異聞 ドラゴンクエストⅪ ~遥かなる旅路~   作:シュイダー

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Level:3 武勇の鷲

 イシの村を旅立ち、数日が過ぎた。そろそろデルカダールが見えてくるころだろうか。

 雷刃は、並足で進ませていた。駆けさせればもっと早く着くだろうが、急ぐ旅ではないのだ。ベロニカたちがどこにいるのかわからない以上、急いだところでしょうがない。そう考えていることもあって、周りの景色を愉しみつつ、時には横道に入ったり、休憩するなどして、ゆっくりと進んでいた。

 魔物が襲ってきた時もあったが、そう大した魔物はここらにはいない。

 大きな木づちを持った小さな魔物、おおきづち。

 人の頭蓋骨に乗った、大きな(からす)のような魔物、おおがらす。

 蝙蝠によく似た夜行性の魔物、ドラキー。

 食べ残されたズッキーニという(うり)科の植物に、邪悪な魂が宿ることで魔物となったという、ズッキーニャ。

 額に大きな角を持つ兎の魔物、いっかくウサギ。

 舌を伸ばして攻撃してくる大ガエル、フロッガー。

 植物のような姿をした、マンドラ。

 こんなところであるが、レヴンが手こずる魔物はいなかった。むしろ、ほとんどの魔物は、こちらを目にすると一目散に逃げ去っていくほどだ。魔物は、彼我(ひが)の力量差に敏感らしく、勝ち目がほとんどない相手に対して襲いかかってくることは、そうそうないのだ。

 思っていたよりも、自分は強くなっていたんだなあ、などと思った。油断や慢心をするつもりはないが、自信を持つくらいは許されるだろう、などと思う。

 夜は、火を(おこ)して、野営をした。

 神聖な気を発し、魔物を寄せ付けない力を持つ『女神像』がある野営地はたまに見かけるし、ない場所で野宿することも、このあたりの魔物の強さなら、そこまで苦ではなかった。眠りは浅くなるが、魔物などの気配が近づけば、即座に飛び起きることができるように訓練しているし、雷刃もいる。もっとも、この周辺の魔物は、レヴンをこわがって近づこうともしないが。

「ん?」

 視界に、自然のものとは違う、なにかが映った。人工物。建物だ。

 雷刃の脚を、ちょっとだけ速めた。視界に映る建物が、ちょっとずつ大きくなってくる。

 城。デルカダール城だろうか。幼いころ、文字通りの雪国でクレイモラン城を見た記憶はあるが、あっちに比べると、質実剛健という言葉が似合っているような気がした。

 クレイモラン城からは、優雅さや美しさを感じた記憶がある。こういうものは、どちらが上というものではなく、場所や環境、歴史による違いからくるものなのだと、テオが語っていたものだった。

 ほどなくして、デルカダールの城下町に着いた。

 門のところでは兵士たちが、街中に入ろうとする人たちを検査していた。何人か並んでいて、少し時間がかかりそうだ、と思った。

 周りをそれとなく見ているうちに、やがてレヴンの番となった。

 出身地や、なんの目的でデルカダールに来たか、といったことを訊かれ、答えた。イシの村と聞いた兵士は、聞いたことのない村だな、と首を傾げていた。デルカダールに来た目的は、観光と答えた。王と会うかどうかは、まだ決めていないのだ。あとは、特にこれといったこともなく、すんなり入れた。

「うわあ」

 通りを行き交う人の多さに、思わず声を洩らした。見渡す限りの人。人の波とはこういうものか。そんなことを思った。

 そういえば、クレイモランも人が大勢いたなあ、とおぼろげな記憶を引っ張り出した。

 クレイモランの方は、どこか粛々(しゅくしゅく)とした雰囲気があった気がしたが、こちらは喧騒(けんそう)がそこかしこから聞こえてくる。騒がしいと言えばその通りではあるが、とても活気が感じられるものでもあった。

 宿は、街中にいくつかあるという話だったが、門に近いところに決めた。運よくひと部屋空いていたのも理由のひとつだが、それなりに大きく、(うまや)もあったからだ。酒場もやっているらしい。情報を集める必要もあるので、人の通りも多いだろうこの場所にした。

 資金には、余裕がある。旅に出るために少しずつ貯めていたのだ。主に、魔物退治によるものだった。

 魔物は、斃されると宝石になって消える。どうしてそうなるのかはわからないが、そういうものなのだ。もっとも、宝石の価値はピンからキリまであり、スライムなどの下級の魔物からとれる宝石は、大した()にはならないのだが。

 時折、死骸の一部が残ることもあり、それらは素材として加工することで、さまざまなことに使われる。道具であったり、武器や防具であったり、それこそ用途はいろいろだ。ものによっては高値で売れるものもあるらしい。宝石も素材も、基本的には村の方に収め、何割かを報酬としてレヴンが貰うかたちだった。

 旅立つ時にダン村長から、イシの村の人たちから集めたというお金を差し出されたが、それは丁重に断らせてもらった。ダンたちは、レヴンは勇者の使命で旅に出たと思っているが、実際にはきわめて個人的な事情によるものだ。さすがにそれでお金を貰うわけにはいかない。

 宿に旅の荷物を置き、宿の主人に軽くこの国のことを訊くと、外に出た。無論、貴重品は持ってである。街中での帯剣も認められているため、腰に愛用の剣も()いている。無論、騒ぎは起こさないように厳重注意されているが。

 まずは、城にむかってみることにした。王に会う気はまだないが、城の場所ぐらいは確認しておこうと思ったからだ。単純な好奇心もある。

 これだけの人がいる中をひとりで歩くのは、はじめての経験だった。それもあって、最初は人にぶつかりそうになったりもしたが、歩き方がわかってくると、特に問題なく移動できるようになった。

 街で最も城に近い区画は、貴族などの()(ゆう)層が主に住んでいるらしい。そのためか、城が近づくにつれ、人の姿が少しずつ減ってきたように思えた。

 広い階段が見えた。警備を兼ねているのだろう、階段の横に、何人かの兵士の姿があった。こんなところで犯罪を起こす者もいないと思っているのか、どこか気が緩んでいるように見えた。

 一応、城に近づいても問題ないか、そこの兵士に訊いてみた。なにか問題のある行動さえ起こさなければ、近づくのは特に構わないとのことだった。礼を言って、階段を登った。中央に、立派な噴水がある広場が見えた。そのむこうには、城がもう間近にあった。

 噴水に近づいてみる。噴水の中央には、人が見上げるぐらいの高さの小さな塔が立っており、塔の天辺(てっぺん)には、二つの頭を持つ(わし)の像がついていた。

 この双頭の鷲はデルカダールの象徴らしく、国旗にも(えが)かれている。話によると、二つの頭はそれぞれ武勇と知略を意味するらしく、文と武の両方に精通しているということだった。

 そして、このデルカダールには、その双頭の鷲になぞらえられる、英雄と(ほま)れ高き二人の将軍がいるという。

 ひとりは、武勇に優れたグレイグ将軍。愛馬リタリフォンを駆り、何百、何千と魔物を討伐してきた歴戦の戦士。騎士道にも精通した武人であり、その武力は王国一と名高い。彼の武の前には、何者であろうと打ち倒されることになるだろう。

 もうひとりは、知略に優れたホメロス将軍。あらゆる戦術に精通し、わずかな部隊で魔物の大軍を破る、数多くの実績を残しているという軍師である。個人の武力ではグレイグに及ばないものの、戦況に応じた作戦を実行する的確な判断力、迅速な決断力を(あわ)せ持っているという。

 武勇のグレイグと知略のホメロス。ホメロスの作戦のもと、グレイグが戦場に出た時、王国の兵たちは地上に並ぶものなき最強の軍団となるのだ。

 以上が、宿の主人が熱く語ってくれたことだった。

「将軍、お出かけですか?」

「ああ、少し街に出てくる」

「わかりました。お気をつけて」

「ああ。おまえたちも、警備には気を抜くな」

「はっ!」

「――――?」

 城の方向から、風に乗ってかすかに聞こえてきた声に、レヴンは顔をむけた。

 城の方からこの広場に入るあたりに、動きやすそうな服に身を包んだ男と、兵士たちがいた。将軍と呼ばれたのは、その男のようだった。兵士たちが背筋を伸ばして敬礼している。

 男は、見たところ三十代ぐらいだろうか。背はレヴンよりもだいぶ高く、遠目に見ても、非常に鍛え上げられていることがわかる躰つきだった。男としては長めの、肩にかかるぐらいの紫掛かった髪をうしろに撫でつけ、顎髭を生やしている。髪の長さに関しては、レヴンも人のことは言えないが。

 男が、歩き出した。歩き方に隙がない。男が、レヴンと十歩ほどの距離になったあたりで、レヴンの躰が思わず引き締まった。

 強い。そう、肌で感じた。もしも正面から闘ったら、まず打ち倒されるだろう。そう確信させられるほどに、男から感じる気配は強かった。

 世の中、やっぱり上には上がいるんだなあ。そんなことを思った。

 男が、レヴンと()れ違いかけたところで、足を止めた。レヴンに顔をむけてくる。レヴンも、なんとなく彼の顔を見返した。顔立ちは整っているが眼光が鋭く、自他ともに厳しそうな印象を受けた。

「仕官か?」

「え?」

「む、違ったか」

 唐突な言葉に眼を(しばたた)かせると、男が軽く頭を下げた。

「すまん。かなりの(つか)い手のようだったのでな。兵の志願にでも来た者かと勘違いをした」

「あ、そういうことですか」

「うむ。見たところ、かなり若いように思えるが、いくつなのか訊いても構わないか?」

「先日、十六歳になりました」

「十六」

 ぴくり、と男が眉をひそめた気がした。一瞬、視線を下に落としたように見えた。気のせいか、レヴンの手を見たように思えた。

 ふむ、と男がちょっと考えこむ仕草を見せた。

「その若さで、その(たたず)まい。よければ、ほんとうに仕官する気はないか。かなり見込みがありそうだ」

「いえ、そう言って貰えるのはありがたいのですが、いまはひとところに収まる気はないもので」

「旅人か?」

「はい。つい先日旅立って、今日、この街に着いたばかりです」

 そうか、と男が頷いた。

「どこから来たのだ?」

「デルカダールから南に行った先、渓谷(けいこく)地帯の奥にある、イシの村というところです」

「イシの村?」

 男が腕を組み、また考えこむ仕草を見せた。少しして腕組みを解くと、再び軽く頭を下げた。

「すまんな。聞いたことがない。あそこに村があることも知らなかった」

「無理もないと思いますよ。行商人も、近くにある大滝のところまでは来ても、村の方まで来る人は滅多にいないくらいですから」

「それほどにか。気になったのだが、村の中に君以上の遣い手はいるのか?」

「いえ、いません。僕は(わけ)あって、七つぐらいのころから鍛練し続けたもので」

「訳あって、か。その訳とは?」

 妙に訊いてくるな、と思った。

 そう、内心で首を傾げながらも、将軍と呼ばれるぐらいの地位にいる人なのだから、いろいろと気にしなければならないことがあるのだろう、などと思った。

「幼いころ、祖父に連れられて世話になった旅先で、ある人と、ある約束をしました。その約束を果たすためです」

「約束、か。ひょっとして、旅に出たのも?」

「はい。その約束のためです」

 男が口もとに手を当て、再び考えこんだ。

「訊いても、構わないかな?」

「それは、いいですけど」

 大切な約束ではあるが、人に語ること自体に抵抗はない。ただ、身も知らない相手に語るのは、さすがに気が引けた。

 男が、はたと気づいたような仕草を見せた。

「っと、そうだな。名乗りもせずにあれこれ訊きすぎだな。俺は、グレイグと言う。このデルカダールで将軍をやっている」

「レヴンと言います。グレイグ将軍と言いますと、『武勇のグレイグ』と(うた)われる、あの?」

「それを自分で肯定するのもこそばゆいが、そうだ。そのグレイグだ」

 デルカダールで最強と名高い戦士。感じる気の強さに納得した。

「しかし、レヴンか」

 グレイグが、ボソッと呟いた。

「あの、なにか?」

「いや、なんでもない。それで、その約束というのは?」

「それぞれで旅立って、いつか、どこか旅先で出逢ったら、そこからずっと一緒に旅をしよう。そんな約束です」

 グレイグが、目を丸くした。

「旅先で、と言うが、どこで逢おうといったことは?」

「決めてません」

「日取りも?」

「はい」

「その相手というのは、どこの者だ?」

「ラムダというところです」

「ラムダ。まさか、聖地ラムダか。ゼーランダ山を登ったところにあるという?」

「はい。そのラムダです」

「地図上の距離はまだ近くとも、山をいくつも挟んだむこう側だぞ」

 デルカダールは、地図上で見ると、だいたい中心に位置している。その北の方に『命の大樹』が空に浮かび、その命の大樹から西の方に、ラムダはあった。ベロニカ、セーニャと一緒にむかったことのあるクレイモランは、ラムダから西に行き、山と雪原を越えて行った先にあった。

「昔そこに行った時は、クレイモランに船で行って、そこから馬でむかった記憶があります」

「まあ、普通はそうだろうな。だが、どちらにしても、この地域とたやすく行き来できるところではないぞ」

 グレイグが呆れたように言った。

 うーむ、と唸って頬を掻いたグレイグが、再び口を開いた。

「その、こういう言い方をするのは失礼だとは思うのだが、本気で逢えると思っているのか。世界は、君が考えているよりずっと広いのかもしれんのだぞ?」

「世界が広いのは承知しています。でも、そんなふうにまた出逢えたら素敵だと思わないか、って彼女が言ったんです。僕も、そう思いました」

「彼女」

 グレイグが、どこか困惑した様子で言った。

 なにか、と軽く首を傾げたところで、グレイグがどこか言い(にく)そうに口を開いた。

「あー、なんだ、その。その相手というのは、君の恋人、なのか?」

「え」

 困ったように言ってきた言葉の内容に、レヴンの躰が固まった。

 恋人。その言葉を意識した途端、なぜか顔が熱くなった。

「ち、違いますっ。幼馴染みみたいなものでっ。それに当時の僕は六歳で、彼女は二つ上で、お互い子供でしたし!」

「そ、そうか」

 なんとはなしに慌てて言うと、グレイグがまた困惑した様子で言った。

「その、ずっと一緒に旅をしようというのは、君が言ったのか?」

「あ、はい」

「はっきりと?」

「はい。しっかりと憶えています」

「いや、なんというか、さっきまでの話を聞いていると、求婚の言葉かなにかのようにしか思えなくなってしまったのだが」

「きゅ」

 今度は、全身が熱くなった。頭がのぼせてきた気がした。

 求婚。結婚。ベロニカを妻に。住むのはイシの村とラムダのどっちに。

 思考が暴走しそうになったところで、グレイグが苦笑した。

「すまないな。困らせるつもりはなかったんだが」

「い、いえ」

 ゆっくりと深呼吸し、気持ちを落ち着けたところで、グレイグが真っ直ぐにレヴンの眼を見つめた。

「さっきも訊いたが、本気で逢えると思っているか?」

「はい。逢える保証は確かにありませんが、絶対に逢えないとは思いません。きっと逢える。僕は、そう信じています」

「そうか」

 ()(こう)から見返して言うと、グレイグがニヤリと笑った。渋みのある、男の笑い方だった。厳しい印象を受けるが、ただそれだけでなく、どこか大きなものを感じさせた。ただ強いだけではないのだ、となんとなく思った。

「しかし、君とその恋人の話を聞いていると、俺も嫁さんが欲しくなってくるな」

「こ、恋人じゃありませんってば。グ、グレイグ将軍は、結婚などは?」

「武芸一辺倒の無骨者でな。いまみたいなことを言っておきながら、どうにもそういうことを考えるのが苦手で、気がつくと三十半ばだ」

 英雄と言っても、ひと皮()けばこんなものさ、とグレイグが苦笑した。

「すまないな、長話に付き合わせてしまった」

「いえ、楽しかったです。ちょっと困りはしましたけど」

「そうか」

 互いに苦笑し合った。グレイグが、左手を差し出した。握手ということだろう。戦士は、()き手をたやすく相手に預けないという。右手でなく左手であるのは、やはり彼が戦士であるゆえだろう。

 レヴンも左手を差し出し、彼の手を握った。力強い手だった。

 グレイグが、ひとつ頷いた。

「いい手だ。ひとつの目標にむかって努力し続けてきた、男の手だな」

「ありがとうございます」

 言って、どちらともなく手を離した。

「機会があったら、一度手合わせ願いたいものだな」

「その時は、お手柔らかにお願いします」

「お互いにな。デルカダールには、いつまで?」

「三、四日ほど滞在するつもりです。そのあとは、足のむくままに」

「そうか。君がその恋人と再会できるよう、祈っているぞ」

「こ、恋人じゃありませんからっ。それに、その()の双子の妹も一緒の旅ですし」

「その妹さんも、なんとなく俺と同じような感想を抱いている気がするんだがなあ」

「そ、そういえば、グレイグ将軍はどちらに行こうとしていたのですか?」

 恥ずかしくなり、誤魔化すようにそう言ってみると、グレイグが眼を逸らした。

「ま、まあ、なんだ、行きつけの本屋にな」

「そうですか」

 どことなく言いづらそうな雰囲気を感じたため、それだけを言った。

 グレイグが、軽く頭を下げた。なんとなく、感謝された気がした。

「では、縁があったらまた会おう」

「はい。それでは」

 グレイグが去って行った。大きな背中だ、と思った。

 ベロニカのことを思い浮かべる。恋人。

 嫌なわけではない。それどころか、そうなれたらいいなと思う自分がいることに、レヴンはふと気づいた。これは、恋というものなのだろうか。そう考えると、胸が温かくなったように思えた。

 彼女のことを思うと、いつだって胸が温かくなったが、いままでともなにかが違う気がした。

 ひょっとしたら自分は、気づいていなかっただけで、昔からずっと彼女に恋をしていたのだろうか。恋というものを自覚したことで、自分の中でなにかが変わったということなのだろうか。そんなことを思った。

 彼女は、レヴンのことをどう思っているのだろうか。

 友だちだろうか。幼馴染みだろうか。弟のようなものだろうか。それとも彼女も、レヴンのことを、同じように想っていてくれているだろうか。

 それを確かめてみたいと思うと同時、言いようのない、恐怖にも似た思いが、胸に湧き上がってきた気がした。もしも、違う気持ちだったら。そう思うと、胸のどこかが痛んだ気がした。

 不意に、ベロニカに逢うのがこわくなった。

「っ」

 心を奮い立たせ、その恐怖を()ねのける。

 どこにいるのかもわからないのだ。そんなことは、実際に逢ってから思い悩めばいいことだ。そう思い定めた。ベロニカに逢いたいという気持ちは、それ以上に強かった。

 気を取り直して、城に眼をやった。立派な城だった。遠くから見た時も思ったが、美しさを多分に感じさせるクレイモラン城とは対照的な、力強さを感じさせる(おもむき)だった。

「ん?」

 視線を感じ、それとなく周りを見渡すと、兵士も含めた人々が、なにかを話しながらレヴンのことを遠巻きに見ていた。嫌な感じはさほどない。好奇心によるもののような気がした。

 なんだろう、と思ったところで、さっきまで話をしていた相手のことを思い出した。デルカダール王国で、最も有名な人物のひとりであると言っても過言ではないだろうグレイグと談笑していたのだ。人の目を引いても仕方ない。

 目立ち過ぎないように自然な調子で歩き出すと、その場を離れた。視線は、ちらほらと感じられた。

 

 ひと通り、街は見て回った。グレイグと会話していたことが伝わっているところもあったのか、たまに好奇の視線をむけられることもあったが、むこうから話しかけてくる者はいなかった。ただ途中から、好奇の視線に混じって、どこか気になる視線も時々感じた気がした。なにか、嫌な感じのする視線に思えた。

 富裕層の区画はじっくり見れなかったが、そのほかはある程度見て回ることができた。大きな街のため、すべてを回れたわけではないが、いくつか気になることはあった。

 その大きさゆえか、整備がいまひとつ為されていない場所が時折、目につくのだ。路地裏の方では、どこか暗い感じの者たちが、こちらを(うかが)うような視線をむけてきた時もあった。隙を見せてはならない。そう感じさせる視線だった。

 貧困者などが住まう、スラムと呼ばれる荒れ果てた区画もあるらしい。見て見ぬふりをされている区画で、スラムの方からは、一般層や富裕層があるこちらの区画には入れない、ということだった。こちらから行くことは一応できるらしいが、戻ることはできない。ただし、賄賂などを用いることで、秘密()に来ることはできるらしかった。

 情報収集は、主に店からだった。構えてある店なり、露店なり、ちょっと買い物をしたついでに、それとなく話を聞いてみる。そうすると、内容によっては声をひそめるようにしてではあるが、意外といろいろ話してくれる者がいるのだ。テオが語ってくれた話から、なんとなく学んだ手だった。

 グレイグ将軍となにを話していたのか、とその際には聞いてくる者もいた。年齢や出身地、兵士になってみないか、などと訊かれたと答えると、グレイグ将軍から直々(じきじき)に勧誘されたのか、とみんな驚いていた。

 勇者のことも、時々話を聞いてみた。自分が勇者というのは伏せてである。聞くのは噂程度のものだが、いくつか情報は集まった。

 十六年前にユグノアが滅んだのは、勇者のせい。当時、産まれたばかりの赤ん坊だった勇者が、魔物たちを呼んだ。

 勇者は大地に(あだ)なす者。邪悪なる魂を復活させる者。勇者と魔王は表裏一体。

 勇者とは、悪魔の子である。

 こんなものばかりだった。少なくとも、好意的なものはひとつも聞けなかった。それに加えて、この話を広めたのは、デルカダール王だという話だ。こうなるとやはり、王に会うのはやめるべきだろうと思わざるを得なかった。おそらく、即刻捕らえられることになるだろう。

 宿に戻りながら、うかつだったかもしれない、と思った。

 勇者は、十六歳らしきことが、噂であっても広まっているのだ。さっきグレイグがレヴンの年齢に反応したように見えたのも、おそらくそのためだったのではないだろうか。一瞬だけ手を見下ろしたように見えたのも、手に痣があるという話でも聞かされていたのかもしれない。聞いた噂の中にはなかったが、広まらないようにあえて伏せられている可能性は、否定できなかった。

 レヴンの名前を聞いた時の、グレイグの反応も気になった。勇者の名前も噂の中にはなかったが、これもただ広められていなかっただけかもしれない。

 自分のことだというのに、どこか他人事のように思っていたのだろう。勇者が世間ではどう捉えられているのか、真剣に考えていなかった。噂話とともに聞いた、人々の勇者に対する反応を見て、それを痛感した。

 『ユグノアの悲劇』と言われる、ユグノアが滅んだ日。そこにいた人々は、大半の人が魔物の手によって殺されたという。生き残りも確かにいたが、そういった人たちや、友人知人、家族を殺された人からすれば、その魔物を呼んだと言われている『勇者』は、まさに憎むべき怨敵としか言いようがないものだった。このデルカダールで『勇者』について話をしてくれた人の中には、数はそこまでではないが、そんな人もいた。探せば、もっといるのだろう、と思った。

 自分が捕らえられるだけなら、まだいい。決して捕まってもいいわけではないが、それよりも問題なのは、イシの村や、聖地ラムダに(るい)が及ぶかもしれないことだ。勇者、悪魔の子を育てた邪教の里などということになってしまうかもしれない。自分のせいで、みんなに(いわ)れのない罪が(かぶ)せられるなど、たまったものではなかった。

 訊かれるままにグレイグに喋ってしまったのは、失敗だったのだろうか。そう考えるも、グレイグは気持ちのいい好漢(こうかん)だと感じた。あれが演技だったなどとは、考えたくなかった。

 こうなっては、なるようにしかならない。そう考えるとともに、予定を変えて、今日のうちに旅立つことを決めた。グレイグに嘘をついたかたちになってしまうが、やむを得ない。

 グレイグは、このデルカダール王国の騎士であり、忠義に(あつ)い武人だという話だ。悪魔の子とされるレヴンを捕らえに来る可能性は、あり得ることだった。杞憂で済めばそれでいい。レヴンだけの問題では済まなくなる可能性があるのだ。最悪の状況を想定して動くべきだった。

 レヴンが捕らえられ、勇者だと判明さえしなければ、イシの村やラムダにはそこまで酷いことはしないはずだ。あとは、まずは一度イシの村に戻り、レヴンという男が、イシの村に住んでいたことなどなかった、ということにして貰うしかない。そうすれば、レヴンがグレイグに嘘をついたという話で済むはずだ。レヴンの希望的観測でしかないが、そう信じるしかなかった。

 そのあと、イシの村からどこかにむかうとなると、村から東の方にあるデルカコスタ港から、船でほかの大陸に行くか、それとも村の西の方にある『ナプガーナ密林』から、ほかの地域に行くかのどちらかとなる。

 デルカコスタからの船は、タイミングによってはすぐに出られないかもしれない。だが、ナプガーナ密林の方からほかの地域に行くための橋は、壊れているとの話があった。それにこちらは非常に鬱蒼とした樹海で、移動が困難なうえ、かなり強力な魔物が巣食う場所がある。

 タイミングの問題はあるが、デルカコスタに行くしかない。ナプガーナ密林の方は、橋が壊れているという話があるうえ、土地勘がほとんどないのだ。訓練として何度か入ったことはあるが、深くまで立ち入ったことはない。橋を渡る以外でよその地域に行く道までは知らない以上、こちらにむかうのはさすがに無謀すぎた。

 そう考えるとやはり、運を天に任せることになるが、デルカコスタにむかうしかない。レヴンの心配が杞憂に終わり、普通にデルカコスタから船で出られるように、祈るだけだ。そう思い定めた。

 故郷と、思い出の地を、失うのか。

「っ」

 不意に、そんなことが頭に浮かんだ。世界が暗闇に包まれたような暗澹(あんたん)たる気分になったが、歯を食い縛ってそれを振り払った。もう、みんなには逢えないかもしれない。そう思うも、死別するよりはマシだと、自分に言い聞かせた。

 食料や水など、最低限必要な物は買った。まだ明るい時間ではあるが、宿に戻ったら、速やかに引き払おう。時々知覚していた、嫌な匂いのする視線は、いまは感じられない。監視されていたのかどうかはわからないが、とにかくいまは、すぐにでもこの国を去るべきだ。

 そう考え、角を曲がる。この先が、レヴンがとった宿がある通りだ。

「っ?」

 泣いている幼い少女と、困ったようにオロオロしている強面(こわもて)の男性がいた。ほかに人の姿は見当たらなかった。

 一瞬、男性が少女を泣かせたのかと思ったが、男性から嫌な感じは受けなかった。男性は少女を気にしながら、近くにある民家の上の方に時々、視線をむけているように見えた。

「どうかしたんですか?」

 近づきながら、レヴンはそう言っていた。男性が、ハッとした様子でレヴンにむき直った。

 思わず、声をかけてしまった。そんな苦い気持ちがないわけではなかったが、困っている人を見ておきながら、見ぬふりをするのも嫌だった。

「ああ、いや。この子がよ」

「メアリーが、屋根から降りてこないの!」

 男性がなにか言おうとしたところで、少女が泣きながらそう言った。

「メアリー?」

「この子の猫だよ。ほら、あれ」

 男性が指さす方を見ると確かに、猫が屋根の上にいた。

 猫が、助けを求めるように鳴きはじめた。嫌がって降りてこないのではなく、なにか降りてこれない事情があるようだと思った。

「助けに行ってやりたいんだけどよ、俺は高いところがどうしても苦手でさ。通りがかっただけのあんたにこんなことを頼むのは、ひどく申し訳ねえと思う。だけど、恥を忍んで頼む。あの猫を、助けに行って貰えねえかっ!?」

「わかりました」

 返事は、すぐに出ていた。自分でも思わずといった感じではあったが、後悔はなかった。

 助けを求めている人がいるのなら、それに応えたい。誰かのためと言うより、自分のためだ。自分が納得したいだけだ。

 勢いよく頭を下げた男性が、(はじ)かれたように頭を上げ、レヴンの顔を見た。

「ほ、ほんとうか!?」

「はい。ただ、どうやってあそこまで行くか」

 周りを見渡すと、男が近くの建物を指差した。見ると、レヴンがとった宿だった。

「あそこの屋根から、洗濯物を掛けるためのロープがその建物まで張られてるんだけどよ、それを(つた)ってどうにか行けねえかな?」

「そうですね。なんとかなるかも。宿の主人にちょっと断りを入れてきます。そこの民家の方は?」

「出かけてるみてえなんだ。もしもいま帰って来たら俺が説明するから、あんたは宿の方を頼めるか?」

「わかりました」

 答え、宿に駆けて行く。主人に断りを入れると、その場に荷物を置き、それを見ていてくれるよう頼んだあと、宿の屋根に上がった。張られたロープの強度を確かめる。レヴンの体重ぐらいなら、充分支えられそうだった。慎重にロープを伝って行く。

 無事に渡り終えると、屋根から足を踏みはずさないよう、足もとに気をつけながら猫のもとに行った。見ると、猫の足が屋根の(くぼ)みに挟まっていた。猫が痛がらないように、慎重に窪みからその足を抜いた。念のためにホイミをかける。

 ありがとう、とでも言うように、猫がひと声鳴き、擦り寄ってきた。頭をひと撫でし、猫を抱き上げた。猫は大人しく抱かれてくれた。

 屋根から地面までの高さを確認する。この高さなら、飛び降りても問題なさそうだ。男性と少女に注意を促し、飛び降りた。問題なく着地する。

 少女のもとに近づき、視線を合わせるようにして(かが)むと、微笑みながら猫を差し出した。

「はい」

「ありがとう、お兄ちゃん!」

 笑顔とともに、少女が猫を受け取った。よかったね、メアリー、と少女が嬉しそうに声をかけると、猫が少女の顔を何度か舐め、またひと声鳴いた。

 レヴンが立ち上がると、男性が笑いかけてきた。

「ありがとな、あんちゃん」

「どういたしまして。それでは、僕はこれで」

「いや、ちょっと待ってくれ。お礼になにかさせてくれねえか。飯ぐらいなら」

「いえ、お気持ちはありがたいのですが、ちょっと急ぎの用事が」

「この国を出るのか?」

「っ!?」

 聞き覚えのある声が、すぐ背後から聞こえた。いつの間にか間近に(せま)っていた気配に驚愕すると同時、レヴンの背中を冷たいものが走った。

 逃げなければ。

「ぐっ!?」

 動こうとした瞬間、躰が押さえつけられた。ひんやりした硬い感触が、頬に触れていた。舗装された床の感触。いつの間にか地面に組み伏せられていたことに、(つか)()をおいて気づいた。

 金属が触れ合う音や足音とともに、いくつもの気配が近づいて来る。組み伏せられたまま顔を上げた。兵士たちが、レヴンを取り囲んでいた。剣や槍など、みんな武器を構えている。男性と少女は、兵士に促されてちょっと離されていた。なにが起こっているのかわからないとばかりに、茫然(ぼうぜん)としながらレヴンと兵士たちを見ていた。

 もがくが、拘束はまったく(ゆる)む気配がない。特別痛いわけでも、力が加わっている感じでもないのに、振りほどける気がしなかった。

 顔だけふりむくようにして、自分を組み伏せている人物の顔を確認する。鋭い眼光をした、厳しさを感じさせる男。

「グレイグ将軍っ」

 予想はしていたが、当たって欲しくはなかった。グレイグはなんの表情も浮かべず、ただじっとレヴンの顔を見つめていた。今日見た服ではなく、威圧感のある重厚な黒い鎧に身を包んでいた。その背には、彼の身長ほどもある大剣があった。

 再度もがくが、やはりグレイグによる拘束はびくともしない。力づくでこの拘束をはずすのは、まず不可能だと考えるしかなかった。技術的にはずすのも同様だ。ならば。

「やめておけ。君が呪文を唱えるよりも、俺が君の骨を折る方が早い」

「っ!」

 レヴンの思考の先を読んだように、グレイグが淡々と言った。殺気とまではいかないが、声には凄みがあった。本気だと、思わざるを得なかった。

 正面から闘ったら、まず勝てない。そう予想はしていたが、これほどまでとは思っていなかった。声をかけられるまで、気配すら感じ取れなかった。こんな重そうな鎧を(まと)っていながら、物音ひとつ聞こえなかった。

 グレイグの実力は、レヴンよりも数段高い領域にある。自身の見積もりの甘さとともに、それを痛感した。

 剣を油断なく構えたまま、兵士が二人ほど近づいて来た。グレイグは、組み伏せたままのレヴンの左手をとって、片方の兵士に突き出した。もうひとりは、レヴンが腰に着けていた、貴重品を入れている袋をはずし、中を確認しはじめた。

 兵士が、レヴンの左手の手袋をはずした。痣が、(あら)わになった。

 その場にいた兵士たちが、ざわめいた。

「この痣は」

「グレイグ将軍っ!」

 グレイグが声を洩らしたところで、袋を確認していた兵士がなにかを差し出した。袋に入れていた、ヒスイの首飾り。

「この首飾りは、ユグノアの」

 グレイグはそう言うとため息をつき、小さく(かぶり)を振った。

「俺の勘違いであって欲しかったのだがな。残念だ、レヴン」

 グレイグが、ボソッと呟いた。感情を押し殺したような、苦い口調だった気がした。

「レヴン。いや勇者、悪魔の子よ」

 絞り出すように、しかし()(ぜん)として、グレイグが言う。

「君を、いや、おまえを城に連行する」

 グレイグの声は、どこか悲しそうに聞こえた。

 

***

 

 猫を助けてくれた青年が、グレイグをはじめとする兵士たちに連行されて行く。自分は、猫を抱いた少女とともに、それを見送るしかなかった。

 兵士のひとりから、どういうことか説明がなされた。

 いわく、あの青年は、十六年前に『ユグノアの悲劇』をもたらした勇者、『悪魔の子』の疑いが強いとのことだった。疑いが、と言っておきながら、あの対応からして、ほとんど決まりということなのだろう。

 勇者。悪魔の子。災いをもたらす者。そんな噂は、何度となく聞いたことがあった。

 悪魔の子がもしも俺の前に現れたら、ぶっ飛ばしてやるぜ。そんなことを、酒の席で意味もなく(さかな)にして言ってみた時もあった。大抵の人が同じようにして、場を盛り上げるためだけに、無意味にそう言っていた気がした。

 『ユグノアの悲劇』で身内を失うなどといったことで、『悪魔の子』を憎んでいる者も確かにいるが、そういった被害を受けたことのない者なら、こんなものだった。自分は、特に被害を受けていない側の人間だった。

 そのためなのだろうか。『悪魔の子』が捕まったというのに、ひとつも嬉しくなかった。胸にあったのは、どこか後悔に似た思いだけだった。

「ねえ、おじちゃん」

 隣に佇んでいた少女が、手を引いて声をかけてきた。顔を、ゆっくりとむけた。

「どうした、嬢ちゃん?」

 聞き返した声は、自分でも驚くほどに、力がなかった。

「なんでお兄ちゃんは、グレイグ将軍たちに連れていかれちゃったの?」

「それは」

 いまにも泣き出しそうな声に、言葉が詰まった。潤んだ瞳を直視できず、うつむくようにして眼を逸らした。

 あの青年は、勇者、悪魔の子だから。言葉にすれば、これだけだ。

「あのお兄ちゃんが、勇者、悪魔の子だから」

「勇者、悪魔の子ってなに?」

 絞り出すようにして言うと、少女がまた問い掛けてきた。

「災いをもたらす、みんなを苦しめる悪いやつ」

「でも、お兄ちゃんは、メアリーを助けてくれたよ?」

「っ」

 とうとう涙が混じりはじめた少女の言葉に、なにも言えなかった。やるせない思いが、胸中を占めていた。

 少女の言う通りだ、と思った。

 おそらく急ぎの用事というのは、グレイグたちから逃げることだったのではないだろうか。追われることを予想していたように見えた。

 彼は、そんな状況でありながら、身も知らない少女と猫を助けてくれたのだ。自らに危機が差し迫っていたはずなのに、助けてくれたのだ。

 勇者とは、悪魔の子とはなんなのだ。ほんとうに彼は、災いをもたらす存在なのか。とてもではないが、そうは思えなかった。

 難しいことはわからない。ただ、勇者がなんなのかをろくに考えようともせず、ぶっ飛ばしてやるぜなどと言っていた自分が、ひどく愚かなやつに思えてしょうがなかった。

 連れて行かれそうになったところで青年は、ちょっとだけこっちを見ていた。捕まった原因と思われてもしょうがない、と(にら)まれるのを覚悟していた。

 青年がこちらに対してむけた眼からは、怒りや恨みなどは感じ取れなかった。それどころか、こわがられることを恐れているような、どこか恐怖に似た光があった気がした。グレイグや兵士たちにむける眼にも、怒りや憎しみのような、暗いものはなかった気がした。ただ、真っ直ぐな光だったように思えた。

 それが余計に、やるせない気持ちを生んでいた。あんな眼をした青年がほんとうに、悪魔の子などと言われなければならない存在なのか。なにかの間違いなのではないか。

 自分が猫を助けてさえいれば、あの青年は捕らえられずに済んだのではないか。

 不意に、そんな思いが、胸に湧き上がってきた。拳を強く握り締める。拳が、震えていた。

 もう一度、あの青年と話をしたい。

 顔を上げ、城に眼をやる。青年の無事を祈りながら、城をじっと見つめ続けた。

 




 


『魔物が斃されると宝石になる』というのは『アベル伝説』から。おそらくは、最も外見が恰好いい『バラモス』が出てくる作品。

仲間になるまでは「ええい、この脳筋め! 話を聞きやがれ!」となり、仲間になった直後あたりはなんだか複雑な気持ちになり、ドゥルダのムフフ本で「え?」となり、その後はひたすらに面白い人という評価で好感度がどんどん上がった男、あざとさの塊、そんなグレイグ将軍。
 
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