プトラの墓守たちは全員今までの任務では戦ったことのないような強者で、俺たちの集団戦法が効かないような敵ばかりだ。
「ぐあっ!?」
「か、数が多すぎる……!?」
「――将軍のほうに戦力が集中しているとはいえ、雑魚ばかりだな」
……敵ばかりのはずだが、援軍として来てくれたエリートが強すぎてそう実感することは殆どない。
ナハシュの基礎値高すぎね?絶対成長したら化けるな。
「あとは罠さえ少なけりゃ完璧なのによ……!」
隠しトラップがあることは分かっていても、数が多すぎる。
なんでこんな多いんだよ!
「んでもってゴズキさんはなんで来てねえんだよ!!?」
絶対あれだ、俺を怪しんで監視してるパターンだ。
だからって、傍にいないと怖くてヤバいんだよおい。
「あぁもう!ゴズキさん、基本的に俺らに任せるって言ってたけど表にぐらい出てくれても……。ん、地響き……?」
突然の地響きと同時に何かが転がってくる音が聞こえる。
一体何が?
それはもちろん、こういう時のテンプレトラップ。
「あ、あれって……!」
「……大玉だぁ!!!?」
「逃げるぞ!」
急いで走り、大玉から逃れられる場所まで退避した。
そして、逃げ続けていると気付けば左に通路があったためそこに逃げ込んだ。
「……全員無事か?」
……あれ?いない?誰も?
まさか全員バラバラになったのか!?
「敵も考えやがったな……!」
肉体に強化魔術を施し、急いで大玉が転がった先に向かってみる。
いくら俺たちを分担させたところですぐには殺さないはずだ。
生け捕りにして人質としてどこかに置くはず。
「誰かいないか!いたら返事してくれ!!」
急いで走っていると微かだが様々なところで戦いの音が聞こえてきた。
誰が誰と戦っているのか分からないけど、誰かを選ばないといけない。
だが、一つだけ確かに聞こえた声があった。
「……すまん、みんな無事でいてくれよ!」
その声がした方に向かって再び走っていく。
もし、この選択が間違いだったとしても放ってはおけない。
……臣具も持ってないのに一対一は無茶だ。
「……ウーミン!!」
「はっちゃん!?」
「仲間か……」
既に連れ去られようとしていたウーミンを敵から引き離し、距離を置いて横にさせる。
「よく耐えたな。あとは任せろ」
「敵は……バッタです……気を、つけて……」
目を閉じてしまったが、吐血した様子もなければ腹に一発大きい一撃をくらって気絶しただけに見えた。
念のため治癒魔術をかけておき、ここまで行儀よく待っていた男のほうに振り向いた。
「待ってくれるなんて優しい野郎だな」
「雑魚が一人増えたところで勝敗は決まっている。貴様を殺してその女を連れていく」
ウーミンの言葉から察するにあいつはバッタの脚力を手に入れてるのだろう。
バッタの特徴なんてその程度だ。
「本当は一日に二度も使いたくないんだ。でも、ちょっとだけ怒ってるから特別だ」
令呪の準備をし、二画目を発動する準備をする。
この強者気取りの野郎に絶望を与えてやろう。
「令呪を以て我が肉体に命ずる!!」
今回の変身はすぐに体がその力を理解した。
両手には何も持たない。だが、決して失敗ではない。
これなら問題なく倒せるだろう。
「……来い」
「ふっ、この女程度の実力が何人来ようが我々の敵ではない!!」
バッタが高速でこちらに向かい、どこから狙ってくるのか分からないほど動く。
……それだけだ。
「特別講義といこうか。魔術をその身で味わえ!!」
火や風を使い、バッタの足場を崩しながら距離を置かせる。
バッタは隙を見つけては攻撃を仕掛ける素振りだけを見せるものの、魔術を警戒してかさっきより動きが鈍くなる。
そこで火や風ばかりを単調で出してみて隙を与える。
「どうした、バッタだから火が怖くて近付けないか?」
「……舐めるな!!」
バッタが動き回るのを止めてこちらに一直線に向かってくる。
それに合わせて俺も攻撃の準備をした。
「その攻撃はもう見飽きた!」
「ふっ、簡単すぎるな」
一斉に放たれた三本のレーザーにバッタの脚が直撃し、狙いが俺から外れる。
それを見逃さず剣を振ってみるがそこまで上手くは行かない。
「……今の隙を作るために敢えて同じ攻撃をしていたのか。だが、あと一歩だったな」
「挑発までして隙を作ったというのに、空気の読めない奴だ」
再びレーザーを放ち、目の前で爆風を起こす。
次の攻撃に移らずにそのままウーミンを抱えて後に走った。
「バカめ!!逃げるつもりか!」
「今の俺は軍師だ。無茶な戦いは得意分野ではないんでな!」
火や風、時にはレーザーも使ってあちこちを動き回る。
狭い道なんかを作ったりしているためバッタも本来の実力を出し切れていない感じだ。
「逃げ足だけは一丁前だな。それがいつまで続くかな!!」
「……これだからキャスターは出来ることなら出てほしくないんだ!」
柱を崩し、地面に亀裂を入れ、あらゆる魔術を試してみても敵に致命傷はない。
それどころか、次第に傷すら付かなくなる。
「この……!」
「その技は見切った」
風の魔術も放ってみるが受け流され、逆に風の力を利用する形で接近してくる。
もはや一撃は免れないと咄嗟に防御をした。
「やはりこれが貴様の限界か」
「あぐぅ……!!」
渾身の蹴りが入るとアニメなんかでよく見た事のある吹き飛び方で壁まで吹っ飛ばされる。
「……かはっ!?」
ウーミンに傷はないものの、かなり重い一撃のせいでかなりの血を吐いてしまった。
「これでお終いだ。貴様は生かしておくと障害になりかねんからここで確実に仕留める」
「……そうか」
地形、敵の攻撃パターン、心理状況、全てが揃った。
俺は天才でもなければ大軍師でもない。
きっとエルメロイ二世のようにはいかないのだとしても、その宝具の特徴だけはしっかりと把握している。
「……宝具発動」
バッタに聞こえないほど小さく、呟くように言葉を発し、宝具を発動させた。
上空からはかなり昔なら見慣れていたあの柱が現れる。
その範囲は、俺が逃げ回っていた範囲全て。
「これこそが、大軍師の究極陣地!!」
危険察知したのか、その場所から逃げようとする。
だが、遅い。
「破れるものならやってみせろ!――石兵八陣!!」
バッタは石兵八陣の中に消え、ここに向かってくる気配はない。
その隙に俺は全速力で逃げた。
俺の力じゃ敵を殺すまでにはいかないだろうし、今の内に遠くに避難して身を隠すしかなかった。
そうして走り続けていると、血痕が見つかった。
仲間がやられたかもしれないし急いで駆けつけてみたが、実際にあったのは首の飛んでいる墓守の死体だけだった。
他に何か残っていないか調べてみると、墓守の死体を踏みつけてしまったのか、血の足跡が奥に続いている。
まだ近くに仲間がいるかもしれない。
「……探してみるか」
足音も聞こえないが、血痕を頼りに再び走った。
血痕は意外とすぐに消えているため、そこからは無我夢中にあちこちを探し回った。
「……あれ?」
「目が覚めたか?早速で悪いけど、立てるなら走るぞ」
孔明の変身も解けた時にはウーミンも目が覚め、大体の状況が飲み込めたのか特に何も言わずに立って一緒に走った。
「……皆無事ですかね?」
「あいつらが負けるはずがねえ。エリートも一緒なんだぞ」
走って走って走り続け、誰とも合わずに時間だけが消えて行く。
……出来れば、このまま終わってほしいと思っていた。
そうしてあのエリートのリーダーが敵を倒してくれれば――。
ベチャ
「……は?」
突然だった。
横から何か液体のようなものが付く。
それを触ってみると、赤く、何度も臭ったことのあるモノが……血が、付いていた。
たった今、俺の隣で誰かが死んだのだ。
嫌な汗があった。
振り返ろうとして、何も問題のないウーミンの姿がある。
よかった、俺の思い違いで。
……なんて、思えるはずがない。
だって
「……一歩遅かったのぉ」
転がってるのは
「嘘……レムスが……」
レムスの、死体……。
レムスが、死んだ……?
「お、おいレムス……。助けに来てやったぞ!だから目を覚ませよ?」
「無駄じゃけぇ。そいつは死んどるわい」
死んだ。
そうハッキリと聞かされた。
こんな裏世界だ。報いを受けることは分かっていた。
……でも、まだ早すぎるだろうが。
レムスは幼い頃、幸せな家庭で育っていた。
帝国が平和になればまたあの日々が戻ってくると信じていて、こんな世界でも戦ってきた。
報いを受けなければならいのはレムスが先ではないだろうが……!!
「……す」
「殺して、やる……」
令呪を以て、我が肉体に命ずる。
「殺してやるぞォ!!!」
この男に絶望を。