

 

司馬懿、真名を立夏。暴徒時代の俺の参謀にして、華琳様との戦いで真っ先に手勢を連れて遁走した薄情物。性格はあざとい腹黒。当時、俺に付き従って一緒に捕まった奴ら、逃げて近隣に潜伏してた奴ら、死んだ奴らと出たわけだがどうしても数が合わなく、後々に調べて見ればこの事が発覚したわけだ。更に調べれば河内有数の豪商、司馬家の娘と言う事が発覚。

 

「まぁ堂々と不義理を働いといて商談を持ち込んでくる辺り、だいぶ肝が据わってるとしか言えねぇな」

「お仕事ですから。それにお姉ちゃんに匕首突きつけられて『そろそろ働かないと・・・・そうね、司馬家の娘が一人減るけれども良いわよね?』ってニッコリ笑顔で言われたんですよ?」

 

なにそれ、怖い。

 

「んでまぁ、兗州での事業拡大を手伝えーなんて言われまして?そしたらアニキが陳留で軍師になってるって聞きまして、ひとしきり大爆笑した後に考えて、それで来てみようと」

「そこを堂々と言うところも流石としか言えんよ・・・・で?」

 

コイツは昔から抜け目の無いところがある。確実に一石で一鳥を仕留め、可能なら二鳥、三鳥を迷わず狙うような性格だ。家業のためだけに俺に接触する、なんて殊勝な考えは持ち合わせちゃいまいよ。

 

「そういうところ、アニキにはかないませんねぇ・・・・それでは単刀直入に、陳留で私を雇って下さい♪」

 

そして思わぬ要求が来たもんだ。

 

「ぶっちゃけ・・・・今のまま実家に寄生しててもお姉ちゃんにいずれ放逐されそうな予感が」

「・・・・お前のところの姉妹関係が心配になってきたよ俺は。まぁ良い、お前は油断ならねぇヤツだが優秀なのは知ってる。曹操様はむしろそう言うヤツは大好きだから、まぁ大丈夫だろ」

「あはははは♪アニキもそこらへん大概ですよねぇ?」

 

うん、優秀には違いないし、極端に形勢不利になんなきゃ逃げないし。むしろコイツが逃げ出すって事はよほどヤバイ状態なんだ、と判断出来るしな。コイツの観察眼と判断力は俺が最も評価していたところだ。

 

―――――――――

 

「で?そこの少年は?」

 

その日の、夕暮れも近くなった頃に華琳様は戻って来た。少年と少女を一人ずつ、加えた状態でだ。少女の方の説明は概ね理解出来た、だが少年の方がイマイチ理解しきれなかったので再度、質問しなおす事にした。

 

「そこの荒野で拾ってきたのよ」

「拾ってきたところに戻して来い」

「吼狼様、犬猫と同じ扱いにするのは如何なものかと」

 

俺と華琳様のやり取りに、冷静にツッコミを入れてくる由空。ったく冗談だってのに、通用しないね。

 

「んじゃまぁ、これから色々と質問するが気を楽にして答えてくれ少年」

「あ、あぁ・・・・」

「ちなみに俺は鄧艾、ってんだ。一応、陳留の軍師を勤めている」

「あ、北郷一刀です。よろしく」

 

ふむ?変わった名前、と言うべきか。

 

「生国は?」

「日本の東京」

 

やはり聞いた事の無い土地の名だ。

 

「この国へ来た目的、方法は?」

「分からない、香風の話に従うなら空から落ちてきたらしいんだけど・・・・」

「うん、流れ星を見てたら空からお兄ちゃんがひゅーって落ちてきた」

 

一刀の説明に補足(?)を加える少女。

 

徐晃。元洛陽の騎都尉で、今は下野して旅をしていたらしい。んで、一刀が空から落下してきた時に受け止めた(?)のが彼女であり、一刀が眼を覚ましてからの行動を弁護するために今まで旅をしていた仲間と別れて戻って来たとの事。ちゃっかり華琳様と意気投合し、後ろで腹黒い話をしているヤツに見習わせたいぐらい良い娘だよ、この子。

 

他にも色々と一刀に聞いてみたのだが、興味深い話を聞けたものだ。どうやら彼は千年以上先の未来から来たと言う事、その未来では俺はよく分からんが、曹操の名が『魏』の王として広く知れ渡っていると言う事、その未来では国が大規模な私塾を経営し、分け隔てなく子供たちに学問を教えている事など様々な話を聞かせてもらった。

 

「未来から来た、と言うのも納得した」

 

また例の太平要術の書を盗んだらしき賊も一刀が目撃した、と言うことであり捜索の協力を要請。徐晃と二人併せて客将と言う形で雇う事にしたらしい。

 

「俺の事は吼狼で良いぜ」

「それ真名だろ?いいの?」

 

どうやら徐晃・・・・香風(しゃんふー)の連れとそこでモメたらしい。

 

「構いやせんさ、お前には『一刀』以外の名が無いんだろ?ならそのお前に名乗り、呼んでもらう対価として相応しいのは真名の方さ」

「じゃあ・・・・宜しく、吼狼」

「おぅよ」

 

―――――――――

 

「華琳様、アニキ。豫州側からの返答来ましたよ、大体中身は予想つきますけど読みます?」

「えぇ」

「まぁ、読まないと礼儀には反するからなぁ」

 

結局、華琳様たちが追いかけていた連中は豫州方面に逃げたとの情報が入った。州境を跨いでの追跡、となれば向こう側の許可を貰わねばならない。返答の内容は、まぁほぼほぼ予想が出来るわけだが。

 

「『曹陳留太守の越境罷りならない、件の賊に関しては豫州内部で対処する』だそうです。まぁーですよねぇ?」

 

他領の軍勢を、それこそ勅令でも無い限り招き入れると言うのはありえない。俺の時みたいにバンバン招き入れる、ってのは例外中の例外ってワケだ。

 

「であれば長居は無用よ。吼狼、ここを引き払う準備を進めなさい。立夏、一刀の二人の扱いは吼狼に一任するわ」

「最近は面倒事を投げつけてくる確率高くありませんかねぇ?」

「慣れてるでしょう?」

 

否定できねぇ。昔っからそういうの(面倒なヤツ)多かったし、その筆頭(立夏)がここにいるわけだし。

 

「ってぇワケだが・・・・仮人事に不満はねぇか?あるなら今のうちだぞ?」

「無いですよぉ?って言うか気心しれた上司の下の方が色々やり易いですし?」

「俺も無いかな。今のところ華琳と吼狼以外の人を知らないわけだし」

 

うん、共に正直で宜しい。だがまぁ立夏はもう少し、本音を建前で隠す事を覚えてほしいな。切実に。

 

「よし分かった、立夏は覚悟しとけ。ありえないぐらいに気難しい上司(春蘭)のところに配属してやる」

「なんか不穏な気配があるんですけど?」

 

ブーブーと文句をたれる立夏、から視線を今度は一刀へと向ける。

 

「お前の方は・・・・最低限の生存能力と一般教養を身につけさせるところから、かな」

「あ、うん。宜しくお願いします」

「畏まるな畏まるな、戻ったら荀彧にそちら向きの書物を用意させて、武術の方は俺が見れば良いか。まぁ最低限死なない程度に色々と叩き込むつもりだ」

 

一刀の話を聞いていた限りだと、この国とはかけ離れた環境で育ったようだ。戦なんて無い、ましてや飢え死にや行き倒れなんて縁の無い平和な国の生まれだと言うことだ。それはそれで良い、だがそんな平和とかけ離れた国に来てしまったのだ。ならばここで生きていけるようにしてやらなければならないだろう、それが受け入れる事を決めた側の義務だ。

 

「お、お手柔らかに宜しく」

「おぅさ」

 

さて、陳留へ戻る・・・・戻らにゃならんのだが・・・・

 

「嫌ーな予感、すんだよなぁコレ」

 

暴徒になる少し前の税金の過剰な値上げ前とか、華琳様と戦う前とか、俺の嫌な予感ってのはワケが分からんぐらいに当たるんだよなぁ・・・・

 

「当たらなけりゃ良いが・・・・無理か」




第三話でした。

気が付けばお気に入り登録も三桁近く、本当にありがたい話です。

次話でオリキャラは出し切りになるかと、名前だけでてた郭淮が。

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