すべての授業が終わり、放課後になった。
「八幡っ、一緒に帰ろ!」
「いや、今日はあれがあれなんで…」
「ほら八幡早く!」
早乙女は強引に俺の腕を取り抱き着いてきた
「お、おい」
肘には柔らかいものが当たっている
「いいから行こうよ」
胸の感触にうろたえている俺は早乙女に引っ張られながら教室を出た。
校門をでて少し歩いた道。生徒の数もまばらになっている道を俺は早乙女と腕を組み歩いていた。
「はぁ、どうしてあんことしたんだよ…」
「だって八幡も言ってたけど朝にああいうことしちゃったでしょ?だから急に路線を変えると変に思われるじゃない」
「確かにそうかもしれんが、腕に抱き着かんでもいいだろ」
「そう?そっちの方が疑われないかなって思って。まぁしばらくはこれで付き合ってよね。学校から一歩出たら素で他人って訳にもいかないでしょ。友達に見られるかもしれないし」
「は、俺には友達はおろか、知り合いと呼べる人すらいないまである」
「ふふ。なにそれ。…でも、彼女はいるでしょ?」
早乙女は下から覗き込むように微笑みながら言ってくる。八幡の顔がみるみる赤くなっていく。
「べ、別に、ただの仮だろ…」
「八幡顔真っ赤だよ」
ははは、と早乙女は笑っている。
どうやらからかわれたようだ。
八幡は少しむすっとした顔で早乙女の腕をほどき前を歩いた。
「怒った?」
「別に」
「怒ってるでしょ」
「怒ってない。俺が怒るのは野球中継でアニメの放送が遅れた時だけだ」
「何言ってるの。今のやり取りちょっとだけカップルっぽかったね」
今度は純粋な笑顔を向けてくる早乙女
俺はそうだなっと言って彼女の歩幅に合わせるように歩くペースを遅めた。
隣の早乙女は嬉しそうに手を握ってきた。それによって八幡の心臓がトクンッとはねる。やはり、まだまだ免疫はできていないようだ。
しかし悪くはないと思っている八幡だった。
談笑しながら歩くこと十数分。
不意に握られていた手が離れた。
「じゃ、今日はここまでね。ボク、これから仕事あるし」
早乙女の説明によるとどうやらレギュラーで出ている幼児向け人形劇番組の収録があるそうだ。
「わかった。まぁ、なんだ。その……頑張れよ」
八幡には今まで応援するのは小町か鷹奈しかいなかった。鷹奈に至っては応援の必要なんてないだろって思うレベル。むしろ相手が可愛そうだ。それもあって少し恥ずかしそうに言う八幡。
「うんっ!」
対照的に早乙女は嬉しそうだ
「……そうかぁ……」
「ど、どうかしたか?」
「彼氏がいて応援してくれるのって、嬉しいって言うか、元気が出るんだなぁって」
頬を染めて微笑んでくる早乙女にまた心臓がはねる。
「も、もちろん彼氏って言ってもニセだから勘違いしないでよ」
「お、おう」
小さく言う早乙女に返事をすると改札の方に走って行った。彼女が見えなくなる直前、こちらに振り向いて手を振ってきたので、軽く振りかえすと、早乙女は頷いて人ごみの中に消えて行った
見送り終わった八幡の携帯がポケットの中で震えた。
「あ、やべ」
着信が来ていたわけでもなく、メールが来ていたわけでもない。設定していたアラームが時刻を告げる
これから天弓院との約束があるのだ。送れるわけにはいかない。
俺は小走りで『スウィート・ドロップ』へ向かった。