「――以上がプトラの墓での出来事です」
責任者に複数の書類を提出する。
今回の任務はエリートと合流し、エスデス将軍もいたというのに二日も掛かった。
死者は多数。
その中にはエリート組だったガイの遺体もあった。
ガイは同じエリートのツクシが回収したみたいだが、かなり辛かったのだろう。
……だが、エリートが失ったのはガイだけじゃない。
一日目、あの時俺は墓守の長を倒した。
あの後自分から長を名乗っていたからな。
長が息を引き取るとすぐに墓が崩壊した。
墓の外に出たあとはレムスを失ったものの他は全員無事だった。
……でも、俺の考えは大きく変わった。
最初は革命軍が決起を起こすまではなんて思っていたのに、レムスが死んでからはこんな国を一日でも早く変えなければならないと思った。
思った以上に仲間の死は辛いわ……。
「……ゴズキさん、まだ中にレムスを殺した長がいる。あの長は受けたダメージをそのまま相手にも与える厄介な相手だ」
「それが墓守の呪いだろうな。どうりで全滅させられるはずだ」
「アカメの臣具でじわじわ斬り殺すのもありだが、手っ取り早くなら貴方の力を借りたい。アカメが少しだけあいつを斬ることに成功したけど、相手にも与えるのはダメージだけで呪いや能力は返せないようだ」
「……確かにそういうことなら村雨で軽く斬ってしまえば終わりだな」
俺は嘘をついた。
辺りは既に暗く、俺の令呪は一画復活していた。
賭けになるが、ゴズキを殺すために一対一の状況を作らなければならなかった。
この男も大臣側の人間。ならば先にここで殺しても後から殺されるのも変わりはしない。
変身に失敗すれば諦めようと考えていたこの計画は呪腕のハサンが出たことで無事に成功。
「……おい、どこ見たって死体ばかりじゃ……」
「――妄想心音」
俺は、ゴズキを暗殺した。
上には彼の死因は墓守の長の呪いを受けて殺されたと説明し、羅刹四鬼すら呪い殺されると噂を流して暫くはこの墓に近付けさせないようにした。
村雨もそのついでに壊そうと思ったのだが……。
「こうして見ている分には美しいな……」
「……おい、本気で言ってんのか?」
なんと、アカメと村雨の相性は良いことが判明した。
帝具持ちが仲間にいるのはありがたいことだし、それが一斬必殺の妖刀ならわざわざ捨てるわけには行かない。
アカメは、帝具使いになった。
同時にエリートの新隊長はナハシュに代わり、ウーミン、クロメ、ナタラ、ギンが新たにエリートに加わることになった。
だが、エリート再編となると再び訓練期間が設けられるだろう。
長く見積って一年、少なくて一週間……。
俺もそこに加わることは出来たが、それはしなかった。
そして、程なくして俺は暗部を抜けた。
アカメは察してくれるかもしれないけど、他はどう思うだろうか……。
「……一年ほどはかかると思う。それまで皆生き残ってくれ」
……将軍になれる条件として、功績と実力が必要になってくる。
実力は絶対だが、功績に関してならこの国では大きく時間をかけずに済む裏技が存在する。
「……くっ、殿下!」
「この……これ以上、何を奪おうっていうんだ!屑共めぇ!!」
中学生ぐらいの少年と傭兵を取り囲む盗賊もどき。
盗賊とは言ったが、こいつらは大臣の息がかかっている。
動きが拳法やってたやつの動きだし、隠す気なさすぎかよ。
「――やあやあ盗賊さん、」
無数の魔物を召喚し、そいつらに盗賊を襲わせる。
この場にいる全員が怖がってしまったけど、俺は味方だって信用を得る必要があるな。
……なーんでこんな時にキャスターのジルが出ますかね?
そりゃ他の戦えないキャスターに比べりゃマシだけど……うーむ。
「まあ、男に触手プレイなんて誰得だよ……」
決して殺しはせず、全員を拘束する。
……この宝具は俺の魔力じゃねえからぽんぽん使い魔出しても疲れねえし便利だなこれ。
「さて、誰の差し金でここに来た?言えば命だけは助けてやるぞ」
「だ、誰がお前みたいなガキに……!」
口を割らないかー、そうかー。
……じゃあ仕方ないよな。
「殺れ」
一人を殺した。
ミンチより酷いとまでは言わないが人が殺したとは言えない死体になっている。
「もう一度言うぞ、誰の差し金だ?」
「わ、分かった!!話す、話すから命は助けてくれ!!」
話すといった男の拘束を緩める。
「……くっ、ククク……バカ――」
「そういうのいいから」
片腕を使い魔に潰させ、脇腹を短刀で刺す。
典型的なモブ敵かよこいつ。
「で、話さないなら皇族の血が流れているこの方に手をかけた罪でこのまま殺すけど?」
「だ、大臣だ!俺は大臣の命令で来たんだ!!で、でも知らなかったんだ!!!」
「……知らなかったで何でも許されると思ってるのか」
盗賊を皆殺しに、変身を解く。
……すっげぇ警戒されちゃったなこれ。
「失礼ですが、貴方がバロン殿下で宜しいですか?」
「……執事も護衛も僕のことを殿下と呼ぶが、父も母も処刑され、皇帝の座もオネストによって断念させられた。今の僕はただの落ちこぼれ……負け犬の貴族にすぎない」
「なるほど」
オネストの野郎、今の地位につくまでに色々やらかしてやがったな。
多分、皇帝の両親が死んだのも……。
「……皇帝になりたいと思っていますか?」
「あいつがオネストの悪に気付き、この国を良くしてくれるなら僕がいる必要はない。……だが、あのまま傀儡になっているのなら……」
「その為には我らの味方となってくれる存在が必要になる。……それが大臣に見つかったのだろうな」
……まだ生きている皇族の血を持つ人でやっと正解だと思える人を見つけた。
誰かの言いなりで動いてるわけじゃない。
今までのやつらは傀儡か正気を失った者、未来を見据えない復讐鬼ばかりだったからな。
「殿下、私が貴方を王にしてみましょう」
「バカ言うな、貴様一人に何が出来るというのだ!!」
「ええ、私一人の力なら取るに足らないものです」
令呪を一画使う。
……最近令呪を酷使しすぎだな。
肉体的なデメリットがないのがありがたいところか。
「ですが、私は様々な英雄の力を扱うことが出来ます」
正直こういう時にキャスターが出るもんだろ。
よりによって素振りで力を見せる時にこんなサーヴァントは……。
「で、殿下!!遠方から大臣の刺客と思われる賊が!」
「くっ……おい!契約条件は!?」
超絶ナイスタイミング!
これなら心置き無く宝具を発動できる。
「宝具展開――偽・王の軍勢」
俺には過去に率いた軍もいなければ慕ってくれた者もいない。
故に召喚されるのはシャドーサーヴァントの出来損ないがいいところだろ。
「俺の願いは一つ――」
この場にいる奴等を全員固有結界に引きずり込む。
……もし俺が革命軍に入ると言ってしまえばツクシ、ポニィ、ナハシュが敵となって仲間同士の殺し合いが始まるだろう。
ウーミン、ギン、ナタラだって教官から帝国の闇を教えてもらってるけど帝国を裏切るかわからない。
仲間を失ってこんなに辛いのに、殺し合いをしなければならない可能性があるなんて想像したくもない。
だったら、あくまで帝国側の人間として第三勢力を作ってしまえばいい。
「――俺をバロン殿下直々の将軍として仕えさせてくれ!!」
――魑魅魍魎蔓延る帝国には、とある噂があった。
瞬時に万を超える兵を呼び出し、光の斬撃を放つ剣を持ち、異形を従える能力を持つ人間がいると。
誰もその噂を信じる者などいなかったが、ある人間が口を開いた。
そんな人間がいるとすれば、ブドー大将軍かエスデス将軍、
――またはハチ将軍クラスなのではないか、と。