黄金の言霊 外伝 オーブの奇跡~希望と絶望の力、お借りします!~   作:マイン

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再掲載、7話目です


高速宇宙人 スラン星人 登場!
鉄ノ魔王獣 マガイガン 登場!


僕と「僕」

 崩壊した第一支部から撤退した未来機関の幹部たちと『苗木』たちは、道中大きなトラブルもなく希望ヶ峰学園へと帰還した。

 

「誠君ッ!!」

「会長…!こっちに来てたんすか!」

「ああ。…皆、無事でなによりだ」

「やれやれ…これでちょっとは希望が見えてきそうだな」

「…ははーん、成程…そういうことね。ま、苗木先輩なら納得かな~」

「え…どうしたの王馬君?」

「ん~?ゴン太には分からないから気にしなくてもいいよ、にしし…!」

 『霧切』たちと共に戻ってきた『苗木』の存在に、学園に残っていた教師や生徒たちは諸手を上げて喜んだ。次から次へと起こる状況の変化に一杯いっぱいであったが、『苗木』が居ればなんとかなる、そんな信頼から来る安堵であった。

 一方、別の世界の自分に満面の笑みで寄り添う舞園を見て、こちらの世界の苗木は複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「……」

「…やっぱり、舞園ちゃんのこと気になるの?」

「うぇッ!?い、いや…そんなんじゃあないよ…!」

「まー無理すんなって。あんな別れ方しちまったんだから、色々思うところはあんだろ?」

「…ちょっと、ね」

「……」

「…ほう。そちらの『苗木』君は人気者のようですな。…しかし、『会長』とはどういう意味でしょうか?」

 思わず呟いたゴズの疑問に、傍に居た百田が答える。

 

「ん?そりゃ苗木先輩は学園の『生徒会長』だからな。会長を会長って呼んだっておかしくねえだろ?」

「…え!?苗木が生徒会長!?」

「『代行』だけどね…。話せば長くなるんだけど、かいつまんで言うと黄桜さんのスカウトが芳しくなかったのと、カムクラプロジェクトの後始末の間の学園の管理を代行できるのが僕以外にいなかった…と、学園長から頼まれてね」

「…恥ずかしながら、あの計画では多方面に多大な迷惑をかけてしまってね。被害こそ最小限に抑えたとはいえ、学園の信頼も失墜してしまったから私自ら出向かなければならないことも多くてね。その間に学園を任せることができそうなのが、苗木君しかいなかったのだよ…」

「…ふん。こっちの苗木誠とは随分な違いだな、おい…!」

「…ッ」

 逆蔵からあからさまに『役立たず』と言われた苗木であったが、苗木自身自分と『彼』との差が歴然であることは分かり切っていた為、言い返すこともできず黙り込むしかない。空気が悪くなりかけたのを察した学園長は大仰に咳払いすると話を切り替える。

 

「…ゴホン!皆さん、ひとまず今日の所はお疲れでしょう。食事を用意しますのでゆっくり休んでください」

「うむ、そうさせてもらう…と言いたいのじゃが、その前にちと『頼み』があるのじゃが」

「頼み…とは?」

「実は、今回の召集に応じていない支部長が『一人』いるんじゃ。おそらく彼は、今起きている事態を把握してはおらんじゃろう。…彼も未来機関にとって大切な存在じゃ。危険は承知しておるが、彼を保護しに向かいたいのじゃが…」

「成程…分かりましたが、それは一体誰…」

「…まさかそれは『御手洗』のことか?」

 首を傾げる学園長と天願の会話に割って入ったのは、先ほどまで姿の見えなかった『詐欺師』であった。

 

「君は…」

「あ、オメーどこ行ってたんだよ?」

「寄宿舎だ。…御手洗の事だ、まだ部屋に籠って外の状況に気づいていないかもしれんと思ったのでな。今しがた様子を見に行ってみれば案の定…地震か何かと勘違いしていて、外の景色を見て腰を抜かしていたよ」

「…あの野郎、この状況でよくもまあそんな呑気できたもんだぜ」

「亮太ちゃんは案外図太いっすからねー」

「単に危機意識が薄いだけだと思うのですが…」

「…成程、どうやらそちらにも御手洗君がいるようじゃな。ならば説明の手間が省けたわい」

「やはりか。…いつ出発する?俺も同行しよう」

「君がかい…?」

「ああ。アイツの事だ、ロクに知らない奴が注意喚起しに行ったところで耳を貸しはしないだろう。…この世界での俺達の事はある程度聞いているが、少なくともこの場においてアイツの扱いを一番分かっているのは俺のつもりだ」

「…ま、それは間違いねえからな。うっし、俺が護衛でついて行くぜ。それでいいだろ?学園長、天願さん」

「…うむ。それは心強い」

「…分かった。二人とも、くれぐれも気を付けてくれ。天願会長、二人をお願いします」

 詐欺師と日向が同行し、天願は第十支部の御手洗を迎えに行くべく車の手配をさせる。

 

 

 

クイクイ…

「え…?」

 そんな様子を遠巻きに窺っていた不二咲だったが、ふと後ろから裾を引っ張られたことに怪訝そうに振り返ると、先ほどの崩落で愛用の車いすが壊れてしまったことで珍しく自力で立っていた月光ヶ原が、何かを言いたげな目で自分を見ていた。

 

「……」

「あ、えっと…確か、月光ヶ原さん…だったよねぇ?僕に何か用?」

「……」

「あ、あのぉ…」

「おい、どうした不二咲?」

「あ、大和田クン。その…『向こう』の月光ヶ原さんが…」

「あん?…おい、コイツに何か用かよ?」

「……」

「…おい、用があるんなら早いとこ言いやがれって…!」

「…どうかしたのか兄弟?…む、月光ヶ原君…!?…いや、未来機関の月光ヶ原君か。こちらの彼女は今校外研修で留守のはずだからな」

「……」

「…む?…おお!何かしっくりこないと思っていたが、もしや彼女は『パソコン』を失くして話せないのではないのかね?」

「……!」

「あ?…おお、そういやいつもパソコンで喋ってやがったな。さっきのゴタゴタで壊れちまったのか?…つーことは不二咲、オメーにパソコン貸してくれって頼んでるんじゃあねえか?」

「あ…そういうことぉ?」

 得心がいった不二咲に、月光ヶ原はようやく通じたことに安堵して首を振る。

 

「そりゃ無神経なこと言って悪かったな。すまねぇ」

「ちょっと待ってて、すぐに用意するよぉ…!」

 

 

 やがてしばらくして、突然の予想外の来訪者に驚愕を落ち着かせる暇もないまま連行された御手洗が合流し、不二咲からパソコンを借りたことでようやく会話ができるようになった月光ヶ原も含め、未来機関は学園にて襲撃の疲労を癒し、束の間の休息を楽しむのだった。

 

 

 

 その日の深夜…

 

「…ハァ」

 苗木は一人割り当てられた部屋を抜け出し、校内を彷徨っていた。他の皆は疲れがたまり切っていたせいか早々に眠りに就き、苗木も疲れは残っていたのだが、それでも眠ることができず当てもなくふらふらと歩いていた。

 

「…これから、どうなってしまうのだろう?僕たちだけじゃない、ジャバウォック島の77期生の皆も、塔和シティのこまるや腐川さんたちも、いつまでも安全とは限らない。もし彼が言ったように空のあの怪物が地上に降りてくることになったら…。…僕には、何もできない。『超高校級の希望』なんて呼ばれても、僕にはなんの力も無い…。僕は、無力だ…」

 今回起きた一連の騒動において何もできなかったことが、苗木の自身の無力感を煽ることとなった。…そしてそんな自分に対し、ずば抜けた求心力を見せつけただけでなく、自分にはない『スタンド能力』で多くの命を救った『苗木』に、感謝と尊敬以外の『邪な感情』を少なからず抱いている自分が情けなかった。

 

 

♪~♪♪~

「…?これは、ハーモニカの音…?」

 そんなゴチャゴチャの感情を抱いたまま散歩していると、ふとどこからともなく不思議な『ハーモニカの音色』が聴こえてくる。苗木は思わず音のする方へと歩いて行く。すると…

 

「あ…!」

 外に張り出したベランダに一人佇み、『オーブニカ』を奏でる『苗木』とバッタリ遭遇した。

 

「…やあ、起こしちゃったかな?」

「う、ううん…ちょっと眠れなくて。…君も?」

「うん…まあ、そんなところかな。…良かったら、少し話さないかい?」

「あ…うん!」

 『苗木』に促され、苗木はベランダの一角に腰掛ける。

 

「流石に、まだ整理がついてないみたいだね。無理もないけれど…」

「うん…ちょっと、予想外の事が多すぎたから…。君は落ち着いてるんだね」

「まあ、『スタンド使い』になると人よりトラブルに巻き込まれる頻度が多くてね。…とはいえ、今回は僕にとっても想定外に尽きる事態だけどね」

「そ、そうなんだ…」

「……」

「……あ、あの!えっと…さ、さっきの曲…良い曲だね。聴いててなんだか落ち着いたよ」

「…それは良かった。あの曲は『知り合い』に教わったものなんだ。大昔の『戦士を慰める唄』で、邪悪を払い安らぎをもたらす力があるんだ。…何しろ、空がこのザマだからね。気休めにでもなればと思って…」

「…うん」

 ふと見上げた夜空。人類史上最大最悪の絶望的事件以降、以前のような綺麗な星空こそ見えなくなったものの、それでも優しい月が顔を出していた筈の空は、今は視界を覆い尽くす無数のドビシによって新月よりも暗い暗黒の空と化していた。

 

「…キミ達はさ、これからどうするつもりなの?」

 ふと思いがけずそんなことを聞いてしまった苗木に、『苗木』は一瞬考えた後答える。

 

「…まずは、帰る手段をなんとか探すさ。この世界は僕たちが本来いるべき場所じゃあない。どれだけかかろうと、必ず帰らなくてはならない。…でも、だからと言って今のこの世界の状況を放置して帰るほど、僕等は薄情じゃあないよ。直接的な解決は難しいかもしれないけれど、僕等にできる限りの協力を未来機関の人たちにさせてもらうよ。根本的なことは…ちょっと無責任だけど、あの『ウルトラマン』に頼ることになるかな」

「…そう、なんだ」

「…期待していた答えとは、違ったかな?」

「あ…いや、そんなんじゃなくて…」

「自分が『何もできない』ことが悔しいのかい?」

「…ッ!?」

 心の中を見透かされた様な問いに、苗木は思わず息を吞む。

 

「逆蔵さんに言われたこと、気にしてるんだろう?希望を捨てず、諦めないと心に決めたところで、どうしようもない強い力の前では、結局自分には何もできない…。だから同じ『苗木誠』である僕が、何をしようとしているのかが気になった…そうだろう?」

「…キミは、なんでも分かるんだね」

「なんでもは分からないさ。でも言っただろう、僕も『君』なんだから、それぐらいは分かるよ」

「…それは、違うよ。君は僕とは違う…君にはスタンド能力が、『戦う力』があるじゃあないか。『僕には無い』、君だけの特別な力が…」

「……」

 心にしまいきれず、漏れ出してしまう嫉妬混じりの言葉。頭では駄目だと分かっていつつも、それを抑えることができず苗木はなおも続けてしまう。

 

「君はいいよね…。皆がちゃんと生きていて、幸せで…もしものときに、皆を守ることができるから…。もし、僕にそんな力があったら…あの、コロシアイの時に、皆を…舞園さんを…!」

「…そのことは聞いたよ。でも、余り自分を責め過ぎないほうがいい。君は十分に頑張ったと…」

「そうじゃないんだよッ!!…僕は、誰も死なせたくなかった…!舞園さんも、桑田君も、不二咲君も大和田君も、山田君も石丸君もセレスさんも大神さんも!…戦刃むくろや江ノ島盾子にだって、死んでほしくなかったんだッ!!なのに、皆…殺し合って、真実を突きとめても結局殺されて…僕には、どうすることもできなくて…ッ!」

 コロシアイ学園生活の後、苗木達は未来機関の技術により少しずつではあるが失われた学園生活の記憶を思い出していた。…しかし、思い出すたびに色濃くなるクラスメイトへの想いが、あのコロシアイの惨劇を終わって尚…むしろより痛烈に感じるようになった。特に学園生活の中で親密な関係であった舞園や戦刃の記憶を思い出した時は、彼女たちの死に様を思い出すたびにトラウマになりかけ、一時期全く眠れなかったこともあった。

 

「…僕は、君が羨ましい…!誰かを救える君が、誰もを守ることができる君が、途方もなく羨ましい…!同じ『苗木誠』なのに、どうして僕には君のような力が無いんだ!?どうして僕は、大切な人を守ることが許されないんだッ!!…どうして僕には、江ノ島盾子を止められなかったんだ!!?僕には…一体どうすればよかったって言うんだよッ!!」

「……それが、君が心の内に秘めていた『本音』かい?」

「そうだよ…。皆は僕の事を『超高校級の希望』だなんて言うけれど、僕はそんな大それた人間じゃない…。江ノ島盾子に勝てたのだって、皆が僕に力を貸してくれたからだ。僕一人じゃ、何もできなかった。『僕なんか』、もう居てもいなくても変わらない…」

 

 

 

 

ドゴォンッ!!

 何の前触れもなく突き出された『苗木』の拳が、苗木の頭上の後ろの壁に轟音を立ててめり込んだ。

 

「…?…ッ!!?え、ええッ…!?」

「…君が君自身をどう自己評価しようがそれは君の自由だ。それに対して僕がどういう言う必要はないし、そんな権利も無い。…けれど、個人的に思うところがあるから、失礼を承知で言わせてもらうよ。…自分の事を、『なんか』なんて思うんじゃあない…!」

「え…?」

「君がどう思っていようが、君はこの世界で江ノ島さんを倒し、絶望の蔓延を食い止めた。それは『君自身』が選んだ道であり、それを貫くという『覚悟』もあった筈だ。この世界の響子…霧切さんたちも、君のその『覚悟』に希望を見出したからこそ共に戦うことを誓ってくれたんだ。…その君が、自分になんの価値もない。だなんて思っていたら…君を選んだ霧切さんたちは、一体何の為に過酷と分かって尚戦うことを選んだんだい?」

「…!それ、は…」

 苗木は答えに迷う。自分を信じてくれた霧切たちに対し、今の自分は彼らの『希望』足り得ているのか。それは苗木が思ってはいても皆には聞けずにいた『疑問』でもあったからだ。

 

「謙虚の範疇ならば構わない。だが、度が過ぎた自己過小評価は霧切さんたちに対する『侮辱』にもなりかねない。…『侮辱という行為には殺人すら許される』。以前僕が出会った男が言っていた言葉だけど、殺人とまでは言わないが僕も一理あると思っている。君が自分を矮小化することは、君に懸けた君の仲間の想いすら小さなものにしてしまう。それは決して、許されることではない」

「そ、そんなつもりじゃ…!」

「君の思惑は関係ない。周りがそうと認識してしまえば、例え嘘やでっちあげであろうと『真実』になってしまう。…それが、『人間』というものの性だ」

「…でも、実際僕には…」

 

「…それに、君は自分の何の力も無いと思っているようだけど、僕はそうは思わない。少なくとも君は、『諦めない』ということに関しては僕よりも芯の強い人間だと思う」

「ええ…!?い、いや…そんなこと、無いと思うけれど…」

「いや、間違いないよ。…さっき僕がドビシ共の事について話した時、皆が暗い雰囲気になったよね。…僕はあの時、あの空気を変えようと何か言おうと思っていたんだ。でも、僕は一瞬だけど『迷って』しまった。ついさっき来たばかりの僕が、絶望的な現状を語ったその口で楽観的なことを言って、果たしてその言葉にどれだけの意味があるのか、と。そんな風に考えている間に、…君は既に声を発していた。諦めるなと、何かできることがある筈だと」

「……」

「その時、改めて気が付いたよ。大切なのは、道を切り拓く『力』でもそれを使いこなす『才能』でもない。…何かをしようとする『意志』、暗闇の荒野に一歩を踏み出そうする『勇気』なんだということに。君はそれを無意識に知っていた、だから何の迷いもなく『諦めない』という選択肢を選ぶことができた。…むしろ、自分に力が無いことを自覚していたからこそ、ただそのことに一生懸命になれたのだと思うんだ」

「…えっと、褒められてる…のかな?」

「勿論だよ。…希望は、決して『目に見える物』とは限らないんだ。絶望だってそうさ。江ノ島さんが世界中に絶望を蔓延させることができたのも、彼女が絶望の『本質』を…誰の心にもある嫉妬、嫌悪、怒り、失意…そう言った感情の全てだと言う事を知っていたからだ。そして君もまた、希望の『本質』を理解している。どんな時でも、決して『諦めず』自分の信じたことを貫く…それが希望なんだということを。だから霧切さんたちも君を信じることができたんだ。君が『正しい希望』を体現しているということを、本能的に理解していたのだから」

「……」

 『苗木』はこの世界で起きた『コロシアイ学園生活』の全容を知っている訳ではない。口の軽い葉隠や朝日奈から聞いた限りの情報を元に、自分や江ノ島の性格からこうであったろうと推測したに過ぎない。しかし、そうであるにも関わらずまるで見てきたかのような『苗木』の言葉に、苗木はただ黙って聴き入っていた。

 

「君のその諦めない強さ、そしてどんな過酷な状況でも誰かを想いやれる優しさは、決して『なんか』なんて言葉で片付けていいものじゃあない。そんな君だからこそ、コロシアイ学園生活の中で死んだみんなも、君が導き出した結論に納得し、君に後を託せたんだ。一人の力が足りないのなら、皆の力を合わせればいい。それが『希望の力』の本質なんだ。…胸を張れ!君は弱くなんかない、君が諦めない限り『希望』は負けないんだ!!」

 …自分自身にも言い聞かせているような『苗木』の激励を受け、呆然とそれを聞いていた苗木はやがて敢然とした眼で笑みを浮かべる。

 

「…ありがとう。そうだ…僕の希望は、僕一人のものじゃあない。僕を信じてくれた霧切さんたちや、コロシアイで死んだみんなの想いを、僕は託されているんだ…!僕は、一人じゃない!皆と力を合わせれば戦える…僕は皆と一緒に、前に進むんだッ!!」

「…それでいいんだ。それさえ忘れなければ、君の『超高校級の幸運』は必ず君を守ってくれる。君が紡いだ『縁』、『絆』…それこそが君と僕の、『苗木誠の幸運』なんだ。だから…迷わず、前に進もう。僕も、君も…!」

「うん…!」

「……」

「…どうしたの?」

 ふと気まずそうに顔を背けた『苗木』に苗木が問いかける。

 

「いや…今更だけど、ちょっと気恥ずかしくなって…。よく考えたら、これ盛大な『自画自賛』なんじゃないかな…って思ってさ」

「あ…あはは、そうかもね。…ところでさ、さっき言っていたけど…本当に君、霧切さんのことを『響子』って呼んでるんだね」

「まあね…まだ籍は入れてないけど、響子と僕は『婚約者』だからね。将来的に同じ苗字になるなら、今の内から慣れとこうかなって…」

「へ、へぇ……『響子さん』、か…」

 苗木は思わず、自分が同じように霧切のことを呼んだことを想像し…瞬時に顔を紅くする。

 

「…ッ!ハァ…ハァ…ぼ、僕には無理そう…かな…?」

「いやあ、案外すんなり慣れると思うけど。…今度試しに呼んでみたらどうだい?響子はあれで案外押しに弱いし想定外のことが起きると顔には出さないけど混乱するから、一回呼んで嫌がられなかったら大丈夫だよ」

「そんな無茶な…」

「まあ無理にとは言わないさ。…君が霧切さんのことを意識していないのなら、ね」

「…そ、それは…その…」

「…成程。綺麗だしもっと親密にはなりたいけれど、元々高嶺の花だった上に立場上の上司だから踏み込みにくい…といったところかな?」

「ッ!?な…なんでそんなことまで分かるの!?」

「そりゃあね…後半はともかく高根の花だったのは僕も同じだったし。まあ色々あってその辺は気にしなくなったんだ。…これはさやかのおかげなんだけどね」

「ッ!……舞園さん…」

「…やっぱりまだ、舞園さんの事を気にしているのかい?」

「うん…一応『別人』だとは分かってるんだけど…。君には悪いけれどね…」

「…一度、きちんと話をしてみればいいと思うよ。例え別世界の人物とはいえ、『舞園さやか』は『舞園さやか』だ。さやかならきっと、この世界の『舞園さん』と同じ答えを出してくれるさ」

「…うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 そんな『二人の苗木』の会話を、物陰から霧切は息を潜めて聞いていた。やがて話が終わりになりかけたのを見計らい、その場を立ち去ろうとすると…

 

「…どうやら、心配事は終わったようね」

「!…貴女は」

 廊下の角を曲がった辺りで、いつからそこにいたのか壁にもたれ掛っていた『霧切』に呼び止められる。

 

「…別に、苗木君のことを心配なんてしていないわ」

「私は『苗木君の事』なんて言っていないのだけれど?」

「……」

「フッ…この手の事に関しては、私の方が上手みたいね」

「…ええ、そのようね。未だに信じられないわ。仮にも『私』がさっきのように感情を露わにしたり、こんな下世話なことをするようになるなんてね」

「…『褒め言葉』として受け取っておくわ。…確かに、昔の私から考えれば今の私は『変わった』と自分でも思うわ。けれど、案外悪くないものよ。『結お姉さま』の言っていたことが、今なら少しは分かる気がするもの」

「…そっちでは、結お姉さまは元気なの?」

「ええ。…一度『神仙帝』に利用されて危なかったけれど、誠君のおかげでなんとかなったわ。今は、お爺様の所で再修業中よ」

「……そう」

 五月雨のことを聞いた瞬間、霧切の表情が強張る。と言っても、同一人物の『霧切』にしか分からないレベルではあったが。だが、『霧切』には…自分の手と心に決して消せない『傷』を遺すことになった、五月雨と共に挑んだあの『犯罪者救済委員会』との戦いの結末を知る彼女には、この世界の五月雨がどうなったのかがその表情から容易に想像できた。

 

「…もういいかしら?私も疲れているから、長話は遠慮したいのだけれど」

「そうね…なら、一つだけ…余計なお世話かもしれないけれど『助言』させてもらうわ」

「…何かしら?」

「…『頼る』ことを恐れてはダメよ。貴女一人が危険を背負った所で、誰も巻き込まずに終わらせることなんてできないわ。そうなるぐらいなら、最初から頼りなさい。…忘れないで、貴女だって一人じゃないわ。黄桜さんも、お爺様も、苗木君達も…『お父さんやお母様』も、きっと何時でも貴女を想っているわ」

「…ッ!…本当に、余計なお世話ね」

 吐き捨てるようにそう言って霧切は立ち去ろうとし…ふと、足を止める。

 

「…私も、一つだけ聞かせて。…あの男を、貴女はどう思っているの?」

「『父親』よ。…恨みが無くなった訳じゃないし、許したつもりもないわ。けれど、それでもあの人は…『霧切仁』は、私の父よ。もうそのことから目を背けたりしないわ、私自身の為に…そしてそんなお父さんを愛した、お母様の為にもね」

「……」

 『霧切』の答えを聞くと、霧切は振り返りもせずに去っていった。

 

 

「…儘ならないものね、我ながら…。それにしても…さっきのハーモニカのメロディー、やはりあのウルトラマンは…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝…苗木は朝食をとる為に学園の食堂へと向かっていた。

 

「…結局、殆ど眠れなかったなぁ…」

 あの後『苗木』と別れて部屋に戻ったはいいものの、頭の中の情報を整理しているうちに夜が明けてしまい、苗木は殆ど寝れなかった。しかし、そんなボヤキとは裏腹に苗木の表情は晴れやかであった。心の奥底に秘めていた感情を全て吐き出せたのと、自分がやるべきことを見出せたという事実は、苗木を肉体面以上に精神的に充実させていた。

 

「おはようございま…」

 何時になく高揚しているせいか、それともあの学園生活の癖か挨拶をしながら食堂に入った苗木であったが…

 

 

 

「…す?」

 食堂に入った瞬間、そこに漂う異様な雰囲気に思わず尻すぼみになってしまう。原因は明白であった。

 

「……」

「……」

「…むぅ」

 食堂の一角で、不自然に感覚を空けた場所に座ってそれぞれ食事をしている忌村と安藤、十六夜。互いに近寄りがたい雰囲気を醸し出しつつも、忌村も安藤もお互いを時折チラチラと様子を窺うように観察しており、十六夜はそれを横目に困ったような表情を浮かべている。そんな不自然な光景に、食堂に募った学園の生徒も未来機関の職員たちも困惑していた。

 

「あ…苗木」

「あ、朝日奈さん…その、何がどうなってるの?」

「それがよく分からねーんだべ。最初あの3人が一緒に食堂に来た時は、今よりもっと仲悪そうな感じだったんだけど…メシ取りに行ってる時に急に安藤っちが騒ぎ出してよ、しばらくしたら治まったんだけどそしたらずっとこんな感じで…」

「…『知らなかった』だの『言わなかった』だの、よく分からんことをキャンキャン喚いていたぞ」

「ええ…?」

 一塊になっていた未来機関78期生組に事情を訊くが、詳しいことは尚も分からずにいた。すると…

 

 

「…こうなるとは、思っていたけどね」

「え…あ、君も来て…た…」

 ふとかけられた『自分と同じ声』に顔を上げ…苗木は思わず硬直する。何故なら…

 

「…?どうしたの?」

 そこにいたのは、長髪をいつもよりきつく縛ってバンダナをし、エプロンを纏った『苗木』であったからだ。

 

「いや…その恰好は…?」

「ああ…人数が増えたからね、花村先輩一人じゃ大変だろうから僕も調理の手伝いに回ってたんだよ」

「え…苗木って料理できたの?」

「あ、いや…そんなできるって程じゃ…そ、そんなことより!あの3人のことで何か知ってるの?」

「うん。…僕が入学する以前のことだから話に聞いた程度なんだけど、あの3人は元々『幼馴染』なんだ。学園に入学してからも多少の交流は有ったんだけど…ある昇学試験の時に、安藤さんと忌村さんの間でちょっとトラブルがあったらしくて、それが原因で学園を無期限停学…こっちでは退学にされちゃったみたいでね。多分安藤さんはそれが原因で忌村さんを敵視してたり、他人を信用しなくなったんだと思うんだ」

「…そんなことがあったのね」

「だが、それとあの乱痴気騒ぎがなんの関係がある?」

「安藤さんが忌村さんのことを嫌う原因の一つに、『自分のお菓子を勧めても頑として食べようとしない』っていうのがあってね…。でもそれは、忌村さんの普段服用している薬の副作用のせいなんだ。だから忌村さんは昔から糖質を摂取できない体質…『糖質アレルギー』とでも言うべき体なんだ。だから朝食を渡すときにそれを考慮したご飯を渡したんだけど…たまたまそこに安藤さんと十六夜さんが出くわしちゃってね。そこで忌村さんの体質の事を知っちゃったんだよ」

「…それって、殆ど逆ギレなんじゃないの?言わなかった忌村さんもどうかとは思うけど…」

「忌村さんとしては安藤さんを気遣って黙ってたんだろうけど、積もり積もった結果それが裏目に出ちゃったってことだね。…まあ、この問題に部外者の僕たちが口を挟んだところでどちらの益にもならないだろう。ここは黙って見守ろう」

「…だべな!人のなんちゃらの邪魔する奴は馬に蹴られるっつーしな!」

「…それなんか違うような…」

 放置した結果複雑になってしまった元76期生組のギスギスした空気を堪えつつ、皆は今日の英気を養うべく食事に勤しむのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そんな希望ヶ峰学園から少し離れたビルの屋上で、学園を見下ろす一体の影。すなわち、絶望の代行者の送り込んだ第一の刺客『スラン星人』。

 

「クックック…さあ、いよいよだ!ご覧ください代行者様…このスランが、あの者どもを絶望のどん底に叩き落としてみせましょう!!」

 どこかから自分を見ているであろう代行者に向けそう言うと、スラン星人は大仰に両手を振り上げ、叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「…ガイガァァァンッ、起動ゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 

ヒュゥゥゥゥ…!

ドガァァァンッ!!

 突如、上空から巨大な何かが飛来し、スラン星人の立っていたものの近くのビルに直撃する。瞬く間に瓦礫と土煙と化したビルの中から現れたのは…

 

 

 

 

『…キュィェェェェェェェェッ!!!』

 紅く輝くバイザーのような目。まるで魚のヒレのような3枚の翼。全身を覆う鋼鉄のボディ。そしてなにより目を引くのは両手の巨大な『鎌状の刃』。それより劣るものの頭頂部と両顎にも同じ形の刃があり、特に頭頂部の刃は紅く輝く結晶体…『マガクリスタル』と一体化していた。

 金切り声をあげるその怪獣の名は、『鉄ノ魔王獣 マガイガン』。M78星雲にある恒星の一つ『U40星』に封印されていた魔王獣である。

 

「さあ、まずはあの希望ヶ峰学園を瓦礫にしてやれッ!!」

『キュォォォォォ!!』

 スラン星人の指示を受け、マガイガンは希望ヶ峰学園へと進撃を開始するのであった。

 




ウルトラダンガンナビ!…という名の解説

今回は今作オリジナルの魔王獣「マガイガン」の設定について

鉄ノ魔王獣 マガイガン…ゴジラシリーズに登場するマシン怪獣、「ガイガン」が魔王獣の力を手に入れた姿。基本的な姿は同じだが、頭部の刃がマガクリスタルになっている。また魔王獣となったことで、オリジナルのガイガンにはない様々な「機能」が追加されているが、それは本編にて

何故ゴジラシリーズのガイガンが魔王獣になっているか、それは後々本編にて「ある人物たち」によって語られますが、簡単にまとめるとこういうことです

1つ! モンスター銀河から生まれた魔王獣の始祖たる「マガオロチ」は「一体ではなかった」!

2つ! もう一体のマガオロチは別の宇宙にある「もう一つの地球」を餌場に選んだ!

3つ! …その星にはすでに「支配者」がいた。「怪獣王」と呼ばれ恐れられる、その世界において最強の怪獣が…!


…ガイガンを選んだ理由?…あのネタがやりたかったのと、語呂…かな?



U40星…マガイガンが封印されていたM78星雲にある恒星。M78星雲の星々はそれぞれ差異はあれどプラズマスパークの「ディファレーター因子」の影響を受けたが、この星はその影響が大きかったためか、この星の住人は光の国のような「巨人」への変身能力を持っている。ただし、誰でもなれるわけではなく選ばれた戦士にのみ変身が可能である。元来の姿は地球人によく似ているが、これははるか昔に当時の地球人との交流があったためらしい。
ちなみにマガイガンを封印していたのは、誰もが知っている…実際のところは知る人ぞ知るあのウルトラマン

U40に関する設定は完全なる独自設定なので原作とは異なります。…でもSTORY0のことを考えるとこれがしっくりくるんだよなぁ…

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