初任務で全員が無事生還出来たチームは俺たちの他にもう一チームしかいない。
他は負傷、死亡者をかなりの数出してしまったらしい。
「その生き残ったチームは投薬による強化を行っていたチームだ。もしかすると今の責任者がこれを機に全チームにも投薬を強制するかもしれない」
「ま、待ってくれ!投薬って……そんなものがなくても俺たちは戦える!!」
この世界は割と元いた世界の過去の歴史と似ている部分もある。
投薬による強化なんてこの世界じゃ聞こえはいいかもしれないが、おそらくその副作用も半端ではないはず。
「……でもな、上が投薬を行うことを決定すれば俺たちは逆らえねえんだ」
教官の言葉に俺は言葉を失う。
教官だって今の責任者よりは地位が低い。
その責任者の命令があれば黙って受け入れるしかないのだ。
俺たちに、拒否権はない。
「……とはいえ、今の責任者はまだ就任してから日は浅いっていうのと前の責任者ほど支持はされてないから発言力は低い。お前たちがミスしなければ暫くならあっちも強行手段は取らないはずだ」
「つまり、私たちがこれからもずっと生き延びれれば大丈夫なんですよね!?」
レムスがなら問題ないですよねとでも言わんばかりに大きな声で言うが、おそらくそんな簡単な話じゃないはずだ。
そして、それに一早く気付いているのはクロメ、ナタラ、ギンだろう。
「いいや、投薬による人体実験は今後の強化人間を作るうえで必要になる。俺たちをモルモットにするために色々と手は出してくるはずだ」
「……ほんとハチはそういうことに関しては知識がありすぎるってか、子供っぽくないよな。どこでそういうの学んできやがった?」
教官は否定することなく、上がどんな手でも使ってくると肯定した。
ナタラたちもそれが何を意味するかは分かってしっただろう。
「……エリートに及ばないならせめて投薬でっていうのが強化組だ。つまり、エリートと互角の実力が出せるなら俺たちも昇格出来て責任者は口を出せなくなる」
教官が唯一の薬の強化を免れる方法を提示したが、たしかにそれ以外にはない。
エリート、俺が八年前に絶対に勝てないと悟ったあの男のチーム。
エリートに上がれればおそらく責任者の指揮からも外れるはずだ。
「……別に動きが強くなるために投薬を望むやつがいるなら俺は構わねえ。でも……出来ることなら、そんな姿は見たくねえ」
少し恥ずかしいのか後ろを振り向き、ぽりぽりと頭をかく。
そんな姿にクスクス、と笑う。
「ったく、普段滅多にあんなこと言わないのにツンデレか?」
「うるせえよ、ガキが大人ぶっても可愛くねえぞ」
それから俺たちは次の任務に備えての強化訓練を行った。
強化組も教官を筆頭とした訓練派と責任者を筆頭とした投薬派に分かれた。
次の任務が開始されるまでにどちらの派閥のチームの実力が上かを示すために実力派は危険種狩りを主としたエリートと同様の訓練方法を、投薬強化派は処刑の時間以外は投薬を行っていた。
そうした訓練が行われてから小さな任務はいくつかあったが、敵が警戒していたのはエリートばかりでこちらは雑魚ばかりだったためにお互い一歩も譲らないという状態だった。
時々投薬強化派の刺客もいるにはいたが、そいつらは変身で迎撃してやった。
そんな状態が数ヶ月程続いたのだが、埒が明かないと考えた現責任者が新たな任務を合同で行うように指示した。
内容はプトラって国の墓守を討ち取り、彼らが盗んだとされる財宝を奪還するというものだ。
まあ奪還というよりは盗むといった方が正しいのだろうと踏んでいるが、下手に発言して殺されたくはないので黙っておく。
次の任務を行うようために作戦会議をしようとした時だった。
投薬派の一人がこちらにやって来る。
偉そうにしているが、隙が多いな。
「ふんっ、頑張って生き残れるといいな!」
「そうだな、名前は知らねえけど……」
剣を抜き、首筋すれすれまで近付ける。
これに反応できないようじゃまだまだだな。
「なっ!?く、薬もなしで……」
「お前、今のが実戦なら死んでたぞ」
「――、ちっ!」
面白くなかったのか顔を真っ赤にするとそそくさと戻ってしまった。
あの程度で怒るとか情けねえな。
「……なんだったんだあいつ?」
「放っておけクソボンクラ」
「そうです、今はそれよりも作戦会議です」
ギンとウーミンに言われてとりあえず今わかっているプトラの地図を確認する。
……って、なんだこれ?
「……墓の地図ってたった一枚だけ?」
「どうせ辺境の敵よ、一枚あれば十分って考えたんじゃない?」
ギンがそう話すが、帝国の兵がこの程度の情報量しか手に入れられていないのをみるとかなりヤバいのがいるに違いない。
こういうのは慢心すればするほど負けフラグが立つって金ピカの王様から学んでいる。
慢心ダメ、絶対。
「……今回の作戦は、かなり慎重に攻め込むべきだと考えている」
「はぁ?そんなことしてる間にいいところ全部取られるだろう?」
「いいや、俺の推測だけど全員動けば全滅の可能性が高い。もし仮に敵が帝具を盗んでいたとすれば、臣具すら持ってない俺たちがどうやって戦える?一つで一騎当千の力を持ってんだぞ?」
帝具はないにしても、ここまで帝国が攻めることが出来なかった理由があるはずだ。
それが分かるまでは不用意に近付けない。
「たしかに、敵がわざわざ盗んだ帝具を使わない手はないか」
「考えすぎな気はするけどね」
皆あまり納得がいかないって感じの表情だ。
たしかにあそこは昔ながらの国で帝国のように発展していないのだから余裕だろうと思うのも分かる。
でも、少なすぎる情報量や殺され続けた帝国兵の情報から考えてみると一筋縄ではいかないような気がするのだ。
「教官、今回ばかりはエリート同様に成績のいい七人には臣具を与えるべきじゃねえのか?」
「……ハチは今回の任務はそうするべきだと考えているのか?」
「明らかに今までの任務と比べて情報量が少なすぎるし、敵の領地内での戦闘だ。なんか嫌な予感がする」
考えすぎ?ゲーム脳?なんだって結構。
敵陣を攻める時はオーバーキルぐらいのほうが丁度いい。
「……分かった。成績の高い上位三名だけはなんとかならないか聞いてみよう」
「いや、だから七人ぐらいは必要だと……」
「言いたいことは分かる。けどな、そうなると不平等になるんだ」
教官はそういうとクロメ、ギン、ナタラ、ウーミン、レムスを指さした。
「成績上位者だけでいうなら全員入っている。俺のチームだけ臣具があるのは不公平だろ?」
「……は?」
こればかりは全員が信じられないとばかりに耳を疑う。
全員が成績上位に入っているだって?
「つーわけでだ、その中でも優秀な成績のナタラとギンとクロメは臣具を用意してもらうから期待しとけ」
教官はぶらぶらと手を振るとその場からいなくなった。
暫くしておっさんが刀、薙刀、大剣の三つの武器を目の前に用意し、俺に手紙を渡した。
それを開封すると教官が書いたのであろう文章が五枚も入っていた。
「えっと……こいつはクロメとギンとナタラが使えってさ」
「本当か!?」
「これでまた一歩エリートに近付ける!」
その後は誰がどの臣具を使うかを平等に決めるためにじゃんけんを行った。
その結果、薙刀の臣具「トリシュラ」はナタラの手に。
大剣の臣具「メタリティ」はギン、刀の臣具「玉梓」はクロメの手に渡ることになった。
「私も欲しいな〜」
「仕方ないです。この中でも三人はずば抜けて強いですから」
「ま、今後俺たちにも臣具が貰えるのかどうかは今回の任務次第だよな」
二、三、四枚目にはそれぞれの臣具の能力が書かれていたため、それを三人に渡す。
……最後の一枚は俺用に書いたものだと分かり、それをすぐにポケットのなかにしまった。
「最後の一枚はなにが書かれていたのですか?」
「ん?……まあ、秘密」
ウーミンが気になる仕草をしていたが、曖昧な返事で受け流し、話題を別のものに変えることにした。
「……よーし、臣具の使い方になれる期間は明日の朝までだ!すぐにプトラで任務が始まるからしっかり寝ること!!」
「なんだ、急に張り切ってるな」
「まあな、今回の任務は訓練派のリーダーが俺になったしな」
張り切ってそう言うと皆が固まった。
……え、なんでそんなマジ?みたいな顔してるんだ?
「……不安だよ〜!」
「ですね、凄く心配です」
「ド直球!?」
「大丈夫、私はクソボンクラでも問題ないと思ってるから?」
「せめて疑問形取れよな!」
「……はは」
「なにか言えや!!」
「ミスしたら斬るからね?」
「やめて!?その大事なナニを見ながら刀を抜くのやめて!!」
こいつら揃いも揃って全く信用してないって……。
「み、見てろよ!!てめぇら明日には流石はっちゃんマジリーダーっていわせてやるからな!!!」
ぷんぷんと走っていくと何も無いところで転ぶという恥ずかしい行為をしてそれを誰かに笑われて自室に戻って恥ずかしすぎて泣いたのはここだけの話である。