真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第八話:救援要請

賊の大軍が沛を襲撃、救援求む。

 

定陶での戦が終わり、避難していた民を戻らせ、一通り居住するのに必要な最低限の復旧作業と防護柵の製造を済ませ。定陶の住民に食料を配って足りなくなったので、陳留からの補給を受けてから次の行動を。そう考え一時休息していた俺たちの下に、その報は届いた。

 

図らずとも、華琳様は州牧就任の件で陳珪に借りを作っている。押し売りされた、とも言うが。まぁともかく、それを返す必要は必ずあり、そうでなくともこれを断れば陳珪が生きようが死のうが評判ガタ落ち、行く以外の選択肢は無いわけで。

 

「で、まぁ今回は遊軍として動く事になった」

 

元々連れていた緋那に加え、急遽迅が抜けた穴を埋めるために昇格した犹、後から合流した一刀。更には先の戦の後に加わった真桜(李典)を加えて五名、俺の直属兵約五百で別働隊として沛を目指す事になった。

 

「本当は桂花、栄華、柳琳が『吼狼様(さん)はここに待機させるべきです!』って言ってたんだけどさ、華琳が最大戦力を遊ばせるわけにはいかない・・・・って」

 

以前の豫州遠征以来、一刀は目に見えて成長を見せた。武術は一般兵より上、親衛隊より下。部隊を指揮する能力は高く、その点で現状では季衣や真桜、凪(楽進)、沙和(于禁)よりも将としての技量は上に立っている。文字の読み書きも覚え、少なくとも書類仕事を貯める春蘭や内容が大雑把な華侖よりも良い、かなり良い。またその人柄で兵や民からの人気もあるため、最近の華琳様の領内では『仁将』なんて呼ばれ方が生まれ、定着しているぐらいだ。

 

「流石は吼狼様です!」

「ですが遊軍とは言え気は抜けませんな、一刻を争う案件でしょうし」

「せやなぁ・・・・けどどないします?」

 

真桜の「どないします?」は機動力的な問題の事を言ってるんだろう。ウチの騎馬は三番隊の百だけ、残りは全部歩兵だ。

 

「犹」

「はい?」

「騎馬に二人乗りで通常行軍の倍速、可能だと思うか?」

 

俺の言葉に、顎に手を当て考え始める牛金。

 

「可能か、と問われれば可能でしょう。ですが現地到着後、騎馬隊としての戦力は期待出来ませんが」

「構わん、騎馬だけを急がせて百を送り込むぐらいなら多少の脚の犠牲を覚悟してでも二百を送り込むべきだ」

 

そもそも、遊軍として行く俺らがやるべきは沛城に既に賊が入っていた場合、陳珪と娘の陳登、この二人を救出するのが優先だ。だからこそ華琳様も俺に直属の部隊以外は寄越さなかったんだろう。市街地で動きづらい三番隊の騎馬百では不利、むしろ『戦う場所を選ばない』一番隊の百が行く方が良い。

 

「承りました、人選は?」

「俺と犹が行く。一刀を指揮官に補佐は緋那と真桜で歩兵部隊を任せる、現地に到着したら一刀の判断で隊を動かせ」

「ちょっと待って、俺!?」

 

俺の人選に待ったをかける一刀。

 

「一刀、太公望流用兵術の心得は?」

 

つい最近、師匠から教わった用兵術に俺は『太公望流』と敢えて名を付けてみた。華琳様のところに仕官してから師匠の行方を探ってみたのだが一向に見つける事が出来ず、もし俺と『太公望流』の名が広がれば何時か、生きているなら師匠の耳にも入るんじゃないかと考えたワケだ。

 

「『一に嫌がらせ二に嫌がらせ、三四がなくて五に嫌がらせ』」

「何やねんそのゲスい心得」

 

思わず真桜がツッコミを入れるような心得だが、師匠の教えを一つ一つ理解し、俺も結局その結果に行き着いてしまった。

 

「それさえ覚えてりゃ大丈夫だ」

 

犹が引いてきた馬に飛び乗り、俺は槍を携え、犹は斬馬刀を提げ俺の後ろへと乗る。

 

「まぁ一つだけ助言するならよ、『お前なりの眼で戦場を見ろ』だ」

 

―――――――――

 

「吼狼様、一つだけお伺いしても?」

 

一糸乱れず目的地に向かい駆ける百騎、その最中に犹がそんな事を言う。

 

「何だ?」

「北郷への助言の意味を」

 

多分、コイツも生真面目だからずっと考えていたんだろう。

 

「俺の持論だがな、ある程度の実力と実績を持つ将ってのは独自の『戦』を持っている。『勘』と言い換えても良いかも知れん、一種の捉え方だな」

 

俺が知る中では、華琳様は戦場を『俯瞰した盤面』と見ている、華侖も独特な感性で部隊を動かす。

 

『俺にとって戦場は釣りさ。標的が食いつく餌を用意し、食いつかざるを得ない状況を作り出し、最後には釣り上げる。それが俺の戦だ』

 

ってのは師匠の言葉だ。

 

「北郷にもその才がある、と?」

「分からん」

 

知識の偏りもそうだが、鋭いと思えば妙な鈍さを見せる時もある。甘っちょろい事を言いながらも、現実主義なところもある。

 

「だが他の誰よりも化ける可能性がある、それは華琳様が見据える未来に必要なモノだ」

 

俺と華琳様の中にある構想、それに必要な欠片が埋まるかもしれない。

 

「さてと・・・・おーおー、随分と押し込まれてんじゃねぇの。華琳様たちも到着してねぇみたいだな」

 

眼前には沛城、既に四方の外門は抜かれ、内門にまで敵が殺到している状況だ。

 

「全騎外門に入る前に馬を捨てて徒歩!俺と犹が先頭を走るから討ち漏らしを片っ端から討て!真っ直ぐに内門を確保!以降は各門に五十づつで内門全部を確保し本隊の到着までもたせる!異論反論があるなら今のうちだぞ!?」

「「「「「ありません!!」」」」」

「ならガムシャラに突っ走れ!!遅れるヤツぁ蹴っ飛ばせ!転んだヤツを踏み越えろ!!」

「「「「「応!!」」」」」

 

 

SIDE 一刀

 

「俺と犹が行く。一刀を指揮官に補佐は緋那と真桜で歩兵部隊を任せる、現地に到着したら一刀の判断で隊を動かせ」

「ちょっと待って、俺!?」

 

突然の指名に、俺は思わず吼狼に待ったをかけていた。確かに華琳の臣下、って枠組みで吼狼と犹さんがいなくなったら古参なのは俺だ。でもイキナリすぎやしないか?俺じゃなくたって緋那に任せた方が無難だと思うんだけど。

 

「一刀、太公望流用兵術の心得は?」

 

以前の遠征が終わってから俺は吼狼にいろいろな事を教わり始めた。その最たるものが吼狼が『太公望流』って名付けた用兵術。なんでも吼狼の師匠が自称『太公望』だった事から名付けたと言う用兵術だ。

 

「『一に嫌がらせ、二に嫌がらせ、三四がなくて五に嫌がらせ』」

「何やねんそのゲスい心得」

 

ゲスい、と言う真桜の言葉ももっともだが華琳や秋蘭、桂花、立夏たち俺の知る三国志でも有数の将や軍師たちが口を揃えて『最も効果的に、最小手で最大の成果を出せる』と評価した用兵術だ。

 

「それさえ覚えてりゃ大丈夫だ」

 

犹が引いてきた馬ひ吼狼が飛び乗り、犹は斬馬刀を提げ吼狼の後ろへと飛び乗る。

 

「まぁ一つだけ助言するならよ、『お前なりの眼で戦場を見ろ』だ」

 

その言葉だけを残して、二百を連れて駆け出す吼狼。

 

「俺なりの眼で・・・・」

 

吼狼の言葉を、頭の中で噛み砕く。

 

「さて、どうします副長さん?」

「せやな、どないすんねん副長?」

「ふ、副長!?」

 

急に副長呼び!?

 

「指揮官は一刀さんです。将軍はあくまで吼狼様です!ですからその下で隊を預けられた一刀さんを副長と呼ぶのは当然だと思います!」

「せやで!ほら気張りぃ副長!」

 

そうだよな、俺は陳留でも最強な吼狼の隊を預けられたんだ。他ならぬ吼狼当人に、預けられたんだ。気負っちゃいけない、だけどやれるだけの事をやらなきゃな。

 

「分かった・・・・取り敢えず斥候を出しながら通常速度で行軍、緋那は本隊に伝令を出して。本隊と足並みを揃えながら現地に向かおう、真桜は斥候の指揮を取って。些細な事でも逃さないように」

「はい!分かりました!」

「任しとき!」

 

・・・・歴史は俺が覚えているものより確実に反れて行っている。少なくとも俺の知る魏、呉、蜀の三国が鼎立していた時期に『鄧艾』と言う武将が活躍していた記憶は無い、『郭淮』も『司馬懿』も、もう少し後の人物だったはずだ。『張郃』だってこの頃はまだ『袁紹』の配下だったはず。もう未来の知識はあてに出来ない、俺自身の考えと眼で、全てを決めるしか無い。

 

「じゃあ通常行軍で行こう!場合によっては倍速、それ以上もあるかも知れない!その時まで決して無理をしない事!」

「「「「「応っ!!」」」」」

 

『曹操』の『臣下』である事に恥じぬように、『鄧艾』の『弟子』である事を嘲笑われぬように。

 

気合、入れていこう。




第八話でした。

この作品の一刀君は通常の三倍強い(当社比)一刀君です。

そして三羽烏がバラけた事により一刀君の呼称が『副長』に。そのうち『将軍』とか呼ばれる日が来るかもしれない。

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