ですが、マスターの中身は老人になったマスターで……。
シカタナイネー。
カルデアでオカンと言えばエミヤ(アーチャー)だが、母と言うと頼光、ママと言うとブーディカだろうか。
エミヤ(アーチャー)はまぁ、世話焼きな性格や料理が得意で家事スキル上級者なのでそのようにいわれている。また、菓子作りも得意なため、幼児系のサーヴァント達や武則天、茨木童子などにもかなり好かれている。なお、幼児系のサーヴァントに集られているその様は『エミヤ幼稚園』と言われている。
頼光は母性愛の強いサーヴァントではあるが、バーサーカー故なのか、執着心、いやそれは妄執というかそういう域にあるので、少し怖い。
自分が庇護していると自覚するや否や束縛にも似た感じで徹底的に過剰なぐらいに過保護な感じで母親として振る舞う。
なお、それ以外の人間に対しては普通に理性的に接するが、特定の鬼に対しては辛辣である。
ブーディカはどちらかというとおねぇさんな感じで気さくな性格をしている。家事スキルも高く女王というには庶民的で世話焼きなのはエミヤにも劣らない。
エミヤと違う点は、エミヤは仕方なく世話を焼いてるような言い方をするが、ブーディカは世話が好きでたまらないといった性格なのである。
……ブーディカをママと言うのは、まず人妻でありお子さんが居た事も踏まえて、あのおっきなおっぱいのせいだと思います。ええ。
それはさておき。
まぁ、現在職員やサーヴァント達の食事を作っているエミヤを除いた頼光とブーディカ、他数人の女性サーヴァント、あと何故か黒髭がそれに混ざってチクチク、チクチクとなにやら作っている。
何故にお裁縫をしているかと言えば、それはキアラがお産をした後に必要になる、赤ん坊のおくるみ(赤ん坊をくるむ布)や産着、それに布団、シーツ、様々なものを作っているのである。
昔ならばお産の準備と言えば、男衆を締め出して、女衆は大忙しで働いたものだ。とにかくお湯を沸かし、いきむ為のいきみ紐やいきんだ時に歯を食いしばる際の轡(くつわ)などを用意したり、身体を冷やさぬように火を焚いたり……と、様々な用意を事前にしたものだが、現代においては医療が進み、ほとんどその用が無い。
なにしろ医者が二人にナイチンゲール他、人間の看護士と医療職員が万全の状態ですでにスタンバっている。
故に他の女衆は手持ち無沙汰気味であり、チクチクと縫い物仕事に勤しんでいるのである。
作っているものは赤ん坊のおくるみ(赤ん坊をくるんでおく布)や産着、あとは毛糸の靴下を編んでいるサーヴァントもいる。
現代においてはそういうものはベビー用品店にあるもので、それを購入するのが当たり前なのだが、ここはカルデアである。買いに行くにも街など無いしもちろんそんな店は無い。
補給物質の品目に加えて送ってもらえばいいのだが、カルデアの女性サーヴァント達はなんというかやはり昔に生きていた方々なのであり、やはり赤子には手縫いのものが一番だとこうして作っているのである。
これはどの女性サーヴァントに聞いてもそういう認識のようで、買うという選択肢など無いように、当たり前のように作り始めたのである。
どの時代、どの国の女性サーヴァントであっても口々に赤ん坊が産まれたら『布はあればあるほど良い!!』と言う。これは中東辺りの出身でもヨーロッパ出身でも日本でも同様の認識のようである。
これは赤ん坊の着るものはこまめに取り替える必要があるためである。なにしろ赤ん坊は自分では大小のシモの事が出来ないため、というのもあるが、とにかく赤ん坊の肌はデリケートであり清潔にしておかねば、あせも、湿疹などすぐに出来る。また、病気に対する抵抗力も弱い。
確かに現代には紙オムツというものがあるしそのサイズ毎のストックも十分であるが、それでも女性サーヴァント達はきっちり、何かあっても大丈夫なように布の備えをしていた。
また、赤ん坊の身体は成長が早い。すぐにサイズなど大きくなるのである。もう大小取り揃えて女達はそれらを数ヶ月に渡って作り続けて来たのである。
……頼光などはもう3歳児の着るような着物を縫っていたりするあたり、どれだけ成長を楽しみにしてるんだよ、あんた気が早すぎるよ、などと思ったりするが誰もそれに突っ込まない。
そんな命知らずはここには居なかったのである。
出産というのは祝うものであり、頼光が嬉しいと思っているのだから、それは良い事だろうと思うことにしよう。
「……うふふっ、明日ですか。しかし何時産まれるかが分かるというのはすごいものですね」
頼光は今時珍しいほどにきちんとした和裁で布を縫い上げて行く。手付きもやはり確かで縫いも完璧、寸分の狂いも無い。熟練した和裁のプロも顔負けである。
「もうそろそろ産まれるってのはだいたいわかっても、日にちまでは、あたいん頃もわかんなかったねぇ。名医たぁ聞いてたがあの西洋医者、すごいもんさね」
葛飾北斎の片割れというのか本体というのか。その娘のお栄がそう言いつつ、頼光の縫う着物の縫い目を見て「流石だねぇ、あたいじゃそこまではやれねぇなぁ」と感心する。
サーヴァントである葛飾北斎は絵師であった北斎と娘のお栄のコンビである。普段はお栄の身体と浮いているタコの北斎に分かれているが、その存在は不可分、戦闘時などはどうも二人で一人、融合した感じになるが今は分かれているようだ。
なにしろタコは手に筆を持って針仕事をしている女達のスケッチをしている。どうやらこの情景が文字通り絵になると思ったらしい。
「まぁ、医学も進歩してるって事ね。それにお産もかなり楽になったって話だしね。あたしの頃はそりゃあ大変でさ?……と、言ってもあたしん場合子沢山でも無かったけど」
ブーディカもチクチクと産着に刺繍で模様入れをしつつ、二人の話に加わる。こちらは洋裁であるがやはり丁寧かつ仕事が早い。刺繍の模様は少々古風だが西洋風の紋章のような柄である。
「そうですね……。私の居た時代、私の居た国でも大変でした……」
『死にたくない』さん、ことシェヘラザードも極彩色の糸を使い、布に刺繍をしている。中東などに見られる美しい文様の刺繍である。これは赤ん坊を運ぶ時に使う下げ布……今で言う抱っこ紐のようなもの……のようだ。ペルシャ様式に似ているが、この刺繍には独特の美しさがあった。
なお、シェヘラザードもお産経験のあるサーヴァントである。
……人妻で、むちむちで、産経婦で、ぢゅくぢぉ、というと書いている人的にもうたまりません。アガルタで土下座したシェヘラザードさんを想像するともうね?
いや、話を元に戻そう。げふんげふん。
「そだねぇ。どこでもお産は一大事なのは変わんないよねぇ。めでたいことだけど。あ、シェヘラザードさん、その糸の色、良いなぁ。ん~、次の刺繍にちょっともらっていい?」
「はい、どうぞ。まだまだ沢山ありますので」
女衆は地道で静かだが、確実に糸を進ませて確実な仕事を世間話をしつつ和やかに行っていた。
どの針にも産まれてくる子供への想いが込められており、縫い糸にも刺繍の丹念さに暖かな心が宿っている。
とはいえ、針仕事を始めてもう時刻は夜の10時を回る頃である。彼女達は疲れ知らずのサーヴァントとはいえ、夕飯時からずっとこの作業をしているのである。
「あ~、だけど肩が凝るねぇ。嫌いじゃ無いけど。あと小腹も空いた。ちょっと一休憩したいねぇ」
女海賊のドレイクが、こき、こき、と肩を回して骨を鳴らした。
やはり根を詰めると精神的な疲れは出るものだ。
意外に思われるかも知れないが、こう見えてドレイクは針仕事が得意である。というか船乗りならばある意味必須スキルである。
なにしろ昔の船は帆船であり、突然の強風や雨風で痛んだりするのである。帆の修理はこまめにせねばならなかったし、さらにロープの繕いから輸送物資を入れる袋を縫ったり補修したり、さらには自分達の服の繕いまで全部しなければならなかったのである。
「これだからBB……ドレイクは。拙者などほれこの通りぃ、クマたん着ぐるみベビー服、完成ですぞぉ~?デュフフフフ、ん~、会心の出来映え!」
縫い上げたベビー服をバッ!と女衆に見せて、この服飾室でただ一人の男である黒髭はニマ~っと笑った。
確かに黒髭の縫った、クマの縫いぐるみのような、もこもこした布地のフード付きベビー服は非常に可愛かったし、出来映えもベビー服売り場に並んでいてもおかしくないほどだった。
そう、海賊である黒髭ことエドワード・ティーチもこの手の作業は大得意だったのである。なにしろ、今までカルデアの幼児系のサーヴァント達に可愛らしい着ぐるみを作ってやったり、ぬいぐるみなどプレゼントしたりしていたほどに器用なのだ。
そこをドレイクが無理矢理引っ張って来て、針仕事をさせていたのだが、普段ならば嫌がるはずの彼も『いやいや、マスター氏は同士ですからなぁ。それにキアラ嬢からも頼まれているでござる!』と、自室で作りかけていたベビー服らしきものをこちらに持ち込んで縫い始めたのである。
まぁ、黒髭は小さな女の子にしか興味が無いというか、通常の女性サーヴァント達には特に害を加えないような奴だったのもあり、部屋の隅っこで作業している分には静かだったこともあって、特に誰も彼の作業に目を向ける者は居なかったし、むしろ構うとウザいので無視していたが、黒髭が縫った着ぐるみベビー服は非常に可愛らしく、一同が『きゃーーー!可愛いわねー!!』などと言ってしまったのに気を良くしたのか、黒髭はウザいくらいに喜色満面でニッマーと口元をだらしなくほころばせた。
だが黒髭のそのニッマーっとした笑みはかなり胡散臭くうざかった。非常にウザかった。
彼としては会心の出来に仕上がった嬉しさで笑っているだけなのだが、殴りたい、その笑顔。と思わずにはいられないような笑顔だった。
べきっ!
やはりというか、ドレイクの拳が黒髭の顔面にたたき込まれた。いや、最初の『BB…』の部分が原因だったのかも知れないが。
「し、しどいわしどいわ……」
哀れなり黒髭。彼はただ単に自分の会心作を褒められて喜んでいただけなのに。
「やかましい!!……というかアンタ、こんな服こさえて。確かに良く出来てるけど、着る赤ん坊はあのマスターなんだよ?中身」
「ううっ、キアラ嬢に頼まれたでござる。以前にようぢぉ……じゃなかった、ジャックたんとかアリスたんとかにあげた着ぐるみ服みたいな可愛いのを頼む、と……」
「はぁ?!」
ドレイクは目をまん丸にした。
「いえ!これは素晴らしいですわ!!」
シェヘラザードが叫ぶように言った。さらにドレイクの目が信じられない、と見開く。
「いや、だって中身は老人なんだよ?!つーか本人も絶対に嫌がるって!」
「でも、これを着た赤ん坊のマスター……ああ、とても愛らしいに違いありませんわ?というか黒髭さん、これは、そう、グッジョブ!!というのでしょうか。素晴らしい、とても素晴らしいですわ!!」
いつもは少しオドオドしている彼女が、興奮したように顔を赤らめて黒髭に賞賛の拍手を向けた。
「デュフフフフ、そうでござろう、そうでござろう。ウサギさんもありますぞぉ~?」
「なんとっ!これはもう、着せるしかありません!!」
「デュフフフフ、そう、サイズ違いもこの通り!!しかも紙オムツ交換もこの通り、お肌に擦れないマイクロマジックテープでこうして……!」
「ああっ、しかも機能的!!それに中綿もちゃんと入っていて暖かそうな!!」
「……なんというか、細かいところまで行き届いてて引くわー、引くわー、超引くわー」
ブーディカが引いた。
「……まぁ、あれをマスターが着るのは、キアラさんが頼んだ時点でもう確定ですね。……何を着せても愛らしいのは間違い無いでしょうけれど、あの子とても嫌がるでしょうね」
頼光はそう言いつつも、自分が縫って完成させていた産着を取っていつの間にか刺繍をしていた。
「……クマの刺繍?」
「……多少は、その……アクセント?というものでしょうか」
あ、頼光さんもなんか対抗してちょっとでも可愛くしようとか思ったんだろね、これ。
「……まぁ、可愛いなら良いですよね、あははは……」
こうして、マスターのベビーグッズの大半が、可愛いものになって行ったのである。
頑張れ、マスター。負けるな、マスター。多分きっと、カワイイゾ?
昔のお産というのは、それこそご近所さんの女性みんなが集まって、協力して立ち会ったわけで。
さらに大昔ですと、出産祝いには布を贈るというのは古今東西、どんな国でもどんな時代でも有り難がられたらしいです。
次回こそマスター出産を……。