東方ハーレムアリス   作:佐倉ローチ

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地獄の入り口

 暗い場所で意識を取り戻した。

 地面は硬く冷えていた。小石や砂粒の感触を頬に感じる。

 うつ伏せになっていた私はゆっくりと立ち上がる。

 何も見えず何も聞こえない世界では、その場に立つことが困難だった。何もわからない暗闇に包まれる恐怖が、私の脚に力を与えない。

 私の身体はその場に座り込もうと勝手に動き出す。

 

「大丈夫......大丈夫......」

 

 自分に言い聞かせ、なんとか立ち続けた。

 震える脚を何度も両手で叩いた。音が響く。

 手探りで辺りを歩き始めた。

 腰が引けているのがわかる。恐怖で身体を丸めたい。それでも歩き続けた。

 

「なんか......なんだろ、光?」

 

 ちょっと目が慣れた。

 ぼんやり周囲がわかるようになった。

 そして少しとは言え見えるようになったということは光があるはずだ。

 少量の光もない世界は本当に何も見えないはずだから。

 

 壁に小さな正方形の穴があった。

 そこからは星の光が見えた。

 

「ここ......どこだろ?」

 

 穴には鉄柵が設置されており、そこから私が抜け出すことは不可能だった。柵がなくとも小さすぎて入ることは不可能だが。

 

 しかしこれがありがたかった。

 地下深くに埋められたわけじゃない。特殊な魔法の中に閉じ込められたわけじゃない。

 綺麗な星空を眺め、世界との繋がりを感じることができただけで、私の心に纏わりついていた恐怖は、ほんの少し和らいだ。

 

「何があったんだっけ? 私、何してたんだっけ」

 

 私は壁にもたれて座り込んだ。

 恐怖ではなく安堵の感情と共に座った。

 

「あ」

 

 そういえば......パチュリーに。

 きっと紅茶に何か入れられてたんだ。

 

「腕輪は......そのままだよね」

 

 いまだ魔法は使えない。

 壁を壊して脱出は不可。

 

 途方に暮れた。

 パチュリーは私をどうしたいのだろうか?

 私をこんなところに閉じ込めたのはパチュリーだろう、何をさせたくてこんな場所に?

 

「そうだまだここを全部探索したわけじゃない」

 

 可能性は低いかもしれないが、別に閉じ込められてるわけじゃないかもしれない。もしかしたら、もう少し進んだ先に扉があるかもしれない。

 そんな考えのもと、私は意気揚々と立ち上がった。

 そして壁に触れ、壁伝いに歩き始めた。

 至近距離ならば視界も効くようになったが、数メートル離れただけでもう真っ暗だ。故にこの空間の全容を把握できていない。

 まずは状況をしっかり理解しよう。

 

 

 

 私はしばらく歩き続けた。

 

「檻だ」

 

 地面は石、壁も三方向が石で出来ている。

 しかし一方向は鉄の柵が、天井から地面に向かって伸びている。

 ここが牢獄であることに私は気付いた。

 しかも複数人用じゃないかと思うくらい広かった。

 

 そして牢獄には何もなかった。

 

 

 

 

 私はただじっと待った。

 何かが起こるのをひたすら待った。

 

 

 数十分経ったような気がした頃、木製の扉が開く音がどこかしらから聞こえた。

 

「誰!? パチュリーなの?」

 

 光が見えた。

 灯りを持って、その魔法使いはやってきた。

 

「そう、私よ」

 

 パチュリーはいつもと変わらない無表情でそう言った。

 

「どういうつもりなのパチュリー、こんなところに私を閉じ込めて」

「あなたも鈍感ね」

「なに?」

「霊夢と同じよ」

 

 パチュリーは笑顔を浮かべた。

 

「私もあなたを愛したいだけなの」

 

 訳がわからない。

 

「それと私がここに居ること、なんの関係があるの?」

「関係はあるわ。あの巫女みたいに緩いと簡単に逃げられちゃうでしょう?」

「普通にしてれば逃げないわ」

「私は普通じゃないのよ」

 

 気味の悪い笑顔だった。

 人の笑顔を見てそんなことを思うのは初めてだったかもしれない。

 

「時間の話は......? 時間を巻き戻せるって話はどうなったの」

 

 ぽかんとした表情のパチュリー。次第に元に戻る。

 

「そのことね、あれは嘘よ」

「う......そ?」

「ええ嘘よ」

 

 怒りでどうにかなりそうだった。

 

「時間を戻れるわけないじゃない。全てをなかったことにできるわけないじゃない」

 

 怒りが静まった。

 その通りなのだ。時間を巻き戻すなどそもそもありえないんだ。

 現実を受け入れられずに、甘い言葉に釣られてホイホイやって来た自分が馬鹿だったのだ。

 

 

 ──ああでもね、とパチュリーは続ける。

 

「あなたを愛していることは嘘じゃないわ」

 

 

「何よ......それ」

 

 みんなして本当に訳がわからない。

 

 

 

「それじゃあまた来るから」

 

 パチュリーは私に背を向け歩き出した。

 

「待ちなさいパチュリー!」

 

 返事はなく、再び反響する扉の音。

 

 

 

 

 私は鉄柵に全身を預け、腰を沈めた。

 

 この先何があっても動けるように身体を休めることにした。目を閉じ、膝を抱えた。

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