※いつも誤字脱字修正ありがとうございます。
「王の話をしよう、あれは昨日の事、いや、もう一昨日の事になるかな?まぁいい、私にとってはついさっきの出来事だが、君たちにとっては多分、それぐらい前の出来事だ。彼女はアーサーという名前があるけど、今は女の子にもどっているからなんて呼べばいいのか。確か最初に会ったときは、アルトリア。そうあの子は最初から言うことをよく聞くいい子だった」
マーリンは流石というのかなんというのか、生きていた。
カルデア内にいつの間にか作られたタイガー……もとい、ジャガーマン道場の特設リングで、ケツァル・コアトルやメディアさん、他、マーリンにさんざん迷惑をかけられた女性陣達に一方的にボコボコにされたと言うのに、ケロッとした様子で俺の前に姿を現したのだ。
不死身かコイツは。
というか何度王の話をすれば気が済むのだろうか。
「で、何のご用でしょうか?」
キアラがにこやかに、しかし思い切り、迷惑だからとっとと帰れ、と言う感じのどす黒いオーラを放ちながら言った。
「いやだなぁキアラ。あの時、マスター君に約束したじゃないか。十月十日後にまた会おうって。だから私は来たんだよ」
つれないなぁ、とか何とか言いながら、いつもの調子でヘラヘラと笑うマーリン。しかしコイツがこうして現れたならば何かしら厄介事を持ちかけてくるのはいつもの事なのだ。
「無事に産まれて何よりだよマスター君」
『で、何しに来た、というよりは何を企んでるんだ?』
「……つれないなぁ、君は。企むなんてとんでもない、新たに産まれしマイ・ロード。君の物語は望まれそしてまた紡がれる。ただそれだけだよ」
『マイ・ロード言うな。つかあんたを雇った覚えは無いし、あと俺は王でもなければここは宮殿でも無い』
「これだからなぁ。まぁ、だから君とマシュ君が結婚したときに嫌みでキャメロットの城壁と城門を贈ったんだけどね」
『あれは嫌みだったんかい!?』
いや、不自然にデカかったし、カルデアに入るときには門の所を通らなきゃいけなかったので不便だったけど、何かとセキュリティー的にはかなり有効だったから有り難く貰ったけど、嫌みだったとは?!
マシュとの結婚から数十年経ってから解った驚愕の……と言うほどでも無いけど……事実!!
「いやぁ、外堀から埋めていけばいつかは落ちるかな?とか思ってとりあえず城壁を贈ってみたんだけどね?」
『いや、埋めるために城壁を造るって聞いたことが無いよ?!』
マーリンはバビロニアでの縁を利用して、サーヴァントの自分をカルデアに送りつけて来た事があった。
無論、縁をやたらと強化しつつカルデアの召喚システムを通じてなのだが、小異変等で縁の出来たサーヴァント達などがこれにはかなり迷惑した。
なにしろ自分達が出ようかという風に英霊の座で待機していたのにそれを押しのけるようにしてマーリンがやって来るのだ。
しかも、10連で回したらマーリンマーリンマーリン、マーリンが十人!!という感じで。
カードがライダーとかアサシンとかセイバーでも、銀カードでも銅カードでも関係無しに、そのカードが無理矢理に再びクルッと回って金カードのキャスターに変わってマーリン、マーリン、マーリンなのである。
そりゃあ来るはずだった他の英霊達も怒ると言うもんだろう。
円卓の騎士のケイ、アグラヴェイン、ガレスなど、マーリンのせいで来るのが遅れてしまったとか未だに根に持っているし、アキレウスとかケイローンとかもマーリンを見ればダッシュで殴りに来る始末。あと、他の英霊達に聞いたが、マーリンのせいで未だに召喚されていない英霊達も居るそうで、かなり怒っているとか。
その来れなかった英霊達は反マーリン連合を組んで、再び召喚システムが起動したならば最強のマーリンキラー達をカルデアに送ろうと画策している、という話だ。
……一体、何ガンさんと何ュエさんなんダロウネ?
まぁ、今は召喚システムは起動しないようになってしまったから英霊はもう呼べないし、そんな危険そうなサーヴァントは来ることはないからまだ安心なのだが。
だいたいモリガンさんが来たらマーリンよりも円卓の騎士達に危機が……いや、アルトリア・シリーズと円卓の騎士達が囲んでリンチとかするかも知れんし、この場合どうなんだろう。逆に被害者にされかねないな。
ミニュエさんについては諸説いろいろあるが、ブリテンの崩壊を招いた間接的な原因の一つであり、なんというか厄介な感じしかしない。
……二人とも来ない方が平和なのかも知れない。
それはさておき。
キングメーカーと呼ばれるマーリンのサーヴァントがそうしてやって来た事にもちろん円卓の騎士達はかなり警戒した。誰一人として暖かく迎えた円卓の騎士はいなかったという辺り、マーリンの今までの所業がわかろうものである。というか仲間だった彼らに超警戒されるってのはどんなけなんだよ、とか俺は気楽に思っていた。
なにより、ウルクで彼の行動や性格を知っていたので、また厄介事が増える程度だろう程度にしか認識していなかったのだ。
だが、それは甘かったとしか言いようが無かった。
マーリンは俺を王にする事を虎視眈々と狙っていたのだ。まぁ、詳細は省くが、俺はそれをことごとく拒否した。
なにしろ、このカルデアには王だらけで、その誰もが偉大な存在である。だが、考えてみてほしい。みんなかなり厄介な性格をしているわけで。
英雄王、太陽王、征服王、騎士王、ソロモンにシバにゃん、何かと綺麗な女性を見ればアビシャグアビシャグ言う羊飼いの王に、世界最古の毒殺女王、串刺し公、マッスル至上主義のスパルタの王に、ローマローマ言うローマ皇帝に、その子孫の赤セイバーとやたら赤セイバーを愛でたがるバーサーカーな皇帝、陰謀企てる銭ゲバ皇帝に、王ではないけどノッブに……と、やたら個性的で厄介な変人揃いなのだ。
当時の俺は、彼らと同類に括られたく無かった。
それが本音だった。
というか、王=厄介、という認識が当時の俺の脳内で出来上がっていたのだ。多分、エミヤ(アーチャー)ならわかってくれるはずだ、きっと。
まぁ、今の王というものに対する認識は若い頃のそれとは違う。若い頃のそれはそれとしてずっと持ち続けてはいるが、そもそも俺が偉大な王なんてものになってしまったら、それこそカルデアに今も居続け、見守ってくれている王達に申し訳無いではないか。厄介なのは今も昔も変わらないけど!!
偉大というものから最もかけ離れているのが俺だ。成ろうなんてまーったく思ってはいない。
『王になる気は無いからキングメーカーとしてのあんたは不要さ。友達としてなら遊びに来るのは歓迎するよ。だけど、ウチに損害とか出すような事はごめんだからな?』
「あはははは、耳が痛いなぁ。だけど本当に君は美しい生を紡いでいるね、うんうん。王にならざりし王よ、まぁ、チャンスはこれからも出てくるから諦めないぞっ、と」
『つか、諦めろ』
マーリンはいつもの感じで俺の言葉を流した。非常に迷惑だから友達としての縁も切ってやろうか、という考えが頭をよぎった。
「まぁまぁ、もうある意味王みたいなもんなのに」
『経営者は王じゃないって。商売人はどれだけ大きい商いをやっても商売人だからな?』
そう、俺はカルデアのマスターではあるが、カルデア財閥の中核『カルデア商会』の社長……いや、会長なのだ。確かに財閥の理事長でもあるが、ようするに、あきんどである。商売人が王のように振る舞うなんて、しかも成金が。滑稽でしかない。商売人は、毎度ありがとうございます、と、実った黄金色の稲の如く頭を垂れるのが一番良いのだ。
帝王学なんぞ習った事もないしね。
「誰よりも王に相応しいのに、君って奴は。あのソロモン王をも超える偉業を果たしても欲が無いんだからなぁ。世界を何度も救いし救世王にして、数多の英霊達の主人なのに」
『成り行きと縁だよ。はぁ、システムフェイトが使えたらミニュエとか召喚してやるのにな……』
「……人の黒歴史を抉るの、止めてくれないか。というかミニュエは不味い。本当、勘弁してくれ」
マーリンは本気で嫌そうな顔をした。まぁ、伝説ではミニュエはアーサー王伝説に登場する湖の乙女である。
この湖の乙女はかつてアーサー王が選定の剣を折ってしまった後に、聖剣エクスカリバーを与えた人物と同一視されているが、その真偽は不明である。
まぁ、もしも同一人物だったとしたら、話はかなりややこしい事になる。
なにしろアーサー王を助ける一方でブリテンの崩壊を画策した人物、という二律背反な人物像になってしまうからだ。
おそらくは、かつての古の物語の事である。特にアーサー王伝説を書いた書物の中で最も古いものは翻訳者泣かせなぐらいに物の名前がごっちゃに混淆されていることが多く、剣の名前でも、カリバーがやたらと出てきて、ガウェインの剣とアーサー王の剣とがあたかも同じ名前で書かれている場面とか出てきたり、人物の名前も同名の他人がやたらと出てきたりするのである。
故にエクスカリバーを与えた湖の乙女(ヴィヴィアン)と湖の乙女(ミニュエ)は別人と考えるのが正しいだろう。
そのミニュエであるがアーサー王伝説のその後を書いた書物によればマーリンをアヴァロンの塔に封印した人物だとされている。それが本当ならばミニュエの英雄はリアルでの『マーリンキラー』と言える性質を持っているはずなのである。
なにしろ、アヴァロンの塔に引きこもった、というのはマーリン本人の自己申告であり、誰も真実を知らない。おそらくは自分に都合のいいように話している可能性大だと思ったら、目の前のマーリンの反応から察するにどうやらそのようである。
マーリンがアヴァロンの塔にいる事にはやはりミニュエが関わっているのは確かなようである。
「……君の為でもあるけど、呼んではだめだよ。あれはとにかく好きになった者を誑し込んで閉じこめちゃうよおねぇさんだから。病んでるってレベルじゃないから。あれにはキャスパリーグだって閉じ込められたんだからね」
『そんなにヤバい人なのか?』
「キャスパリーグなんて、会って目が合った瞬間に気絶するだろうね。それぐらいに彼にとってはトラウマなんだよ、彼女は」
第四のビーストが気絶してしまうような人物の英霊なんて、どんなけだよ。というか、そういえばビーストIVって出てこなかったけど、どうなったんだろうなぁ。他のビーストは倒したけど、うーむ。
と、見ればいつの間にか部屋に入って来ていたフォウさんが隅っこの方でガタガタ震えていた。
……小動物まで恐れるとは。湖の乙女恐るべし。
「……はぁ、まさかここに来てアレの名前が出るなんてなぁ。まぁ、いいさ。本題を話す気がしなくなったよ……」
マーリンはそう言ってなんというか、頭をうなだれさせた。
「本題はまた次回、さ。後編でまた会おう!!」
と、まるで空元気を振り絞ったようにマーリンはそういうとドアを開けて部屋を出て。
偶然に廊下で暴走したようにパカラッパカラッパカラッと走る黒いアルトリアにはね飛ばされて、どこか遠くへ飛んで行った。
「急に馬は止まれない。期せずしてマーリンを物理的に排除してしまったではないか。……まぁ、サーヴァントの方を囮にすり替えて生け贄にするという姑息な真似をしたのだ。天罰覿面、因果応報。本人にも罰が無ければな」
槍トリアは、そういうと部屋にいるこちらを覗くと。
「失礼した。悪は駆除したので、マスターは安心してくれ。……では、幾健やかに!」
そう言って、珍しくニッ、と笑うとパカッ、パカッ、と愛馬を進ませて去って行った。
『育ての親なのに、容赦ないなぁ』
「まぁ、アレの扱いは流石に手慣れているのですね、彼女は」
キアラは爽やかな笑みでそう言って、部屋のドアを閉じ、鍵をガチャリと締めた。
「はぁ、あの男のせいで母子の尊い時間が台無しでございます。はぁ、ママはもう待ちきれません。スキルのおかげで……」
ぽろり。
『……ちょ、まっ?!』
おっぱいを出すと、キアラは俺にそれを差し出した。
「ああ、こんなにお腹を空かせて。大丈夫、ママのおっぱいももうこんなに張って、痛いぐらいにミルクたっぷりぃ!さぁっ、貪るように吸ってぇぇぇっ!!ママのおっぱいぃぃーーっ!!」
『ぎゃーーーーーす!!』
この後、たくさん授乳した。げぇっぷ……。
なお、後編なんて無い模様……ううう、おっぱい怖い。
アーサー王伝説は様々な諸説があります。
ミニュエに関しても様々ありまして、マーリンがミニュエにつきまとってストーキングしていた、という話から、ミニュエがマーリンを好きすぎて塔に幽閉した、という説まであります。
このミニュエがマーリンを塔に幽閉したために、ブリテンの危機にマーリンは駆けつける事が出来なかったという説まであるので、ある意味ブリテンの滅亡は彼女のせいだとも言われておりますな。
なお、アーサー王に聖剣を渡した湖の乙女ヴィヴィアンは水着アルトリアの宝具にその名前が出てますね。
ま、モリガンさんもミニュエさんも、英霊として出てくる事はない……と、思いたい。ええ。