真・恋姫†無双 魏伝『鄧艾の章』   作:雪虎

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第九話:一刀の目覚め

「南内門確保!」

「東内門、確保」

「西内門確保しやした!」

「北内門確保、全内門を抑えました」

 

次々に上がってくる報告。

 

「夏侯惇将軍の隊が東外門より突入!」

「続けて曹仁将軍が西外門から!」

「許褚将軍が北外門を抜きました!」

「北郷『副長』が南外門から突入」

 

いつの間にやら『副長』と認められちまった一刀も、市街地と言う地形と少数の利を活かしながら上手く戦ってるようだ。それを補佐する緋那、真桜がまた良い働きをしている。

 

「ならこのまま内門の守備を継続、指揮は犹に任せる」

「吼狼様は?」

「陳珪、陳登母子のところへ、どうせ春蘭と共に華琳様も突破して来るだろう。数人着いて来い、念のため護衛に向かう」

「分かりました」

 

―――――――――

 

「意外といえば意外な組み合わせだな?」

 

確かに、俺とほぼ同時に陳珪、陳登がいる部屋の前まで来た華琳様。だが意外だったのは、一緒にいたのが春蘭では無く一刀だった事だ。

 

「春蘭よりも一刀の方が内門到達が早かったもの、であれば一刀と一緒にいてもおかしくはないでしょう?」

「ほぉ?」

 

頬をかきながら照れるように笑う一刀。緋那や真桜の補佐があったり、春蘭が具体的な命令や華琳様の直接的な指示がなければただの猪である事を差し引いたとしてもそれより速いとは。俺が思っている以上に、一刀には才能があり、それを開花させつつあるのかもしれない。弟子の才能に歓喜したい気持ちと、本来一刀が生きていた時代なら不必要な才能であったと思う気持ちが俺の中でまぜこぜになっている。

 

「あー・・・・華琳、そろそろ隊の皆のところに戻って良いかな?」

「あら、陳珪と陳登には会わないの?」

「初めて吼狼の部隊を任されたからさ、最後まで仕事を果たしたいんだよ」

 

俺と華琳様は、思わず顔を見合わせながら頷く。

 

「なら行ってこい」

「あぁ!」

 

駆けていく一刀、その背中を見ながら先に口を開いたのは華琳様の方だった。

 

「一刀が最後の一欠片、そう貴方は見定めたの?」

「本当は気が進まねぇんだがよ、仕方ないでしょうさ。アイツが選び取った道の先に、その可能性が見いだせたならやらせるしか無い」

 

一刀には戦いに首を突っ込まない道も用意していた、そのために書類仕事を覚えさせたし、一刀の未来の知識からの発想には俺たちの視点からじゃ見えないものもあった。だからこそ、俺は内心一刀には文官としての将来を嘱望していた。だが華琳様が「一刀に選択肢は選ばせろ」と言った、そして一刀は自ら武官としての道を選び、確かな軍才を発揮しつつある。

 

「道を選んだなら、俺たち先達に出来るのはその後押しだけだ。そうは思わないか?陳珪殿」

「あら、気づいていたの?」

 

扉が開かれると、そこには陳珪が笑みを浮かべていた。

 

「曹操殿、此度は要請に応じ救援いただき感謝致します」

 

恭しく一礼し、澱みなく定型的にそう述べる陳珪。

 

「一方的に貸しだけを押し付けられるのも癪だもの」

 

対して華琳様の返答は実にらしいものだ。

 

「ええ、そうでしょうね。そして今回の事で、逆にこちらは貴女に借りを作ってしまった」

「そうね、今度はどんな対価を返して貰えるのかしら?」

 

華琳様の問いに、陳珪は真顔になって少しだけ考える素ぶりを見せた。そして次に、顔を上げた時には先ほどと同じ笑みを浮かべ・・・・

 

「『豫州』、ではどうでしょうか?」

 

桂花あたりなら「国を売る気か」と怒鳴っていたかもしれない、立夏あたりは笑って「なるほどぉ」とか頷いていたかもしれない。俺も華琳様も、この場合は後者だ。

 

「一応聞くがよ、『それで良いんだな』?」

「えぇ、私は寄る辺として枯れかけた大樹である『漢王朝』よりもこれから成長するであろう若木の『曹孟徳』を選んだ。それは私のためでもあり、領民のためでもある」

 

それが陳珪と言う人間の生き方なんだろう、折れないように、潰されないように、健かにしなやかに。だからこそ朝廷と離れた豫州にあっても、朝廷を牽制しつつ権勢を保ち続けられたのだろう。そんな彼女が、『漢王朝』に見切りをつけて寄る辺として華琳様を選ぶと宣言した。

 

「だ、そうですが華琳様?」

「なら陳珪、これからは私のために働きなさい。陳登もよ」

 

陳登は、一時期農業指導のために陳留に派遣されてきていた時期があった。その頃から、華琳様は陳登の才能に眼を付けていたんだと思う。朝廷にも顔が広い陳珪、農業関連に関して相当な知識と実績を持つ陳登。この二人の加入はここから先に必要な事だ。

 

「一先ずは陳珪、このまま豫州は貴女に任せるわ。細かい話は後日でも構わないでしょう?」

「はい、仰せのままに」

 

SIDE 華琳

 

「何か言いたそうね?吼狼」

 

陳珪と別れ、次の行動に移るべく城内を移動する最中。私は吼狼へとそう、問いかけていた。普段は相手をけむに巻いたりするのが得意なくせに、こういう時だけ妙に顔に出すんですもの。

 

「随分あっさりと燈(陳珪)の申し出を受け入れたな、と思っただけですよ」

「そうね、かつての私ならばもう少し疑ったでしょうし、燈に『為政者としての誇りは無いのか』と詰る事もしたでしょうね。でもそんな考え方を変えてくれたのは貴方よ、吼狼」

 

吼狼からの問いに、私は迷わずそう答えていた。

 

「『誇りのために死ねるのはほんのひと握りだけ、普通の兵や民草はそこまで出来ない。だからこそ、為政者の務めとは一人でも多くの民を生かし、先へと繋ぐ事』。これは貴方の言葉よ」

 

私や、私に仕える事を誇りだと言ってくれている吼狼や春蘭、秋蘭たちをはじめとした将や桂花、立夏のような軍師、文官たちは自らの仕事に誇りを持ち、そのためならば死ぬ覚悟も出来ている。でも兵や民はそうではない、彼らの大半はその日その日を生きられれば良いのだ。吼狼は、農民の出であり、また国のやり方に憤慨し暴動を引き起こした事もあった。そんな経歴があったからこその言葉なのだ。

 

「国と民を巻き込みくだらない誇りと共に散るぐらいならば国と民を活かすために誇りを捨てる、そういう生き方もあるのだと理解しただけよ。天下を一つに統べる過程、当然私の懐の中にも様々な考えを持つ者が集まるでしょう。貴方や燈の思想は理解の範疇、そう思っているだけの事よ」

「さいですか」

 

ならいい、と言わんばかりに視線を廊下の奥へと向ける吼狼。その先からは、一刀がこちらへと駆けてきていた。

―――――――――

 

「華琳!吼狼!早馬が来た!」

「どこからだ?」

「官軍の賈駆って人から!」

 

賈駆、あまり聞かない名だな。

 

「要件は?」

「豫州に出陣中の官軍の救援を頼むって」

 

どう言う事だ?豫州に遠征中と言えば盧植、張遼、華雄の三将のはずだ。何れも知勇、武勇に優れた将のはずだがな。

 

「なんでも冀州で袁紹との連携を取れなくて、作戦を失敗させた責任を取らせるってまともに補給も出来ない状態で転戦させられたらしくて」

 

そう、説明する一刀の言葉を聞いてから華琳様を見れば渋い表情をしていた。

 

「どうせ麗羽が作戦を無視して勝手に動いたんでしょうけど・・・・音に聞こえた将たちを見捨てるのは性に合わないわね、吼狼!」

「分かってますよ・・・・春蘭、秋蘭、華侖、香風、凪、季衣、迅で半分引き連れて救援に向かえ!」

 

今回の戦いじゃ不完全燃焼だった春蘭を行かせるとしよう。アレでも官位持ちだし家柄的にも問題は無い、十分に華琳様の顔を立てた上で成果を残せるだろう。

 

「残りは一度陳留に帰還、補給などを済ませ次の戦いに備える。桂花と栄華には立夏と連絡を取り合い、補給の手筈を整えるように伝えろ。一刀、柳琳、緋那、沙和で行軍指揮を、真桜は俺と後詰だ」

 

俺の指示に、直ぐに皆が動き出す。と、俺は華琳様へと一つの疑問を投げつける。

 

「ところで・・・・袁紹とはどう言う関係で?真名を呼べる程度には仲は良かったんでしょう?」

「悪友兼好敵手、と言ったところかしら」

 

悪友だけど好敵手ってどんなんだよ。

 

「洛陽にいた頃には色々とやったわ。気に入っていた娘が嫁入りすると聞いて二人で攫いに行ったり」

 

華琳様は割とヤンチャだった、と栄華や柳琳が言っていたが本当だったようだ。

 

「それでもね、私と麗羽は決定的に性格も思想も合わないの。利害が一致すれば協力するだけの器量はお互いに備えている、でも心の底から理解しあう事は無い」

 

なる程ねぇ。

 

「そして私が今現在、同世代の中でも最も危険視しているのが麗羽よ」

「参考までに・・・・理由を聞かせちゃくれませんかね?」

「麗羽自身の自尊心を省けば無駄が無いのよ、『袁紹』と言う『器』にはね。潤沢な『資金』に加え名家と言う『箔』、その名前に集う『人材』、ハッキリと断言しても良い。私の覇業に最初に立ちはだかるのが麗羽で、麗羽を打ち倒さない限り天下には手が届かない。だって麗羽こそが『旧き漢王朝』の集大成とでも言うべき存在ですもの」

 

『袁紹』と言う『漢王朝』最期とも言える傑物を討つ事で旧き時代の終わりを告げ、新しい時代の到来を伝える。そこから、ようやく『曹孟徳』の『覇道』が始まるのだと。華琳様はそう思っている、いや『確信』しているのだろう。

 

「ま・・・・何とかなるでしょうよ」

「あっさり言うわね」

 

訝しげな表情の華琳様に、俺は笑いながら答える。

 

「確かに袁紹との決着はそう遠くない未来でしょうよ、だが華琳様には春蘭や秋蘭、栄華に華侖、柳琳たちがいる。桂花や立夏、香風、迅、由空、緋那たちもいる。凪、沙和、真桜たちもいれば一刀もいるしこれからも新しい『力』がどんどん集まってくる、そして何より・・・・・・・・俺がいる。どうです?」

 

一瞬、ポカンとした表情をする華琳様。だが次の瞬間、大声をあげて笑い始める。周囲にいた兵たちや、真桜、桂花、栄華らが唖然とした表情をする。

 

「アハハハハハハハハッ!!そうね、そうだったわ!貴方は正しく私にとっての太公望よ!」

 

一頻り笑い、そして息を落ち着かせてから華琳様は言葉を続ける。

 

「私が迷ったなら叩いてでも前に進ませて、私が間違っているなら殴ってでも正して。貴方だけが、私にそうする事を許すわ」

「仰せのままに、華琳様」

「あとそれ!」

 

ビッ、と俺を指差す華琳様。

 

「臣下でありながら私と対等に接する事を許すのは貴方だけ、なのにいつまでそんな畏まった呼び方をするつもり?元々言葉遣いもそこまで丁寧では無いのだから今更でしょう?」

「とは言いますがね、イキナリ改めろと言われても・・・・まぁ、努力はする」

 

ニィッと口角を釣り上げ笑みを浮かべる華琳様。俺はこれ知ってるぞ、春蘭や一刀を弄る時と同じ顔だ。

 

「あら、私が最も信頼を置く忠臣はこの程度の事すら出来ないと言うのかしら?」

「―――っ」

 

いちいち言い方がズルいんだよなぁ、この人は。

 

「分ぁったよ!」

 

「これまでは多少、遠慮してたがもう一切それは投げ捨てる!覚悟しろよ華琳!!」

「えぇ、望むところよ」




第九話でした。

今作の一刀君は萌将伝verの万能型な能力値に加え、更に吼狼の修行と指導により底上げされてます。これまでの魏の種馬とは違うのだよ!

もう一話か二話ぐらいで黄巾編は終わる予定です。

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