夜、俺たちの初めての任務が始まった。
敵は帝都近隣の村に潜んでいる異民族のスパイ。
他のチームが追い立ててあぶりだしたやつらを始末するのが俺たちの任務だ。
皆覚悟は出来ていた。
俺たちに臣具がなくても、帝具がなくても戦えるようにするためにこの八年間必死に修行してきたのだ。
「……ギン、手が震えているよ」
「ふん!武者震いって言葉を知らないの?ボンクラ!」
「え、ギンも武者震いするの?マジで!?」
「私をなんだと思ってるのよ、クソボンクラ!」
クソボンクラって、ボンクラがグレードアップしてません?
まあ、緊張するのも分かるがそれで本来の実力が出せないというのも問題だ。
ここは、年上として落ち着かせてやろう。
「じゃあ落ち着くためにはい、吸ってー、吸ってー、吸っっってーー」
「スーーーーーーーー……って、吸ってばっかりじゃない!!」
そんな冗談を少しやっていた時に、足音が聞こえる。
もう少しバカをやっていたかったけど、さっそく敵のお出ましというわけだ。
「来たか、ここは通させはしない!!」
ナタラが先頭に立ち、その後ろにクロメ、ギン、ウーミン、レムス、最後に俺と走っていく。
敵は数が多いものの動きには無駄がある。
これならば、油断しなければ今の俺たちなら勝てる。
「一人で無理に戦おうとするな!二人一組でやるぞ!!」
ナタラが目の前の大男の剣を難なくかわして瞬時に首を斬る。
それを合図にそれぞれが二人のチームで分かれていく。
一人で倒せない時は二人で、二人でダメなら三人で、それでもダメなら撤退を。
初めての実戦で学んだことを忘れそうになっている俺たちでも、視野を広くして周りを見ることだけは忘れはしない。
周りを見ることはお互いを助け合うことにも繋がるからだ。
「動きが行儀良すぎるよウーミン!」
「すみません!後ろは任せました!」
「ボサっとしてると最初の死亡者になるぞボンクラ!!」
「助かった!このまま一気に叩く!!」
クロメはウーミンを、ギンはナタラをサポートしながら次々と敵を斬り捨てていく。
俺もレムスと一緒に仕留め損ねた敵に止めをさしていく。
「こ、これなら私たち全然生き延びられるよー!」
レムスが油断していると後ろの男が起き上がり、剣を構えた。
でも、それを仕留めるのが俺の仕事なんだよ。
「また仕留め損ねたな。教官の訓練じゃねえからもう少し踏み込んでみろ!!」
起き上がった男を斬りつけて今度こそとどめを刺した。
悪いけど、俺にも守らないといけないやつがいるんだよ。
「ご、ごめんねはっちゃん!」
「……ったく、次からは気をつけろよ?」
頭を撫でてやり、妹のように扱う。
すると頭をブンブンと振って「子供扱いしないで!」って叫ぶ。
てか、戦場だってのになにやってんだか俺たちは……。
敵は殆ど始末したらしく、残りは奥の方に下がった三人のみ。
「な、なんだこいつら!?」
「さっきのガキどもより強え!!」
さっきのより強い?
……まさか、他のチームは既に死者が出ているのか?
「答えろ、そのガキを何人殺した」
「……教えると思ってんのか?」
あいつらが劣勢のはずなのに妙に強気だ。
すると、後ろから更に敵が現れる。
その数は三、四……おいおい、何人いるんだこれは。
他のチームは殆ど全滅か?
「少し数が多いな。ここは後ろを取られないように円になって戦うか?」
「いや、そんなことしてもすぐに陣形を崩されるのがオチだろ。……俺が敵の数を削ぐ」
このままじゃ時間がかかるうえに死亡確率が高くなると考えて、変身をすることを決めた。
「令呪を以て我が肉体に命ずる!」
ランダムというのが本当に厄介だが、サーヴァントという存在の大半がどれも化物クラスだ。
アンデルセンやシェイクスピアでも無い限り今ならある程度は使いこなせる。
「……この槍は」
手に持つは二つの槍。
俺の知る二槍使いで、槍の長さが二つとも同じなのはあの英霊しかいない。
「その分、戦える時間も短いだろうな」
槍を構え、一人大勢の敵の前に立つ。
余裕の笑みで武器を構えているが、どれも隙だらけだ。
「はっちゃん!一人で無理に突っ込んではいけません!!」
「ここは集団で……!?」
ウーミンとクロメの言葉を無視して一気に攻め込む。
長くて三分、それまでに敵をあいつらで倒せる程度には減らさないといけない。
「一方的な殺戮というものを教えてやろうか……!」
瞬時に敵の懐に飛び込み、まず目の前の敵を突き殺す。
そうして動揺した近くの敵にゲイ・ボルクで投擲をおこない、もう片方のゲイ・ボルクでその右のやつを突き殺して二槍とも回収する。
それを見た敵が瞬時に危険だと察して一人が何かを指示して配置につこうとする。
だが、紛い物とはいえスカサハの前でそんな隙を見せればそれまでだ。
「この、バケモノめ……!」
「囲め!数で倒すんだ!!」
「……数で倒せると思ってんならおめでたいな」
俺を狙ってきた奴らを無数の槍で突き殺す。
学んだのは剣の使い方だけじゃない。
あらゆる英雄を扱う上で必要となる様々な武器を手に取り、訓練を積んできた。
初歩的なことさえ分かっていれば英霊の力を扱う上であまり支障をきたさなくなる。
「蟻が何匹群がろうが勝てるわけねえだろ」
残りは十人程度。
ゲイ・ボルクを使えば全滅も難なく……。
「――っくぅ!?」
突然の激しい痛みと共に変身が解けていく。
どうやらスカサハの力を扱うのはここまでが限界のようだ。
これでもかなり削ったけど、まだ数が多い。
「……その力のことは後で聞かせてもらうとして、今は休んでて」
「ざっと敵は十人程度、俺一人休むわけにはいかねえだろ」
剣を握り、再び立ち上がる。
まだ動ける、意識もしっかりとある。
地獄のような修行に比べればまだまだ余裕がある。
「行くぞ!!全員で生き抜くんだ!」
残りの敵も覇気に負けたのか動きがかなり鈍くなり、それを斬るのに苦戦はしなかった。
初陣にしては敵の数もかなり多く、俺たちも息が上がった。
「こいつで……終わりだぁ!!」
それでも、初陣で誰たちのチームが死ぬことなく生き残れた。
全員が無事に生き残れ、大きな傷もなかった。
これを圧勝と呼んでもいいと思う。
「……無理、疲れた。ナタラ、肩貸して」
「はいはい……。それにしても、はっちゃんがあんなの隠し持ってたなんてな」
人が疲れきっているっていうのに、皆が俺に休む時間を与えてくれない。
皆若くて元気だなー、俺はもう精神年齢だけいえば二十歳はとっくに超えてしまったからおじいちゃんだよ。
人間二十歳超えたあたりで皆の若さが羨ましくなる生き物になるんだと思う、多分。
「隠してたわけじゃないんだ。教官から任務の時以外にこれは使うなって言われててさ」
「でも、そんな力があるならエリートに上がれるんじゃないの?」
「んなことないさ、基礎能力はまだまだ負けてるところが多いからな」
「「「「「……あー」」」」」
「皆納得したのはいいんだけどそんな「あ、たしかにねー」を棒で表した感じになるのやめてくれねえかな!?」
こんなバカみたいな話を、いつか戦場という地じゃなくて帝都の安全な土地で出来るようになればどれだけ嬉しいか。
このまま全員生きて幸せになれるのならどれだけ理想か。
だが、俺たちにあるのはハッピーエンドではなく、その大半は……、
「……今回の戦績だが、無事に全員生還出来たのはお前たちを含めてたったの二チームだけだ。その大半は負傷、死亡した」
報いによる死だ。