黄金の言霊 外伝 オーブの奇跡~希望と絶望の力、お借りします!~ 作:マイン
と言っても、今回も変身も無けりゃ戦闘シーンも無いんですが…。今回は原作世界の天願さんとのコミュ回になります。原作では禄に心情を明かすこと無く死に逃げしてしまったので、僕なりに考えた天願さんのキャラ設定にしてあります。
…地味に未来編ではこの人が一番救いがたい人なんですよね。宗方や雪染、御手洗と違って、この人は洗脳されたわけでも無いのにコロシアイ以前からえげつない思考していたので。
同時更新のエグゼイド・クロニクルもよろしく。ではどうぞ。
『レイブラッド!?』
メフィラス星人より語られた一連の事件の黒幕の正体。それに最も顕著な反応を示したのはやはり苗木とゼロ、カラレスであった。
「馬鹿な…レイブラッド星人が復活したっていうのかよ!?」
「あり得ない、とは言い切れませんが…突拍子がなさ過ぎる。何故このタイミングで、しかも地球で復活するなんて…?」
「…あの、誠君?そのレイブラッドって、なんなんですか?」
「なぁーんかどっかで聞いたことがあるような気がするんだけど…だめだ、思い出せねえ」
「…ああ、そうか。僕らの世界ではまだレイブラッド星人について明確に示唆されたことはないんだっけ」
反応の薄い皆に納得した苗木は光の国で聞いたレイブラッド星人に関することを話し出す。
「レイブラッド星人は、かつて全宇宙を支配していたほどに強大な力を持った存在なんだ。奴は『レイオニクス』と呼ばれる怪獣や宇宙人を自在に操る能力を持っていて、その力を使い強力な怪獣や宇宙人を生み出して配下にし、あらゆる宇宙にその名を轟かせてたんだ」
「レイオニクス…あーッ!思い出しましたぞ、確かメビウスの『ゴーストリバース』でちょろっとだけ出てきた『ギガバトルナイザー』の説明でレイブラッドとかレイオニクスとか書いてあったような…」
「うん。そのギガバトルナイザーはレイブラッド星人が作ったモノなんだ。レイオニクス能力を持った人物がそれを使えば、一度に『100体』の怪獣を操ることが出来る」
「以前光の国でそれを巡ってとんでもねえことが起きたが、その裏にもレイブラッド星人が絡んでいやがった…」
「成る程、あの絶望の代行者とやらが怪獣や宇宙人共を従えてるのはそのレイオニクスとやらのおかげか。…しかし会長さんよ、さっきアンタ『復活した』とか言っていたが…」
「…うん。レイブラッド星人は、少なくとも僕らの宇宙では何万年も前に『肉体を失っている』。それでも『精神体』としてまだ生きていて、レイオニクスの力をばらまいたり悪行宇宙人たちを唆したりしてはいるけど…ここまで大がかりなことをしでかすほどの力は残されているはずがない。だとすれば、何らかの方法で『肉体』を得て力を取り戻しつつあるとしか考えられない…」
「けどよぉ…あのレイブラッド星人を受け入れられるような肉体なんてそうそうあるもんじゃ…」
「…いるじゃあないですか。レイブラッドの邪悪な力くらい軽く飲み込めてしまいそうな人が、すぐそこに…」
「へ…?」
『苗木』が視線で示した方向を皆がたどった先に居たのは…
「…アタシ?」
意外そうな顔をする『江ノ島盾子』であった。
「え、江ノ島っち!?な、何言ってるべ苗木っち、江ノ島っちはずっと俺らと一緒だったじゃあねえか!」
「確かに、『この江ノ島さん』はね。…けど、この世界にはまだ『江ノ島盾子』の肉体がある…いや、『あった』だろう?」
「何…?」
「…以前お話で聞いた『コロシアイ学園生活』とやらで、『この世界の江ノ島さん』は死んだそうですね。そしてその死体は絶望の残党達に狙われないよう今も学園の地下に残されていると…ではその死体が『無くなって』いても誰も気づきはしませんよね?」
「…ま、まさかッ!?」
「そのまさかだよ。…おそらくレイブラッド星人は『この世界の江ノ島盾子の死体』を再生させ、その肉体を支配し器とすることでこの世に蘇った。それがあの『絶望の代行者の正体』だ…そうだろう、メフィラス星人?」
『…ええ。その推測で正しいと思われます。私が見た絶望の代行者の顔は、間違いなくそこの少女と同じものでしたから』
「ふ~ん…アタシの体を勝手に使うとか、絶望的かどうかは置いといて…気に入らないねぇ~…!」
「…しかし、江ノ島の体にレイブラッドの精神か…。考えられる限り最悪の組み合わせってところだな」
「あ、日向君お帰り」
「お、おお…いつの間にか日向に戻ってたのか。よく気づいたな七海」
ようやく明らかになった絶望の代行者の正体に、しかし空気は一層重々しくなる。ただでさえ江ノ島盾子だけでも手に負えない怪物だというのに、その肉体に宇宙最悪の悪人の精神と力が宿ったというのだ。いくらウルトラマンが二人この場に居ると言っても、状況は限りなく悪いとしか言えなかった。
『…む、そろそろ通信を終えねば代行者に感づかれるやもしれませんね。申し訳ありませんが、私はここで失礼させてもらいますよ。また何か情報が分かれば、再びこうして通信をさせてもらいます』
「…メフィラス、一つだけ聞かせてくれ。君を…『信じて』いいんだな?」
『カラレス…勘違いしてはいけません。私はまだ、貴方たちに勝利することを諦めたわけではありません。何時の日か必ず、私なりの方法でウルトラマンに、そして人間に完膚なきまでの勝利をしてみせましょう。…そのためにも、『死者』に出張られたままでは迷惑なのですよ。ただ、それだけのことです…』
苗木の体を借りて問うカラレスにそう答え、メフィラスは姿を消した。
その後、余りに多くの情報が入ってしまったことで、これ以上話し合いを進めることは無駄だと判断した天願の判断によりその場は解散となった。苗木達未来機関の面々は学園の寄宿舎の空いた部屋に一時逗留することになり、モルとロラはフェアリーと共に学園の植物園に居候することとなった。
ドスドスドス…
「…ふん。アイツめ、仮にも一支部の支部長であるのに話し合いにどころか晩飯にすら顔を出さないとはな。世界が違えど、御手洗は御手洗か…」
話し合いの終わったその夜、夕食を終えた詐欺師は両手にボリューム満点の料理を抱えてとある部屋へと向かっていた。
ガチャ…
「入るぞ、御手洗」
「ん…ああ、詐欺師さんか」
「……」
ノックもせず詐欺師がとある部屋に入ると、そこには薄暗い部屋で二つ並んだ机で熱心にペンタブを走らせる『二人の御手洗』の姿があった。
「晩飯を持ってきてやったぞ。…まったく、話し合いはともかく飯くらいはきちんと食え。この状況ではいつ満足に食えなくなるか知れたものではないのだぞ。大切なのは…」
「脂肪と糖質、でしょ?分かってるよ…けど、今はそれどころじゃないんだ。もう少し、もう少しだけ頑張らせてよ…!」
二人の御手洗が一心不乱に描き続けているもの…それは、オーブやゼロが怪獣や巨大なモノクマたちと戦う姿であった。
「…ウルトラマンの画か。今までの作風とはだいぶ違ってきているがいいのか?」
「構わないさ!…だって、『空想の希望』でしかなかったウルトラマンが、僕らの目の前で本当に戦っていたんだよ!あんな圧倒的な、そして絶対的な『希望』を見てしまったら、もう描くしかないじゃないか!」
突如立ち上がって興奮しきりでそう話す御手洗に、『御手洗』もまた落ち着いてはいるが同調するように話す。
「…以前、江ノ島盾子が僕の作ったアニメを利用しようとしていたのは、あの時の僕のアニメに決定的な『指向性』が無かったからだ。単に見たものにもの凄い影響を与えるだけの、希望でも絶望でも無い純粋な映像の力…。だから江ノ島盾子はそれを『絶望のビデオ』に仕立て上げようとした。けれど、ウルトラマンは誰が見ても分かる『希望』だ。そのウルトラマンをモチーフにしたアニメなら、誰が見ても希望を持つことが出来る『真の究極のアニメーション』になる筈なんだ!だからこそ、この目にあの姿が焼き付いているうちに描けるところまでやっておきたいんだ!」
「…うん、そうだ。もう二度とあんな過ちを繰り返してたまるか…!」
「…そうか。そういうことなら止めはせんが、それは冷めないうちに食っておけよ。…お前が俺の『友』であることは、例え俺が『誰』になろうが変わりはしない。俺だけじゃ無い、日向や苗木達もいつもお前のことを想っている。だから無理だけはするな」
「…分かってるよ。…ありがとう」
釘を刺すようにそう言い残し、詐欺師は御手洗達の部屋を去って行った。
「…いかんのう」
それを物陰から見送っていた天願はポツリと呟く。
「御手洗君が希望を持つのは良い…おおいに結構なことだ。だが…今彼が抱こうとしている希望は我々の求める『それ』とは異なるものだ。なまじ『何事も起きなかった自分』と相対してしまえば、より一層絶望を憎み希望に固執するかと思っていたのだが…どうにも、向こうの彼は思っていた以上に『成長』しているようじゃ。同じ自分とは言え彼を諭し同じ希望を見いださせるとは…中々、思うようにはいかんものじゃの」
江ノ島盾子との邂逅により絶望に深い憎しみを抱き、絶望のない世界を求め希望に固執する御手洗。その感情を利用しようとしていた天願であったが、別世界の御手洗により別の可能性を見いだしてしまった彼を取り込むのは困難と判断し、天願はその場を後にする。
「となれば…もはや成すべき事は『ただ一つ』。我々の『本来の目的』を…『カムクラプロジェクトを完遂する』ことのみ。この世界の希望は、我々未来機関によってもたらされねばならない。どれほど素晴らしくとも、彼らの希望ではこの世界は救えん。…絶望の『痛み』を知らぬ彼らには、この世界は救えない。そのために…協力してもらうぞ、カムクライズル…!」
一人呟く天願の目には、迷いは無かった…あまりにも、迷いが『なさ過ぎた』。まるで、『絶望の残党』たちのように…
♪~♪♪~
その日の深夜、皆が寝静まった頃に『苗木』はまたベランダにてオーブニカを奏でて心を鎮めていた。ゼロ、そしてカラレスという頼りになる仲間が加わったもののレイブラッド星人というかつて無い強敵の存在、しかもその身体はあの江ノ島盾子のものだということを知らされ、どう行動すべきかを考えていると知らず知らずのうちにここに来てオーブニカを吹いていたのだ。…『苗木』もまた、想像以上の事態に心の収拾がつかずに居たのである。
「…ふぅ。…何か用かい、響子?」
「…あら、用が無かったら来ちゃ駄目なのかしら?」
「あ、いや…そういうわけじゃないんだけど」
「ふふ…冗談よ」
『苗木』がオーブニカを吹き終えると、物陰で静かに音色に聴き入っていた『霧切』が姿を現す。とうに『苗木』が自分に気づいていることなど分かっていたからか、いつもの調子で尋ねてきた『苗木』の揚げ足をとるようにからかう『霧切』に『苗木』は苦笑する。
「あ、はははは……それで、どうしたんだいこんな時間に?」
「…ええ。貴方がウルトラマンオーブだと言うことを知って、どうしても聞いておきたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
「変なことを聞くかも知れないけれど…誠君、貴方私たちの世界で『20年前の地球』に居なかったかしら?」
「え?20年前…あ~、そういえば魔王獣との戦いの時にたまたま地球で戦った時があったっけ…。20年前かは分からないけど、確か僕らの時代とあまり変わってなかったような…」
「…その時に、『地球人の女性』を一人助けなかったかしら?」
「え…うん、確かに巻き込まれそうになった女の人を助けたけど…どうして響子がそれを?」
「…そう、やっぱり『お母様』が言っていた巨人は貴方のことだったのね」
「お母様…?」
首を傾げる『苗木』に、『霧切』は目尻に涙を滲ませながら告げる。
「誠君…その女性の名前は、『霧切響姫』。…私の母よ」
「響子のお母さん!?あの人が…」
「ええ…そして、貴方に母から伝言を預かっているわ。…『あの時、助けてくれてありがとう。…生きている内に伝えられなくて、ごめんなさい』…母が亡くなる前に、そう言っていたわ」
「…そう、だったのか。…ごめん、響子」
「…どうして、貴方が謝るのよ?貴方は何も悪くは無いわ。オーブとしての務めを果たして帰ってきたのは、ついこの間なんでしょう?なら、母のことに気づいていたとしても同じ事よ。貴方が謝ることじゃあ無いわ」
「そうなんだけど…それでも、響子のお母さんの想いを直接聞けなかったことが…なんだか、ちょっと悔しくてね。でも、ホッとしたよ…直接会えなかったのは残念だけど、あの時助けた響姫さんの命は、こうして響子につながっていると分かっただけでも、僕は嬉しいよ」
「…ええ。貴方がやったことは、お母様だけじゃなく結果的に私も救ってくれた…貴方がいなかったら、私は生まれてなかったかも知れない。…ありがとう、誠君」
「…元の世界に戻ったら、響姫さんに会いに行くよ。今度は響子の婚約者としてだけじゃなく、ウルトラマンオーブとして…!」
「…ええ」
肩を抱き、寄り添いあう二人。未だドビシの群れに覆われた夜空の下であったが、そこには時を超えてつながった確かな『絆』が瞬いていた。
…そんな二人の眼下、学園の外れにある森の中ではそんな温かなものとは異なる邂逅が起きていた。
「……」
ザッザ…
「…こんなところに呼び出して、何の用ですか天願さん?」
部屋のドアに挟まっていたメモに呼び出された日向を待っていたのは、薄暗い森の中で一人佇む天願であった。
「来てくれたか…待っておったぞ日向創君。…いや、カムクライズル君」
「ああ…僕の方に用事でしたか。で、何の用ですか天願和夫?」
カムクラの人格に入れ替わった日向に、天願は語り出す。
「…まず、今回のことについて礼を言わせてくれ。君たちの尽力のお陰で、我々は今回も未曾有の危機を乗り切ることが出来た。君たちがこの世界にやってきたのが件のレイブラッドとやらのせいなのかは別として、君たちがいなければ我々はとうの昔に滅ぼされていただろう」
「…それについては僕よりもウルトラマンゼロや苗木誠に感謝すべきでしょう。僕や創ではあの怪獣や宇宙人を倒しきれなかった。わざわざ僕を呼び出してまで言うべきことでは無い」
「いやいや、そんなことはないぞ。…君の存在は、我々にとって『希望』なのだよ。君は『儂の知るカムクライズル』とは明らかに違う…。君は完成された『超高校級の才能』を持ち合わせながらも、尚もまだ更なる成長をしようとしている。完成されているが故に全てに関心を無くしてしまった、あのカムクライズルとは違う…!」
「…天願和夫、回りくどい言い方は結構です。何が言いたいのですか?」
『訝しむ』カムクラに、天願は鋭い目つきで切り出す。
「カムクライズル…今回の一件が解決した後、この世界に『残る』気はないかね?」
「……」
天願の問いに対し、カムクラに動揺は無い。まるで『予想していた』かのように。
「…一応、理由を聞かせてもらえますか?」
「ふむ…理由はそれほど難しいことではない。今回の騒動を君たちの力を借りて解決したとしても、またいつ同じようなことが起きないという保証は無い。だからこそ、優れた才能を持つ君の力を…」
「天願和夫、僕に同じ事を二度言わせないでもらいたい。そんな『建前』は必要ありません、…貴方の『本心』を聞かせてください」
「……」
カムクラの鋭い返しに今度は天願が黙り込むが、やがて目に鈍い光を宿して答える。
「…この世界には、『希望』が必要なのだよ。我々未来機関は、江ノ島盾子によって蔓延した絶望を駆逐するために今まで戦い続けてきた。だが…どれほど戦おうと、絶望の根が消えることは無い。苗木誠君達の手で倒されても尚、江ノ島盾子という存在はこの世界に深く根付ききってしまっている。彼女という存在が消えない限り、我々の戦いに終わりは無い。…そのためには、江ノ島盾子すら凌ぐ絶対的な『希望』が必要なのじゃよ。彼女の影響を消し去れるのは、それを上回る『影響力』を持った力だけじゃ。君にはそれがある…この世界には、君が必要なのじゃよ」
「…それが『僕』である必要性は?聞きましたが、この世界にはまだ『僕』が生きているそうですが。それに、そういうことなら苗木誠の方が適任でしょう。江ノ島盾子を倒したのは、他ならぬ彼なのですから」
「…苗木君ではいかん。確かに彼は紛れもない『希望』じゃ、それに疑う余地は無い。じゃが…彼の希望は余りにも『得体が知れん』。我々の世界の苗木誠は江ノ島盾子を憎んでこそいるが、『絶望そのもの』を拒んでいる訳ではない。だからこそ我々の命令に背いてでも、この世界の君たちを助けようとしたのじゃからな。…まして君たちの世界の苗木誠は、あろうことか江ノ島盾子を『受け入れて』いる。そんな先の見えない希望に、我々の世界の命運を託すわけにはいかん…!」
「……」
「この世界の君も然りじゃ。彼は一度江ノ島盾子に味方し『超高校級の絶望』として世界を破滅に追いやった。…それがどんな理由によるものであろうと、その事実がある限り彼は『完璧な希望』にはなり得ない。むしろ強大な力を持つ分、苗木誠以上に厄介な存在にすらなりかねない。だからこそ、彼と同等の力を持ちつつ『人としての心』を持ち続ける君の存在が必要なのだよ…!」
大仰に語る天願。そこには先ほどまでの好々爺然とした雰囲気は無く…まるで長年求めていたものを目の前に興奮する研究者のような、どこか狂ったような迫力すら感じられるほどであった。そんな天願を前に、カムクラは素っ気なく返答する。
「…言いたいことは分かりました。ですが、お断りします。僕がこの世界に残ることにおいて、僕にとっての『メリット』が存在しませんので」
「…そうかな?君もまたカムクラプロジェクトによって生み出された存在だろう。ならば、元の世界に戻ったところで君に帰るべき場所があるのかね?この世界ならば、君の居場所を創ることが…」
「天願和夫。…確かに僕は希望ヶ峰学園の闇より生まれた存在。望まれて生まれたものではないのかもしれない。ですが、僕は今こうして『生きて』います。僕が僕として存在している以上、自分の道は自分で切り拓かせてもらう。貴方の敷いたレールの上を歩く気はありません。…それに、貴方はどうも『勘違い』をしている。僕はカムクライズルではありますが、同時に『日向・Z・創』でもあります。貴方が日向・Z・創としての僕を『見ていない』以上、貴方の提案は論外です」
実際、そうであった。天願にとって『日向創』という少年は『カムクライズルの素体』というだけでしかない。彼が予備学科だった頃になにかと気に懸けていたのも、日向がカムクラプロジェクトの志願者であったからだ。もしこの世界の日向が才能に固執すること無く平凡な予備学科生の一人でしか無かったのなら、欠片の興味も抱くことは無かっただろう。…この会話の中で、カムクラは自分の知る天願と目の前の天願との『歪み』に気づき、この老人が『日向』を見ていないことに少しばかり『怒って』いたのだった。
「…そうか。では仕方ないのう…『こんなやり方』は不本意なのじゃが、これも希望の為じゃ…仕方が無いのう」
パンパン!
ため息をついた天願が手を叩くと
…ススッ…!
突如木陰のあちこちから、未来機関の制服に身を包んだ屈強そうな機関員たちが姿を現す。
「…実力行使、という訳ですか。希望を守る組織にしてはやり方が物騒ではありませんか?」
「希望を守るためには、綺麗事だけでは駄目なのじゃよ。希望は決して絶望に屈するようなことがあってはならない。そのためならば…多少の犠牲はやむを得んこともある。…彼らを甘く見ない方がよいぞ。彼らは希望ヶ峰学園のOBやOGによって組織された未来機関の『特殊部隊』じゃ。戦闘に特化した才能の持ち主ばかり故、例え君でもそう簡単に倒せるとは思わんことじゃな…悪く思わないでくれ、これもこの世界の希望のためなのじゃからな」
「成る程、そうですか…」
「…随分と舐められたものですよね、『日向先輩』?」
「…何?」
突如『声色の変わった』カムクラに天願が眉をひそめた瞬間
ドサドサドサッ…!
「なッ…!?」
特殊部隊の人々が突然、まるで糸が切れた人形のように…いや、実際に彼らの身体から『糸』のようなものが離れると同時にその場に崩れ落ちる。
「や~れやれだぜ…。嫌な予感がして先回りして張ってたらこいつらが潜んでやがったからよ。苦労したんだぜ?バレないように努力すんのによ…」
「だ、誰だ!?」
木の上から聞こえてきた声に天願が問いかけると、その人物は軽やかに木から下りてカムクラの隣に立つ。
「…き、君は…!?」
「……正直、俺の勘違いであって欲しいって思ってたんだけどよ。残念だよ…天願さん」
樹上から現れ天願を悲しげな目で見つめるのは…その隣にいる人物と『同じ顔』をした青年…『日向・Z・創』、その人であった。
「こ、これは一体…日向創が、『2人』!?」
「『作戦通り』に行きましたね先輩?」
「ああ…つーか、間近で見るとホントに気持ち悪いぐらい似てんな…。詐欺師の奴が自信なくすはずだぜ」
「あはは…でも、私のはあくまで『そっくりなだけ』ですから。詐欺師さんと違って長時間は続きませんし、何より詐欺師さんはなりきっていても『詐欺師』でいられますから。私はなりきっちゃうとアドリブが効かないんですよね~」
『同じ顔』ながらも『違う声』で会話する二人の日向に、天願は目に見えて動揺していた。
「…ど、どういうことじゃ?」
「分かりません?つまり~…こういうことですよ!」
天願の疑問に答えるように、『先にいた』日向がくるりと一回転する。そして…
キュルーン!
「…はい~、出ましたー!こっちの日向・Z・創の正体は~…『超高校級のコスプレイヤー』こと、私白銀つむぎでしたー!」
一回転する一瞬の間にまるで入れ替わるように現れたのは、日向に『コスプレ』していた白銀であった。
「コスプレイヤー…!?それが、君の才能なのか…?」
「ええ、その通り。私は衣装の下準備に時間こそ掛かるけど、私のコスプレの精度は本物と比べても『99%』の再現率を誇るわ。それに、コスプレするときに自分に軽い『自己暗示』をかけることでほんの短い時間に限るけれどその本人と『同じ性能』を発揮することだってできるの。…例えカムクライズルであってもね」
「…流石、秘密結社ドレスの『元スパイ』なだけはあるな」
「うっ…蒸し返さないでくださいよぉ…」
白銀つむぎは、ただのコスプレイヤーではない。その正体は、最原終一を造った組織『ドレス』に所属する諜報員であった。孤児であった白銀は幼い頃からドレスの一員として教育を受け、ドレスの研究員であり自分を引き取ってくれた『霞の目博士』を親のように慕っていた。…実際のところは、霞の目が白銀の『他人の特徴を瞬時に再現できる能力』に目をつけスパイとして利用するために金を積んで白銀を『買った』のだが、幼い白銀はそんなことなど知るよしもなかった。
その後、白銀に霞の目から直々に指令が下った。その内容は『希望ヶ峰学園に潜入し、自分の元から盗まれた実験体『バオ-』を捕縛する。それが無理なら確実に殺すこと』…というものであった。白銀は自身の特技を生かした『超高校級のコスプレイヤー』として希望ヶ峰学園に入学し、事前に霞の目が仕掛けた工作活動により同期の最原がバオ-であることを確認し、気さくな人柄を装って傷心の最原に接近しながらチャンスを窺っていた。
…しかし、白銀が行動に移る前にドレスの調査をしていた苗木が白銀がドレスのメンバーであることを突き止め、白銀が最原に手をかけようとする瞬間に逆に白銀を拘束したのである。捕まった当初こそドレスが助けに来ると信じていた白銀であったが、任務に失敗した白銀を霞の目はあっさりと見捨て逆に刺客を送って始末しようとしてきた。その刺客は苗木や日向たちによって返り討ちにされたが、心の支えであった組織に裏切られた白銀は自暴自棄になり自殺すら試みようとしていた。しかし、赤松や百田ら同期の面々の叱咤や最原自身が白銀を『赦した』ことで、もう一度霞の目に会ってその真意を確かめることを決意。最原達と共にドレスの本拠地に潜入し、再開した霞の目から自分に向けていた愛情の全てが『嘘』であったことを知らされ、ドレスと決別。ドレス崩壊後の今は一コスプレイヤーとして仲間達と平穏な日々を送っていた。
そして今回、この世界の天願が自分の知る天願とどこか違うことを感じ取った日向は呼び出しのメモを読んだ後に白銀に協力を要請。自分の身代わりを頼むと先んじて待ち合わせ場所に潜伏し、同じように待ち伏せしていた特殊部隊の面々を不意打ちで気絶させ、カムクラの『超高校級の人形師』の才能を使って糸で彼らをマリオネットのように操り天願を欺いていたのである。
「…そうか。全てお見通しだったという訳か」
日向からネタばらしを聞いた天願は深いため息を吐く。それは天願の『降参宣言』に等しかった。
「全部が全部って訳じゃないですよ。…ただ、『俺が知る天願さん』と『アンタ』には決定的な『差』があった。俺はそれを確かめようとしただけですよ」
「…聞かせてくれ。君の知る天願和夫は儂と何が違うというんじゃ?」
「…敢えて言うなら、『信頼』ですかね」
「信頼…?」
「前に俺の世界の天願さんから聞いたんです。…昔の天願さんは、『自分の力』で何かを成そうとしていたって。でもある時、自分の限界を知った天願さんは自分を見失いかけた…らしいです。その時、知り合いの人に諭されて『自分の力を後に続く人たちのために使う』って決めたそうなんです。…もしその時に諭されてなかったら、自分は『自分の理想を他人を使ってでも成そうとする』ような奴に成り下がってかもしれないって…」
「……」
「天願さん。アンタはパッと見は穏やかそうに見えるけど、実際のところアンタは誰も『信用していない』んだろ?カムクラプロジェクトにしたってそうだ。『自分の理想通りの存在』を作り出せるのなら、アンタにとっちゃ好都合だもんな。…その上、希望である筈だった江ノ島が世界を絶望させちまったことでアンタは決定的に『狂って』しまったんだろう。アンタは『苗木の希望』も『宗方さんの希望』も信用しちゃいない。自分を裏切ることが無いのは、『自分が信じた希望』だけだもんな」
「…知った風な口を。絶望から『救われた』君には、『救われなかった』我々の気持ちなど分からんよ」
「苗木たちが江ノ島を倒したのは救いじゃないのかよ?」
「確かに彼らのしたことは大きい。…だが、『人類史上最大最悪の絶望的事件』の発生を許した時点で我々は既に敗北していたのじゃよ。江ノ島盾子にとって、あのコロシアイは単なる『暇つぶし』でしか無かったのじゃろう。それで敗北して死ぬことになったことまで想定していたのかは知らんが…我々にとって江ノ島打倒は勝利では無い。彼女が蔓延させた絶望をこの世界から『根絶』すること…それだけが、我々に残された『希望』なのじゃよ」
「根絶って…そんなことしたら、たくさんの人が死ぬことになりますよ?今この世界は、絶望じゃ無い人の方が少ないんでしょ?復興のためには人手が居るのに、それを自分で減らすようなこと本末転倒じゃ…」
「それでもじゃ。例えどれほどの犠牲を出そうと、我々は絶望に負けてはならん。苗木君の綺麗事も、宗方君の現実主義でも世界は救えん。例え外道と呼ばれようとも、我々は絶望を消し去らねばならん…それが、未来機関の『存在意義』じゃ!」
鬼気迫る迫力の天願に、白銀は霞の目博士を思い出していた。己の研究成果であるバオ-の為に他のあらゆるものを利用し、そのバオ-に叛逆されても尚、最原のことを『自身の最高傑作』と呼んだ男。彼と同じ狂気を、白銀は天願に見いだしていた。
「さあ…もう儂に打つ手は無い。煮るなり焼くなり好きにすれば良い。…じゃが、儂はそれでも諦めはせんぞ。儂が死んだとしても、その死を利用してでも儂は絶望を排除する。それが未来機関会長としての、儂の『矜恃』じゃ…!」
確固たる決意を以てそう言い放つ天願に、日向は少し考えた後…答える。
「…じゃ、俺は『何もしない』」
「…は?」
「好きにすれば良いってんなら、俺はアンタに何もしない。ここであったことは黙っとくし、アンタの腹の内を喋ったりもしない。俺もアンタも、『何事も無く』明日を迎える。…そんだけだ」
「…何を考えておる?それで恩を売ったつもりじゃろうが、儂はそんなもの気には…」
「勘違いすんな。別に恩を押しつける気なんざ無―よ。…ただ、アンタがちっとばかし『憐れ』に見えただけだよ」
「憐れ…じゃと?この儂がか…」
「そうだよ。…俺は、自分で言うのもなんだが俺一人じゃ他の奴らみたいな『超高校級』って呼ばれるほどの何かは持っちゃいない。カムクラが居なきゃ精々ちょっとばかり喧嘩が強いだけの生意気なガキでしかない。…でもな、それでも俺はアイツらと比べて『劣ってる』なんて思ったことはないぜ。俺の中には、先祖代々受け継がれてきた『誇り』が…そして俺自身を形作っている『信念』がある。それは俺一人のものじゃ無い、俺を導いてくれた先人達と俺を信じてくれる仲間が居たからこそあるものだ。…アンタにはそれが無い。自分以外の希望を信じれないから、自分の希望しか知らない。そんなアンタを突き出してハイ終わり…ってんじゃ、俺が納得できないんでな」
「…その判断、後悔することになるかもしれんぞ?」
「そん時はそん時さ。今後悔するか後で後悔するか…それだけのことでしかねえんだ。アンタだって馬鹿じゃない、本気でやばい状況で俺達の足を引っ張るような真似はしないだろ。…だから精々、頭捻りながら見届けな。俺達が本当に求めている『希望』を、そしてこの世界に生きる奴らの選んだ『選択』をよ…!」
ニヒルな笑みを浮かべて立ち去る日向と天願にウインクを送ってからその後に追随する白銀。その二人の背を、天願は憮然とした顔で見送るしか無かった。
「…若造が、生意気な口を利きおって」
一方、一足速く森の外に出た日向と白銀は緊張から解き放たれたように話し合っていた。
「…はぁ。もう日向先輩ったら、自分より遙かに年上の人にあんな言い方して…絶対怒ってますよ?」
「はっ…あの人はそんな狭量じゃねえよ。世界が変わろうが波紋を知らなかろうが、人間根っこの部分は同じだ。俺らが口先だけじゃ無いって証明すれば、きっと分かってくれるさ」
「そういうものですかねぇ…?」
自分のゆうに4倍は生きているであろう天願に対し傲慢ともとれかねない論破をかました日向であったが、元の世界で勝手知ったる仲であるが為にさほど気にしていないその様子に白銀は苦笑するしか無い。
『……』
「…ん?どうしたゼロ?」
と、今まで黙って事の成り行きを見守っていたゼロが微かに反応をしたことに日向が気づく。
『いや…ちょっと考えさせられてな。人間には、こんな複雑な感情のやりとりがあるのかって…思ってな』
「ああ…まあな。…『希望』って言葉は口にするのは簡単だが、そのたった3文字の言葉には無限の可能性が秘められている。人間一人一人が違うように、一人一人にとっての希望もまた異なる。天願さんの希望に共感する奴もいれば、逆にその希望が『絶望』になってしまう奴もいる。希望と絶望は真逆なようで本質的には同じもの…だからこうして同じ立場同士で争いが起きるんだよ」
『希望と絶望が…同じ』
「…こんな言い方するとお前らには失礼かもしれないけどよ、ウルトラマンだって平和のために暴れる怪獣とか悪さする宇宙人を殺す時があるだろ?お前らがやっていることは大多数にとっては間違いなく『希望』なのかもしれないけど、邪魔される側からすればお前らの力は『絶望』でしかない。そいつらのやろうとすることが100%自分勝手な悪事なら同情の余地なしだが、もしやむを得ない事情があるのなら…それがどんなことであれそいつらにとって『希望』なんだからよ」
『それは…そうかも、しれねえけどよ』
これまで数々の宇宙の危機を救ってきたウルトラ戦士たちであったが、その全てが悪行宇宙人たちによる侵略ばかりではない。時には環境変化などの理由でパニックを起こして暴れ回る怪獣をやむなく退治したり、地球人類に対して敵対する宇宙人達を将来の禍根を断つために宇宙船ごと壊滅させたこともある。その全てが正しいことであるとは彼らも思ってはおらず、ウルトラマンやセブン、ジャックらは今でも自分がやったことを戒めとしている。ゼロもまたそういったことに心当たりが無いわけでは無いため、日向の言葉に反論できなかった。
「まあ…なんだ。結局のところ自分がやったことが正しいことなのかを決めるのは『自分』だけだ。いくら周りに褒め称えられても、自分自身が納得できなきゃ胸を張れねえ。けれど、自分がいくら満足しても他人に理解されなきゃ価値がないのも事実だ。だから俺達は、ぶつかり合ってでも互いの希望を理解しようとするんだよ。互いの価値観を切磋琢磨しあった末に、本当の希望があるはずだって…そう信じているんだからよ」
『…へっ。そうかもな…お前みたいな奴に教えられるなんてな、俺も一丁前には2万年早いってか…』
「…先輩、ゼロと何話してるんです?」
「あ~…なんつーか、『青春』?」
「はぁ?」
ゼロと話しながら部屋へと戻る日向と白銀。
その後ろの空に一筋の『流れ星』が落ちていくのに、彼らは気づかなかった。破滅魔虫の群れに覆われた空に現れるはずの無い、その流れ星に…
「…なんだ、あの光?流れ星…?」
白銀のドレス工作員設定はオーブ外伝独自のものです。3部ではまた違う設定になるかもです
次回、目つきの悪い新人がようやく登場。そして新たな魔王獣が…