異聞 ドラゴンクエストⅪ ~遥かなる旅路~   作:シュイダー

13 / 15
Level:12 再会の時

 雷刃に乗ったまま、橋のように切り立った崖の上を進む。天然の橋のようなものと言えるだろうこの崖は、道のようになってはいるものの、人が通ることが滅多にないのだろう、荒れ果てている。崩れそうな感じはないし、狭くもないのだが、石がところどころに転がっていて、雷刃もちょっと歩き(にく)そうだった。崖の下には海が見え、溶岩が表面を流れる火山も近くに見えている。進めば進むほど、暑さが増してきている。

「暑い」

「そうだね」

 背後の、うんざりしたようなカミュの言葉に相槌を打つと、レヴンは汗を(ぬぐ)った。この大陸は、イシの村およびデルカダールのある中央の大陸より南の方にあるため、むこうよりも幾分暑かった。

 旅立ちの祠によって、デルカダールから逃げ切った翌日である。昨日は、祠に着いた時にはすでに夕刻だったうえ、疲労も限界にきていたこともあって、荒野の祠の近くで野営した。荒野の祠から追っ手が出て来ないか警戒していたが、それは()(ゆう)に終わってくれた。完全に疲れがとれたとは言えないが、躰を動かす分には問題ない。不思議なことに、昨日の夜まであった胸騒ぎは、今朝起きると消えていた。

 日が昇りはじめたところで早々に朝食を摂り、カミュと今後のことを相談した。

 テオから聞いていた話では、旅立ちの祠と繋がっているのは、南の大陸のほぼ東端にあるホムスビ山地の、荒野の祠。そう遠くないところに『ホムラ』という里があるはずなので、まずはそこにむかおうということになった。そこで、できることなら一日ゆっくり休む。

 デルカダールからなど、ほかの大陸からホムラの里に来るとなると、ずっと西の方にある『ダーハルーネ』という大きな港町から入り、陸路で来るのが一般的だ。デルカダールから数日程度で来れる道程(みちのり)ではない。『サマディー』という、ホムラの里とダーハルーネの中間あたりに位置する砂漠の国の北に海岸はあるが、ここには特に港があるわけではなく、他国の船がそこから勝手に入るのは禁じられているという話だ。もし仮にそこから入ったとしても、やはり数日で来れる道程ではないため、休む時間はあるはずだった。

 このあたりの魔物は、デルカダール領のものよりは強いようだったが、それでもレヴンとカミュに怯えて逃げていくものばかりだった。それに加え、トヘロスを唱えておいたため魔物に襲われることもなく、順調に進んでいる。しかし、この暑さは、慣れるまで苦労しそうだった。

「そろそろ見えてきてもいいと思うんだがなあ」

 カミュが、ぼやくようにして言った。ちらっとふりむくと、レヴンと同じように汗を拭っているが、こちらよりも疲れているように見える。暑さ自体に慣れていないのだろうか、となんとなく思いつつ、頭の中に地図を思い浮かべる。

 荒野の祠があるのは、ホムラの里の東。そこから半日近く、西の方に進んできた。カミュの言う通り、そろそろ里が見えてきてもいいはずだ。せめて、人の手が入った道が見えて欲しいところである。

 断崖が終わり、拓けた場所に出た。

「おっ」

 カミュが声を上げた。見るとちょっと遠くの方に、幾分、整備された道らしきものと、立て札が見えた。街道だろうか。

 環境的に厳しいためだろう、デルカダールに比べるとそこまできれいなものではないが、それでもこれまで進んできた道に比べれば、ちゃんとした道だった。

 温泉で疲れを癒しましょう。ここより北。ホムラの里。立て札には、そういった旨のことが書いてあった。

 進路を北にとり、進んで行く。周囲を山に囲まれているうえ、火山が間近にあると言える環境のためか、これまで以上に暑い。汗がどんどん(にじ)み出てくる。

 やがて、山の麓に大きな門と柵が見えた。防壁だろうか。ホムラの里の入口なのだろう。武装した、衛兵らしき者の姿が何人か見えた。

「やっと着いたな」

 カミュが、息をつくようにして言った。うん、と頷いて返した。

 門のところで軽い質疑応答を受け、里に入った。ホムラの里は、温泉だけでなく鍛冶でも有名な里で、鍛冶師を志す者や、良質な武具を求めて旅人がよく訪れるらしい。そのためか、特に厳しい検査もなく、すんなりと中に入ることができた。帯剣も認められているが、問題は起こさないようにと厳重に注意を受けた。

 門をくぐり、あたりをそれとなく見渡す。里を囲むように、山の岩肌が見えた。

「どうやらここには、まだ回ってきてねえみてえだな」

「そうみたいだね」

 旅人が珍しくないとしても、レヴンたちの情報が回っていれば、もっと検査が厳しくてもおかしくないだろうし、注意をむけてくる者も少なくないはずだ。特に厳しい検査がなく、レヴンとカミュにこれといった注意を示す者がいないことから、『勇者』の情報は、まだこのあたりには流れてきていないようだった。

「とりあえず、宿をとろう」

「そうだな。とにかく、今日は休むとしようぜ」

「やあやあ、旅人さんですかな」

 中年の男が、笑顔で近寄ってきた。

「そうだが、なにか?」

「おっと、これは失礼。わたくし、つい先日、里の奥の方で蒸し風呂屋をはじめた者でして」

「蒸し風呂?」

「はい。部屋に充満させた蒸気で汚れや疲れをとるんです。いまなら先着百名様まで無料で提供しております。この機会、御利用されないと損ですよ~!」

 カミュと顔を見合わせ、自分の躰を見下ろす。だいぶ汚れていた。

 思えば、最後に風呂に入ったのは、旅立つ前夜。それ以外はほとんど野宿で風呂に入ることなどなく、濡らした手拭いで躰を拭くか、川で水浴びするぐらいだ。デルカダール国で宿はとったが風呂に入ることはなかったし、スラムで女将(おかみ)のところに泊まった時も、やはり濡らした手拭いで躰を拭いていた程度だ。女将のところの風呂は宿の外にあって、一応壁のようなもので仕切られてはいたが、覗こうと思えば覗ける風呂だったのだ。目(ざと)い者による、軍への密告の可能性を考えると、入るのは断念するしかなかった。

「どんな時でも風呂はちゃんと入らないと。汚い恰好じゃあ、不審者に間違えられちゃいますよ?」

「まあ、確かにそうだな」

 男の言葉にカミュが相槌を打ち、レヴンに視線をむけた。うん、とひとつ頷く。

「ここで躰を休めるつもりだったし、入っていこう」

「ああ」

「はい、二名様、御案内~~」

「あ、その前に、宿をとっておきたいんですけど。荷物もありますし、馬の手入れをしてあげたいんです」

「おお、これは気がつきませんで。では、先に宿へ御案内しましょう」

「いいんですか?」

「御客様へのサービスです」

 男が、ニッと笑って言った。

 男の先導に従い、宿にむかう。宿は、見るからにしっかりとした作りで、なかなかの大きさだった。

 宿をとり、荷物を預けた。

「僕は雷刃の手入れをしてから行くから、カミュは先に行っててよ」

「わかった。まあ、今日のところはゆっくりしようぜ」

「うん」

 (うまや)は、里で管理している、大きめのものだった。厩で雷刃に(まぐさ)と水を与え、躰を拭った。

 雷刃が、鼻面を押し付けてきた。雷刃の首を撫でる。

 ありがとう。助かった。疾風のことは、ごめん。

 雷刃にとっても、疾風はきっと友だちになっていたのだろう。どこか寂しそうだった。

 手入れを終え、蒸し風呂屋にむかうことにした。場所は聞いてある。

 歩いていくと、鍛冶によるものだろう、金属を叩く音がそこかしこから響き、行き交う人々や、子供たちの遊んでいる姿が見えた。

 木でできた階段に足を掛ける。

「だから、マスターと話すぐらいいいでしょ!?」

「っ、えっ?」

 上の方から、少女の怒鳴り声が聞こえてきた。その声に、鼓動が高鳴った。

 聞き覚えのある声だった。忘れるはずがない。一気に階段を駆け上がった。

 階段を上りきると、酒場らしき店の前で、赤を基調とした服を着た幼い少女と、髭面の男が睨み合っている光景を眼にした。

「マスターなら、はぐれちゃった妹のこと、知ってるかもしれないんだってば!」

「ガキを酒場に入れるわけにいかねえんだよ」

「ガキってなによっ。レディーに対して失礼な!」

「とにかく、迷子の相談なら、里の入口に詰め所がある。そこで話を聞きな」

 男はそれだけ言うと、付き合ってられんとばかりに荒々しく酒場の扉を開け、中に入っていった。扉がぴしゃりと音を立てて閉まる。

「ふんっ。なによ、偉そうにっ。だいだい、そっちはもう聞いたのよっ。ああもうっ、この里の連中、どいつもこいつも石頭なんだから!」

 少女が、こちらの方をむいた。じっと見ていることに気づいたのか、少女が首を傾げた。

「なに、あたしになんか」

 少女が、言葉を止めた。眼を見開いていたかと思うと、何度も眼を瞬かせ、眼をゴシゴシと拭った。

 少女が、レヴンの顔をじっと見つめてきた。レヴンもじっと見つめ返す。

「ベロニカ?」

「レヴン?」

 声が、重なった。

 

***

 

 気持ちいいなあ。

 蒸気に満ちた部屋のなかで、壁際に(しつら)えられた椅子に腰掛けたカミュは、感嘆のため息をついた。蒸し風呂とやらに入るのははじめてだったが、しばらくぶりの風呂となることも相まって、格別の気持ちよさだった。

 牢獄の中で風呂など入れるわけもないが、それ以前に盗みを働いていたころも、ちゃんとした風呂付きの宿に泊まることは滅多になかった。濡らした手拭いで躰を拭うか、できてせいぜい川で水浴び程度のものだ。一応、スラムの女将のところにいた時は多少なりとも入っていたが、あまり気を休められる風呂ではなかったこともあって、ここまで気持ちいいと感じたことはない。

「風呂ってもんが、こんなに気持ちいいとはなあ」

「堪能してるねー」

「まあなー」

 呆れた顔で入って来たレヴンにそう返すと彼は、苦笑しながら椅子に腰掛けた。カミュの隣に並ぶかたちだった。

「風呂なんぞ、一年ぐらい入ってなかったからなあ」

「まあ、あそこで風呂に入れるわけもないしね」

「ああ。それに、こういうのもなんだが、かなりろくでもねえ生活してたからなあ。風呂付きの宿に泊まることなんて滅多になかったしよ。女将のところの風呂は、正直ゆっくり入れるもんじゃねえし」

 賊の(たぐい)に襲われるかもしれないと考えると、ゆっくり入れるものではなかった。女将は、その面倒見の良さでスラムの者たちから慕われているため、彼女を怒らせるような真似をするやつはまずいないのだが、それでも命知らずやものを知らないやつは、どこにでもいるものだ。

「それで、なにかあったか?」

「え?」

「いや、どうにも神妙な顔に見えたんでな。なにかあったのかと」

 レヴンが、ちょっと驚いたような顔をしたあと、ゆっくり頷いた。

「うん。あったっていうか、逢えた」

「逢えた?」

「ベロニカに、逢えた」

 その言葉にキョトンとし、レヴンに顔をむけ、ニヤッと笑った。

「おいおい、マジか。よかったじゃねえか」

「うん。でも、喜んでばかりもいられないんだ」

「なに?」

「ベロニカとは逢えたけど、セーニャの行方がわからないらしいんだ」

「なにっ?」

「まだ詳しくは聞いてないけど、ベロニカは数日前、魔物に(さら)われたらしくって。それで、なんとかそこを脱出してこの里に戻ってきたんだけど、今度はセーニャの姿がどこにも見えないそうなんだ」

 そう言って、レヴンが息をついた。

「なるほど。だいたいわかった。で、おまえはそれを伝えるために、ここに来たのか?」

「それもあるけど、まずは汚れと疲れを落としてきなさいって、ベロニカに言われた」

 苦笑しながら言ったあと、レヴンが真剣な顔になった。

「嬉しくねえのか。ベロニカに逢えたんだろ?」

「嬉しいよ、もちろん。だけど、手放しで喜ぶのは、セーニャも合流してからだよ」

「ああ、なるほど。いま現在、レヴンがどんな状況に置かれているかは?」

「まだ話してない。ベロニカたちの使命についても、まだ聞いてない。それらについては、セーニャも揃ってからって思ってる。ベロニカも、同じ考えだよ」

「そうか」

 再会を喜ぶぐらいはいいんじゃねえかな、と思ったあと、こいつらしいな、ともカミュは思った。

 

 蒸し風呂を出て、着替えを終えると、入口にむかった。カウンターにいた店主に挨拶し、入口に設えてある席に腰掛ける。レヴンが、ベロニカに蒸し風呂に入るように勧めたそうで、ここで待ち合わせするようにしたらしい。ベロニカが入らないのなら、自分も入らない、などと言ったそうだ。

 さほど時間を置かず、女湯の方から人の気配が近づいてきた。来たのか、と眼をやったが、勘違いだったようだ。来たのは、確かさっき酒場の前で店員の男と言い争っていた、金髪の幼い少女がひとりだけだ。確かベロニカという女は、レヴンの二つ上だという話だ。それらしき女の姿はない。

「ベロニカ」

 レヴンが呼びかけると、少女がこちらをむき、近寄ってきた。

 そばに立った少女が、レヴンをまじまじと見つめている。

「なにやってるの?」

「ちゃーんと躰の汚れを落としてきたか、チェックしてるのよ」

「なるほど。それで、どうかな?」

「問題ないわね。合格よ」

 少女が笑顔を浮かべて満足そうに頷き、レヴンも笑顔で頷いた。

「あたしの方はどう?」

「うん。ちゃんときれいになってるよ」

「おい、レヴン」

「あ、カミュ。この()がベロニカだよ。ベロニカ。彼がカミュ。僕の相棒」

「ふうん、相棒、ね」

 どこか鋭さを感じさせる視線で、ベロニカと呼ばれた少女がカミュをじっと見つめてきた。なにかを推し量られている。そう感じさせる視線だった。同時に、既視感を覚えた。視線に対してではなく、どこかで見たことがある顔だと感じた。

「ちょっと待て、レヴン。確かベロニカってのは、おまえより二つ上だって言ってなかったか?」

「うん。そうだよ」

「とてもそうは見えねえぞ。どう見てもガキじゃねえか」

「ガキとはなによ、失礼ね!」

「ベロニカ、抑えて抑えて。とりあえず、外に出よう」

 (うなが)されて外に出ると、涼むために設えられているのだろう椅子に腰掛けた。周りに人の姿はない。

「さっき、ベロニカが魔物に攫われたって話はしたよね」

「ああ。それで、なんとか脱出したって話だったな。まさか、その魔物に年齢(とし)を吸われたとか言い出すんじゃねえんだろうな」

「そのまさかよ」

 言ったのは少女、ベロニカだった。苛立ちと焦燥が()()ぜになったような表情だった。

「おいおい。年齢(とし)を吸う魔物なんて聞いたことねえぞ」

「正確には、吸われていたのは魔力よ。魔力を吸われないようにって堪えてたら、なんでか知らないけど小さくなってたのよ。なぜか服ごと」

「それはそれで、どういうことだって言いたくなるな」

「いや、それはあたしも疑問なんだけど」

 魔力を吸うというのは聞いたことがあるが、それを堪えていたら幼くなったというのは、さすがに聞いたことがなかった。それも、服も一緒にとなると、なにか不思議な力が働いたのではないかと思うしかない。

「まあ、でも、小さくなったおかげで脱出できたんだけどね」

「というと?」

「躰が小さくなったおかげで、牢屋に空いていた穴から脱出できたのよ。魔力を吸われたうえに魔封じの呪いをかけられたせいで魔法が遣えなかったから、ほんとうに助かったわ」

「そりゃあ、やばかったな」

 言って、ここ数日、レヴンが胸騒ぎを覚えていたことを思い出した。今朝になって、それがふっと消えたということも。時期的に考えると、レヴンが感じていた胸騒ぎは、ベロニカが捕まっていたからということなのだろうか。そうなると、ベロニカの躰を小さくしたのは、勇者の奇跡なのだろうか。

「とりあえず、話は一旦ここまで。セーニャを探さないと」

「そうだね。誰か、知ってる人がいればいいんだけど」

「ええ。とにかく、酒場に行ってみましょ」

「うん」

「ああ」

 ベロニカの言葉に頷き、酒場にむかった。

 酒場の戸を開け、足を踏み入れる。飯時から時間がはずれているためだろう、客の姿らしきものはない。カウンターに店主らしき老人と、カウンター席についている青髪の幼い少女がひとり、あとは店員らしき髭面の男がいるだけだった。

 カミュたちが入って来たことに気づいたらしき髭面の男がふりむき、笑顔を浮かべた。

「いらっしゃいま、っ!」

 言葉の途中で、ベロニカの姿に気づいたのか、男が眼を吊り上げた。

「だから、子供が酒場に」

「オレたちの連れが、なにか?」

 カミュが前に出て言うと、男はカミュたちとベロニカを交互に見て、誤魔化すように笑顔を浮かべた。

「い、いやいや、こいつぁ、失礼しました。大人が一緒なら問題ありやせん。ゆっくりしていってくだせえ」

 ふん、とベロニカが鼻を鳴らし、カウンターの方に進んで行く。

「こんにちは、マスター。こちらの席、掛けてもよろしくって?」

 言うが早いか、ベロニカが席に腰掛けた。子供が乗るには少々高いため、跳び乗るような恰好だった。

 店主が、楽しそうに笑い声を上げた。

「ほっほっほ。元気そうなお嬢ちゃんだ。ご注文は、ますたぁの気まぐれ昆布(コブ)茶でいいですかな?」

「ごめんなさい。お気持ちはありがたいけど、いまはゆっくりしている暇がないの。あたしたち、人を探しに来たのよ」

「ふむふむ。どんな相手かね?」

「緑と白の服を着た、あたしに顔立ちがよく似た二十歳(はたち)前の()よ。セーニャって名前なんだけど」

「セーニャおねえちゃん?」

 言ったのは、カウンター席についていた、青髪の少女だった。いまの姿のベロニカよりちょっと年下だろうか。

「あなた、セーニャのこと知ってるの?」

「うん。アタシ、パパを探してて」

「パパ?」

「セーニャ、ああ、あのお嬢ちゃんか」

 ベロニカの言葉に答えたのは、店主だった。

「二日前だったかな、その子の父親を探して、この店にそのセーニャって()が来たんだよ。その()はその()で、お姉さんを探してるって言ってたねえ」

「それだわ。いまはどこに?」

「確か、西の方にお姉さんがいる気がするから行ってみる、って言ってたね。その子の父親も一緒に探してみるって。なんとも不思議な()だったなあ」

「西の方、ってああもうっ、入れ違いだわ!」

 ベロニカが頭を抱え、声を上げた。

「レヴン、お願いがあるんだけど」

「皆まで言う必要ないよ。行こう。セーニャを探しに」

 レヴンが微笑んで言うと、ベロニカが嬉しそうに微笑んだ。

「うん。ありがとう」

「お礼なんて必要ないって。セーニャも僕にとって、大切な家族と一緒なんだから。カミュ、いいかな?」

「おう」

 頷き合うと、ベロニカが青髪の少女に顔をむけた。

「あなた、名前は?」

「ルコ」

「そう。ルコちゃん。あなたのパパについては、心当たりがあるわ」

「ほんと!?」

「ええ。必ず連れ帰ってくるから、もう少しだけ待っててくれる?」

 ベロニカがやさしく微笑んで言うと少女、ルコが頷いた。

「うん。わかった」

「よし、良い子ね」

 ベロニカが頭を撫でると、ルコが気持ちよさそうに眼を細めた。

 酒場をあとにすると、宿の方にむかった。

「ここらの魔物なら、セーニャひとりでも大丈夫だとは思うんだけどね」

「そうなのか?」

「あたしもセーニャも鍛え続けてきたからね。はっきり言って敵じゃないわ。でも」

「心配なことは心配だよね。セーニャだし」

「ええ。セーニャだからね」

 二人が、なにやら遠い眼をした。

「なあ。なにがどう、心配なんだ?」

「いきなり道端で眠りこけたり」

「気になった場所にフラフラと迷いこんだり」

「ああ、うん。心配だな、それ。って、レヴンも同じ認識ってことは、昔からそうだったのか?」

「基本的にのんびりした()なのよねえ。しっかりしてるところはしっかりしてるから、大丈夫だとは思うんだけど」

 ベロニカが呆れたように言い、レヴンがしみじみと頷いた。

 いずれにせよ、急いだ方がいいだろう。

 そんなことを思ったあと、あることに気づいた。

「なあ、レヴン」

「ん?」

「馬はどうする。さすがに三人で雷刃に乗るのは、きつくねえか」

「あっ」

 レヴンが、はたと気づいたように声を上げた。乗れることは乗れるかもしれないが、ひどく乗り辛いのは間違いないだろう。

「荷物もあるしね。確かに、三人で乗るのは難しいね」

「だよな。貸し馬が空いてればいいんだが」

「それなら心配いらないわ」

「えっ?」

「ま、とにかく、厩にむかいましょ」

「あ、うん」

 ベロニカに促されるまま進み、宿で荷物を返して貰うと、今度は厩にむかった。

「そういえば、ベロニカ。目的地まで、どれぐらいかかるかな。それによっては、食料とかの買い足しもしておかなきゃいけないんだけど」

「ん、一日分もあれば充分だと思うわ」

「結構近いのか?」

「陸路を行ったら、馬でも二日はかかるだろうけど、短縮する手段があるから、そこからなら馬で半日もあれば行けるはずよ」

「短縮手段?」

「ええ。『キメラの翼』よ」

 その言葉に、カミュはレヴンと顔を見合わせた。

 キメラの翼というのは、飛翔して、遠く離れた場所へ瞬時に移動できる魔法の道具だが、極めて稀少な品だった。

 蛇のような胴体に、ハゲワシのような頭と翼をつけた異形の魔物、キメラ。キメラの翼は、その魔物の(かざ)(きり)()を素材として作る道具らしいのだが、魔物は基本的に、斃すと宝石になって消える。風切羽を残すかどうか自体に運が絡み、そのうえそれに特殊な加工を施さなければならないのだという。

 デルカダールなどの大きな国でも、非常用に何個かあるかどうかというぐらいの代物だ。そんな物を持っているとは思わなかった。

「ラムダの里に残っていたものでね、ちょうど四つ残ってたから、あたしとセーニャとで二つずつ持ってたのよ。もしもの時のためにってね。服と帽子の裏に縫い付けておいたの。魔法が使えれば、こんな貴重品を使わなくても済んだんだけど、出し惜しみしてる場合じゃないからね」

「魔法が使えれば、ってまさか」

 レヴンが、ハッとなって言った。ベロニカが頷く。

「ええ。あたし、ルーラが使えるから」

「ルーラって確か、遺失呪文じゃ」

「ええ。頑張ったわ」

 さらりと、しかし誇らしげに言うベロニカの言葉に、レヴンが口をあんぐりと開け、やがて笑顔を浮かべた。

「ベロニカ、ほんとうにすごい魔法使いになったんだなあ」

「ふふっ、まあね。でも、まだまだよ。これぐらいで満足してちゃ、ほんとうの『大魔法使い』にはなれないわ」

 ベロニカが微笑んでそう言うと、レヴンが眼を瞬かせ、やがて微笑んだ。

 なにやら、声をかけるのがためらわれる雰囲気だった。

「あー、横から悪いけどよ、レヴンはなにに驚いてるんだ。いや、そのルーラってのがすげえ魔法なのはわかるが」

「あ、ごめん。ルーラっていうのは、そのキメラの翼と同等の効果を持った呪文なんだけど、遥か昔に失われた魔法って言われてるんだ」

「一応補足しておくと、遺失呪文っていうのは、そういった失われた呪文のことね」

 二人が、カミュの方を見て言った。二人とも特に気にしていない様子だった。

「失われた?」

「使い手が誰かに伝授できなかったり、もしくはしなかったり、とにかくなんらかの理由で継承がうまくいかなかった魔法よ。ルーラは、古の勇者ローシュ様の仲間だったっていう魔法使いウラノス様が作ったって言われている魔法なんだけど、名前と効果しか伝わっていなかったの。ウラノス様って結構な秘密主義者だったのか、彼が編み出したっていう魔法は、名前とざっくりとした効果ぐらいしか伝わってないっていうのがほとんどなんだけどね」

「ふーん。まあ、よくわからねえが、ベロニカがすげえ魔法使いだってのは、相棒の反応でなんとなくわかった。あと、ベロニカを探しに行ったっていうセーニャと入れ違いになった理由もな」

 キメラの翼で一足飛びにホムラの里に来てしまったため、陸路を行っているだろうセーニャとすれ違ってしまったのだろう。

 ベロニカが、頷いた。

「そうね。だけど、判断としては間違ってなかったと思うわ。レヴンと逢えたしね」

 言葉だけなら、色気のある言葉に聞こえなくもないが、表情は真剣なものだった。

「あたしと一緒に捕まった人がいるんだけど、その人をあたしとセーニャだけで無事に助け出すことができるかどうかわからなかったから、ここでレヴンたちに会えたのは幸運だったわ」

「なるほどな」

「ところで、さっきルコちゃんに言っていた心当たりって、その一緒に捕まった人のこと?」

「うん。幼い娘がいるって言ってたから、間違いないと思うわ」

 ベロニカが、なんとも複雑そうな表情を浮かべた。

「ベロニカ、どうしたの?」

「ん、ちょっと攫われた時のことを思い出してね。その辺のことは、あとで話すわ」

「わかった。とにかく急ごう」

「ええ。キメラの翼は基本的に、イメージしやすくて、かつ魔物の気配が薄いところにしか飛べないから、最寄りの女神像のあるキャンプ地に飛んで、そこから馬で移動しましょう」

 ベロニカの言葉に、二人で頷いた。

 厩に入ると、ベロニカが一頭の馬の前で足を止めた。きれいな白馬だった。

「ミルフィ、あたしがわかる?」

「ミルフィ?」

「この子の名前よ。あたしの馬。セーニャの馬はメルヴェ。この子とそっくりの白馬よ」

 厩に、それらしき馬の姿はなかった。セーニャが乗って行ったのだろう。

 ミルフィと呼ばれた馬は、じっとベロニカを見つめていたかと思うと、甘えるように鼻面を彼女に押し付けてきた。

「ごめんね。寂しい思いをさせちゃったわね」

 小さな躰のため、ちょっと大変そうだったが、慈しむようにベロニカはミルフィを撫でていた。

「さて、これで馬は二頭よ。これなら大丈夫でしょ」

「そうだな。一応聞いておくが、オレが乗っていいんだよな?」

「え?」

「いや、え、って。そんな躰じゃ乗れねえだろ」

「あっ」

 小さな子供の体格では、さすがに馬を操るのは難しいだろう。乗れたとしても、あまり早く駆けられるとは思えない。

「確かにそうね。そうなると、どちらかに乗せて貰うしかないわけだけど」

「馬術はレヴンの方が上だし、レヴンと一緒に乗れよ」

「あら、そう」

 ベロニカが、レヴンにむき直った。レヴンも、ベロニカと視線の高さを合わせるようにして、片膝を突いた。

「一緒に乗せて貰っていいかしら、レヴン?」

「もちろん」

「じゃあ、よろしくね」

「うん」

 二人が、微笑んだ。

 なんとなく居心地の悪さを感じ、カミュは頭を掻いた。

 





ついに再会。でもあまり色ボケないようにしたい。

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。


キメラの翼。ゲーム的には利便性高くするべきだけど、小説や漫画にすると利便性高すぎて話作りづれえ! ってなる。ドラクエ11だとマジでそう思う。
キメラの翼がキャンプ地に飛べるのはPS4仕様。3DS版でもそうだったらよかったのに。
キメラの翼、ルーラなどの設定および遺失呪文といったものはオリジナル。

ミルフィとメルヴェという名前は、ドラクエ関連の漫画で、あるキャラたちにつけられていた名前からとったもの。ピンときた方もいらっしゃるかも。

 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。