真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第六話:鄧艾出撃

あの遠征の後、桂花と立夏が華琳様の正式な専属軍師となり、迅も由空も将軍に格上げ、一刀は相変わらず俺の下だが陳留の警備責任者になった。それとどう言うつもりかは知らんが、華琳様が陳珪の推薦で兗州の州牧に、あと興味が無かったんで聞き流したが俺にも官位がつけられた。

 

まぁ本気で俺の官位はどうでも良いが、問題は華琳様の方だ。有り体に言えば、今回の人事によって華琳様の益が『大きすぎる』。そして逆に陳珪の利益が『無さ過ぎる』。一体全体、何を考えているのかが分からんだけ質が悪い。

 

「まぁ今はその事は些事だ、問題はこっちだな」

 

黄色い巾を身につけた賊の出没情報、それも一つや二つじゃない、直近のほぼ全てがその黄色い巾を身につけた賊のものだ。一刀により『黄巾党』と命名されたコイツらは、兗州だけではなく、豫州、青州、冀州、幽州、併州、司州で総数は五十万とも百万とも聞く。軍の殆どがその対応に奔走する日々、あの春蘭ですら辟易している、となれば相当なものだろう。俺か?俺は秋蘭や柳琳、桂花に立夏、一刀までが駆り出されてるからその穴埋め作業中だ。

 

恐らくだが、未来から来た一刀は正解に近い答えを知っている。聞いてしまえばもう少し負担の軽減になるんだろう、だがそれはやってはいけない。一刀もそれを理解しているから『黄巾党』の名前を出しただけにとどめ、それ以降は皆と同じ視点で対策を考え、動いている。

 

「吼狼さん、少し休まれてはいかがですの?」

 

陽も落ち切った頃に、俺がボーッとしていて気付かなかったのか何時の間にか栄華が来ていた。心配そうに、俺の顔を覗き込みながらそう言われて、俺は首を横に振る。

 

「んな事言ってる場合じゃあねぇだろ」

 

今も軍部の連中は昼夜を問わず、何日も城に戻らず行軍を繰り返しているような状況だ。それを支える俺たちが休む暇なんか無い、少なくとも様々な目処が立つまでは。

 

「敵の本拠地、正確な規模が分かればな・・・・」

 

既に農民反乱などと言う可愛げのあるものではない、だが未だに鈍重で愚図な朝廷は討伐令を下していない。無駄に有り余っている矜持がそれを許さないのか、事が正確に伝わっていない・・・・いや『伝えていない』のかもしれない。

 

「華琳様たちは?」

「はい、お姉様たちも一通り賊を追い払えたと言う事で帰路についていますわ。比較的消耗の少ない由空さん、迅さんの隊が外周警戒を、他の将兵は一度陳留に帰還するそうですわ」

 

それしかないだろうな。目処が立たないままに駆け巡っても何も解決などしやしない、むしろ功を焦るようなマネをするヤツが出て来るかもしれん。そうなる前に一度本拠へと戻り、一息入れるのは重要な事だろう。

 

「分かった、直ぐに補給の手配を頼む」

「えぇ」

 

―――――――――

 

三日後、本来ならば謁見の間でその帰還を待ち受けるべきなのだろうが、緊急の案件が発生したため俺は城門で華琳様たちを待ち受けていた。

 

「特に何事も無かったようで」

「ええ、そっちは・・・・何かあったようね?」

 

数名を伴い二人で城壁への階段を上りながら。昨日、朝廷から訪れた使者が置いていった書簡を華琳様へと差し出す。

 

「ようやく朝廷の愚図共が鈍って重くなった腰を上げました」

 

俺が待っていたのはコレだ。朝廷お墨付きの討伐令となれば州や領地の越境が公然と、面倒なやり取りを省いて行える。まぁそれでも限界そのものはあるが、やれる事、打てる手は多くなる。

 

「そう、ようやく・・・・それで?他に言うべき事があるから、ここで待っていたのでしょう?武装をして」

 

そう、俺は鎧を身に付け槍を携え出る気満々ってワケだ。

 

「はっ!本隊が装備と補給を整え、息をつくまでの間。俺が率いる二千が先遣隊となり偵察と補給路の確保、拠点建造を済ませようと思います」

「なる程・・・・確かに貴方ほどの適任もいないものね、それで?その傍らに控えている子は?」

 

華琳様が視線を向けたのは、俺の斜め後ろで待機していた少女。俺が合図を送れば、一歩前へと進み出て堂々と口上を述べる。

 

「張郃、真名を緋那(ひな)と申します!先日より吼狼様の下でお世話になってます!」

 

張郃、真名を緋那。五日ほど前に突然、陳留を訪れてきた少女。主君のアホさ加減に耐え切れず出奔、んで華琳様の噂を聞きつけて仕官すべく陳留へ。だが華琳様は留守でいない、忙しさ故に募集も兵士のみ。そこで悠長にしていられない、とまさかの俺のところへと直接押しかけてきた。そのやる気を買って仕事を与えたところ、結構な働き者であり、しかも有能。迅に立夏に由空と一時的に手伝っていた腹心が昇格し、手元を離れたと言う事もあり迷わず内定。その明るさからか、周囲の雰囲気も改善されたので良い拾い物をしたと思っている。

 

「袁紹被害者の会、会員その二だな」

 

俺が付け足すと緋那は笑顔を引っ込め、露骨に嫌そうな顔をする。

 

「吼狼様、アレの話はしないでくださいよ!思い出すだけでイラッとします!」

 

元、とは言え主君をアレ呼ばわりである。どんだけ嫌だったんだよ袁紹、華琳様とその後ろに何時の間にか控えてた桂花まで頷いてるし。

 

「俺と緋那に迅を合流させて二千五百が先陣。由空が戻って立夏と留守居で兵五千。残り全員が本隊として出陣、兵は七千・・・・問題は?」

「無いわ、貴方なら万に一つも無いもの・・・・なんだか嬉しそうね?」

「いやー思ってませんよ?書類から開放されたーとか」

 

ジト目で見られるが仕方あるまい、久しぶりに現場だ現場。

 

「華琳姉ぇ!吼狼!大変っすー!!」

 

勢いですっ転びそうなぐらいに華侖が走って階段を登ってきた。

 

「陳留の隣の郡に今までに無い規模で黄色い布の人たちが向かってるって報告があったっす!!」

「正確な数は!」

「約五千!」

 

華侖の後ろから追いかけてきた立夏が、息を切らしながらも俺の質問に答えを返してくれる。

 

「緋那!直ぐに兵に号令をかけろ!直ぐに向かう!」

「はい!」

 

俺は直ぐに駆け出しながら緋那に指示を出す。

 

「待ちなさい吼狼!!」

 

それを制止したのは、華琳様だった。

 

「今回の敵はいままでに無い規模にまで膨れ上がっているわ!貴方が連れて行くのは二千、向こうには千に満たない兵しかいないわ!」

「それがどうした!今すぐに動けるのは俺しかいない、行くしかねぇだろうが!」

「こんなところで貴方を失うわけにはいかない、せめてもう一人か二人・・・・」

 

俺は華琳様の言葉を遮るように手を突き出し、笑いながら言うべきことを言う。

 

「俺を誰だと思ってんだ?豫州汝南にて都合七度、官軍と渡り合った『暴徒』の首魁だぜ?昨日今日、俺より安易な考えで暴徒になり下がったヒヨっ子どもに負けるワケねぇだろうが。兵力差が倍だろうが『俺なら』耐えられる、だからとっとと軍備を整えて追いかけて来いよ!」

 

身を翻し、再び歩き出しながら俺は言葉を続ける。

 

「俺たちはこんなところで止まってる暇はねぇ、そうだろ?」

 

俺たちが目指す場所はこの遥か向こうにある、この程度で立ち止まるわけにはいかない。

 

「しっかりしろよ、アンタが信じると決めた(軍師)はそこまで頼りねーか?」

 

階段を下り始める一歩手前で、足を止める。

 

「いえ・・・・ならば成すべきことを成しなさい!私が、私たちがたどり着くまで死ぬ事はおろか傷一つ負う事も禁ずるわ!!」

 

面倒なことを当たり前のように言ってくれる、だがまぁ・・・・だからこそか。

 

「御意」

 

俺はそう短く答え、階段を下り始める。

 

「吼狼様ぁ!!準備万端!いつでも行けます!!」

「おぅ、なら出るぞテメーらぁ!!」

「「「「「「応っ!!!」」」」」」

 

SIDE 華琳

 

朝廷がようやく重い腰を上げ、討伐令を出した。遅すぎる、とも思いはしたけれどもそんなものかとも思った。軍事の頂点が肉屋では地方からの賂を数えるのに手一杯でしょうもの。

 

そのことを伝えてきた吼狼は、既に出陣する気で待ち構えていた。まぁ、本来『出来る』だけで書類仕事は『好きではない』らしいし、こんな時こそ吼狼の『眼』と『軍才』が必要になると考えた私は吼狼の提案を応諾した。ちょっと聞き捨てならないことを言ってた気もするけど、ここは大目にみましょう。

 

「華琳姉ぇ!吼狼!大変っすー!!」

 

華侖と、その後ろから息を切らした立夏が走ってきて告げた内容は想定外のものだった。

 

「陳留の隣の郡に今までに無い規模で黄色い布の人たちが向かってるって報告があったっす!!」

「正確な数は!」

「約五千!」

 

吼狼が連れて行くと言った兵数は二千、将も吼狼と緋那だけ。吼狼が向かう定陶の駐屯兵は千に満たないはず、しかも定陶は護りに向かない。以前のように定陶に着く頃に軍の数が膨れ上がっている可能性すらある。

 

「緋那!直ぐに兵に号令をかけろ!直ぐに向かう!」

「はい!」

 

だが吼狼は迷わず行くことを選んだ。

 

「待ちなさい吼狼!!」

 

既に走り出していた吼狼を、私は呼び止めていた。

 

「今回の敵はいままでに無い規模にまで膨れ上がっているわ!貴方が連れて行くのは二千、向こうには千に満たない兵しかいないわ!」

「それがどうした!今すぐに動けるのは俺しかいない、行くしかねぇだろうが!」

「こんなところで貴方を失うわけにはいかない、せめてもう一人か二人・・・・」

 

いくら無傷でも向こうに向かうまでに消耗はする、迅が合流するとしてもその五百もそれなりに消耗している。万が一もある、消耗の少ない秋蘭や柳琳の隊をせめて・・・・

 

「俺を誰だと思ってんだ?豫州汝南にて都合七度、官軍と渡り合った『暴徒』の首魁だぜ?昨日今日、俺より安易な考えで暴徒になり下がったヒヨっ子どもに負けるワケねぇだろうが。兵力差が倍だろうが『俺なら』耐えられる、だからとっとと軍備を整えて追いかけて来いよ!」

 

本当に・・・・この男は私が面と向かって言うことを躊躇うことを、平然と言ってのける。消耗が少ない、と言っても秋蘭の隊も、柳琳の隊も満足な働きを期待するには休息、補給を併せ一晩は必要になる。吼狼の時を稼ぐ、と言う申し出は渡りに船だ、それでも・・・・

 

「俺たちはこんなところで止まってる暇はねぇ、そうだろ?」

 

天下統一・・・・そう、そこにたどり着くには確かにここで足を止めている暇は無い。

 

「しっかりしろよ、アンタが信じると決めた(軍師)はそこまで頼りねーか?」

 

そんな事は無い、春蘭や秋蘭、華侖、柳琳、栄華ら親族以外で初めて信を置くに相応しいと見定めた、しかも男である。

 

「いえ・・・・ならば成すべきことを成しなさい!私が、私たちがたどり着くまで死ぬ事はおろか傷一つ負う事も禁ずるわ!!」

 

今から準備をさせたとして、軍を動かせるのは明朝。腹心を死地に送り込み、それを見送る事しか出来ない。その事がもどかしく、腹立たしい。だがこれから先、多くの領地を得て、勢力を拡大させていけばそんな事も多々あるのでしょう。ならば、やるしかない。

 

「御意」

 

短く返事を返し、階段を降っていった吼狼。その後に聞こえてくる兵たちの声、その声の全てが、『鄧艾』と言う将に率いられる事に嬉しさすら滲ませているようで。

 

「桂花」

「はっ!」

「栄華や秋蘭、柳琳、一刀らと直ぐに準備に移りなさい。可能な限り最速で、吼狼の後を追うわよ」

「御意に!」

 

桂花が一礼し、階段を駆け下りていくのと同時に城門が開き、吼狼を先頭にして二千の兵が一斉に駆けていく。

 

「貴方を迎え入れた事は間違いじゃなかった」

 

ありとあらゆる面で、吼狼を引き入れた事により目に見える形で良い結果を出し続けた。

 

「これから先、貴方の力はもっともっと必要になってくる」

 

その才は、今も、そしてこれから先も、遥か未来にも必要になる。

 

「死なせはしないわ」

 

そのためにも、最大限出来ることをしましょう。




第六話でした。

どうも明けましておめでとうございます雪虎です。今年もなんやかんやで宜しくお願いします。

前話で三羽烏登場予定と言ったな・・・・・・・・あれは嘘だっ!

という訳で、季衣の下りから一刀、華琳たちの三羽烏との出会いフラグまでを綺麗にへし折っての進行。やってから「どうすんべ、これ」と思っている次第。まぁ書いてしまったものを一から書き直すのも億劫なので、このまま、何とか無理なく書いてみようかなと思います。

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