「突然だがこいつも強化組になった。ほら、挨拶しろ」
「……えっと、ハチです。はっちゃんとでも呼んでください」
……どうしてこうなった?
時は遡り、俺が気絶してから多分一時間ほど過ぎた時だった。
なんとか意識を取り戻した俺は目の前の禿げをどうするか迷った。
迷った結果……。
「危ない組織と関わりあいにはなりたくないな。うん、知らね」
全速力で逃げた。
俺は無関係だ、何も見てないと自分に言い聞かせてここから出ようと思っていた。
……思っていたんだ。
「おいてめぇ」
あの禿げの時とは比べたくもないほどの殺気を感じ取る。
奥から出てきたのはたった一人の男だが、その威圧は半端ない。
人間は真の恐怖と出会ってしまった時、こんなにも体が動かなくなるものだと初めて知った。
「どこから入ってきた?場合によっちゃ……」
剣を抜いて、マジで殺す数秒前な野郎から逃げる方法……ないな。
でも、だからといって勝てるのか?ランスロットのような当たりを引けば勝てる可能性はあると思うが……。
……一か八か。
「――令呪を以て我が肉体に命ずる!!」
本日二度目の令呪を使い、変身を行う。
その結果……。
「許してください俺はただの迷い人なんです。ちょっと力があるから調子に乗ろうとしてた雑魚なんです!!」
それはもう綺麗な土下座をした。
アンデルセンでどう勝てと言うんだ?無理だ。
「とりあえず敵なら始末するに限るが、その前に……そいつは帝具か?」
「て、帝具……?」
この世界での宝具と同じ意味なのだろうか……?
とにかく、ここは正直に話していくしかないか。
「ち、違います。これはなんというか……俺の特殊能力とでもいいますか……」
「……ほぉ」
「あ、ちなみにですね。この姿でしたら貴方様を強くできたりもし、しますよー?」
危ない野郎は敵に回すな。
これ、絶対のお約束。
「……妙なガキだ。だが、それは気になるな」
「この本を白紙にして俺が執筆することで、その人を成長させるっていうものなんですよ!」
媚は売り、何としてでも生き残る。
ちなみに、俺には本書きの才能なんか皆無だし魔力もねえからアンデルセンは正直いってハズレすぎる。
間違っても次回から引きたくないサーヴァントの一人だ。
「……なら、俺のことを書いてみろ。使えそうなら考えてやってもいいぜ?」
「りょ、了解です!!」
死にたくない、頼むから宝具よ発動してくれ。
そんな気持ちで、ただ一心不乱に宝具を発動させた。
「――ではお前の人生を書き上げよう。タイトルはそう、『
……まあ、そこまではどっかの主人公みたいな展開になっていた気がする。
だが、宝具を発動して間もなく変身が解けて今度こそ死ぬと思っていたのだが……。
「少なくとも敵じゃねえことは分かった。利用価値は高そうだ」
それはもうわっるい笑顔で俺を助けた。
あの無様な姿のどこに利用価値を見出したのか分からないけど、死ぬことだけは免れて……。
現在に至る。
「それと、上は投薬による強化を考えていたが、責任者が不在だから急遽俺がてめえらを鍛えることになった」
この男が俺たちの教官。
あの時のヤバい男は選抜組とやらのリーダーらしい。
そして、強化組と言われた俺たちのメンバーは……
お姉ちゃん大好きっ子と思われるクロメ、
見た目が気弱そうなこう……萌えが刺激されるレムス、
レムスとは真逆そうなお姉さん系のギン、
委員長系のウーミン、
そして、イケメンでいかにも主人公っぽい感じのナタラ。
俺たちのやることは罪人の処刑と後々に暗殺もおこなうらしい。
……この世界は俺のもといた世界とはかなり違う、慣れなければ俺が死ぬ。
「まず朝にこのメニューを一通りやる。そのあとに罪人の処刑、最後に俺との模擬戦だ」
朝から猛特訓だ。
運動部がよくやるような基礎トレをバカみたいにやらされた後、重すぎる鎧を着せられて川を泳がされ、暗部ということで気配を殺す練習を朝の間にやらされる。
これを一通り終えるまで連帯責任で皆飯は食わせてもらえない。
基礎トレは強化を使って身体能力を上げていたらなんとか少し遅いぐらいのペースでやることは出来た。
だが……
「さっさとしろボンクラ二人!!」
「無理無理無理無理!」
「が、頑張りましょう!はっちゃん!」
あぁ、やっぱ可愛いなーレムスは。
……でも、そのレムスも俺よりは先にいるんだよなー。
どうにも今の強化じゃこのクソ重い鎧を着ながら軽々と泳げはしないようだ。
「ま、負ける、かぁ……!!」
やっとの思いで泳ぎきった時には疲労がたまりすぎて食べ物を胃が受け付けないという状況に陥ってしまった。
教官は無理矢理に食わせるためにお粥を作ってくれたが、皆がこいつ本当に大丈夫なのかっていう哀れみの視線を向けてくる。
なんとか昼に気力を少し回復出来た俺だが、昼の罪人の処刑でまた吐いた。
言ってしまえば、この仕事は人を殺すことを目的としたものだ。
生前人殺しをしたことのなかった俺にとって初めての殺しは後味が悪く、何度も吐いた。
だが、教官はそれで休むことを許さずにすぐに模擬戦をおこなった。
「お前の動きは素直すぎる。そんなんじゃあ当たらねえぞ!!」
「きゃぁ!?」
教官は基本的に集団戦での戦い方を教えてくれた。
曰く、一人で戦っても今の俺たちじゃ使い捨ての駒にしかならないということで集団で戦うための基礎を徹底して教えた。
「ウーミン!くっ……」
「ハチ、お前はその力に頼ることなくまともに殺れるようになれ」
「……っ!!」
俺は、その言葉通りに一度も変身をすることはなかった。
元々この力に過信するつもりはなかったが……やっぱり強い力っていうのは無意識に過信してしまうようだ。
そうして俺たちは教官に挑んでは負け、挑んでは負けを繰り返した。
それが八年も続いた。
結局投薬の責任者が帰ってくることはなく、風の噂では危険種……凄く強い獣に殺されたらしい。
まあ、転生して早々ヤク漬けの人生なんて死んでも御免だ、そんなものにはなりたくない。
「やれ」
「くっ、こんな子供が……」
「国を乱す反乱軍、……せめて安らかに眠れ」
そう静かに言い、目の前の男を斬り捨てる。
八年間も処刑を続けていたら次第に人を殺すことにも躊躇がなくなった。
人格破綻者になったわけではない。
ただ、ここは日本ではないのだと割り切ることが出来るようになっただけだ。
「あっ!?」
「ボンクラ!そいつ仕損じてるわよ!!」
「……はぁ、掃除確定か」
あの説明書にあった俺のステータス欄は最新のものに更新されるらしく、最近確認してみたところ魔力はC、それ以外はDにまで上昇した。
これで脱一般人は出来たとはいえ、おそらくこれ以上のステータスを望むのはかなり不可能に近いだろう。
「レムスが仕留め損ねた。連帯責任で刑場を掃除しておけ」
「……はーい」
それと、これは数年前に分かったことだがどうもこの国は腐っているようだ。
かなりの数の反乱軍が処刑されている現状をおかしいと思い、個人的に調べあげた。
すると、この国の皇帝を裏で操るオネスト大臣が悪の権化のようだ。
この訓練もいわゆる洗脳教育の一環なのだろうが、革命の際はいつでもオネストの首を狙えるようにしておかなければならない。
「はっちゃん、そろそろ初任務らしいけど大丈夫?」
「……ナタラか、正直緊張はしてるよ」
この八年間、教官との約束通り魔術は使っても変身は使うことがなかった。
今回の初任務は変身を使うつもりだが……今ならキャスターでもある程度戦えるだろうか。
「そういうお前も少し緊張してるな。ったく、教官も編成するなら男女均等にしてほしいよな」
「元々はっちゃんがいなかったら俺一人だったんだ。はっちゃんがいてくれるだけ有難いよ」
あーくそ、本当こいつイケメンだよな。
こんな世界じゃなけりゃ相当モテたに違いない。
てか、俺がホモなら惚れてるな。
ホモじゃねえけど。
「と、こ、ろ、で、さぁ?八年も経って俺たちの班って皆美少女揃いになったよな?……誰がタイプだ?」
「は、はぁ!!?な、なんだよいきなり……」
ギンに睨まれてこっりと二人で床を掃除する。
「大声出すなよな?こんだけ長くいてキュンっとかする奴いるだろ?」
「そうは言っても……」
こんなイケメン主人公風なナタラだが、これがかなりの草食系男子でいよいよ何かの作品の主人公じゃないのかと思わせる。
これで鈍感系なら殴っているところだがそういうのは多分問題なさそうだ。
「かくいう俺も皆が美少女だから選ぶのに困るけど、ウーミンとかかなりタイプだ」
「あれ、レムスじゃないのか?」
「レムスはなんつーか……最近妹って感じなのかなーって思い始めてな」
前なら可愛い=好きとか考えていたが、今なら可愛い妹を持つ兄の気持ちになると言ってたアニメのキャラの気持ちが分かる。
「……分かる気はする。なんていうか、放っておけないもんな」
「そうそう。今回の任務でも仕留め損ねないか心配だぜ」
……初めての任務。
選抜組は誰一人欠けることなく成功させた。
殺らなければ殺られる。
もう天国になんて行けない。
なら、せめてこの国のために出来ることを精一杯やってやる。
そして、ここにいる仲間を守ってみせる。
それが、俺の進むべき道だと信じている。