黄金の言霊 外伝 オーブの奇跡~希望と絶望の力、お借りします!~ 作:マイン
そんな間に、ルーブとグリッドマンが終わっちゃいましたね。前回のジードが「仲間」ともに立ち向かうテーマだったのに対し、ルーブは最後まで「家族」で戦うストーリーでしたね。湊家一家とサキたち兄弟全員の力でルーゴサイトを打ち倒した物語、素晴らしかったです。
…ですが、それ以上にグリッドマンが秀逸過ぎましたね。最初から最後まで中だるみ無し、クライマックスはアーマーパージと初代OPと共にオリジングリッドマンの復活!グリッドマンの放送が25年前なので僕は当時のグリッドマンを知らないのですが、不完全だったヒーローが復活するところや仲間全員で戦うところがオーブやメビウスを彷彿とさせてすごく燃えました。やっぱりヒーローが必要なんだよなぁ…
ジョジョ5部も護衛チーム結成編に突入し、パープルヘイズの最大にして唯一の見せ場が来ましたね。正直言って相手がイルーゾォだったから追い詰められたけど、暗殺チームでフーゴとタイマンで勝てそうなの、ウイルスを凍らせられるギアッチョぐらいしかいないよね。プロシュートとペッシならワンチャンありそうだけど、スタンドのカラクリさえ見破れば対処はできそうだし。
久しぶりの投稿なので長々とした前置きで失礼しました。ではどうぞ、今回は伏線を詰め込めるだけ詰め込んだので長いです
「…まさか、そんな世界が、そんな歴史があったなんてね」
「向こうの世界の最原君も苦労したのね…」
「というか…レイブラッドといいベリアルといい、江ノ島が遺したものを利用しまくってる辺り一番ヤバかったのは結局コイツだったんじゃね?」
「うぷぷ~、私様ったら宇宙スケールだったのね!これは私も負けてられませんねぇ…」
「頼むからもうおとなしくしてろ…!せめて、俺らの世界のお前だけはよ…」
最原とレムからの話を聞き終え、皆は壮大すぎるスケールの戦いの結末に驚いたり、向こうの世界でも影響力を示していた江ノ島に鬱屈したりしていた。
「…それで、私たちの世界の最原君とウルトラマンジードが一体化した経緯については分かったけれど、結局のところ最原君はどうなるのかしら?まさかとは思うけれど、全部終わったら向こうの世界に連れて行く…なんて言い出さないでしょうね?」
「そ、そんな…そんなのダメだよッ!」
「だ、大丈夫だよ赤松さん…!向こうの世界の僕は今、僕の中で眠りについて傷を癒やしているんだ。ある程度ダメージが回復すれば目を覚ますだろうし、そうすれば元の『2人』に別れることも出来るからさ」
「おお…そりゃ良かったぜ。終一が居なくなるなんて御免だからな」
『ですが…現状シュウイチが回復したとしても、元の世界に戻ることはできません。我々にはゼロのように時空を超える手段は存在しません。仮にそれが出来たとしても、あの絶望の代行者が…レイブラッド星人が、それを許すとは思えません。我々の世界から援軍を呼ばれるのは避けたいでしょうから』
「ってことはどのみち、奴を倒さなくちゃどーにもならないってことか…」
「…そのことでなんだけど、ちょっといいかな?」
絶望の代行者の話題へと移った辺りで、『苗木』が申し訳なさそうに声を上げる。
「ん、どうした苗木?」
「実は、その…言わなきゃならないことがあって…」
「…ハァ!?ベリアルのカードを奴に『奪われた』ァ!?」
「うん…ホント、申し訳ない…」
「申し分けないで済む話かよぉ…。ったく、嫌な予感しかしねえぞオイ…!」
「そ、そんなに大変なことなんですか?さっきの話にもその…ベリアルってウルトラマンのことはありましたけど、その人のカードが奪われたことがどう大変なんですか?」
「…僕たちが持つウルトラカプセルや先輩のフュージョンカードにはウルトラマンの皆さんの『パワー』が宿ってるんですけど、あくまで『パワーだけ』が宿っているので使う人によっては善にも悪にもなってしまうんです。特に父さん…ベリアルのような悪の力が宿ったものはそこにあるだけで周囲に悪影響を及ぼすほどなので、それをレイブラッドに利用されてしまえば…」
「どんなことになるか知れたものではない、と言うことか。…苗木、貴様ともあろうものがそれほどのヘマをやらかすとはな」
「面目ない…言い訳する気は無いけれど、奴の力は僕の想像を超えていたんだ。…でも、気になることもあったんだ」
「気になること?」
「カードを奪われた時、奴はすぐにその力を解放しようとしたんだけど…直前になって急にそれを『止めた』んだ」
「止めた…何故だ?」
「それは僕にもなんとも…ただ、奴は去り際に僕にこう言ったんだ。…『私の知らない苗木君』ってね」
「ッ!?その口調、まさか…」
「ああ、…どういう訳かは分からないが、おそらく今あの身体を支配しているのはレイブラッドではなくあの身体の『本来の持ち主』…つまり、『この世界の江ノ島盾子』な可能性が高い」
「ッ!?江ノ島盾子が…まさか、蘇ったっていうの?」
「僕にもよく分からない。…可能性として考えられるのは、レイブラッドが江ノ島盾子の肉体を乗っ取ったとき、肉体に僅かに残っていた彼女の『残留思念』のようなものを肉体と一緒に復元させてしまって、それがあのタイミングでレイブラッドの意識を『乗っ取り返した』…なんて、口で言うのは簡単だけどそんなことができるのか。…君なら、出来そうではあるんだけどね」
「ふふ~ん、さあてどうだかね~?」
未来機関にとって尤も恐れていた事態、かつてジャバウォック島で苗木たちが日向らと共に阻止した『江ノ島盾子の復活』が現実となってしまったことに、未来機関の皆は元より学園側の生徒達も苦渋の表情を浮かべる。
「ただでさえヤバい状況に、『改心する前』の江ノ島まで加わっちまったってか…。ゲンナリするぜ…」
「…ここまで状況が悪化してしまった以上、これ以上戦いを継続させるのはこちら側の不利でしかないわ。次の一手が打たれる前に、こちらから『打って出る』べきよ」
「…宗方さん。以前レイブラッドが僕たちに見せた映像で、奴は『未来機関の本部』を自分の根城にしたと言ってましたよね。貴方だったら、その場所が分かるんじゃないですか?」
「…ああ、あの本部は元々俺が陣頭指揮を執っていた『希望ヶ峰学園の海外分校』を改装したものだ。見た目が変わってしまったとは言え場所までは変わっては居ないだろう…日本近海の地図はあるか?」
「あ、はい」
不二咲が自身のパソコンに言われたとおり日本近海の地図を表示すると、宗方は物差しで地図上の位置を計算し、とある場所に印を示した。
「この場所の筈だ。…だが、『問題』もある。現状、この海域にまで航行、又は航空できる手段を所持しているのは我々未来機関だけだ。だが、そのほぼ全てを今回の作戦に費やしてしまった。後方指揮を執っていた逆蔵からの連絡が途絶えた以上、連絡の付いた僅かな部隊を除いた殆どがあの怪獣による被害を受けたのだろう。ならば…もはや我々にここまで移動する方法は無い」
「宗方さん…」
顔にこそ出しては居ないものの、部下であり、親友であった逆蔵の安否が分からないことが宗方にとって決して軽いことでは無いことは皆が分かっていた。…否、『安否不明』ということにはしているが、被害状況を調べたキーボが逆蔵の乗っていた船の『轟沈』を確認した以上、その生存は絶望的である。宗方自身は同じ立場の雪染を気遣い敢えて仕事に没頭させるなど気丈に振る舞ってはいるが、その言葉端からショックを隠し切れていないのが感じ取れる。
そんな空気を見かねてか、学園長が咳払いをして宗方に声をかける。
「あー…ゴホン!宗方君、私なんかがこう言うのもなんだし、私が言うまでもないことだとは思うんだが…私の知る逆蔵十三という男は、こんな巻き添えのような形で死ぬ男じゃあ無い。彼はいつだって『前のめり』で、それこそ行き過ぎて少々他人を省みないこともあったが、それでも彼は自分と君たちのために一生懸命な男だった。だからこそ言える、彼は必ず『生きている』と。君の『希望』の為に必ず帰ってくると!」
「……分かっている、霧切学園長。俺もまだ諦めてなどいない。逆蔵は必ず生きている、俺はそれを信じる、信じ続ける。どれほど絶望的であったとしても、俺はアイツを諦めなどしない。それが…逆蔵が俺に預けてくれた『信頼』に報いることなのだからな」
「おや…こいつは余計なおせっかいだったようだな。仁」
「ハハハ…そのようだね」
学園長にそう言う宗方の瞳には、諦めの色は浮かんではいなかった。それに安心した学園長を一瞥した後、宗方は切り替えて話を戻す。
「…逆蔵に関しては今は置いておこう。それよりも、今言ったとおり我々の移動手段は限られている。我々だけならば変身して乗り込むことも可能ではあるが、まだ奴の元には『3人の宇宙人』が残っている。…仮にあのメフィラス星人が我々の味方に回ったとしても、戦力的に不安があるのは事実だろう…」
「せめて何か、奴に対する『切り札』があればいいんだけど…」
「…そういえば最原ちゃん。最原ちゃんは向こうの世界で『キング』とかいうウルトラマンの力をゲットしたんでしょ?それでなんとかならないの?先輩が盗られたっていうベリアルもその力を欲しがるほどなんでしょ?」
王馬の問いに、最原は言い辛そうに答える。
「それが…ワームホールに飲み込まれる時に、キングのカプセルを『落として』しまったんだ。カプセルごとワームホールに飲まれたからカプセルもこっちに来てると思うんだけど、少なくとも僕の近くには落ちて無くて…」
「んな…!?そ、そんなピンポイントで落とすかよ普通よぉ~…」
『この辺り一帯をスキャニングしてみましたが、カプセルらしき反応はありませんでした。…憶測ではありますが、なんらかの理由でカプセルが再び『リトルスターに戻った』可能性があります。リトルスターは『カレラン分子』という特殊な物質がなければ観測できません。この地球にはカレラン分子が存在していないので、ユートムの機能だけではリトルスターを『誰が』所持しているのかを特定することはできません』
「うええ…じゃあキングの力を探すには虱潰ししかねえってことか?」
「それは流石に…時間が無いんじゃあ無いの?」
途方も無い現状に鬱屈としかけてきた雰囲気に…場違いなほどに明るい声が水を差す。
「アハハー!皆ちょっと考え過ぎじゃない?力が誰に宿っているかなんて『もう分かってる』じゃんか!」
「は…何ぃ!?」
アンジーの予想外の一言に皆の注目が集まる。
「あ、アンジーよ…それはどういうことなのじゃ?」
「うん…ていうか、『答え』はとっくにレムが言ってる筈だよ?」
「レムが?何か言ってたっけ?」
「そういえば…向こうの世界では、キングのリトルスターを持っていたのは『赤松ちゃん』だって言ってたっけ」
「…まさか、それで赤松だってか?そりゃいくらなんでも…」
「全然可笑しいことじゃあないよ。…私はよく知らないけど、要するにそのキングっていうのはウルトラマンの『神様』みたいな人なんでしょ?そして楓は、その神様の力の依り代に選ばれた…いわゆる『巫女』にあたる訳なの」
「…成る程、見えてきたヨ。現代では形骸化してるけれど、大昔の巫女は強い霊力を…例えるなら『邪馬台国の卑弥呼』のような限られた女性が役目を担っていた。向こうの世界の赤松さんがそれほどの力を持っていたとするなら、平行世界の赤松さんにもその片鱗があったとしてもちっともおかしくはない…何しろ『同一人物』なのだからネ」
「そ、そういうもん…なのか?いや、お前らが言うと妙に迫力あるからそう思うだけなんだが…」
「…あ!そういえば、さっき『ヘイ・ヤー』の様子が変だったような…?私を『守ってる』のがなんとかって言ってたし…」
「スタンド能力は持ち主の『精神そのもの』だからね。自覚はなくても、赤松さんに宿ったキングさんの力を無意識的に感じていたのかも知れないね」
「…で、仮に赤松にそのキングとやらの力が宿っているとして、どうしろというのだ?」
十神の問いにレムが答える。
『リトルスターをウルトラマンに譲渡するためには、リトルスターの保持者がウルトラマンに対して強い『祈り』を捧げることが必要です。ウルトラマンを信じる『希望』こそがリトルスターの本質なのです』
「祈り…って言われても、よく分からないよ…。こ、こんな感じ?う~ん…!」
赤松は最原の方を向き、拝むように念じてみるが…これといった変化は起きない。
「…何も起きないっすね」
「考えてみたら、戦いの間赤松はずっと最原のこと祈ってたんだから、それで無理なのにそんな適当で上手くいくわけないじゃん」
「うう…やっと最原君の力になれると思ったのになぁ…」
「あ、赤松さん。僕なら大丈夫だから、キングのカプセルなしでも戦えるし…」
「でも…」
「…だーッ!話がこんがらがりすぎて訳分かんねーよッ!!ちょっと整理する時間くれーッ!!」
「同感じゃぁぁぁぁッ!!」
「デカい声で言うことじゃあねーだろ…」
「…けどまあ、確かに情報量が多すぎたかもね。今日はもう遅いし、ここで解散しましょう。時間的猶予はあまりありませんが、奴らの本拠地への潜入法やリトルスターのことは明日以降分担して考えるとしましょう。…宗方さんも、学園長もそれでいいですか?」
「ああ、構わん」
「私もそれでいいよ。流石に少しくたびれた…」
「…じゃあ皆、そういうことで」
「了解~…」
桑田や弐大といった面々が知恵熱を起こしかけたのを機に、その日は一時解散となった。
寝床である植物庭園へと戻る道すがら、モルとロラは今後について話をしていた。
「…姉さん、凄いことになっちゃったわね。私たちの宇宙どころの話じゃ無くなっちゃったかも…」
「そうね。けれどロラ、どんなことになったとしても私たちは私たちの使命を全うするのよ。…それが私たちをこの世界に送り出してくれたベルベラに報いることなのだから」
「分かってるわよ!…ところで、そろそろ『卵』の様子を見に行かない?もうじき生まれる頃よ」
「…そうね、明日になったら人間の皆さんに伝えておきましょう」
「うん。…あ、そういえば『卵を隠した島』ってなんて島だっけ?インファント島によく似てた島だったけど」
「確か…人間達は、『ジャバウォック島』と言っていたかしら」
そして、その日の夜
「…で、どうした七海?話があるって言ってたけど」
「……」
皆が寝静まった深夜、いつになく神妙な面持ちで部屋を訪ねてきた七海を迎え入れた日向がその意図を問う。七海はしばしの沈黙の後、意を決したように口を開く。
「…日向君にはさ、前に言ったよね?私が『希望ヶ峰学園に入った理由』を…」
「あ、ああ…。確か、『お袋さんと妹さんを探すため』だったよな?学園で有名になれば、きっとお袋さん達も気づいてくれる筈…確かにそう聞いたぜ」
「…私ね、昔のことはあんまり憶えてないんだ。いきなりお母さん達がいなくなってショックだったのもあるし…何より私自身が『忘れたかった』んだと思う。昔のことを憶えていても、私もお父さんも辛いだけだから…」
「……」
「でもね、希望ヶ峰学園のスカウトを受けて、もしかしたらまたお母さん達に逢えるかもって思って…お父さんにも聞いて、色々思い出したんだ。…私のお母さんがいなくなったのって、お母さんの実家の都合で『離婚した』からなんだって」
「そうなのか…ん?あれ、なんかどっかで…」
「それでね、もう一つ思い出したことがあるの。私が妹と一緒にいたのはほんのちょっとの間だったんだけどね、その間ずっと…家で一日中『ピアノの音』が聞こえてたんだ。玩具のだけどね…」
「ちょ、ちょっと待て!『親の離婚』に、『ピアノの音』…それに、『生き別れた妹』だって!?おいおい…それってまさか、お前の『妹』っていうのは…」
七海の告白に、先ほど聞いた赤松の家庭事情が噛み合っていくにつれ、日向の中である『可能性』が浮かび上がる。それを声にだそうとして…七海が手でそれを制する。
「七海…?」
「ごめんね。私から言い出しておいてなんだけど…それはまだ誰にも言わないで。特に、赤松さんには…」
「な、なんでだよ?お前ら、やっと逢えたんじゃあないのかよ!赤松もきっと逢いたがってる、教えてやれば向こうも思い出して…」
「『だからダメ』なのッ!…あの子は今、自分に宿った『力』のことで悩んでる。私には分かるの、あの子は最原君の力になれないことを気にしている…。そんな時にこんな話をしても、余計に混乱させちゃう。だから、もう少しだけ待ってあげたいの。全部終わって…きちんと話ができるようになるまで」
「…分かったよ。お前がそうしたいんなら、それがきっと一番いい選択なんだろう。話してくれてサンキューな、俺に出来ることがあったらなんでも言ってくれ。力になるぜ」
「うん…ありがとう」
『…人間ってのは難しいんだな。俺には兄弟がいないからよく分からねーんだが、師匠もアストラにそんな思いがあるんだろうか…?』
「そういや、レオもアストラと生き別れになったんだっけか。多分あったんじゃねえか?俺も一人っ子だからハッキリとは言えねえが、離ればなれになっても『家族』ってのはどっかで繋がってるもんだからな。その繋がりが『目に見えるもの』になったのなら、それを大事にしたいのは誰でも一緒だからよ」
セブンが父親であることを知らされるまで天涯孤独と思い込んでいたゼロにとって、七海の『想い』は共感しづらいものであった。だが、日向の言葉にかつてベリアルを追って別宇宙へと向かった時にセブンから言われた言葉が過ぎり、七海がどんな思いでその選択を決めたのかをほんの少しだけ察することが出来た。
『繋がり…か。そうだな、俺もなんとなくだが…分かるよ。…強えんだな、七海は』
「うん。そうだよ、私は強い…強くなるの」
「だって、私はあの子の『お姉ちゃん』なんだから…!」
こうして学園にて決意を新たにする者達がいる一方…彼らの敵である絶望の代行者達の根城でも動きが起きていた。
「…遅くないか?代行者様」
「ああ…バットの奴の様子を見に行くと言って出かけられたが、そのバットは既に敗れた。ならば早々に戻って来られても良いはずなのだが…」
「フォフォフォ…マサカ、奴らに囚ワレテシマッタノデハ…?」
「…そのような失態を犯す方とは思えんがな」
ディスペアーパレスの玉座にて、ゼブブ、ヤプール、バルタン、ババルウ、そしてメフィラスは絶望の代行者の帰りを待っていた。
バターン!
「たーだいまー!」
そこに、勢いよく扉を開け威勢の良い声を上げて代行者が帰ってくる。
「ッ!お、お帰りなさい…ませ?」
「いやー遅くなっちゃってメンゴメンゴ!…ん?どしたの皆?」
「い、いやその…代行者様、雰囲気が変わったというか…キャラが違いませんかな?」
「んーそう?まあアレだよ、負けっぱなしでちょー『絶望的』って感じだから空気変える意味でキャラも変えてみましたー!的な?」
「…ナ、成る程。トコロデ、帰りが遅かったのは何故?」
「…ふーん、気になるんだバルタン君?私が戻ってくるのが遅かったから何だって?」
「ッ!?め、滅相モナイ…タダ気になったダケデシテ…」
「…あっそ。別になんでもないさ、ちょっと『あるものを拾いに』行ってて遅くなっただけだよ。連中が学園に引っ込むまで待たざるを得なかったからね…」
「は、はぁ…」
帰ってきて早々、以前とはまるで雰囲気の違う代行者の様子に宇宙人たちは戸惑いを隠せずにいた。
(…なんだ?この方は本当にレイブラッドなのか?このような人間くさい態度を…いやむしろ、これは『人間そのもの』ではないか。何故このような真似を、よもや入れ物となったという『江ノ島盾子』のフリをしているのでは…だがこれは、演技にしてはあまりにも…)
「まあそんなことより…次の作戦、行ってみようかーッ!」
「お、おお!して、次はどのような…」
「うぷぷ…今までは『単騎』で行って数の暴力でやられちゃってるからね、今度は『多方面』からの『各個撃破』を狙ってみようか…!」
「多方面…ですか?しかし、奴らの拠点はあの『学園』のみ。それでは多方面といってもやりようが…」
「ああ、その辺は大丈夫。今回攻めるのは奴らの学園じゃなく、奴らがどうあっても『無視できない場所』だからね…」
「ほう…?」
「と言うわけでゼブブ君、君は今から日本の『搭和シティ』という場所に向かって貰えるかい?」
「搭和シティ、ですか?了解しました…」
「ただし!下手に殺しちゃあダメだよ、今回はあくまでその町の連中にとびっきりの『絶望』をさせてやるんだ。ウルトラマンに縋ろうとなんて思えなくなるくらいにね…」
「…ほほう、承知しました。そう言うことなら…ヤプールさん、ちょっと手伝って貰えませんか?」
「む?我がか?」
「ええ。貴方と貴方の『魔王獣』の力を借りれば、きっと素晴らしく面白い『ショー』が出来ると思うんです、私…」
「…ふん、いいだろう。面白そうだ、付き合ってやる!」
「ありがとうございます…よろしいですか、代行者様?」
「オーキードーキー!…で、ババルウ君。君は『ジャバウォック島』という島に行って貰えるかな?その島には『面倒な奴』がいるからね…最悪そいつらを閉じ込めてさえ置けばいいから」
「承知しました…ところで、連中が邪魔に来たときは殺しても?」
「Off course!…と言うより、『絶対に』来るはずだから精々頑張ってね」
「…代行者様、我ラは…」
「あー…バルタン君とメフィラス君は今回は留守番!アイツらのことだからここへの『奇襲』でも企んでそうだし、空っぽにするのはちょっとねー」
「…分かりました、仰せのままに」
「では…解散!」
代行者の号令を受け、ゼブブたちは命令の場所へと魔王獣と共に飛んでいった。
「…じゃあ二人とも、私はちょっと疲れたから部屋に戻るよ。ここの警備はシクヨロ~」
「了解シマシタ…」
残ったバルタンとメフィラスにそう言って、代行者はパレス内の自室へと戻っていった。
「…バルタンさん、しばしここを任せてもよいですか?私もちょっと宇宙船の方に用事があるので」
「ム…仕方がナイ、早く戻ってコイヨ」
「済みませんねぇ…では」
代行者が去ったのを見計らい、メフィラスも自分の宇宙船へと向かっていった。
「…代行者様のアノ『しゃべり方』、ドコカデ聞いたヨウナ…?この身体になる前に、確かドコカデ…」
「…うぷぷ、うぷぷぷぷ!まさかこんな機会が巡ってくるなんてねぇ~、人間死んでからも捨てたもんじゃないってか?こういうの『希望』なのかもしれないけど、アイツらにとっては『絶望的』だろうからオッケーってことで!」
部屋に戻った代行者は自分の身体の調子を確かめるように小躍りしながら、『ダークリング』と『ベリアルのカード』を取り出す。
「しかし…レイブラッドとか言ったっけ?アイツなんでさっさとこのカードの力を使おうとしなかったんだろ?まあそのお陰でアタシが身体を『乗っ取り返す隙』が出来たんだけど。ん~…使ってみてもいいんだけど、今回はやーめた!そ・れ・よ・り…こっちの方が面白そうだし~!」
ベリアルのカードを一瞥し、それを仕舞った後に取り出したのは…赤く輝く結晶体、先ほど倒されたマガキングギドラの死体からくすねてきた『マガクリスタルの欠片』であった。
「いやー今回はあのオーブとかいうウルトラマンに倒されなかったお陰でこいつを回収することができたよ。アイツに封印されたあとじゃあクリスタルの力を引き出せないからね…さ~て」
代行者がマガクリスタルにダークリングを翳す。すると、クリスタルから禍々しい『闇』があふれ出す。
「うぷぷ…思った通りだよ!こいつに宿っているのは、魔王獣を封印した『ウルトラマンの力』だけじゃあない。コイツを宿していた怪獣が抱いていた『怨念』…それがこのクリスタルには宿っているッ!そして、あのモルとロラとかいうお人形の言うことが確かならこいつに宿った怨念の正体は…!」
クリスタルから漏れ出した闇がダークリングを潜り、やがて代行者の手で一枚の『カード』へと形どる。そのカードに描かれていたのは…巌のような黒い肌を持った、『背びれを持った怪獣』であった。そこに記された名を見るまでも無く、代行者はその怪獣の『名』を知っていた。
「うぷぷぷぷ!ビ~ンゴ、『こいつ』だろうとは思っていたよ。こいつにとってはあの魔王獣共は『自分を殺した相手』だし、魔王獣たちにとってはこいつは『親を殺した仇敵』だからねぇ。互いの怨念同士が混ざり合って、より正確な『情報』を引き出すことが出来た。やっぱり『怪獣を操れる』んだから、どうせなら『最強の怪獣』を使ってナンボだもんねぇ…うぷぷ」
「…でも、まだだ!」
代行者はそのカードとダークリングを頭上に掲げる。
「この怪獣の力は、まだこんなもんじゃない筈だよ!私がそれを引き出してあげよう、私の『超分析能力』と、レイブラッドから奪った『全知全能の力』で、『あらゆる世界のこの怪獣の可能性』を導き出してね!」
代行者がカードをダークリングにスキャンすると、リングと代行者の手から赤黒い光とスパークがカードを包み込む。
バチバチバチバチッ!!
「さあ、さあさあさあッ!見せてご覧よ、アンタの可能性を…アンタの『最強』をッ!!」
その光の中に、代行者は見た。
かつて人間の科学の発展の代償として生まれ、東京を火の海に変えた後にある科学者の作った『悪魔の兵器』により科学者諸共海へと消えた可能性。
その怪獣に産み落とされ、幾度となく人間や他の怪獣達と死闘を繰り広げ、最後には己の『核暴走』と人間の科学により骨すら遺さず消滅した可能性。
消滅の間際に親から命を与えられ、人間にとっての宿敵として戦い、最後には『最初の自分より生まれた機械の自分』と共に海の底へと消えた可能性。
人間に依ってでは無く、太古より『生態系の絶対頂点』として生き続け、人も怪獣も平等に調和を乱すものを倒す人知を越えた『神』としての可能性。
一人の科学者により『人類への試金石』として生み出され、人類の絶望であり同時に発展への福音として立ちはだかり、最後には人類の総力戦により永い眠りへと就いた可能性。
人間の傲慢を戒めるかのように星によって生み出され、『2万年』もの間進化を続け地球を支配し、人間に倒すことを『諦めさせる』ほどの存在へと至った可能性。
「…は、ハハハハハハッ!!そう、コレだよッ!コレが欲しかったんだ!この絶望的な程に圧倒的な『力』!希望ヶ峰学園も、残姉ちゃんも、松田君も、カムクライズルも要らなかった!この力さえあれば、もう誰にもアタシを止められない!苗木、思い知らせてあげるよ。どんなに崇高で真っ直ぐな『希望』でも、絶望的な『力』の前ではどーしようもないってことをねッ!」
ピキピキピキピキッ…!
光が強まると共にマガクリスタルに亀裂が走り、砕けた欠片がカードへと吸い込まれていく。そして…
ピカァッ…!
やがて、その光が弾けた。
…その頃、メフィラスの宇宙船では。
「……」
ウィーン
「ッ!」
「…お目覚めのようですね。いかがですか、身体の調子は?」
「…お陰さんでな。ピンピンしてるぜ」
宇宙船の一室に入ったメフィラスはそこに閉じ込めていた『男』に声をかける。
「それは上々。…貴方には後ほど働いて貰わねばなりませんので」
「…おい、さっきは聞きそびれたがなんで俺を『助けた』?俺が死のうがどうなろうが、テメエにはなんの関係もねえ筈だろ」
『男』はメフィラスにそう問う。あの戦いの最中、乗っていた船が沈没する直前にいきなりここに『転送』され、重体だった自分をわざわざ治療までしてくれたメフィラスの意図を、『男』は理解できずにいたのだ。
「ふむ…確かにそうではあります。ですが、私としては彼らに対し多少『貸し』を作っておきたかったところでして。そういう意味では、あの時の貴方を助けるということがちょうど良い機会だったに過ぎません」
「ケッ…そういうことかよ」
「…ですが、それだけではありません。ここだけの話ですが、近々あのお方の周囲が手薄になります。私はその時に行動を起こすつもりです。貴方にはその時に、私の邪魔をさせないよう手伝って貰いたいのですよ」
「…ハッ!悪いがお断りだ、俺は『宗方以外』の為に動きつもりはねえ。例えここでテメエに殺されようが、アイツ以外の下で働くなんざまっぴら御免だ!」
「…ほほう、大した忠誠心ですね。…ではこうしましょう、私に協力して貰えないのであれば、私はその宗方君に協力を要請するとしましょう」
「ッ!?テメエッ!!」
「先ほど彼らの会話を小耳に挟みまして、どうやら宗方君もディスペアーパレスへの強襲を計画しているようなのですよ。私が手引きすると言えば、きっと彼は罠の可能性があっても賛同してくれるでしょう。…彼もウルトラマンの力を手にしたようですし、君が嫌だと言うのであれば私としては宗方君の方が…」
バンッ!!
飛び起きた『男』がメフィラスを壁に叩きつけ、鬼の形相で詰め寄る。
「…宗方に何かしてみろ、そん時はこの船を木っ端みじんにぶっ壊してやるからな…ッ!!」
「怖いですねぇ…。では、どうなさいます?貴方がしないのであれば私は宗方君を頼ります。ですが…貴方が協力してくれるのであれば彼には手出しはしません。私としては私以外の『手』さえあれば問題ありませんので。…さあ、どうします?」
「ッ、…いいだろう、やってやるよ…!ただし憶えておきやがれ、俺はテメエのために動くんじゃあねえッ!宗方をテメエから『守るため』に戦ってやるんだ!もしテメエが宗方になんかしようとすれば、そん時は俺の『敵』はオマエになるってことだからなッ!!」
「結構。…では、そろそろどいて貰っても?私も無駄な時間は使いたくは無いので」
「チッ!」
メフィラスに諭され、『男』は渋々メフィラスを解放する。
「…おい、一つだけ約束しろ。テメエの作戦が成功しようが失敗しようが、俺を必ず宗方の所に帰せ。例えテメエが死んだとしてもな!」
「勿論そのつもりです。私としても、貴方のような単細胞…失礼、熱血漢なお方は苦手ですので」
「チッ!どいつもこいつも…」
「さて…では早速ですがこちらに来て貰えますか?貴方にはこれから私の持つ『装備』を使いこなす訓練をして頂きます。いかに貴方が地球人の中では強いといえど、我々に比べれば『貧弱』としか言えませんので。せめて一人でも死なない程度にはモノになって貰わなければ困ります」
「…ふん、抜かせ!俺を誰だと思ってやがる、俺は『超高校級のボクサー』だぞ。テメエの訓練なんざ鼻歌しながらでもこなしてやらぁ!」
「ふふふ…威勢が良いのは結構。では始めましょうか…『逆蔵十三』君?」
「上等だッ!!」
更なる戦いの火種は、着々と広まりつつあった。
…『苗木』達の宇宙。M78星雲、『キング星』。
『……来たか』
「…貴様か、この俺をここに呼んだのは?」
『私の呼びかけに応えてくれて感謝する』
「ハッ、抜かせ老いぼれ。こんな辺鄙な場所にこの俺を呼びつけた奴の面を拝みに来てやっただけだ」
『そうか』
「…で、何の用だ?わざわざ『死人』を生き返らせるようなことなどして、俺に何の用がある?」
『…今、この宇宙とは『別の宇宙』にて、『君の息子たち』が戦っている』
「…で?」
『今はまだ無事だ。だが、彼らが立ち向かおうとしている敵は想像以上の闇の力を有している。今の彼らでは、勝ち目が無い。彼らが生き残るためには、更なる『力』を手にする必要がある』
「…だから、なんだというのだ?俺の息子がどうなろうが、もはやこの俺の知ったことじゃあない。よもやこの俺に、奴を助ける手助けをさせようとだなんて思ってるんじゃあないだろうな?」
『…君が助ける必要は、無い。君はただ、彼と『戦って』くれればそれでいい』
「…ほう?」
『君と彼の間の『因縁』は知っている。君が正直に彼の助けになるとは思ってはいない、そして彼も君の助けを求めはしないだろう。…故に、彼は戦いの中でその『答え』を見つけるしか無い。君たちはどうあっても戦う宿命にある、ならば命を懸けた戦いこそが彼にとって何よりの助けとなるだろう』
「…それで、奴が死ねばどうなる?」
『どうにもならない。その時は、彼にはその可能性が無かった。それだけのことだ』
「…フ、ハハハハハハッ!!老いぼれ、貴様どうやら俺以上の『人でなし』のようだな!神の如き力を有し、人を試しておきながら挫ければそうもあっさり見捨てるか!成る程…貴様のような奴を『神』と言うのだな」
『私は神になった憶えはない。…私はただ『信じている』だけだ。私が表舞台に立つことが無くとも、人間にはどんな絶望も切り拓き、未来を創る『希望』があると。それを信じているからこそ、私は彼を試すのだ。あの青き星に望まれて生まれた、『超高校級の希望』であるあの少年をな…』
「…ふん、いいだろう!貴様の誘いに乗ってやろう。この俺の肉体、好きに使うが良い!その代わり、貴様の力この俺が存分に振るわせて貰うぞッ!」
『…それでいい。君は君の望むままに振る舞え。それこそが君の息子へのメッセージとなるのだから』
「ククク…待っているが良い『苗木誠』、『我が息子』よッ!!」
その日、キング星から一筋の『光』が別宇宙へと飛び去ったのを知る者は誰もいない。
今回は解説することが特に無いのでナビはお休みです
さーて、今回出てきた伏線はいくつあるかな~?次回からは舞台を3つに分けてそれぞれで戦いが繰り広げられます。サプライズな登場人物たちも予定していますのでお楽しみに
今年は大晦日まで仕事マッハなので今年の更新はこれが最後です。次はできるだけ早く書き上げますのでゆっくり待ってください
では皆さん、よいお年を