真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第七話:定陶防衛戦

そう言えば、俺の直属兵は前回の遠征が終わってから待機中の間に歩兵隊から騎馬隊に転向した。なのでいつもの倍速ぐらいで定陶へと向かっている。

 

「吼狼様ぁ!!前方に砂塵!なんか戦ってるみたいですー!!」

「適当な報告をすんじゃねぇ!!簡素で良いから明瞭にしろって言っただろうが!!」

 

俺の傍らを走る緋那の報告に、頭を抱えながら訂正を要求する。緋那は眼が良い、だから物見としては最適なんだが春蘭や華侖みたいに大雑把な報告しかしてこない。状況が落ち着いたら一刀と一緒にそこら辺を学ばせても良いかもしれない。

 

「んと!かたっぽは賊です!黄色いの!」

「それだけ分かれば十分!このまま速度をあげて黄巾の横っ腹をぶち抜くぞ!!」

「「「「「応!!」」」」」

「緋那は一端下がって歩兵と共に迅と合流、それから定陶に入れ」

「はい!!」

 

―――――――――

 

「いやー、助かったでホンマ!」

「ありがとうなのー」

 

黄巾と戦っていたのは義勇軍だった。んで義勇軍と戦っていた黄巾も五百程度、こっちの騎馬隊も五百。一当てしただけで逃げ去っていった黄巾を一旦放置し、義勇軍の将と会見ってワケだ。

 

「真桜!沙和!」

「あー、気にすんな楽進。俺も堅っ苦しいのは苦手だ・・・・それと李典、于禁。今から黄巾の部隊が攻め寄せてくる、俺らと一緒にこの街ぃ護ってくれねぇか?」

 

義勇軍の数は三百、将は三名。

 

「はい!」

 

楽進。三人の中で最も武術に長け、何事も生真面目にこなすようだ。俺が援護に入って、乱戦の中でも直ぐに近寄ってきて一言礼を述べてきたぐらいだ。気功を使えるようで、気弾を使っての面攻撃が出来る。

 

「まぁウチらはそのつもりやったし」

 

李典。武はそこそこだが、即席で防護柵を作ったりするなど絡繰に対する造詣は深い。また兵の指揮にもそれなりに才を発揮しているようなので、こちらも即戦力になりそうだ。

 

「う・・・・よろしく、なの」

 

于禁。正直コイツが一番心配だ。自分のところの兵たちに優しいのは良い、だが過ぎる優しさは急場での判断を鈍らせる。同じくお人好しで優しすぎる一刀は其の辺、上手く割り切っていたがこの子はどうだろうか。

 

「ダンナ」

「吼狼様!」

 

っと、迅と緋那が合流したか。

 

「コイツラは楽進、李典、于禁だ。んで郭淮と張郃、まぁ仲良くやってくれや」

 

顔合わせも済ませたところで割り振りだなぁ。

 

「李典、柵の補強にどれぐらいかかる?」

「一刻ぐらいあれば即席で出来るけど・・・・それが限界や」

「即席で十分だ、于禁と郭淮を付けるから四方全てに急ぎで備えてくれ」

「んー、頑張ってみますわ」

 

篭るにしても最低限の防護柵が無ければ話にもならない、せめて脆くても門扉があれば話は別だったんだろうが。

 

「張郃隊は東門、楽進隊は西門、郭淮隊を北門、俺が南門を受け持つ。李典、于禁には予備の兵を預ける、防護柵を少しでも保つように修繕しつつ、各所に援護の兵を振り分けてくれ」

「お待ちください鄧艾様!賊が最も押し寄せるであろう南門を貴方が受け持つ必要は・・・・」

「せやで!それにウチにいきなり正規兵なんぞ預けられても・・・・」

「自信がないのー!」

 

迅と緋那はおとなしく配置に着こうとしていたが、楽進、李典、于禁が抗議の声を挙げる。

 

「なら俺の代わりに兵数二百で南門を抑えてみるか?」

 

南門には俺の隊から更に選別した二百、東門には五百、北門にも五百、西門には義勇兵の二百に加えて俺の隊の残る三百を配置。残る千人で状況に応じた穴埋めと休息する間を作る役目を持たせ、華琳様率いる本隊が来るまで持ちこたえさせる。その要となるのが最小の兵数で、恐らく最多の敵を受け持つのが南門なのだ。

 

「捨て鉢にならねぇで、生き延びることを考えながら護り抜く・・・・最も過酷だからこそ、玉砕なんて『逃げ』を選ぶ事は許されねぇ。その覚悟がお前らに・・・・あんのか?」

 

味方のために、護るべきもののために玉砕する。聞こえは良いが、それは全てから逃げる事だ。そんな事は許されない、許さない。

 

「無いなら今は大人しく言われたとおりに動け、それ以上の文句は全部終わったら聞いてやらァ」

 

まぁ、そこまで死地ってワケでもねぇんだろうがよ。

 

―――――――――

 

「何時もどおりだ!面での攻撃を意識しろ!一対一ではなく二対一で当たれ!!」

「「「「「応っ!!」」」」」

「鄧艾様ぁ!こっちはどないです!?」

「まだ余裕はある!他が危ないならそっちに回せ!!」

 

既に夜を跨ぎ、陽も登り始めていた。こちらの想定よりも多い兵数の襲撃、であるにも関わらず皆よくやっている。特に義勇軍とそれを率いる楽進が、こちらの期待を上回る士気の高さで戦ってくれている。幾度となく李典がこちらの状況を確認しに来ているが、今のところここは数名の負傷者で済んでいる。

 

「今のうちに二番隊は二段目まで下がり弓の準備だ!一番隊が下がり始めたら後退を援護しろ!一番隊は二番隊が準備を終えるまで耐えろ!」

「「「「「応っ!!」」」」」

 

兵が無事でも柵がもたない、既に他も二段目、三段目の防護柵まで下がってしまっている。

 

「ジリ貧か・・・・」

 

李典経由での情報だと、矢張り敵が集中しているのは此処だ。相手の強弱は読めなくても、兵数の多寡を見て攻める程度の頭はあるようだ。

 

「李典!他の状況はどうだ!」

「凪と張郃様のところは何とか!でも・・・・」

「迅・・・・郭淮が圧されかけている、か?」

 

俺の言葉に、李典が無言で頷く。アイツは攻めは強い、野戦でなら相手を『いなして』躱す事も得意だ。だがこう言う、真っ向から組み合っての護りは極端に弱い。言ってしまえば受身になった場合、ここ一番で踏み止まる事が出来ないのだ。だからこそ、援兵の割り当てを任せていた李典にも仔細は伏せたままだが迅のところには少し多めに兵を割り振ってくれるようにと頼んでおいたのだ。

 

「・・・・とにもかくにも後半日、昼頃まで耐えきれば援軍が来る」

 

楽進は俺の直属兵がいる分、比較的余力を残して守れているようだ。緋那も、正直ここまでやってくれるとは思っていなかった。率いた事の無い兵数を唐突に預けられたにしては堅実で、落ち着いた指揮をしている。

 

「それまでは・・・・」

「大変なのー!!」

 

こちらへと駆けてくる于禁、少し嫌な予感が・・・・

 

「郭淮様のところが突破されたのー!!」

 

それ以上か!

 

「直ぐに楽進と張郃に伝令を飛ばせ!!この街を放棄する!!」

「「!」」

 

俺の宣言に、二人が一瞬困惑する。

 

「放棄って・・・・」

「それはダメなの!!街の人を避難させる時にここは必ず護るって・・・・」

 

人として、それは正しい判断なんだろう。約束は護る、まぁ必要な事だよな。だが・・・・

 

「死んだら終いだろうが!!」

 

俺は軍人であり為政者だ。理想論で物事を語る事は許されず、現実を見ずして指図する事を許されない。

 

「街ならまた作り直せば良い!だが死んだ命は戻らん!!・・・・今は生き延びる事を最優先としろ。李典、于禁・・・・直ぐに楽進と合流、民を護りながら陳留方向へ向かえ。州牧曹操の本隊が向かってきてるはずだ」

「鄧艾様はどないするんです!?」

「責務を果たす、それだけだ」

 

それでも最終的に迅と緋那は逃がし、俺が華琳様たちの到着まで賊を引き付けるだけだ。

 

「安心しろ、言っただろう?捨て鉢にならねぇで生き延びる、ってよ」

「・・・・さよか、ほんなら行くで沙和!!」

「でも・・・・」

「でももへったくれもあるかい!ウチらがおったところで役にたたへん!」

 

躊躇う于禁を李典が無理やり引きずっていく。それで良い、それで。

 

「二番隊は迅のところに行け、俺がダメだったら死に物狂いで義勇軍と民を護れ」

「御意!直ぐに行動を開始するぞ!!」

 

何かを言いたそうな若手を抑え込みながら、古参の兵たちがそれをまとめあげ、迅の方へと向かっていく。後に残るのは一番隊の面々と俺、俺は笑いながら隊の皆へと声をかける。

 

「悪ぃな、貧乏くじをひかせる事になっちまった」

 

残った一番隊の面々は、或いは笑い、或いはため息をつき、或いは覚悟を決めた顔つきとなった。

 

「何を今更」

 

俺が直接率いる事が多い一番隊は、無頼の者を中心として構成されている。暴徒時代の配下、陳留に来てから降した賊、街の不良、そういった面々から腕っ節に自信のある者を選び鍛え上げた隊だ。だがその中にも毛色が違うヤツもいる、今進み出てきた牛金がそうだ。

 

「吼狼様がそう言う性分なのは皆知っている、それに貴方の『本気』はある種の『蠱毒』だ。無闇矢鱈に若者に見せるべきでもないでしょう」

 

牛金、真名を(ゆう)。元曹仁隊所属、四ヶ月ぐらい前に志願して転属して来た。一時は華侖の副官を務めたほどの手練だが、曰くあまりに自由過ぎる曹仁隊の雰囲気が身に合わなかった、との事。こっちに転属して来てからは一兵卒として出直し、派手さは無いが堅実な手腕で功績を積み重ね、唯一所属半年未満で一番隊に所属する事になった。真面目だが融通を利かせる程度に柔軟な思考と無頼の連中を納得させるだけの腕っ節を持ち、今では一番隊のまとめ役をも任せている。

 

「・・・・だな、迅と緋那の隊が退去。賊が流れ込んできたら始めるぞ、『片っ端から喰らい尽くせ』」

「「「「応!!」」」」

 

俺の直属兵はそれぞれ特色を持たせて更に五つの隊に分けている。二番隊は『堅牢』な護りを、三番隊は騎馬を中心とした『機動力』、四番隊は集で戦う『連携』、五番隊は一通りをこなせる『汎用性』。そして一番隊は手向かう全てを喰らう『破壊力』、その一点においては虎豹騎にも夏侯惇隊にも負けない。

 

「・・・・あー、吼狼様」

「あ?」

「その必要は無さそうです」

 

眼を細め、遠くを見ている犹。賊の更に向こう、そこに見える『曹』の旗。

 

「・・・・・・・・予定変更、このまま押し返して本隊と挟撃するぞ」

 

 

―――――――――

 

「随分と速く到着したもんで」

 

本隊の介入により兵数の有利不利が逆転すると、賊が崩れるのは直ぐだった。春蘭、華侖、季衣、香風に叩かれ、追い回される賊をちょっとだけ憐れみながら華琳様と合流を果たしていた。

 

「本気を出して準備を整えてくれた娘が何人かいたもの、その健気さには報いなければならないと思うのだけれど?」

 

ニヤリと笑う華琳様、の言葉に反応して何人かが視線を逸らす。桂花に栄華、柳琳の三人が、一斉にだ。

 

「ま・・・・『本気』にならなくて助かりましたよ」

 

華琳様と、互いに笑みを浮かべながら、俺は視線を楽進、李典、于禁の三人へと向けて一つの提案をする。

 

「華琳様、今回の定陶の防衛。この楽進、李典、于禁の三名率いる義勇軍にかなり助けられました。俺はこの三名を推挙します」

「あら、それ程に優秀なの?」

「それぞれに課題はありますが即戦力かと、しかるべき上官につけてこの乱の間に鍛えれば今後の『魏』の根幹を担う将となってくれるはずです」

 

楽進には指揮官としての能力が足らず、于禁には戦うと言う意思が欠けている。そういう意味では即戦力に最も近いのは李典か、武力、指揮能力ともに水準以上でありまた物事に割り切った判断を下す事が出来る。

 

「楽進、李典、于禁。貴方たちさえ良ければ、先ずはこの乱を治めるために力を貸して頂戴」

「はっ!」

「まぁ・・・・そうするしか無いわなぁ」

「うぅ、自信無いけど頑張ってみるの」

 

よし。となれば後は誰の下につけるかだな・・・・

 

「というわけで吼狼、三人とも貴方の下につけるわ」

「またですかぃ!?」

「あら、貴方が即戦力級だと言ったのでしょう?」

「そろそろ他の連中にも人を育てる事を覚えさせましょうや!」

 

今のところ俺だけじゃねぇか!

 

「なら誰が誰の下につくのが良いかしら、貴方の意見を聞かせて頂戴」

「楽進は柳琳、于禁は桂花、李典は俺が受け持つ」

 

先の防衛、楽進は確かに良く戦っていたがあくまで『楽進が』だ。そっちに行かせてた俺の隊の奴らに話を聞くと、楽進個人の武勇で無理やり流れを変え続けてたらしい。春蘭みたいな天賦の才があるならばそれでも良いが、楽進のは恐らく努力の末に手に入れた力だ。それでは限界が来る、だから柳琳のところで兵たちと連携を取る事を覚えて欲しい。まぁ・・・・『虎豹騎』はちょっと特殊だが。

 

于禁は優しい、優しいが故にあれもこれもと切り捨てる事ができずに戸惑ってしまう傾向があるように思える。だから軍師である桂花の下で、様々な知識と使い方と言うのを覚えて欲しい。切り捨てなくて良い方法も、最も犠牲無く済ませる方法も、それらを頭の中で割り切る方法も、今の桂花なら教えてくれるはずだ。

 

そして李典。急造とは言え一昼夜耐える防護柵を作り、また援兵の振り分けも中々悪くは無かった。俺の指示を必要な事だと割り切って躊躇う于禁を引きずってでも撤退する、その気性を俺は買う。特殊な技能なら、学び、鍛えれば身に付ける事はいくらでも出来る、だが精神的なものは身に着けようとして身につくことではない。最初からそれを備えている、と言うのはそれだけで貴重なのだ。

 

「わかったわ、貴方の案を受け入れましょう。もう一人の方も・・・・任せるわよ」

「ああ」

 

 

SIDE 迅

 

「よぉ、何してんだこんなところで」

 

俺はやってはならない失敗を犯してしまった。定陶防衛、北門を割り当てられた俺は他よりも多めの援兵をもらっておきながら最後の最後で突破されちまった。しかも賊程度に、だ。最終的に元々割り当てられてた五百に加え援護でもらったのが五百、併せ千もいたのに本隊が助けに入った時には四百にまで減っていた。途中から、ハッキリと目に見えて俺のところに兵が多く攻め寄せてきていた、賊の目から見たって俺のところが穴に見えてたんだ。

 

「ダンナ・・・・俺は・・・・」

「・・・・迅、この遠征が終わるまではお前から指揮権を剥奪。秋蘭の指揮下に入って動け」

 

頭を殴りつけられたような衝撃、いやわかりきっていた事だ。最低限の任務も果たせず、多くの兵を死なせ、それでいて将としてそのままなんて虫が良すぎる。

 

「俺はこれがお前の実力だ、なんて思っちゃいない」

 

一瞬、困惑する。

 

「だから学んで来い、秋蘭は守勢じゃ今のところ陳留軍随一だ。学ぶ事は多いだろ・・・・だからんな辛気臭ぇツラすんな、悔しいなら這い上がって来い」

「分かってますって・・・・」

 

涙で目が滲む、何時以来かな、泣くのは。

 

「一から、出直して来ます」

 

全体としては勝ちだ、だが間違いなく俺は負けた。負けたまんまでいられるか、今回の負けは俺だけじゃねぇ、ダンナの顔に泥塗ったのとおんなじだ。それが何より悔しい、ダンナは昔も今も俺の憧れの、中華一の将だと信じてる。その人が信じた俺が、こんな程度で終わっていいわけが無い。

 

「次はうまくやってみせますって」

「あぁ、待ってるぞ」

 

終わってたまるかよ。




第七話でした。

んー、気のせいか一話に話の流れを詰め込みすぎている気がしないでも無いんですが・・・・どんなもんなんでしょう?

とまぁ、三羽烏も出ました。これ以上は出ないって言ってたオリキャラもサラッと出ました。

あと、お気に入り登録がとうとう千件を突破しました!本当に皆さん、ありがとうございます!
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