防御不能の戦王   作:カラムイラス

3 / 5
2話 PK、遭遇

□アルター王国ノズ森林 カルキ・ライトロット

 

 レイ達と分かれてデンドロ時間で四日後の夕方。俺は今、新たなクエストをするためにノズ森林に来ていた。あの後レイ達がクエストを消化するのを見て、その後は彼らに自由に行動させようと思い、その場で分かれた。まあ、そうした方がレイ達の為になるだろうしな。それにあの時、彼らのおかげであのクエストはすぐに終わった。手伝ってくれたことはとても感謝している。彼らと別れた後、睡眠と食事。トイレ以外の全ての時間を費やし未だに終わりが見えないのが現状であるが。

 

「今度は絶対、あいつからのクエストは引き受けねえ」

 

 毎度ながらこのクエスト量は俺を萎えさせる。俺は片を落としてトホホと足を進める。

 

「その言葉。毎度聞いている気がしますが」

 

 そんな俺の愚痴を耳にして、隣に付き従うラクシュミーはからかう様な声音でそれをいう。その言葉に俺は彼女に鋭い視線を向けるが、それもすぐに止め溜息を吐く。

 

「本当だよな。なんで毎回引き受けてしまうんだろう」

 

 思い返せば、昔からそうだった。俺は一度として、あいつの押しつけてくる案件を断ったことがない。例えば、高校の時だ。あいつはその当時何やらアンクラという格闘技に夢中になっていた時期。俺はあいつにその格闘技に誘われた事があった。最初はさすがにあいつの誘いを断った。体を動かすことは好きだったが、何も積極的に痛みを伴うような事をする事に俺的にあまり輝かなかったのと、単純に興味が無かったのだ。当時俺が好きだったのはボルダリングやロッククライミングなどのアスレチックの類いだった。休日になれば、絶対にボルダリングに行き、連休になれば、少し遠い場所にある難易度が高いアスレチックへ電車を乗り継いで行ったりしていた。それくらい俺はアスレチックに嵌まっていた。

 そんな俺に修一は何を思ったか、格闘技を進めてきた。血迷ったかと思い、理由を問いただす。するとあいつは愉快そうに口角を上げ、ただ一言だけ返した。

 

『俺がお前を誘うのは、お前が嵌まると確信した物だけだ』

 

 どこか自身ありげに答える修一に呆れた事を覚えている。その日の放課後、あいつがそこまで言うならと、見るだけという条件で道場に連れて行って貰った。その後、俺は済し崩し的にその同情の門下生になってしまった。

 

「本当に何でだろうな」

 

 今まで疑問にも思わなかったことが今になって考えると凄く不思議である。俺は本当にあいつの誘ってくる事を結果的に一度も断ってない。毎回ある程度あいつのせいで酷い目に遭っているのにだ。どうしてだ?

 

「ただ、単純に俺が馬鹿なだけか」

 

「そう言うわけではないと思いますが。カルキは極端な考え方をするんですね」

 

 俺の呟きにラクシュミーは不思議そうな顔をして否定を言葉にする。確かに極端な考え方だよな。

 

「まあ、そう考えても仕方ないだろ。俺自身それが何故か分からないんだからな。自棄になって極端な考え方だってしたくもなる」

 

 俺は諦めた様な声音を出す。これ以上考えても埒が明かないから、俺はこの件に関しては忘れることにする。まあ、あいつにクエスト押し連れられるたびに思い出して、苦悩しているんだが。あいつは俺にどんだけのストレスを残していくんだよ。そう想うと疲れてきて、肩を落とす。

 

「カルキ。今日はこのクエストを消費したら帰りましょう。さすがに精神的な疲労が凄そうです」

 

 心配してくれているラクシュミーが優しく声を掛けてくる。彼女の優しさには正直助かっている。

 

「ああ、そうする」

 

 彼女の言葉に俺はただ頷く。しっかりと彼女の優しさに噛みしめて。いつもラクシュミーには助けて貰っている。そしてその分、恩もある。

 

「いつもの事ながら助かる」

 

 俺は感謝の念を言葉にする。すると、ラクシュミーは柔和な笑みを浮かべてくる。  

「私はカルキの〈エンブリオ〉ですから。このくらいは当然です」

 

 さも当然な事のように彼女は誇ることはなく、ただ淡々と言葉を返してくる。

 

「そこは少しくらい反応してくれても良いところだろ? 全く、そういう所が面白みに欠けるんだ」

 

「そうですね。そういう自覚はありますよ」

 

「あるのかよ。より質が悪いな」

 

 そんなキャッチボールを続けていると俺は自然と笑みを浮かべる。

 

「さて、ちゃっちゃとクエスト終わらせて早く夕飯にいくとするか」

 

「そうしましょう。それで、どのようなクエストなんですか?」

 

「ああ。そういえば言ってなかったな。この森でのクエストは、この森林の木を食い散らかす害獣の掃討だ。まあ、三十分のあれば終わる内容だな」

 

 俺は少し欠伸がちに害獣を探す為に周りを見渡す。夕暮れ時で森林はもうすぐ闇に包まれる所だ。しかし、俺は夜目も利くので問題はまり無い。

 

「ラクシュミー。第二形態だ」

 

 すぐにクエストを始めるために彼女に命令する。彼女は何も言わずに、ただ、俺の指示に従って第二形態に姿を変えていく。ラクシュミーの第二形態は両刃の長剣だ。刀身は第一形態とは違い、黄金の刃。ガード下は赤い装飾がなされている。俺は彼女を左手に持つとすぐに逆手にし、腰の位置に据える。その間も俺は目的の害獣の捜査を続けていた。

 

『どうですか? 見つかりましたか?』

 

「いや、さすがにこの時間に来たのは不味かったかもな。もう少し夜にならないと、害獣共は動いてくれないらしい」

 

辺り一面見渡しても、害獣の気配は全くというほど感じられ無かった。

 

「これはちょっと時間が掛かるか?」

 

『そうかも知れませんね。ですが気長にやっていきましょう』

 

 ラクシュミーが少し微笑を溢したような声を漏らす。俺はその声に従うように欠伸をしながら言葉を返す。

 

「そうだな。少しここら辺を探りながら夜になるのを待つとするか。そうすれば少しはまともな害獣が出てくるだろうしな」

 

『歩いていたら、何かいるかもしれませんしね』

 

 その言葉に頷き、俺は足を進める。

 

 

 

 

 

 

□ノズ森林 カルキ・ライトロット

 

 それから三十分ほどでノズ森林は完全に暗闇に支配された。まあ、夜目の効く俺には今も昼間と変わらない位見えているわけだが。そんな俺は今、要約で始めた害獣の駆除を行っている。

 

「これで三十匹。まったく、こいつらは一体どこから湧き出てくるんだよ」

 

 害獣に突き刺したラクシュミーを抜き、彼女に吐いた血液を拭いながら、そんな愚痴が出てくる。

 

「それこそ、初心者連中が毎日ここで駆除しているっていうのに。それでも一向に減る気配がないとか。どんな生態系バランスだよ」

 

『そういう設定になっているのでしょうね。初心者がレベルを上げやすいように』

 

 そんな俺の愚痴にラクシュミーは真面目に答えてくれる。全てはあの管理AIのせいなのか。まあ、ゲームバランス的にいったら良い仕事をしてくれているんだろうな。だが、しかし。今の俺に取っては凄く迷惑な行為な事は間違い無い。

 

『ですがここまでモンスターが増えるのは他の要因があるのでしょうね』

 

「他の要因だと? 何か知ってるのか」

 

 些か疑問の残る言い方に引っかかり、それを聞き返すと彼女は『ええ!』と発し、言葉を続けた。

 

『昼頃。クエストに向うためあなたと共にアルテラを出ようと歩いている時のことです。その途中マスター達が集まっている所の近くを通り過ぎましたよね』

 

 そんな事あったか? 俺は覚えてないな。

 

『あったんですよ。あの時カルキは全く減る気配のないクエストの量に絶望していて俯きながら歩いていたので分からないかも知れませんが』

 

 だったら俺それ見てないのしょうがなくね? 誰だって気持ちが沈んだときは俯いて歩く事なんてあるだろう。

 

「まあ、いいさ。話を続けてくれ」

 

『はい。それでですね。少し気になって、その会話を盗み聞きしたんですよ。そしたらちょっとびっくりしました』

 

 その言葉の途中から、俺は奇妙な感覚に襲われた。それはまるで暗殺者に命を奪われる寸前のような感覚。それを意識し始めると、自然と俺は周辺の雰囲気が変わっていることに気付く。どこからか俺を狙っているな。それを探りながら俺は彼女の会話に耳を貸し、そっと警戒を始める。

 

「何かあったのか?」

 

 口にした言葉からその警戒神が僅かだが漏れてしまった。それには俺もその声を出そうとは思っていなかったから内心驚いている。その言葉から、彼女も周辺の雰囲気が変わっていることを理解したらしい。彼女は冷静なトーンの声音と成り、言葉を続ける。

 

『聞いた話によると。今、王都に面する四つの狩り場で初心者を狩るPKが出るようなんです』

 

 彼女の言いたいことは大体分かった。そのPK連中のせいでノズ森林に蔓延る害獣共が急増中って事か。傍迷惑な奴等なだな。そういえば一ヶ月前ぐらいにログインした時、変なクエストが王都で発効されていたな。内容は確か初心者狩りだったか? 誰が受けるんだよと思ったが、どこにでも馬鹿はいるんだな。そんなクエストを受けるんだったら俺の溜まりまくったクエスト緒消費を手伝ってくれよ、頼むから。

 

 そんな事を考えていると、後方から銃声が数回聞こえた。きっと先程から俺に狙いをつけていたPKさんだろうな。ラクシュミーが話をしているときに現われるなんて。本当にタイミングが悪い。

 

「マスターを狩らずに害獣を狩れよ。傍迷惑なPKさん」

 

 呆れた声を出し、振り返りざまに放たれた弾丸を第二形態で全て切り落とす。こういうときアームズ系の〈エンブリオ〉は重さを感じなくていい。とても振りやすいからな。切り落とした弾丸に目をやると、それはモンスターのような形状をしていた。

 

「あんたさ。こんなことしてて楽しいか? そのくらい銃の腕前が正確ならきっと他にも仕事あっただろ。何でこんな胸くそ悪いクエスト受けたんだよ」

 

 俺は先程弾丸が飛んできた方向に呆れた顔を向ける。しかしそこにはもう人影が見えない。きっと移動したんだろ。俺を確実に仕留めるために。

 

「これ以上攻撃して来るの止めてくんないかな? さっきの一撃で分かったろ? 俺は初心者のマスターじゃないって事くらいは。これ以上攻撃してくるんだったら、俺は容赦しねえぞ」

 

 語り聞かすような声ででPKに問いかける。俺は少しの時間その反応を伺うようにジッとその場を動かなかった。まあ、返答なんてくるわけ無いが。だが、その予想はあっさり違う形で帰ってきた。先ほどの言葉から十秒位経った頃。PKから返答が来たのだ。当然ながら悪い意味で。俺の右手の方向から数回の銃声が鳴り、モンスター型の縦断が俺に向かい、襲いかかってくる。その弾丸達は全て揚々良く切り落とし、俺は溜息を吐く。

 

「OK、分かった。引く気は無いと言うことだな」

 

 相手には明らかな戦意があることは確認した。俺を狙ったんだ。ただじゃ帰さねぇぞ。身に纏っていたコートに手を掛け、それを脱ぎさる。

 

「ラクシュミー。スキルを使う。準備をしとけ」

 

『もう準備は完了しておりますよ。我が主君』

 

 相変わらず準備の早いことで。出来る〈エンブリオ〉を持つと楽で良いね。

 

「忠告はしたからな」

 

 その言葉に当然返答は帰ってこない。来るわけがない。だが、明らかに近くにはいるだろうPKに俺は少しドスのきいた声で話かける。

 

「俺に喧嘩売ったんだ。後悔させてやる」

 

 それを口にしつつ、俺は自身のスキルを発動させるべく両手で長剣を持ち、それを体に隠すような構えをとる。

 

敵勢に死を招く斬撃(ストライク・デットスイング)

 

 スキル名と共に俺は長剣を水平に鋭く振り抜く。このスキルは俺に不愉快さを与えた相手に使用すると、その者がデスペナになる威力の斬撃を生み出す。これが当たれば蘇生アイテムを持っていない限り必ずデスペナルティーになる必殺スキルの一つ。その射程距離は約100メートル程。現に正面一面にあった木達は100メートル先まで音と共に伐採されて、その場だけ切り開かれてる。だが、このスキルには問題がある。

 

「当たったが、死んではいないな」

 

 それは蘇生アイテムだ。現に今PKに向けて放った一撃には、其奴に当たった感覚があったが、きっとすぐに蘇生したがろう。そして挙げ句の果てに今現在、其奴がどこにいるか分からない状態。

 

「結局は逃げられたか。さて、一体どこに行ったのやら」

 

 おもむろに腰につけてあるアイテムボックスに手を伸ばし中を漁る。感触だけを頼りに目的の物を探り、それを見つけて勢いよく取り出す。それは橙色のヘッドホン。それを耳に当て、俺はそっと目を閉じる。

 

「範囲は森全体。PKを探せ、ソニックカイザー」

 

 起動の言葉を発すると、俺の耳にはこの森の全ての音が聞えるようになった。このソナーカイザーは最近倒した〈UBM〉の戦利品だ。上半身がコウモリで下半身がイルカのような体をした奇妙な奴で、名の通り音を武器にしていた個体だ。其奴を倒した結果、俺はこの割と便利なアイテムを手に為ることが出来た。これの能力は指定した範囲の音の徴収で、目的の音を拾い取る。それによって、現在PKがどこで何をしているかなどの事が手に取るように把握出来る。

 

「おお、逃げてるな」

 

 方向的には王都側か。感じとれる音からしてPKは逃走の真っ最中の様子。さて、どこで止まるかな?

 

「出来ればそんなに遠くに逃げてくれるなよ・・」

 

 溜息交じりの声で言葉を吐き、ながらPKの発する音を聞き続ける。するとその音に変化が起きる。

 

「止まったか。案外早いな」

 

 大体距離にして5キロぐらいか。

 

「少し舐めすぎだろ。これでも【超級職】なんだがな」

 

 自然と呆れた声が出た。確かにさ、言ったよ? そんなに遠くに行くなと。だけどさ。休憩するなら少なくても10キロの所でだろ。

 

「まあ、本人からしたら逃げた方なのかも知れないな」

 

 こればっかりは人によって感じ方が違うから仕方が無い部分もある。

 

「さて、行きますか」

 

 PKの意場所は分かった。あとはその場に行き、デスペナさせるのみ。そう考えていると、ふとある事が頭を過ぎる。

 

「なあ、ラクシュミー。クエストはどうする? PKをデスペナさせた後に続けるか?」

 

 少し弱々しい声で彼女に問いかける。するとその声から俺の上体を察してくれるラクシュミーは俺の言葉を否定してくる。

 

『それは得策ではありませんね。今日の所はPKを倒したら王都に戻りましょうか」

 

「助かる」

 

 感謝の言葉を口にして、俺は一度体の力を抜くために深呼吸をする。体の力が抜けきった事を確認し、俺は手にしていた長剣状態のラクシュミーを逆手に持ち替え、体を伸ばす。

 

「これ以上は逃さねぇよ」

 

 その言葉を口にして、俺はクラウチングスタートの状態に体を持って行く。

 

「ラクシュミー。準備は出来た。カウント5だ」

 

『分かりました。では早速行きます。5!』

 

 彼女は早速カウントを始めた。これは俺が何かを始めるタイミングを掴むために必ず行う儀式のような物だ。俺は昔から自分の心の中で何かを始めるタイミングの時必ずこれをやっていた。だけど、この世界ではその役割を彼女に任せている。なんといっても彼女の方が時間に正確だからな。安心できる。

 

『4! 3!』

 

 っと、そんな事今はどうでも良い。俺は全身の力の抜けきった体を一気に力ませる。

 

『2!』

 

 腰を上げ足に全身で貯めた力を込める。

 

『1!』

 

 さあ、鬼ごっこの始まりだ。すぐにデスペナルティーにして(捕まえて)やるからな。覚悟しとけ。

 

『0!』

 

 カウント終了と共に俺はPKの居る場所まで駆け始める。俺は目を鋭くして、まだ見えぬその場所を見据える。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。