□ノズ森林 【絶影】マリーアドラー
私はアルター王国王都アルテラ北部に面するノズ森林にて、初心者PKをしています。正直このクエストの内容に多少忌避しましたが、これまでこういったことをしてこなかったので良い経験だと思い、思い切って受けてみました。私が請け負っていたのはこのノズ森林で、この場所に入ってきた初心者を片っ端にPKにしていきました。その過程で面白い人物も見るけることが出来て、このクエストを受けて良かったかも知れないと思っていました。つい先程までは。
「何なんですか、あの人。僕が救命のブローチを持っていなかったら確実にデスペナになっているスキルをブッパするなんて」
その人物から辛うじて逃げられた私は今先程いた場所より5キロぐらい離れた場所にある木の根元に腰を預けて乱した息を整えている最中だ。正直このクエストを少しだけ甘く見ていた。その件は私自身の認識の甘さを恥じる。だけど言わせて欲しい。そこまで強いのに今更ここに何の用事があるのだ。あそこまでの威力だと、第六形態の〈エンブリオ〉。もしくは〈超級〉に至っている人物かも知れない。確かこの国では五人の〈超級〉がいるはず。そう思い立ち、一度息づかいを普通にしてからそっと指を折り始め、今敵対している相手を探る。
「直接攻撃を仕掛けてきた時点で月世界ではない。酒池肉林は確か女性のはずですからこれも違う。そこまで奇抜の衣装を着ている訳でもないから無限連鎖も外して良いですね。となると残る二人は・・・・・!」
最も厄介な二人が残って、変な汗をかいています。きっと冷や汗でしょう。
「討伐ランキング第一位の【破壊王】正体不明。第二位【戦王】防御不能」
口にしていて、私に絶望感が襲ってきました。何ですかこの二人。アルター王国で一番敵に回しちゃいけない二人じゃないですか。圧倒的な討伐数で一位をとり続ける【破壊王】と、毎月彼に追いつく程の討伐数を叩き出す【戦王】。私は直接目にした訳ではないけれど、アルター王国とドライフ皇国との戦争時には一度だけこの順位が変わったらしい。その次の月には戻っていたというが。話に聞くと、その戦争に唯一参加した〈超級〉が【戦王】のみだったとのこと。そして戦争後に、ドライフ皇国のマスターを全滅に近いところまで追い詰めた結果があの順位らしい。私もその件に関して詳しく聞いていないのでこれ以上はなんとも言えないが。
いや、それを思い出している暇など無かった。今はどうすればうまくその人物より逃げおおせるかということが問題なのだ。
「多分。いや絶対追って来ますよね?」
いきなりデスペナになるスキルを放って来る相手だ。そう簡単には逃してくれないだろう。ああいう手合いの人物は一度的と認識した物には容赦が無い。きっとどこまででも追ってくる。
「なら速く逃げた方が良いかもしれませんね」
溜息を吐きつつ、それを呟き、アイテムボックスに手を突っ込む。少しの時間中をごそごそとあさり、目的の物を取り出す。
「あのスキルは厄介ですからね。これくらい準備しないと」
疲れたような声を出しつつ、今出したアイテムに目をやる。それは救命のブローチというアイテムでこれを着けていれば、大抵の場合デスペナを回避為ることが出来る代物だ。これで何回かはあのスキルを受けても生き残れる。あのスキルの詳細は分からないけど、きっと回数制限の無いスキルなのだということは分かる。宋で無ければ初っ端からあのスキルを使うことはないと思うから。そして何故あの危険極まりないスキルを使ってきたのか。あれを使用させるほど彼は激怒していたから。まあ、それを仕掛けたのは私なので、自業自得といってしまえばそうなんですが。ですが、言い訳を聞いて欲しい。あの時彼は此方に向け、何かを話駆けてきていました。けれども私はその声は全くと言っていいほど位置上の関係で耳に届かなかったんです。何を言っているか分からず、取り敢えず攻撃を仕掛けたところ、反撃であのスキルを発動させたんですよ? 過剰防衛も良いとこだと思います。その生で、念のため着けておいた救命のブローチが一つ砕けきってしまいましたよ。まあ、私が買った者じゃないので、強く言えませんが。あれも今手に持っているこれもPKに初心者のアイテムボックスから抜き出した物なので私が買った者ではありません。そもそもこういう物を身につけないでクエストに来るとか命知らず過ぎるでしょう。
まあ、それは置いといて。私が考えるに、あのスキルの弱点はこれなのだろう。先程あのスキルを掠った私はこれによって命を救われた。これは経験した事なのでまず間違い無いでしょう。取り敢えずこれを持っている限りは私は死ぬことは無い。多少心持たない感じもしますが、アイテムボックスにはまだ存在しますし、必要になったら取り出せば良いですよね。そう考え私はそれを懐にしまい、勢い良く腰を上げる。
「まだ、追ってきては居ないようですね。今のうちに!」
今逃げてきた方向から追ってくる気配を探り、それを感じなかった。それを良いことに私は今腰掛けていた木の枝に軽く跳躍して飛び乗る。そこで再び追ってくる気配がない事を確認し、私は木の枝を使って逃亡に移る。幸いここは森だ。いくつもの木が存在し、私の体重を支えられる枝も沢山ある。それに追ってくる人物もまさか本当に枝を伝って逃亡を図るとは思っていないだろうし。そんな事を頭の中で思いかながら枝を跳躍し、次男枝に飛び移っていく。
「どうかこのまま逃げ切れますように」
逃亡を始めてから5分くらいした頃。私は心にもない願いを口にしてしまった。そんな事はきっとあり得ないのにだ。あの手の人物はどうせ逃がしてはくれない。今私の事を逃がしているのもきっと絶望を与えるためとか言って態と逃がしているんでしょう。遠目でしか見えなかったのでよく分かりませんけど、そういうことを為る人には見えませんでしたけどね。
「まあ、人は見かけだけじゃ何を考えているか分かりませんしね」
実際に話してみないと人なんて分からない物だ。そう勝手に結論づけて私は逃げに徹る為に正面に目を据える。
「PKをやる割には真面な意見も言えるんだな。それに関して言えばとても同感だよ」
不意に真横から私の発した言葉への行程の声が聞える。その声を来た瞬間私は一瞬だけ思考が固まる。しかし体はすぐに対応したみたいで自身の〈エンブリオ〉である銃口を先程声が聞えた方向に向けており、すぐに引き金を引いた。音と共に万スター型の銃弾が何体か射出されたタイミングで私はやっとその方向に目を向けることが出来た。
「なっ!」
目にしたのは先ほどデスペナに成るスキルは放ってきた彼が私が撃った万スター型の銃弾を全て切り落とした所だった。それを終えると、彼は此方に目を向け、優しげに口角を上げた後に、剣先を此方に向けた。何を為るのかと観察を続けていると、おもむろに剣を振り上げる。それと同時に剣から先程ほど見えた仄かにオーラの様が漏れ出していることに気付き、私は急いで枝から飛び出し、地上への落下を始める。
「
彼はまたあのスキルを放った。それは先程まで乗っていた枝のある木を切り倒す。しかし、それだけではこのスキルは終わらなかった。なんとこのスキルは結構な飛距離を出せるスキルだったらしく、その斬撃は勢いを保ったまま、次々と木を切り倒していく。その時にはあのスキルより難を逃れた私は地上に着地しており、ただ切り落とされるのを見ているしか無かった。
「あっぶなっ!」
焦りが込められた声が出た。あと少し逃げるのが遅かったらあのスキルが直撃していた。救命のブローチを着けているためすぐにデスペナになる事は無いけれど、なるべく当たりたくは無いスキルだ。
「危ないだろうな。そういうスキルだから」
不意に先程の声が上から聞えてくる。咄嗟に恨みがちに目を向けるといっぺんの笑みも溢していない先程の男の人が枝の上から此方の位置を確認し、そこから降りた。体重を崩さずに着地を為ると、此方を見据え、持っていた長剣を地面に突き刺す。
「さて、俺のスキルを避けたお前はさっき俺を襲った奴で間違い無いよな?」
柄に手をそえたまま、質問を投げかけてくる。その質問に私は答え変えている。どう答えるべきか悩んでいるのだ。考えを纏める時間はあまりにも短い。そんな中でも私は苦し紛れに口を動かす
「いやぁ! すいません。モンスターと勘違いして撃ってしまったんですよ。ほら、この暗闇の中。何かそれらしい輪郭が見えたらモンスターと思うじゃ無いですか!」
それらしい事を言えた自分の口を褒めてやりたい。結構うまい返答では無いのか、これは。
「そうか」
彼は私のでまかせを耳に為ると、少し呆けた様な顔をする。これはチャンスと悟り、続けざまに新たなでまかせを先程言ったことと矛盾しないような付け加える。
「そうなんですよ。ボクは少し前にこのゲームを始めたばかりなので、こういう経験が初めてなんです。だから貴方を誤って撃ってしまったんですよ」
彼の動作が分かるように目を向けたまま、私はそっと頭を下げる。彼は少し眉を顰めつつも私を見る目は変えなかった。
「一つ、聞いて良いか? 俺がなるべく大きな声で話しかけた言葉、聞えてたか? それにそれを聞いた後でなんでまた攻撃を仕掛けた?」
「っ! それは・・・・」
きつい視線を向けながら彼は再び質問を投げかけてくる。たしかに、彼は何かを此方に問いかけた後に私は再び、攻撃を仕掛けた。だが言わせて欲しい。正直彼が発したであろう言葉は全くといって良いほど私の耳には聞えなかった。地理的に私は持っても声の聞き取りにくい場所に陣取っていたのだ。あれは彼が格上だとわかり、それで逃げる前に最後に試した攻撃だった。私の攻撃が効くのか。それが知りたかったから。結果は全く通じず、阿波場デスペナになるところだった。でも、どうする。聞えなかったといって、再び攻撃を仕掛けることはそれだけで此方に戦意があったことを示すような物だ。良い言い訳を考えないといけない。
「もちろん聞えていましたよ。あ、あのですね。あれはその、間違えてしまったんですよ!」
考えが八方塞がりで思考的に追い詰められた私が口にしたのは嘘の肯定と本当に苦しい言い訳だった。しかし一度口にしてしまった物は、どうあっても取り返せない。この言い訳を突き通すしか無い。
「間違えた?」
少し疑っている様に眉を秘める。それはそうですよね。
「そうです! 間違って撃ってしまったんですよ! その、貴方に言われたとおりに逃げようとした時に、間違って引き金を何回か引いてしまったんです。それにまさか間違って撃ってしまって貴方の所に向っていくなんて思いもしませんから」
自分っでも思うくらい苦しい言い訳。しかし、それを聞いて彼はその話を真摯な顔つきで頷きを入れながら効いてくる。案外馬鹿なのかも知れない、この人は。
「まあ、俺が言ったことは分かっているっぽいから、そうなんだろうな」
しかも、奇跡的に当っていたっぽい。これは凄くラッキー。
「だが、お前の言ったことには矛盾がある。そもそも俺はお前の言ったことが本当かなんてことは知らない。それにお前からは嘘の香りが凄くするんだが」
鋭い目つきはそのままで彼は呆れた様な声を出す。どうしてですか! 分かっていました。でも、ここまで来てもう後戻りは出来ない。このまま突き通せるだけ、突き通してみます。っていうか嘘の香りって難ですか!
「嘘じゃ無いですよ。本当に間違って撃ってしまったんですよ。その、謝りますから許してくださいよ」
必死で手をこすりながら頭を下げる。その間も一切彼の動向から目は離さないけれど。為ると、彼は突き刺していた剣を引き抜く、肩に担いだ。
「お前の言葉の矛盾点は二つある」
二本の指を突き出して、彼は何やら私の言ったことの矛盾点をついてくる。私は彼の言う矛盾が気になり、その声に耳を傾ける。
「まず一つだ。そもそも、今、王都を囲む四つの狩り場では初心者狩りのPKが行われている。それはアルテラ中に流れている情報だ。そんな所に初心者が来たら、是非買ってくださいと言っている様な物だろうが。しかも、つい最近始めたばかりだというのに、お前は未だに狩られていないことも、可笑しいよな」
彼の言葉で私は図星を疲れた様に一瞬だけ、顔を硬直させる。それもそうだ。なにせ、その情報は私の耳にも入っていた。それを失念していたとは。私がその件を悔しがっている間に彼は剣を構える。
「二つ目。そもそも初心者が俺のスキルから逃れる術なんて無いし、況してや逃亡を図る事なんて不可能なんだ。それが出来ている時点でお前が相当ん場数をこなしているという証拠になる。そして、暗闇から狙撃為るというこの森に潜むPKの特徴とも一致している。お前がPKだって言うことははじめから分かっていた」
その言葉を耳にいて私は冷や汗が止まらなく為る感覚に陥った。しかしそんな私の事などお構いなく、彼は言葉を続けていく。
「そしてお前はどうやら俺の言いた井子とはただ一つだ。このまま逃げられると思うなよ!」
言葉を言い終えると同時に、ものすごい勢いで此方に駆けだしてくる彼。もう言い逃れが出来ないと察して私は咄嗟に手に持っていた〈エンブリオ〉の銃口を向け、引き金を数回引く。射出された弾丸はすぐにモンスターと化して、彼に襲いかかる。しかしすぐにその弾は全て切り落とされる。しかしこれでいい。少し時間が出来た事によって私は自身のスキルを行使する時間を得られた。
「《影分身の術》」
これによって、私は誤飲にまで増える。他の私達に目配せを為ると、皆、すぐに森林の影と馴染んでいく。そっとアイテムボックスに手を伸ばして、その中から近接用の短剣を備え、今向ってくる彼を迎え撃つ。
「スキルは使うな、ラクシュミー」
微かに聞えたその声に疑問を持ちながらも、私の短剣と、彼の長剣が甲高い音を上げて衝突する。本当なら得物のさで押し巻けるかも知れませんが、この短剣は普通じゃ無いのでそうは成らなかったみたいですね。初めて間近で見た彼の目からは興味8割、疑問2割ほど感じられます。
「お前は、何物だ? この国のマスターじゃないな。あの移動法と良い、今使用したスキルと良い。天地の下級ジョブの忍者の系譜か?」
「ご明察ですよ。私は天地のマスターです。故あって、今はこの国に来てさ生計を立てていますよ」
そこで一度言葉を句切り彼の態勢を崩そうと剣を払いのけます。しかしうまくは行かず、内心舌打ちをして後退をはかりました。
「そういう貴方は誰なんですか? 先程のボクに追いつくまでの時間が明らかに早すぎる。あれは超級職の早さだ。それにあの凶悪極まるスキルの威力。あれは《上級エンブリオ》では決して出ない火力ですよ。それこそ超級に至っていないと出せないほどの」
私の言葉は風の音と共にその場に響く。しかしそんな事はお構い無しに私は言葉を続ける。
「この国で〈エンブリオ〉が超級に至っているのは確認されているだけで五人。貴方はその五人の中に貴方は含まれていますよね。月世界と酒池肉林は女性である事が確認されていますから違うとして、貴方は残りの無限連鎖、防御不能。そして正体不明の内の誰かですよね?」
少し自信なさげに声が徐々に小さくなっていくのが分かる。それでも彼の耳には届いた様子だ。私の言葉を耳にした彼は明らかに口角を上げ、鼻で笑う。
「なんだ、そこまで分かっていたのか。案外めざといな。さっきの苦しい言い訳を平然としてくるから馬鹿だと思ったぞ!」
からかう様に此方の発言に上げ足を取りつつ、彼はからからと笑う。その反応を私は行程と捕らえ、余計背筋が冷える。
「なら、俺が誰か教えてやるよ。ラクシュミー、第四形態だ」
彼の言葉に従うように長剣は姿を変える。それは六角錘の形をした彼の身長と同程度の大棍棒だった。錘面の所には金と赤が交互に入っており、六角面は黒で統一されていた。彼はそれを地面に叩き付け、その場を轟音と共に抉る。
「ご明察の通り、俺は【戦王】。戦士系超級職の【
彼は大棍棒を此方に向け、言葉を吐き捨てるように言い放つ。
「俺に喧嘩を売ったんだ。後悔させてやるよ」
卑しい笑みを浮べつつ彼はそれを言い切った。