東方ハーレムアリス   作:佐倉ローチ

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幾度の間違い

「あっ、パチュリー様」

 

 紅魔館に到着した私達を迎える一人は、この館の門番を務める紅美鈴だ。

 

「今日はお客さんを連れてきたわ美鈴」

「あらまあ、久しぶりに外出したと思ったらこういうことですか」

「ええ、そういうこと」

「こんにちは美鈴。お邪魔するわ」

「はい、こんにちは!」

 

 門を通り、庭を抜け、館内へ足を踏み入れる。

 何度も行った図書館へと私達は向かう。

 

 

「にしてもその腕輪はすごいわね」

 

 とりあえずぶらぶら伸びた鎖は切り落としたものの、腕輪自体は頑丈すぎて壊れない。霊夢特製の捕縛用腕輪?

 

「そうね。物理的に壊そうとしても特殊な術がかけられていて破壊不可、これをつけられたら魔力の類を操作できなくなるし、外部からの魔法も無力化する。とんでもない代物よこれは。恐らく製作者である霊夢にしか解除することはできないでしょうね」

 

 いくら最強の巫女とは言え、ここまで狂った性能のアイテムを作れるなんて......やはり博麗の巫女は侮れない。

 

「それの効果も確かにすごいわ。でもそれに込められた霊力はもっとすごい」

「そんなに大量の霊力が込められてるの?」

「あなたは腕輪によってパワーを感知できないからわからないでしょうけど、それに注入された霊力は尋常じゃない。私が何十年かけてようやく溜め込めるほどの魔力と同等のものが入ってるのよ」

 

 博麗の巫女ってやつは心底嫌になるわ。

 と、パチュリーが言った。

 

「それほどの霊力をいったいどこから? いくら霊夢でもそれほどの力をすぐに練り出すなんて無理でしょう?」

「そこが問題よ。霊夢自身、莫大な霊力を保持しているけど、あれはそれをはるかに超えてる。どこかから持ってきたと考えるしかない。まだ二十年も生きていない彼女が、溜め込める量じゃないから」

「どこかにある大量の霊力か......。幻想郷の各地のパワースポットとか?」

「そんなんじゃ足りないわ」

 

 パチュリーは答えがわかっているような言い方だった。

 

「じゃあパチュリーはどう思うの?」

「博麗大結界」

「まさか......」

「博麗大結界の霊力は大昔からの巫女が霊力を注ぎ込んでる。結界から霊力を借りれば問題なしよ」

 

 博麗大結界は幻想郷を包む結界だ。

 外の世界から幻想郷への干渉を防ぎ、また幻想郷から外の世界への干渉を防ぐ。

 その結界を維持することは、ずっとずっと昔から博麗の巫女の仕事だ。

 

「問題大ありよ。そんなことしたら結界が不安定になってしまうわよ」

「実際不安定でしょう?」

「え?」

「ここ数年の幻想郷は、過去の幻想郷と比べるとあまりに異変が多いわ。まあ昔の文献を見て比べただけだから実際はわからないけど」

 

 でもその通りかもしれない。

 確かに外の世界からやってきた者が異変を起こすことが幻想郷にはある。

 

「アリス、霊夢にとってあなたの価値はそれほどなのよ。仕事をないがしろにして、結界に手を出してまで、あなたを縛り付けておきたかった」

「......どうしてでしょうね」

「あなたが好きだったからでしょう」

 

 間髪入れずにパチュリーは言葉を放った。

 

「どこにも行ってほしくなくて、ずっと自分のそばに居て欲しかったのよ。きっとね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 図書館に着いた私達は向かい合って椅子に腰掛けた。

 いつものように咲夜がふっと現れ、何かを言おうとしたが、パチュリーはそれを制止してこう言った。

 

「今日はいいわ。私が淹れるから」

 

 紅魔館に来て楽しみなものの一つと言えば咲夜の作る茶菓子だ。

 しかしどうしたことか、今日はパチュリーが自分で淹れると言うのだ。

 

「珍しいわね。あなたがお茶を淹れようだなんて」

「私だってそういう気分になるのよ」

「ふぅん......本題に入りたいし早めにしてくれると助かるわ」

「焦ってもろくなことにならないわ。落ち着いて待ってなさい」

 

 パチュリーは席を外した。

 咲夜と二人になった。

 私は咲夜に会釈する。同時に咲夜も私に微笑みかけ、その場を後にした。

 お互いに一言も話すことはなかったが、案外咲夜とは仲がいい。

 つい数日前、人里に買い物に来ていた咲夜と偶然会い、買い物に付き合ったり、お茶を飲んだりしていたら、いつのまにか時間が経ち過ぎていた。時間を忘れてしまうくらい楽しい時間を過ごせる、それくらいは仲がいい。

 

 

 

 

 

 しばらくしてパチュリーが帰ってきた。

 

「心の準備はできてる?」

 

 パチュリーの淹れた紅茶に口を付け、私は答えた。

 

「とっくにできてるわ」

「そう、それはよかった」

「話してちょうだいパチュリー。時間を逆行する、その方法を」

 

 私はかつてないほど真剣な気持ちになっている。

 失って気付くのだ、無くなったものがどれだけ大事なものだったのかを。無くなってから気付くなんてありがちな失敗。まさか私がやっちゃうなんて思わなかった。

 

 次こそは失敗しない。

 絶対に大事なものを失わない。

 そう決意を固めた。

 

 その時だった。

 

 

 

 

 

「アリス、私の淹れた紅茶は美味しかった?」

 

 と、私の問いをぶった切る問いで返された。

 

「咲夜のには少し劣るけど、まあ美味しかったわ」

 

 飾りなしの正直な感想。

 

「正直ね」

 

 くすくす笑うパチュリー。

 ずっとパチュリーを見つめていた私は、ある瞬間が脳裏をかすめる。

 

「パチュリー?」

 

 目が変わっていく。

 霊夢と同じだ。あの時の魔理沙と同じだ。

 

 危険を感じ、この場を離れようと椅子から立ち上がった。

 しかし遅かった。

 

「あ......れ?」

 

 視界がぐるぐるしている。

 目の前が揺れて身体を真っ直ぐに保てない。

 私はその場に倒れこんだ。

 痛みと共に意識が朦朧とする。

 

「本当にアリスって可愛い」

 

 うつ伏せに倒れた私のそばでしゃがみこむパチュリー。私の顔を覗き込んでいた。

 

「私もね、アリスのことが好きなの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰かに羽交い締めにされ引き摺られる。

 それが意識が途絶える前の最後の感覚だった。

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