マーリンの天敵というとあんまり思いつきませんが、多分ケツァル・コアトルさんかな、と。
半壊した召還ルームではなんだと言うわけで、俺達はティアマトを連れて応接室に移動した。
そして応接室に着いたとたん、俺達はゲンナリとさせられてしまった。
応接室にはマーリンがすでにおり「いやぁ、遅かったね?」などといつもの胡散臭い笑みを浮かべてニヤニヤしつつ、おそらくはエミヤが作ったであろうウルク風パンケーキ(復刻版)を食べていた。
なお、余談ではあるがエミヤは完全に異変収束したここ数十年の間の年月を通じて失われた料理や菓子などのレシピを追い求め、そして復刻させるという偉業を達成しており、それらのレシピはカルデア財閥が運営しているレストランチェーンなどに提供されている。
まぁ、それはさておき。
俺は非常にげんなりした。
「きゃー!これ、食べるのって初めてなのよねー」
などとティアマトははしゃいでいる。
そう、ケーキはいい。紅茶もいい。俺だって大好きだった。赤ん坊になったからまだ食えないけど!
しかしマーリンはいただけない。あと、俺が食うことの出来ないウルク風パンケーキを幸せそうに喰らっているその姿、殴りたい。
そしてこの用意周到さ。
まるでホームズやモリアーティがやるような、人の行動を予測、推理、計算した上であらかじめ用意したかのような、そんは舞台設定のようだ。だが、ホームズやモリアーティはこの件に関わっていないだろう。何しろ、カルデアの機材に何かあったら、彼らの仕事は山盛りに増えてしまうのだ。
故にそれは無い。
何しろホームズはカルデア財閥の顧問探偵だし、モリアーティはなんと財務と法律関連の統括者なのだ。
特にモリアーティはこのあと、召還ルームの修理の予算をいかに出すかで頭を悩ませる事だろう。可哀想に。いや、俺も他人事ではないのだが。あと、死んだ俺(赤ん坊になってるけど)の保護者として母親になっているキアラもまたそれに関わらないといけない。そして、産まれたばかりの俺もいろいろと指示しなければならないと来ている。
いや、全カルデア財閥系の様々な部署にだって迷惑掛かるし、それこそ運営に携わっている多くのサーヴァント達や通常スタッフ達にだって迷惑掛かるんだよ。
これが他の組織によるテロで無くて良かったけど、それにしても非常にたちが悪すぎる。
そう、それもこれもみんなマーリンが悪い!!
『……あんたの差し金か?』
そうこの男の事だ。今回のティアマト出現もこの男ならばやってしまっても不思議じゃない。というか普通ここまでやられたらもう誰でもわかる。
「いやぁ、本当のところ話を持ちかけてたんだけど、来てくれるとは思って無かったんだよ」
マーリンは悪びれずそう言ってあはは、と笑った。
絶対嘘だ、と俺は思った。絶対来るように仕向けたに違いないのだ。この男はそういう奴なのだ。
「君はティアマトにマスター君の母親になってもらうつもりだったのかい?母胎という意味だけど」
ダ・ヴィンチちゃん(小)はそう言ったが、しかしその首は少し傾げられている。なんとなく違うかなーとか思っているのだろう。なお、ダ・ヴィンチちゃん(大)はティアマトの説教にてぶっ倒れたソロモン(ドクターロマニ)と、なでなで攻撃を食らってやはり気絶したイシュタルとエレキシュキガルを見てもらっている。
確かにティアマトならば、俺を再生させる母胎としての条件には合っている。
だがもうすでに俺はは産まれた後なのだ。果たしてこの男がそんなミスをやらかすだろうか。
答えは『否』だ。
確かにマーリンは抜けたところはあるのだが、ロマニならともかくこのマーリンのそれは完璧な演技か、想定外の事態が起こったかのどちらかで、後者なら最初から「ゴメンゴメン、予想外だ」とか悪びれずに言うだろう。
ダ・ヴィンチ(小)が、ふーむ、と唸るように言った次の瞬間、応接室のドアがバン!開かれ
「それは無いだろうね。君達が思っている通り時間が食い違い過ぎる」
と、誰あろう名探偵ホームズが登場した。
ホームズは小さくなったマシュの姿を見て少し驚いたようだったが、久々に会った自分の物語のシリーズの愛読者に「久し振りだね」とウィンクすると、すたすたと開いている席にやってきて座った。
「はじめまして、ミセス・ティアマト。私はこのカルデアの顧問探偵シャーロック・ホームズです」
ホームズは自己紹介をすると、その席に置いてある紅茶に口をつけ、さらに口を開いた。
「ふむ。で、マーリン。私やモリアーティには君の企みはすでに予測済みだ。そしてもうそれは確信に変わっている。君の計画はそれ自体は悪くはないがやはりあらかじめ話をしてもらわないと困るんだ。私はカルデアの治安部的な部署に今は居るし、モリアーティは財務、法務的な部署に居る。その辺の辻褄合わせも必要だからね?」
ホームズはやたらとにっこりしたイイ笑顔を見せた。この場合のイイ笑顔とは、少しゴゴゴゴゴゴ……と凄みのある笑顔という意味である。つまり〔しまいにゃシバくぞゴラァ?〕である。
おそらく彼は治安を乱されて怒っているのと、あとはカルデア虎の子の召喚システムある召喚ルームを半壊させられた事、そしてその修理やら新たなサーヴァントとしてはっきり言ってドエラいもんが来たのと。様々な面でホームズは怒っているのだろう。
それに彼はウチの顧問探偵なのである。
おそらくは俺が死んだ事で……もちろん偽装なのたが……様々な組織がまたこのカルデアにちょっかいをかけて来はじめているのだろう。そういうピリピリしているときにこのような騒動を起こされるとはっきり言って腹も立つというものだ。
そう、いつも冷静沈着にして飄々と、それでいて淡々と全てを推理の元に解き明かす彼であっても、である。
「それは悪かったと思っているよ。だけど一か八かの賭けに近かったんだ。何しろ召還システム、カルデアのシステムフェイトにこの星が掛けていた封印を破れるだけの魔力を捻出できるかどうか、わからなかったんだよ。だから確証が得られるまで、誰にも言えなかった」
下手に希望を持たせるのは私の信条じゃないからね?とマーリンはホームズの笑顔のまま怒っているような表情を直に受け止めながら言った。
ホームズは、ふうっ、と息を吐くとコワい笑顔をやめて、いつもの冷静沈着なホームズに変わった。
おそらく話の核心が近いのだろう。
「……それはわかる。システムフェイトになんらかの封印が掛かっていたのも推測していた。今回の召還ルームの半壊もその封印を強引にこじ開けた為の反動だと言うこともね。だが……。何故ミセス・ティアマトなのか。それが問題なんだ。何故だね?」
「ふむ、それはだね。必要な霊力が他のサーヴァントでは足りないからだよ。確かに足りない分を外部から補給する手段も考えたけど、どう計算しても私やソロモンを足しても不可能だった」
マーリンはそう言った。
はっきり言おう。ここにいる皆を置いてきぼりにするような会話だった。
「ですが……もうマスターは何の異常も無く産まれておりますが?」
キアラがそれだけでは何か不都合があったのか?と俺を見て少し不安そうな表情を浮かべる。
もちろん俺には何の問題も無い。近頃はこういう表現は差別だとか何だとか言う向きもあるらしいが五体満足で俺は産まれている。
だがそれとは別の問題があるのではないか?とキアラは思ってしまったようだ。
俺はそれを否定した。
『いいや、俺には何の異常も無いぞ?』
と。キアラはなんというか、らしくないような表情であるが、まるで本当に子供を案ずる母親のような感じだ。おいおい、調子狂うなぁ。
「しかし、この二人が話しているのは、そういう事なのでは?」
そんな不安そうなキアラの様子を見かねてケーキを美味そうに食べていたティアマトがホームズとマーリンの会話に口を挟んだ。
「ちょっと君達。そこの新米おかーさんが不安になってるじゃない!」
ティアマトの剣幕におどろいた二人はビクゥ!として慌てて説明をし始めた。
「あ、ああ、失礼、ミセス・ティアマト。ミス……いや、この場合はミセス・キアラと呼ぶべきか。マスターについてはもちろん何の問題は無い。今、我々が話していたのはマスターの事じゃないんだ」
「そ、そうなんだよ、マスター君の再生は問題は無いんだ。あったら最初から私は止めてるとも。今回の話はマスター君の再生じゃない。カルデアに必要なもう一人について話をしているんだよ。勘違いさせたなら謝るよ」
なんか、オカンに叱られた子供みたいな反応だよなぁ、とか思ったが、いや、これはそれそのものだろう。なにしろ地球上の全生命体の元になった女神のお叱りなのだ。
「……よろしい!というか、不安とか心配はものすごくストレスになるのよ?良いおっぱい出なくなったり、詰まったり腫れたりとかの元になるのよ?!まったく、これだから男の子は……!」
ぷんすか、とティアマトは怒っていたが、いやいや、まさか。キアラのおっぱいだって?出ないだろ、それは。
……出ない、よね?
俺はそっとキアラの顔を見たが、それよりも俺の事ではないと知った安堵の方が大きかったのか、後の話は全く意識の内に無いようだ。
というか、では誰の再生なのか?とかそういうのも気になっていないらしい。
『……結局、誰を再生させるのか?って教えてくれないか?いや、見当はもうついてるんだが』
俺は、テーブルの上でケーキを貪っているフォウさんを羨ましそうな目で見ているマシュに目を向けた。
つか、フォウさん来てたのかよ。
「それはマシュちゃんだよ」
マーリンはそう言って苦笑し、
「もっとこう、手口とかいろいろ話したい事が有ったんだけどなぁ。結構ティアマトをカルデアに連れてくるまでにいろんな苦労と手間暇がかかったんだ。それこそソロモンの目を逃れつつ、この星の封印を解除するためにメディア君の宝具を拝借したり、メディア君の秘蔵のマシュフィギュアにティアマトの魔力を送る回路を作って霊基を呼び出したり、円卓の盾を警備のハサン達やニンジャ達に見つからないように君の部屋から召喚ルームに運んだり」
『……メディアさん達の激怒案件な件について』
俺は身体が動くならば頭を抱えたい衝動に駆られた。
つまり、マーリンは俺達の知らないところでマシュの復活の為にこそこそと動いていた、というわけだ。
召喚システムに封印をしているこの星の意思の強制力をメディアさんのルールブレイカーを使って解除し、さらにメディアさんの作ったマシュフィギュアを触媒として、ティアマトの魔力や霊力を注いでマシュの霊基が宿るように仕向けて、さらに古代のバビロニアに空間を繋げてサーヴァント化したティアマトを来やすいようにしつつ……。
「こう見えて結構大変だったんだ。異変レベルに極力ならないように、人理を逸脱しないように、って遠回りな方法を取りつつ、一人で黙々と作業をしていたんだよ。最後の最後にこの星の強制力があれほど掛かったのは計算外だったけどね」
マーリンは少し自慢げに「ははははは」と笑ったが。
ホームズは紅茶を一口すすると、何も言わずに指をパチン!と鳴らした。
バン!!と応接室のドアが勢いよく開かれ、素早い何かが入ってマーリンの座る席の後方へと向かうとマーリンの首根っこをむんずと掴んだ。
「……あれ?」
マーリンは恐る恐る、自分の首根っこを掴んでいる人物を確認した。
あれはなんだ?!鳥か?!蛇か?!ラムフォリンクスか?!いや、ケツァル・コアトルおねーさんだっ!!
「チャオ~?マーリン」
人の良さそうな笑顔でケツァル・コアトルは笑っていた。だが、その顔にはなんというか少し影があり『にっこり』というよりは『濁り(にっごり)』という感じだった。
「へ?あ、ああ、ケツァル・コアトル。ちゃお?」
「いろいろと言いたい事、ありまーすケド、さぁ、おねーさんとイキマショーネ?」
ぐいっ、とマーリンを持ち上げるケツァル・コアトル。
「え?え?ええーっ?!いや、なんでっ?!いや、わからない?!なんでっ?!」
「私の会心作マシュちゃんの12分の1フィギュアに細工した……いえ、それは許しましょう。マシュちゃんがそこに居る……それで許しましょう。それにマシュちゃんが復活する、ええ、素晴らしいですとも。ですが。私の宝具を盗んだ罪は許しがたい……!」
ドアの向こうには、百貌のハサンや呪腕のハサン、それに風魔小太郎、加藤段蔵を連れたメディアが怒りに震えながら立っていた。
「このカルデア警備隊の我等をよくぞここまでコケにしてくれたな……」
ゴゴゴゴゴゴ………!!
ハサン達や忍者達もかなり怒っている。
それに、なんとか回復したソロモンもとい、ドクターロマニの姿のロマンもまた立っていた。
「君のせいで……いや、ティアマトの説教は正当な説教だけど、カルデアの召喚ルームは半壊、廊下もボロボロ……。ふふ、ふふふふふ、今日という今日はもう、勘弁ならない!!」
普段温厚なロマニすらも!!
「ソーユーわけデース?観念して……地獄へ行こうネ?」
ギシャッ!と、ケツァル・コアトルは笑い顔をものすごい悪そうなゲス顔に変化させると、そのままマーリンを担いでドアの向こうへと去った。
「そう、私達はその後、マーリンの姿を見ることは無かったのです」
ダ・ヴィンチちゃん(小)は縁起の悪いモノローグをにこにこ顔で言ったが、俺にはあれが最後のマーリンとは思えなかった。そう、第二、第三のマーリンが……。
「いえ、先輩、そっちの方が縁起悪い……あれ?」
そんなこんなで、どっと疲れたが、マシュが復活する事になったので、それはそれで良かった良かった……なのか?
どんどん予定していた話の流れから外れていく。それもこれもマーリンのせい(八つ当たり)。
本当なら、キアラママの貴重な授乳シーンとか、キアラママと入るお風呂とか、オムツ交換とか、着ぐるみベビー服着せられたりとか、そういう流れになるはずだったのですが……。
マシュが居ないカルデアなんてっ!!とか思うとね。