防御不能の戦王   作:カラムイラス

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 大体、月一で更新できるよう頑張ります。優しい目で見守ってくださると助かります。


序章 ログイン初日

 二〇四三年、七月十五日。この日、世界に衝撃を与えるVRMMOゲーム〈Infinite Dendrogram〉が発売された。このゲームを初日購入した多くのユーザーがこのゲームにのめり込み、その者達がこのゲームの面白さを伝えた結果、〈Infinite Dendrogram〉は瞬く間に世界的人気となった。

 このゲームの売りをこのゲームの制作者は発売時に四つ提示した。

 

 一つ、五感を完璧に再現する。

 二つ、単一サーバーで仮に億人単位でも前プレイヤーが同じ世界で遊戯可能。

 三つ、現実性、3DCG、2Dアニメーションの中からどの視点で世界を見るかを選択できる。

 四つ、ゲーム内では現実の三倍の速度で時が進む。

 

 様々な疑念が世界中で飛び交った。しかしそれはすぐに払拭された。その世界は売りとして提示された物道理だったのだ。

 

 発売日の翌日。制作元のメーカーからこのゲームのプレゼンが世界中に向け、配信された。

 

『〈Infinite Dendrogram〉ゲームシステムにはある特徴が有ります』

 

『数千を超えるジョブの組み合わせやスキル構成によりなお明確なオンリーワン』

 

『真の意味で無限の可能性とオンリーワンを提供する物 〈エンブリオ〉です』

 

『〈エンブリオ〉は皆様のパーソナルに応じ、無限のパターンに進化いたします』

 

『色違いやパーツ違いでは無く、固有スキルも含めて真の意味で無限のパターンに』

 

『これこそが〈Infinite Dendrogram〉なのです』

 

 プレゼンターは最後にこう伝えてプレゼンを終えた。

 

『そう、〈Infinite Dendrogram〉は新世界とあなたの可能性提供いたします』

 

 その言葉をもってしてこのゲームは世界的人気作へと登り詰めた。

 

 

 

 

 

□アルター王国王都アルテラ カルキ・ライトロット

 

「これは本当にゲームなのか」

 

 王都にある噴水近くの長椅子に腰掛けている俺、カルキ・ライトロット。本名は加藤輝騎。年齢は二十五で職業はウェブデザイナー。そこそこ稼ぎもある。そんな俺がなぜこのゲームをやっているのか。発端は東京でマンションを三つも持つ勝ち組の幼なじみからの一本の電話から始まった。

 

『久しぶりだな、輝騎。お前、どうせ暇だろ? だったら今からいうゲームを急いで買いに行け』

 

 あいつはこのゲームの名前と、早く買わないと売りきれるぞとだけ言うと電話を切った。此方の返事も聞かずにだ。まあ、調度仕事も落ち着いてきていた所だったと思い、気まぐれで買う事にした。そのゲームは昨日発売されたばかりなのに早々に品切れ状態だった。俺は危うく買うことが出来、家に帰るとすぐにゲームをプレイした。

 

 プレイを始めて最初に見た景色は古い書斎の部屋の光景だった。恐れには思わず首を傾げる。そのあとその部屋で管理AIと出会い、三つの内のどの視点でプレイするかとか、この世界での行動為る時のアバター作成やら、エンブリオなどの説明を受けて、最後にどの国から始めるかと聞かれ、このアルター王国を選んだ。理由はなんとなく。正直どこでも良かった。管理AIは俺の適当さに苦笑いをしていたがそんな事に俺は反応を示さなかった。そんな事は昔から自分自身で分かっていたから。管理AIは最後に何か言葉を送られる。すると俺はこの王都に落とされた。落とされてて最初に取った行動は視点確認。俺は落とされていた時からずっと目を賭していたからそれを開く。そして俺は衝撃を受けた。目を開くとそこには異世界情緒溢れる町並みが広がっていた。自分は異世界に飛ばされたんじゃ無いかと思うほどそれは現実的だった。徐ろに近くにあった建物のガラスに近づき、自分の姿を確認した。そこには自分が制作したアバターの姿が映し出されていた。

 顔と身長は現実世界のままだが、髪と瞳の色だけは変えた。髪は紅く、背中に届く程のを無造作に一つの束にまとめてあり、瞳は黄金色がかっている。俺は次に軽く体のあちこちを動かした。現実を変わらぬその動きっぷりに俺はある事を悟り、噴水の近くまで来て今に至る。

 

「どうするよ、これから。俺は昔からゲームは苦手なんだぞ」

 

 端から見たら人目を気にせずに苦い顔をして項垂れている青年だろう。しかししょうが無いのだ。先程の発言通り、俺は昔からゲームという物が苦手だった。あれだ、コントローラーを操作しながら一緒に体も動いてしまう人種なのだ。それがいつまで経っても直らずに結局すぐに飽きてしまうような人種なのだ。そんな素人の俺にこのゲームはハードルが高すぎたようだ。何せ、現実と変わらない視点でゲームを為るという感覚にはなれなかったから。これをゲームとして遊べるのは視点を現実性にしていない連中と真のゲーマーくらいだろう。俺はそんな事を考えながら息を吐いた。徐ろに俺は左手に埋め込まれている宝石に目を向ける。管理AIが言うにはこれは〈エンブリオ〉の卵であり、自分の可能性その物だという。にわかに信じ堅いが。

 

『何かお困りのようクマ?』

 

 不意に誰かから声を掛けられた。語尾がおかしいことに気付いていたが思わず顔を声のした方に向けてしまう。その瞬間。今まで苦い表情をしていた俺の顔は余計苦い物になっていた。理由は声を掛けてきたのが・・・

 

『お困りのようなら、相談にのるクマ!』

 

 クマの着ぐるみを着ている変人だったからだ。俺は何故顔を上げてしまったのか後悔した。語尾がおかしい所で変人なのは分かっていたのに。自分の不用意さには頭が上がらないのだ。

 

『ん? どうしたクマ?』

 

 苦い表情のまま固まっている俺に変人は心配の声を掛けてきた。

 

「あ、いえ。何でも無いんです。ただ、自分は昔からゲームは苦手だった物で。それに視点を現実性にしてしまったので、そのことに戸惑ってしまって」

 

 目の前の変人に言葉を返すと、彼は不思議そうに首を傾げた。

 

『ゲームが苦手なら、何故このゲームをやっているクマ?』

 

「東京にいる金持ちの知り合いが押しつけてきたんですよ。電話越しですけどね。其奴は自分がゲームが苦手だと言うことを知っていたんですがね。此方の話を聞かずに電話を切ってしまったので文句は言えませんでした。それでその知り合いが面白いと言うのならと言うことで調度仕事も一段落した所だったので、興味本位でやってみようと思ったんですが。やはり、ゲーム初心者の自分では少しハードルが高かったみたいです」

 

 彼の言葉に愛想笑いを交えて応えた。するとクマが此方を観察為るように徐ろに顔を近づけてきた。俺は何事かと思いながら目だけ反らしてそれを甘んじて受けた。やはり変人はやることが分からない。

 

『お前、輝騎か?』

 

 突然変人が俺の本名を当ててきた。何故分かるのか怖くなって俺は怯えたように震えている事に気がついた。

 

「あの? どちら様でしょうか? 自分と現実世界で面識があったでしょうか?」

 

 震えた声で彼に聞く。すると変人は俺から顔を離して、豪快に笑った。

 

『この声を聞いても分からないのか? 俺だ。修一だ』

 

「え?」

 

 彼の口にした言葉が以外過ぎて俺は思わずしばらくの間、固まった。頭の中が混乱sたのだ。それを修正する作業で時間を食ってしまった。

 

『大丈夫か』

 

 目の前の変人。及びこのゲームに誘った張本人。椋鳥修一は心配した様子で此方に声を掛けてくる。その時には俺の中の混乱は解けていた。そこで俺はある行動を取った。

 

「死に晒せ!」

 

 俺のアッパーが修一の顎もとい着ぐるみの顎へと繰り出された。

 

『おっと!』

 

 修一はそれを軽々とよけ、俺のアッパーは不発に終わった。だがそれでいい。どうせよけられるとわかっていてはなった攻撃だ。

 

『何するクマ!』

 

 抗議の声が上がったが俺はそれには耳も貸さない。

 

「うるさい。黙れ。お前には言いたいことがいくつかあるんだ。黙って聞け」

 

 人目を気にせず、俺は声を大にして言い放った。

 

「まずは一つだ。お前、自分の用件だけ伝えて電話を切るな。それに俺が何回も電話を掛けなおしても電話に出ないとはどういうつもりだ!」

 

『そ、それはだな。俺はこのゲームの面白さをお前に伝えたかったんだ。それと電話に出なかったのはお前が文句を言うだろうからと思ってな。文句を聞くならこのゲーム内でと』

 

 その発言を耳にして俺はため息をついた。こいつは俺のことをよくわかっておっしゃる。もうこれ以上何も言わないだろうな。

 

「次の質問だ。なんで俺を誘った? 俺がゲーム苦手なのは知っていたよな?」

 

 先程とは違い、落ち着いた声で次の質問をする。すると、修一はため息をついた。

 

『お前はそうやって何かと諦めているところがあるからな。気付いているだろ? これがただのゲームじゃないってことぐらいは』

 

 俺はその言葉に渋々うなずく。

 

『それが理由だ。お前視点を現実性にしただろ? だったら体を動かすことが好きなお前ならはまると思ってな』

 

 着ぐるみで見えないが、修一のが笑っていることが伝わる。俺は徐に額に手を当てる。

 

「全く、お前は俺を乗せるのが上手いよ」

 

 俺は最後に呆れた声でそう言い放つ。

 

 

 

 

□王都アルテラ郊外 カルキ・ライトロット

 

 俺はとりあえず、修一と共にクエストを受けることにした。俺は初心者だからそのぶん修一に一から教えてもらうと考えた。そのため王都郊外に出ていた。傍から見たら俺はクマの着ぐるみと共にいる変人という扱いになるだろう。

 

「なあ、修一。なんで着ぐるみ来ているんだ」

 

『ゲーム内で本名で呼ぶなクマ。今のクマの名前はシュウ・スターリングクマ』

 

 確かに本名で呼ぶのはゲーム内ではルール違反なのかもしれないな。

 

「にしても安直だな。もっと考えろよ」

 

『そういうお前はどういう名前にしたクマ?」

 

「カルキだ。カルキ・ライトロット」

 

 俺がつまらなそうに自分の設定した名前を口にした。すると横で歩いていたシュウは噴き出すように笑い声を溢す。

 

「笑うほど酷いか?」

 

 少し、落ち込む。するとシュウは笑い声交じりに言葉を返してきた。

 

『カルキも人の事言えないクマ。その名前、お前が昔流行らせようとして全く流行らなかったあだ名クマ』

 

「言ってろ」

 

 詰まらなそうに眼を背けながら俺は』先ほどの質問を繰り出す。

 

「そんなことより、なんでお前は着ぐるみ姿なんだ?」

 

『話すと長くなるクマ』

 

「一行で纏めろ」

 

 遠くを見ながら黄昏るシュウにしびれを切らし、俺は切り捨てるように言い放つ。

 

『アバター制作に失敗した』

 

「ざまぁ!」

 

 笑ってやった。それはもう思いっきり。幸い周りに人がいるところではなかった為、おれの声を聴いているのはシュウ一人だけ。

 

『そんなに笑わなくてもいいと思うクマ』

 

「さっきの仕返しだ。甘んじて受けろ」

 

 シュウはおもむろに肩を落とす。

 

「で、受けたクエストってどういう内容なんだ?」

 

 笑い交じりの声でその内容を聞いた。

 

『受けたクエストは子供を誘拐して売買している盗賊の撲滅と子供たちの保護クマ』

 

 彼の言葉に俺は顔をしかめる。本当に胸糞悪い。ん?

 

『どうしたクマ?』

 

「いや、何でもない」

 

 自分でも疑問に思う。なんでゲームの世界での人身売買を聞いて自分は胸糞悪くなるんだ? ゲーム内じゃよくあるクエストの一つじゃないか。

 

『難易度は三くらいだな。余裕という訳ではないが、役割分担をしよう。俺は囮になって盗賊たちの注意の目を引き付ける。だからその間にお前が子供たちを救え』

 

「危険度的には俺の方が高い気がするが、まあいい。俺はまだ、自分の可能性とやらが孵化していないからな」

 

 そっと左手を掲げ、孵化前のエンブリオに目をやる。

 

『大丈夫クマ。盗賊はみんなクマが処理するクマ』

 

「見た目と語尾がそんな恰好なのに言ってることはえげつないな」

 

 やる気のある声で宣言された。俺はシュウに苦笑いを返すしかなかった。

 

『そういえば、カルキ。もしデスペナルティになった場合のこと』

 

「説明は受けた。いざとなったらデスぺナになって逃げるさ」

 

『それでも誘拐された子供たちには支障が残るクマ』

 

 妙に心に刺さることを言ってくるな。

 

「分かっているよ。お前が盗賊を全員退治してくれたら、俺がデスぺナなることもないし、子供たちも無事に保護することができるんだ。だから頼んだぜ」

 

『本当に分かっているクマ?』

 

 分かっているよ。いざという時、俺がお前が来るまで生きて子供たちを守らないといけないことくらい。本当に危険な役割だよな。子供たちが誰一人死なないこと。それがお前にとってのハッピーエンドなんだな。全く、付き合いが長いと、お前の言いたいことが嫌でも分かってしまう。そして俺の嫌なこともお前には分かっているんだな。本当にお前は俺を乗せるのが上手い。憎らしいくらいに。

 

 

 

 

 

□盗賊アジト前 カルキ・ライトロット

 

「俺は中に入る。だから援護をしろ」

 

『了解クマ』

 

 シュウは自分のエンブリオであるバルドルという重火器をとりだした。それをアジトに向けて数発放った。正直目を疑ったが、今はそれどころではない。すぐに煙が昇っているアジトから十数人の盗賊たちが出てきた。彼らは襲撃犯を探して周りを見回す。シュウは囮となるため、自身の姿を曝そうとする。その前に俺はシュウにだけ聞こえる声で一つだけ言わせてもらった。

 

「お前ひとりでもよかった気がするよ」

 

『戯言はいいから早く行け』

 

 語尾がなくなっている。本気を出すんだな。俺はシュウの邪魔にならないように誰にも見られないように隠れながらそっと、アジトの中に侵入した。

 

「さて、どこにいるのやら」

 

 おれは影に隠れるようにアジト内を移動していた。しばらくすると、出口とは違う方向に走っていく数人の盗賊たちが見えた。

 

「もしかして・・」

 

 その盗賊たちを隠れながらついていく。すると、鍵が何個もかかった期の扉の前でその盗賊たちが立ち止まった。そいつらは鍵を開けていき、中に入っていった。幸いなことに扉は開いたまま。あそこ子供たちが監禁されている場所だと悟った俺は気付かれないように中に入った。

 

「!!」

 

 中に入って目撃したのは首に首環を付けた子供たちが盗賊たちによって無理やり牢屋から連れ出されている光景だった。大事な商売道具だ。傷つけることはしないのだろう。しかし俺はその光景が許せなかく、すぐに行動を起こした。ひっそりと気付かないように一人の盗賊の後ろまで行くと、おもむろに口と鼻を服の袖と手で覆い、暴れないように両腕を抑えながらこの盗賊の意識を落とした。俺はおもむろに盗賊の服を奪い、それを身に纏う。

 

「ほら、さっさと出ろ。じゃないと逃げられないだろ?」

 

「お前もそこに突っ立ってないで手伝え」

 

 残りの盗賊二人が俺を仲間だという認識してくれた。正直助かったし、やりやすい。

 

「はい、すいません」

 

 謝りながらおれは彼らに近づき、模擬剣で二人の首を強打した。

 

「く!」

 

「かっ!」

 

 一人は意識を失った。当然だ。刃は潰したとはいえ、元が鉄だ。強打したらそれなりの激痛を伴う。

 

「お、お前。誰だ? 仲間じゃないな」

 

 気絶しなかった方の盗賊が震えた声でそう口にした。しかし答える義理はない。俺はもう一度首を狙っても技研を振るった。しかしガードされる。当然だ。相手の狙う場所がはっきりしていればガードはしやすい。だから同じことはブラフでしかやらない。

 

「かはっ!」

 

 肺から空気が抜けきった声を盗賊は出した。

 

「き、さま」

 

 俺が狙っていたのは鳩尾への攻撃だ。これによって、盗賊は崩れるように倒れた。俺はその盗賊から鍵を奪い取ると、先ほど奪った盗賊の服を一度脱ぎ、子供たちのいる牢屋まで近づいた。彼らは怯えた目でこちらを静かに睨んでくる。

 

「あなたも盗賊の一人ね」

 

 中にいた女の子が食い掛るよう突っかかってきた。俺は静かにするよう自分の口に指をあてる。

 

「俺は盗賊じゃない。君たちを助けに来たものだ」

 

 その言葉に子供たちは一瞬呆ける。だけど助けに来たことに安堵して泣き出しそうになる子が出てきた。

 

「だけど今は静かにしていてくれ。君たちに声をあげられると君たちを助けられない」

 

 泣き出しそうになる子供たちは俺の言葉に従うように口を自分のてで塞いでいた。俺は「いい子だ」といい、おもむろに牢屋のカギを開ける。

 

「困んじゃよな。勝手なことされると」

 

 不意に扉の方から渋い男の声が聞こえた。子供たちの表情を見ると、恐怖に染まっていた。は急いで振り返ると、いつの間にか首を捕まれ、格子に体を押し付けられていた。

 

「お前が実行犯か。ということは外にいるのは囮じゃの」

 

 声の主は六十を超えるであろう壮年の男であった。顔にはいくつかの皺があり、その深さがこの男の年齢を物語っている。しかしその力は壮年の男ではありえないくらい強いものだ。

 

「く、かっ!」

 

 どうにかこの拘束を抜け出そうとする。しかし一向に抜け出せる気配がしない。俺はこの男に鋭い目で睨む。しかしそれをあざ笑うかのように男は柔和な笑みを浮かべる。

 

「なんじゃ。よく見ればいい男じゃの。儂の若いころにそっくりじゃ。勇敢で、無鉄砲で。そして考えなし」

 

 壮年の男はそういうと俺を壁に向けたたきつけるように投げる。俺はその衝撃をもろに受けた。

 

「それくらいで倒れるような柔なつくりはしていないだろうて。早よう立て」

 

「お前に言われなくても・・・」

 

 俺は少し震える足を抑えながらどうにかして立ち上がるり、模擬剣を構える。

 

「ぎゃははははは!」

 

 俺のそんな姿を見た男は一瞬目を見開き、そのあとおかしそうに笑った。

 

「そんな刃を潰した剣一つで乗り込んできたのか。お前は相当な愚者のようじゃ。面白いぞ」

 

 彼は面白そうに笑ったあと、あることを俺に言ってきた。

 

「お前、儂の部下にならんか? わしがお前を鍛えてやる」

 

 結構真剣なトーンの声で男は俺にそう言った。その言葉に俺は呆れたの表情を向けた。

 

「俺は倫理観を持たないやつの話は聞かないことにしているんだ。それも人を商売品としか見ていない奴や、人の命の価値も知らない奴なんかは特にな。お前はどうやら強いんだろうが、俺はお前には屈しない。ここで命を奪われてもな」

 

「そうか、残念じゃの」

 

 心底残念そうな表情をした後、男は獰猛な目を俺に向けた。

 

「なら、お望み通り死んで貰うことになるか」

 

「そう簡単にはやられないぞ。何たって、もしこうなった時の保険のために時間稼ぎが俺の本当の仕事だからな」

 

 男に向け、俺は駆け出す。男は徐に抜いた刀を俺に向け振るう。

 

「面白いの。余計ほしくなるわい」

 

「しっ!」

 

 それ斬撃を寸でで回避する。今度は俺が模擬剣を男に向け、振るった。しかし当たることはなかった。男によって模擬剣を持つ手の手首を抑えられてしまったのだ。

 

「ぎゃははは、勝負あったな」

 

「早々に決めるんじゃねえよ」

 

 俺は本体の左の拳を男の顔面に向け放った。その攻撃は見事成功し、男の鼻を捉えた感触が拳に伝わった。そこで男に抑えられた手首も解放され、俺は深追いはせずに一旦下がった。

 

「痛いのじゃが」

 

「そういう割には随分と軽口だな」

 

 軽口を口にしている時点でダメージはほぼ受けていないだろう。逆にこっちがダメージを負ってしまった。男の顔面を捉えた左手は麻痺という状態になり、HPも少し減った。

 

「随分と固いんだな」

 

 俺が睨みながらそれを言葉にすると男は愉快そうに笑った。

 

「ぎゃはははは!そうじゃろう。これのおかげじゃ」

 

 誇らしそうに奴は首のペンダントに手をかけた。

 

「これはな、儂が討伐した〈UBM〉の戦利品だ」

 

「〈UBM〉?」

 

「なんじゃ、知らんのか。無知な奴じゃ」

 

 男は面倒そうな顔をして、軽く説明した。

 

「〈UBM〉っていうのはだな、恐ろしく強いモンスターじゃ。様々な超常的な能力を持って居る。こいつも元々はそいつが身に着けていたものじゃしな。そしてそのモンスターを倒せば、そのモンスターの能力の一部が宿った戦利品をもらえるんじゃ」

 

「そうなのか。なら」

 

 再び、俺は男に向け駆け出し、おもむろにそのペンダントに手を伸ばした。

 

「無駄じゃよ」

 

 しかし奪い取ることは出来ず、男の刀によって体を袈裟きりにされた。幸いというべきののか、HPは半分くらいまでしか減らなかった。

 

「奪えない時を想定して麻痺している左手を伸ばしてくるとは、あっぱれじゃの」

 

「褒められてもうれしくはない」

 

「しかし、せっかちだの。儂は親切にもこれの能力を教えようとしたというのに」

 

 その発言にはさすがに耳を疑った。

 

「何を企んでいるんだ?」

 

「何も企んどらんよ。ただ、お前さんが欲しいだけだからのう」

 

 とぼけたように顔を揺らす。

 

「これの能力はの、儂に異常なまでの耐久値をくれるんじゃ。いくら攻撃しても、その攻撃は儂には通らん。分かったか? お前さんは儂には勝てないのだよ」

 

 勝ち誇った顔を男は見せたそれが俺をイラつかせる。

 

「どうじゃ? 儂に勝てないと知って、儂の下につく気になったか?」

 

「つかねえよ」

 

 俺は模擬剣をまだ麻痺中の左手に持ち替え、男に剣を振るう。

 

「その攻めは愚策じゃのう」

 

 男は刀を振るうと、俺の模擬剣が破壊された。

 

「な!」

 

「持ちこたえた方じゃ。本当に惜しいの」

 

 男はそっと俺の首に刀を据えた。

 

「それじゃあ、さよならじゃ」

 

 これを喰らったらHPは確実にすべて無くなるだろう。俺はデスぺナを覚悟した。

 

「やめて!!!!」

 

 不意に子供の声が聞こえた。当たり前だ。ここは子供が監禁されていた牢屋なのだから。その方向に目を向けると、牢屋から抜け出した子供たちの姿があった。

 

「お兄ちゃんを殺すなら、まずは僕を殺してからにしろ」

 

「そうだ、私から最初に殺せ!」

 

「そうだ!」

 

 子供たちがそう叫んでいる。

 

「何をやっているんだ! 逃げろ!」

 

 叫ばずにはいられなかった。何故自分がこうして時間稼ぎをしていると思っている。お前たちを無事に家族の元に帰すというシュウの願うパッピーエンドを迎えるために俺はここまで頑張っているんだ。それなのに何故、自分から命を粗末に扱うような真似をする。

 

「なんじゃ、お前たち。そんなに死にたいのか? ・・・・ならお望み通り、死んで貰おうかの。もともとそうするつもりだったのじゃからな」

 

 柔和な笑みを浮かべながら、男は標的を子供たちに変え、刀を振り上げながら段々近づいていく。子供たちはそんな男のことを悪魔に見えるだろう。それでも彼らは逃げない。そんな彼らを見捨てられる俺じゃない。しかし管理AIから渡された模擬剣はない。それでも助けに行くしかない。例え、デスぺナになろうとも。一つしかないティアンの子供たちの命を散らせるわけにはいかない。そう思うと、体が勝手に動いていた。

 

「うおおおお!」

 

 俺は男が刀を持っている方の腕に飛びついた。

 

「なんじゃ?」

 

 突然腕が重くなったことに気が付き、男は怪訝そうな顔で腕をみた。

 

「お前さん。どういうつもりじゃ?」

 

 男は不思議そうな顔をしながら言葉を発した。それに俺はごく当たり前の言葉を返す。

 

「子供を守るのは大人の仕事なんだよ」

 

「そうか。なら」

 

 男は反対の腕で俺を引きはがし、壁に叩きつけた。

 

「そこでそのガキ達が死ぬのを眺めていな」

 

「黙ってやられるのを見るのは趣味じゃねえんだよ」

 

 俺は徐に瓦礫の欠片を投げつける。どうにかその行動を阻止しようと。しかし胸のペンダントのせいで全く攻撃が通じない。

 

「やらせるわけにはいかねえんだよ」

 

 無垢なる子供の命を奪う行為は。未来を創る子供を殺す行為は。こどもに絶望を与える行為は。子供に死の恐怖を与える行為は絶対にやらせるわけにはいかないんだよ。届けよ。届け! それ以上そいつらに近づくのは・・・・・

 

「な、に!」

 

 そこで気が付いた、自分の左手の卵が輝いていることに。その光は俺の思いに呼応するように輝きをまして、ついに〈エンブリオ〉は孵化のの時を迎えた。

 

「これ以上、あなたの進行は許可できません」

 

 そして新たな声がその場に聞こえた。ヴァイオリンを思わせる清らかな声。声を追うようにその方向に目を向けると、そこには十五そこそこの少女が男の進行を止めるように立っていた。赤と金を基調としたフリルのついたコスプレ用の軍服を思わせる服を身に纏い、膝裏まである金髪を低いところで二つ結んでいる。瞳の色はは蒼穹を思い出させた。。肌はアルビノかと思わせるくらいに色白い。そんな一見場違いの思える彼女がいきなりこの場に現れた。それが意味することはただ一つ。あいつが俺の〈エンブリオ〉ということだ。

 

「なので今すぐに子供たちの前から姿を消しなさい」

 

 彼女は男が振りかざした刀に臆することなく、それを口にした。男は少しの間、呆然と彼女を見たがすぐに口角を上げ、声を上げて笑い出した。

 

「何が起こったかと思えば、ただ女子が出てきただけじゃったのう。しかもこれが玩具と勘違いしているようじゃ」

 

 男は振り上げた刀を彼女に向け、振るった。子供たちは咄嗟に目をつぶった。男は殺したと確信した。しかし彼女は傷一つ付かなかった。

 

「な、なぜじゃ!」

 

 その事実に男は狼狽えた。

 

「答える理由はないと判断しますので。返答は不要かと。それより、後方に注意を向ける事をおすすめします」

 

 俺の〈エンブリオ〉は淡々と律儀に返答と注意を返した。

 

「全く、俺の〈エンブリオ〉は少しばかりおしゃべりのようだ」

 

 狼狽える男の後ろまで俺は近づく。そのことに気付かなかった彼は驚いたように俺に目を向けた。

 

「お前、名前はなんていうんだ?」

 

 俺は男のことなど眼中に入れず、彼女に近づく。すると彼女は徐に自分の胸に手を当てた。

 

「仰せのままに、我が主君。わたしの名前は〈エンブリオ〉、TYPE:メイデンwithアームズ。【戦域隣妃 ラクシュミー】。以後お見知りおきを」

 

「そうか。ラクシュミーか。少し長いな」

 

「なんとでもお呼びください。ですが、その前に。子供の害となるこの獣を駆除することをお勧めします」

 

 ラクシュミーが男の方を見るように促した。俺はそれに従うように男の方を向いた。男は今までの柔和な笑みなどではなく此方の行為を嘲笑うような表情をしていた。

 

「はっははは! 面白いぞ。武器もないお前さんらがどうやって儂を倒せるというのじゃ」

 

 男はそういうと高笑いをしながら、両手に刀を握った。

 

「武器ならありますとも。今までにが比較にならない程の物が」

 

「言わなくていい。それより、withアームズって事はお前が武器になるか?」

 

俺の言葉にラクシュミーは頷く。

 

「分かった。じゃあ、さっさと倒して、子供達を安全な所まで避難させるか」

 

「了解であります」

 

 ラクシュミーはそういうと、姿を武器に変えた。それはガードのところが金の翼を思わせる装飾がなされた赤い刀身をもつ片刃剣だった。俺は徐にそれを手に取った。

 

「刀相手に片刃剣かよ」

 

『同意いたします。しかし、今は目の前の獣に集中することをお勧めいたします』

 

「何をするのかわっからぬが、無駄じゃ。お前さんに儂は切れぬ。儂にこのペンダントがある限りな」

 

 勝つことを微塵も疑わない顔をしている。むかつくわー。

 

『主君。あの獣の行った行いや言動で嫌な思いは何回されたでしょう』

 

 突然そんな事を聞かれて耳を疑った。だが、今の状況だからラクシュミーはそれを聞いてきたのだろう。きっと何かあるに違いない。そう考えと俺は少しの間、それを思い出した。

 

「さあな。ただ、ここだけの事だったら、最低でも五回は言っているだろうな。あいつの言っていることなんて糞だから耳に入れたくもない。それがどうした?」

 

『それだけ行えば十分です。あの獣にはスキルが適応されますね?』

 

 スキル? 必殺技でも出すのか?

 

『その認識で合っております。とりあえず剣を振り上げてください』

 

 俺はとりあえず言われた通り剣を振り上げ、剣道でいうところの上段の構えを取った。

 

『次に獣が近づいてきたら私が言う言葉を叫びながら剣を振り下ろしてください』

 

「恥ずかしいな」

 

『そうしないとスキルはうまく作動しませんので。我慢してください』

 

 そうこう言っている間に悪い笑みを浮かべている男が両手の刀を広げながらこちらに駆けてくる。

 

「その剣。高く売れそうじゃの。お前さんを殺してその剣を売れば儂の余生は安泰じゃ。じゃから貴様はここで死んでゆけ!」

 

 男が俺に向け双刀を振るうと同時に俺も剣を振った。ラクシュミーに言われた言葉を叫びながら。

 

「〈掲げる刃、阻むもの無し(ラーマー・ストラ)〉」

 

 男の双刀と俺の剣が交差する。数秒もしないうちに刀は二つとも折れた。

 

「な!」

 

 そしてそのまま刃は男の体に振るわれる。しかし男には自分は傷付かないと確信していた。〈UBM〉の戦利品であるペンダントの効力で彼の耐久値は異常なまで上がっていたのである。どんな攻撃であれ、彼に攻撃を与えられない。しかし何事にも例外が存在するのは世の常。

 

「! な、何故。何故儂が血を流して居る」

 

 男は驚愕して目を見開き、思わず膝を地に着け自身から血液に目をやり、その次に俺を睨んで来た。

 

「お前、何をした」

 

「・・・・・。何もしていない。ただ剣を振るっただけだ」

 

 この状況は俺でも予想外だった。何故なら正直押し負けると踏んでいたからだ。それなのに俺は押し勝ち、あまつさえ、男の耐久の壁を破ったのだ。混乱しないわけが無い。

 

『正確には破ったのではありません。剣を透過させ、攻撃を直接体に与えたのです』

 

 ラクシュミーは淡々と先ほど発動したスキルの説明をはじめた。

 

『〈掲げる刃、阻むもの無し〉は主君が嫌がるような行いや言動をを行った分、敵対者にHPの0、5割を削る防御不能の攻撃を与えるスキルです。この獣が主君を深いにさせた回数は五回以上プラス1。主君、ちなみに発動中でもカウント数は増えます。お気をつけください』

 

 このスキル怖っ! なんでこんな物が俺から生れたんだよ。これじゃあ俺、暴君じゃねえか。

 

「くっ! まだまだじゃ!」

 

 男は徐ろに立ち上がり、再び手に刀を握り、俺にそれを振るってくる。

「〈敵攻阻む隣妻の加護(ヘンダー・シータ)〉」

 

 ラクシュミーが新たなスキルを独自で発動させた。

 

「な、なぜじゃ!」

 

 男が振るっていた刀が突然原型を失うほど壊れた。それには男も狼狽えた。そして俺はその際できた隙を逃さない。再び、男に向け、未だスキルが発動中の片刃剣を振るった。

 

「ま、待て! 話し合おう!」

 

 男は俺の放った剣戟で体のバランスを崩して倒れた。すると此方に両手を向け降参のポーズを取りながら俺にそう持ちかけてきた。しかし俺はその言葉を耳に入れていない。入れたらスキル継続時間が延長しそうだったから。

 

「残念だが、それは無理だ」

 

 俺は男の言葉を突っぱね、今度は俺が男の首に剣を添えた。

 

「俺の〈エンブリオ〉が目覚めた以上、お前の選択肢は二つだ。俺に切られる、黙って拘束するか」

 

 どっちを選ぶだろうか。この男は。

 

「そうか。なら」

 

 男はどこか諦めた様な顔を此方に向けてきた。

 

「儂は死を選ぼう!」

 

 そういうと男は両手を俺の首目がけて突き出してくる。しかし、それより先に俺が剣を男の体に食い込ませていた。男は突き出していた両手の反動で俯せに倒れた。

 

「殺しはしねえよ。しばらく眠ってろ」

 

 吐き捨てるようにそう言うと、俺は出入り口の方に顔をやり、耳を澄ませる。外からの戦闘音が聞こえない。つまり、シュウが盗賊達を制圧し終えたと言うことだ。俺は安堵した表情をして、子供達に声を掛ける。

 

「みんな、今からここを脱出する。その際、前の子の肩を掴んで離れないようにするんだぞ?」

 

 俺はいの一番に出入り口の扉を開け、外に出て、子供達に出るように促す。すると子供達は俺の言ったとおりの行動をして、次々とその部屋から出て来た。

 

「自分はもう一度この部屋に入るけど、決してそこを動くなよ」

 

最後の一人が出るのを確認為ると俺は子供達にその場で待機するよう命じて再び中に入った。理由は盗賊達を子供達の入っていた牢屋に盗賊達を収納する為。

 

「これで最後だ」

 

 その作業はあまり時間も掛からずに終わり、最後に牢屋に鍵を掛けた。俺は一度未だに意識を戻さない盗賊達を見渡し、その場を後にした。子供達はちゃんと言うことを聞いてくれており、誰一人いなくなってなく少し安堵した。

 

「よし、俺についてこい」

 

 俺は子供達を引き連れ、外に向け、足を進めた。

 

 

 

 

 

□元盗賊アジト前 カルキ・ライトロット

 

 外に出てくると、アルター王国の騎士団と言われる人達がいた。子供達はすぐに騎士団の元に駆けていき、そこで俺の役割は終了。な訳は無く、しばらくこの場でいろいろ聞かれた。中で何があったとか、どうやって子供達を助けたとか、そういう事をだ。俺は少し面倒だったが、正直に言った方が後腐れ無いと判断して全てを離した。話の途中で俺が刀を何本も持っている壮年の男を倒したと言ったら、そいつはどこにと言われたので、逃げられないように牢屋に入れてあると答え、鍵も渡した。そうすると、鍵をもった騎士が駆け足で数人を引き連れてその場所に向っていった。そのあと少しの質問をされた後に俺はようやく解放された。俺は貴影となっている木の根元に腰を掛け体重を預けた。

 

「疲れたぞ。ラクシュミー」

 

 今まで武器状態だった彼女はここで再び姿を現した。彼女は俺のそんな姿を見ると吹き出すように見栄を于かげた。

 

「お疲れ様です。主君。初めてにしては勇敢だったと思いますよ?」

 

「なわけないだろ。俺は勇敢っていう言葉が一番似合わない男だ。あえて言うなら泥臭いか?」

 

「それもかっこいいと思いますけどね」

 

「言ってろ」

 

 俺はそういうと、徐ろに目を閉じた。寝ている訳じゃない。考えを纏めているのだ。このゲームがどういう物なのか。この世界がどういう物なのか。そして、自分がこの世界をどう思っているのか。そんな事を思考している

 

『お疲れクマ。お手柄だったクマ』

 

 しばらくそんな事をしていると、シュウが声を掛けてきた。おれはそっと目を開き、シュウに顔を向けた。

 

『彼女がカルキの〈エンブリオ〉クマ? 変わっているクマ。〈女性型のエンブリオ〉もいるクマね。それも美人クマ』

 

 シュウが珍しそうな物を見る目をラクシュミーに向ける。すると彼女は胸に手をやり、シュウに向けて頭を下げた。

 

「初めまして、シュウ・スターリング殿。私は主君、カルキ・ライトロットの〈エンブリオ〉。【戦域隣妃 ラクシュミー】と申します。メイデンというTYPEの〈エンブリオ〉でございます」

 

 以後お見知りおきをと言いながら彼女は笑みをシュウに向けて放った。シュウもシュウで『よろしくクマ』と軽い感じで返した。

 

「シュウ。お前に言いたいことがある」

 

 不意に俺は彼に声を掛ける。シュウは首を傾げながら『何クマ?』と返した。俺はここで先程まで纏めていた事の答えをシュウに話した。

 

「このゲームは確かにただのゲームじゃないのかもしれないな。俺はこういう世界感が好きなのかもしれない」

 

 俺は自分の言っていることに笑いそうになった。

 

「あっちの世界じゃ出来ない事もこっちだとできそうな気がする。このゲームは面白いな」

 

 俺がシュウに向けて気に入った事を伝える。すると彼は着ぐるみ越しに笑った。

 

『そういうと思ったぞ。だからお前を誘ったんだ』

 

 彼は着ぐるみを着ている状態なのに修一として返してくれた。その事が少し可笑しく、思わず声を上げて笑った。その声はその場だけに響いたが、とても楽しげな物だった。

 




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