真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第四話:豫州遠征

俺たちが一刀、立夏、香風の三人を連れ帰って一ヶ月が経とうとしていた。ぶっちゃけ、件の賊の事なんか完全に忘れかけていた頃に思わぬ来訪者が陳留にあった。

 

豫州の相、陳珪。

 

この時、俺は新兵訓練を兼ねた賊の討伐で留守にしていて詳細なやり取りはまた聞きする事になったが、どうやら件の賊は今や千人を越える規模にまで膨れ、今もなお更に増加する傾向を見せているらしいのだ。んで、自分らでどうにもならなくなった、って事でこっちに救援要請ってより『逃がした責任取れやコラァ』みたいな感じで討伐を押し付けに来たらしいのだ。

 

「んで、費用全部持たせる事を条件に引き受けたワケね」

「当然でしょう?」

 

ってのを討伐から戻って直ぐに聞かされて、思わず頭を抱えたのは内緒の話だ。

 

だがこれは異例の事態だ。太守や県令が州を跨いで、ぐらいならば表立ってやらないだけでままある事だ。だが相が、しかも正式に使者を立てて訪問して、となると異例中の異例。何か裏がある、と見なければなるまいが華琳様をはじめとして俺以外の幹部格は「罠があるなら喰い破れば良い」ぐらいに思ってるから困る。俺が打てる手は万事に対処が可能な編成を考える事ぐらい、だな。

 

今後の事を考えれば、華琳様自らが率いた方が貸しを作ったと言う印象を相手方に強く植え付ける事が出来る。今回は春蘭も止まらんだろうから、秋蘭と一緒に行かせるべきだろう。一刀にも実戦を経験させたいから一刀、それに香風も十分に戦果を上げてくれるだろう。近衛部隊を率いる柳琳も確定、立夏に由空も行かせれば磐石だろう。

 

逆に護りは俺が指揮を取り、補佐に荀彧、栄華。将として華侖、郭淮で十二分だ。兵も俺の部隊から百残し、栄華、華侖、郭淮の直下の兵と訓練中の新兵。併せて五千にはなるだろうし十分過ぎる。

 

「今回の遠征は吼狼、貴方が軍師として随行なさい。留守は栄華がいれば十分でしょう?貴方預かりで経験を積ませていた二人も連れて行くのよ」

 

そんな俺の考えは主君の一声であっさり覆される。しかも荀彧、郭淮も連れて行けと申すか。と言うか栄華の負担が半端無い気がするのだがそれは。

 

「新人を見極め、経験を積ませるには良い機会でしょう?」

「まぁそうですがねぇ・・・・」

 

軍師の荀彧に武官の郭淮、どちらも実戦での経験は少ない。実際の戦いでどの程度、二人の実力が通用するか確かめるには丁度いいといえば丁度いいだろう。たかだか千の賊相手に手間取るようでは、ってワケだ。

 

「どっちみちそうだと決めてるなら俺の反論は聞かんのでしょう?」

「あら、私を納得させられるだけの理由があるなら聞くわよ」

「じゃあ無理ですな・・・・承知しましたよ、直ぐに全体の手配に移ります」

 

となれば先ずは出陣予定の将兵に通達を出さないとな。後は荀彧、郭淮を呼び出し今回の出征に随行させる旨を伝えて、栄華、華侖の二人と俺たちが留守にしている間の諸事を予め決めといて。後は兵糧の手配、立夏経由で司馬家に話を通して豫州方面での緊急時の物資補給の手筈を整えておいて、あとは・・・・

 

「吼狼、やっぱり貴方は政務よりも戦の時の方がいい顔をしているわ」

 

色々と思案していると、唐突に華琳様がそんな事を言い始めた。

 

「じゃあ軍師の職を降ろして・・・・」

「ダメよ」

 

ですよねー

 

―――――――――

 

出陣の三日前、そこで行われた軍議で華琳様がとんでもない事を言い出しやがった。

 

『軍を二つに分け、それぞれが独自の進軍路と戦術を取り、どちらの軍勢が先に標的となる賊を壊滅させるか。競いましょう?右軍は私が、左軍は吼狼が総大将よ』

 

右軍の編成が華琳様を総大将に春蘭、秋蘭、柳琳、荀彧、華侖で兵千二百。左軍の編成が俺を総大将に一刀、香風、由空、立夏、郭淮で兵八百。将兵の練度そのものでは比べるまでもなくこちらが不利、だがこちらには気心の知れた立夏と『郭淮』がいる。

 

「迅、俺の副将として本格的に表舞台に立って貰うぞ」

「いやいやいや、俺を驚かせようとしたってそうは・・・・嘘でしょ?」

「マジだ」

 

郭淮、真名を迅。暴徒時代の俺の仲間で、華琳様と戦った時は一番槍で春蘭に粉砕され行方不明となっていた。んだが、それが数ヶ月前にシレっと陳留軍の兵卒に混じっていたのを発見。取り敢えず殴ってから事情を聞き、俺の補佐の一人へと格上げし軍事関係の諸用を任せていた。ここ一番で踏み止まる粘り強さがウリ、防衛とか籠城とか護りの戦いでこそ実力を発揮すると俺は思っている。態度は軽薄、だが職務に忠実、だからこそ信用してる。

 

「やれ、って言われれば取り敢えずまぁーやりますけどね?でもダンナ、あんま過度な期待はしないで下さいよ?」

「ああ、過不足の無い期待はしてるさ」

 

やれやれ、と首を横に振りつつもその眼には確かな光がある。

 

「しかし兵数の差、将兵の練度の差。それだけ差を付けた上で競え、とは御大将は非常に性格が悪いようだ」

「本当に性格が悪いなら俺と立夏、お前を一緒の軍にはしねぇさ」

 

華琳様には俺、立夏、迅の関係は教えてある。当然、俺たち三人が連携を取れるって事も想定するのは簡単だろう。だが一緒にした、実戦経験皆無の一刀もいるがそれを補うように香風もこちらに寄越している。俺には迅が言うほど性格の悪い編成には思えねぇ、むしろ五分五分ぐらいになってんじゃねぇかと思う。

 

「まぁ俺の隊の三百は丸々連れて行ける、残り五百も質としては悪くない。それに豫州の、今から行くのは『俺たちの庭』みたいなもんだろ?」

「まぁ・・・・ですね」

 

件の賊が根城にしていると言う城があるのは、俺たちが暴れまわった区域に含まれている。豫州に一定の距離を踏み込むまではあちらの方が速いだろう、だがある距離を越えればそこからは俺たちの方が必ず速い。向こうは歩兵、騎兵、弓兵を均等に組み入れた混成部隊だ、足取りにはどうやったってバラつきが出る。まぁ足、と言う点では十割歩兵のこっちも似たようなモノか。

 

「そう言えば、天の御遣いだってぇ小僧。使いものになるんすか?」

「分からん」

「分からん・・・・て」

 

この数週間、一刀には稽古を付けながら色々と推し量っていた。

 

武に関してはそれなりに心得があったようで、本気で無いとは言え春蘭の剣戟を避け続ける眼があった。知識の方だが、字は読めない、書けない。だが生まれた国の差か、時代の差か、時折俺たちでは思いつかないような事を思いつく。一刀が現在着手している警備態勢の改善業務などは、斬新で実用的な手法が用いられている。偏りは激しいが口だけの文官連中よりも余程使い物になる。

 

「ただまぁ・・・・この戦次第で、少なくとも俺の中での評価は一旦定まる」

 

現況の警備隊隊長程度の器なのか、一軍の将としての器量があるのか、或いは・・・・

 

 

 

SIDE 華琳

 

「あの・・・・少々宜しいでしょうか、華琳様」

 

軍議を終え、大まかな指示を出し終え、自室で休んでいた私を訪ねてきたのは先ほど真名を交換した軍師候補、荀彧・・・・桂花だった。

 

「えぇ、構わないわ」

 

入って来た桂花は、浮かない表情をしていた。

 

「あの場での質問は吼狼様も避けておられたようですが・・・・なぜ軍を二つに、しかもそれで功を競い合おうなどと」

「・・・・私はね、吼狼の実力を知らないの。武力も、用兵も、本気を出したのを見た事が無い」

 

賊の討伐が主だったのだから、本気を出すまでもない。と言ってしまえばそれまでだが、吼狼に関してはそこに輪をかけるように自ら功を挙げるよりも、他者の補助に徹し功を挙げさせる戦を得意としている。

 

「賊程度で吼狼の本気を見れるとは思っていない、でも迅、由空、立夏だけならともかく一刀と香風を連れて行くなら二人のために。自分の隊以外の兵を多く連れて行くならその兵のために、吼狼は相応にやる気を出して戦うでしょう?」

「そう・・・・ですね」

 

初めて吼狼と戦った時もそうだった。個の力、集の力、共に勝てないと悟るやいなや『耐えて反撃の機会を伺う』戦い方だったのが、『可能な限り被害を減らし味方を逃がす』戦いに切り替わっていた。不必要な犠牲を強いず、功に固執せず、見切りを早く。それが現状での吼狼の用兵に関しての評価、一軍の将程度で運用するならばそれで構わない。むしろ内政方面、為政者としての手腕が優秀なのだからそちらを重視してもらうだけ。でも・・・・

 

「桂花、軍師となる貴女には話しておくわ」

 

魏国の建国、天下統一により泰平の世を実現させると言う目的。そしてそのために、領土が拡大されたら信頼の置ける人材数名に一方面を任せ、多方面作戦を行う事で覇業の完遂を早めるつもりだという事。そしてその人材の筆頭が、吼狼であると。

 

「貴女の事は吼狼も評価していた、私自身も貴女の仕事を見ていて評価している。だから忌憚なく意見を聞かせて頂戴」

「では。確かに、華琳様の身は一つであり華琳様がいなければ戦端が開けない。と言うのは片手落ちどころではありません、信頼出来る重臣に戦線一つを任せると言うのも理に適うでしょう。ですが華琳様の仰り様では一州、事によっては一地方の『運営そのもの』を任せると言う事。吼狼様が非常に優秀なのは認めます、ですが・・・・」

「そこまで信用する理由、かしら?一族の、それこそ吼狼同様に適正がある秋蘭たちを差し置いてまで」

 

無言で頷く桂花。

 

「少し長くなるわよ?」

 

再び無言で首を縦に振った桂花に、私は吼狼自身から語られた彼の身の上話から語り始めた。かつては吼狼も農民であった事、そしてそこで太公望と名乗る男に師事した事。

 

「自称太公望・・・・」

「そこだけ聞くと胡散臭いのだけれども、その男から吼狼は万事を学んだと言うわ。その名が騙りであろうとも、師として教える才能とその男自身の才覚は確かだったのでしょうね」

 

州刺史による過度な増税命令、その結果で起きた暴動。汝南近隣だけで、暴徒の数総勢五百名。それを瞬く間にまとめあげ、一般人のいない城砦を占拠。都合七度に渡り官軍を打倒し、私に破れ私の配下に降った。

 

「そこまでは私も調べ上げました」

「取って代わるつもりだったから、かしら?」

「・・・・はい」

 

そこまでは吼狼からも聞かされていた、『やれるものならやってみろ、って言ってやりました』なんて笑いながら言っていた。地位や名誉に固執しない、吼狼だからこそ言える言葉なのでしょうね。

 

「私が最も吼狼を信頼する理由はね、民としての目線を持っていて、その上で特定の分野において私を凌駕するだけの才を持っているからよ」

 

『俺はね、華琳様が理想を忘れぬままに現実を見据え。大義のために小義を切り捨てず、変わらぬままでいればどこまでも貴女の下にあり続けますよ』

 

私が、吼狼を軍師に任じた時に吼狼が語った言葉。

 

「吼狼が私を信頼しているように私も吼狼を信頼する、春蘭、秋蘭たち一族の者とは違う絆が私と吼狼の間にあると私は信じているわ。だから桂花、貴女も吼狼の事を支えてあげて頂戴。あんな風にちゃらんぽらんに見えて、存外繊細なのよ」

「え?」

「吼狼の知識は一人でも多くの者に広めて欲しいの、だから桂花。貴女は吼狼に師事しなさい」

 

吼狼のように武も智も、なんて人材は探したとしても見つけられるものではない。ならばどちらか片方づつに吼狼の後継となる人材を充てがえば良い。武は由空がいる、ならば智は桂花が適任だろう。これからも、吼狼の下にはどんどんそんな人材を充てがおうと思う。

 

「さぁ桂花、話はここまで。直ぐに準備に移りなさい」

「はっ!!」

 

先ずは、吼狼の本気を少しでも引き出せるようにしなくては・・・・ね?




第四話でした。

気が付けばお気に入り登録が五百を突破していました。プレッシャーを感じる一方、これだけの方に読んでもらえている。そんな嬉しさで一杯です。これからも頑張って書いて行きたいので、引き続き読んでいただけたらな、と思います。
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