――貴方のあだ名をお答えください。
あだ名?えっと……、
はっちゃん、かな。
――貴方の死因を覚えていますか?
死因……。
……は、死因?
あれ、たしか俺って……。
少し前のことを思い出す。
一時間前、ご飯がないからスーパーに買出しに出た俺は貧血気味だったこともあって道路で倒れた。
そこからの記憶が曖昧で……。
「……俺、死んだのか?」
しかしなぜ?
……いや、道路で倒れたから事故死が妥当か。
「信号無視の最中、ということさえなければ可哀想と思えるのですがね……」
「……へ?」
背後から美少女の声がしたから振り向くと、そこにはザ・大和撫子と言うべきなほど美しい女性がいた。
服装がリーマン風じゃなければ女神様と思えるのだが、これじゃあただの美人OLだ。
「……何か失礼なこと考えませんでしたか?」
「いえ、何も考えていませんよ?」
心を読まれたと思って瞬時に笑顔で嘘をついた。
……いや、これ嘘ついて地獄行きとかないよな?
「コホン……。たしかに貴方は死んでしまいましたが、本来ならば貴方は九十~百の間に死ぬことが確定していました」
その証拠とでも言わんかのように分厚い辞書のような本を見せてくる。
……たしかに俺の顔と名前、生年月日は合っているし、死ぬのも今ではなさそうだ。
だが、現に俺は死んでしまっているわけだし……。
「最近多いんですよ、貴方のように死ぬ時期よりも大幅に早く死ぬ人が。そうなるとあの世も定員オーバーになりかねないので困るんですよ」
「そんなこと言われても……死んでしまったのにどうしろと?」
こちとらもっと生きられるはずなのに死んでしまったなんて聞かされていい思いはしていない。
自業自得と言われればそうなのだが、このOL風の人にそんな嫌そうに話される筋合いもない。
「……そこでですね、貴方には一度転生をしてもらって今度こそ死亡時期までしっかりと生きてほしいんです。今のままだとニート気味な普通の学生という判断材料しかなくてどちらに送ろうか迷いますから」
「迷うぐらいなら天国に連れてってほしいんですけどね……」
俺の言葉を無視するようにOL風の女性は資料のようなものを取り出した。
……ほんと、あの世って感じしねえな。
「貴方には、元いた世界よりも過酷で異能力といってもいいものが存在する世界に転生してもらいます。名前はあだ名がはっちゃんなのでハチです」
「あだ名聞いた理由そういうことか」
おおよそ元いた世界の名前を使うことが許されてないとかそんなところだろう。
でも、それなら多少嘘ついてでもカッコよさそうなあだ名にしてカッコいい名前にしてもらったほうが良かったなー。
「それと、今のままじゃ死ぬ確率のほうが高いから一つだけ能力を授けるよ」
「おお!マジっすか!?」
なんだか本格的に異世界に転生する数分前みたいになってきて心が踊る。
魔法とか使えたりするのだろうか?
あるいは強い剣士になったりして。
「手の甲を見なさい」
「手の甲?」
確認してみると凄く見覚えのある紋章があった。
間違いようもないくらいfateシリーズでおなじみの令呪だ。
見た目はジークと同じようにも見える。
「もしかして、俺が誰かのマスターになれるんですか!?」
「いいえ、それじゃあ貴方が弱いままじゃないですか」
それもそうかと一歩退く。
だが、それならなんで令呪なんて……
「……え、まさか……これが妙にジークっぽい令呪なのって……」
「はい、詳しいことは転生地点に説明書を置いていますので」
それだけ言うとOL風は杖を取り出して謎の結界を俺の周りに張った。
……てか、よく考えてみると転生場所ってそんな力が必要な感じの世界なのか?
まだ転生すらしていないのに不安要素しかない。
本当に大丈夫なのだろうか?
「今度こそ死亡時期まで生きてください。今回もそれよりも早く死ねば問答無用で落としますから」
「嘘だろおい……」
OL風からの追い打ちでもう絶望しか感じない俺はそのまま光の中に包まれていく。
これが転生する時の感覚なのだろうか?
例えるなら大きなタワーのエレベーターで下に降りる時のなんかフワッとするような感じだ。
あれがずっと続く感じでなんだか気持ち悪い。
……
…………
………………
……………………え、待ってこれいつまで続くの?
ちょっと長すぎる気がするんだけど?
待って怖い怖い怖い。
怖い……ってか気持ち悪い、そろそろ吐きそう。
嫌だぜこんな訳分からん空間で一番最初にゲロった人間になるとか死んでも御免だ。
いやほんとそれだけはマジ勘弁。
もうダメだ、じっとしてたらいつになるか分かったもんじゃない。
どうなっているのか分からないが、兎に角バタバタと体を動かしてみたり走ってみたり飛んだりしてみる。
それを繰り返していよいよ限界にきそうになった頃だった。
「……ぶぼぼっ!!?」
突然妙な空間が消えたかと思えば、今度は水の中にいた。
溺れそうになりながら必死に光を目指して上がる。
「――ぷっはぁ!」
やっとの思いで外の空気を吸うと、そのまま疲労も重なって水の中で吐いた。
そんなこんなで俺の死闘も終わって数分が経った。
「ぶえっくしょい!……うぅ、寒い」
ここはどこかの草原にある川付近で、時刻は分からないが既に日は沈んでいる。
まあそこまでは普通だ。問題は……
「……なんで子どもの姿になってるんだよ」
そう、体が完全に子供なのだ。
まさか幼児化するなんて思ってもいなかったし、この体は何かと不便すぎる。
「……とりあえず、説明書を探すか」
適当に近辺を探してみる。
人の気配が全くしないことから近くに人が住んでいないことが分かる。
「……お、あれか?」
そこにはOL風が置いたであろう、松明に囲まれたかなり特徴的な箱があった。
中を開けてみると服とタオルと本が入っている。
「これは……この世界の服か」
水の中にいたからかなり冷たくなっていた服を脱ぎ捨ててタオルで体を拭き、それに着替える。
松明の明かりで体も暖まり、風邪の心配はなくなった。
そして、例の本を読み始める。
内容としてはOL風の正体が女神であること……まあこれは別にどうでもいいな。
この令呪はジークと似た特別な令呪であること。
令呪は使うと一画消費するが、翌日に一画回復すること。
変身時間は頑張れば一時間は維持できる。
変身は体を蝕まれない代わりに何に変身するかは全くのランダムで宝具と一部の身体能力しか具現化出来ないこと。
具現化出来ないものの一つとして魔力があるが、魔術を使い続けると増えていくようにしたから最高は頑張ればEXまで上げられること。
「……まあなんとなく理解は出来た」
とりあえず今キャスターにでもなったらほぼ負け確だな。
この本に俺のステータスが記載されていたが、案の定全部Eだ。
使える魔術はおそらく強化魔術だろう。
今から魔術の修行はしておくとして、筋力とかはどうやって上げようか。
トレーニングルームとかあると嬉しいけど、そんな美味しい話もないよな。
「まだ生き残りがいたのか?」
一瞬で全身が凍りつくほどの寒気を覚えた。
体を起こして逃げようにもビビってしまって体が動かない。
「これはダメだな。なら……」
禿げの男が注射器のようなものを取り出した。
……まずい、嫌な予感しかしねえ!
「――れ、令呪を以て我が肉体に命ずる!!」
男の持つ危ないものがギリギリまで迫っていた時だった。
剣を振り、それを弾き飛ばす。
小柄な身ながら白きマントをなびかせ、手に握るは決して壊れることのない剣。
――ショタランスロットの誕生だ。
「……って、これじゃあ
もう姿の見えない女神に対して俺はツッコミを入れる。
……まあ、女性サーヴァントになったら俺がかなり困るしこれはこれで良かったと言うべきか。
「姿が変わった……!?」
「あぁ、くそ!兎に角、何も分からず死んでたまるかぁ!!」
アロンダイトを戻し、宝箱を宝具化させて殴りつける。
無窮の武錬の能力もあってか一撃で気絶に成功できた。
「……てか、早速一画使っちまったな。頑張れば一時間は保てるって書いてあったし早く戻らねえと」
前に進もうとしたところで、急に変身が解ける。
……嘘だろおい、三分も変身出来ねえのかよ。
そのまま意識を失い、倒れてしまった。
「突然だがこいつも強化組になった。ほら、挨拶しろ」
「……えっと、ハチです。はっちゃんとでも呼んでください」
……どうして、こうなった……!!?